ウーマンリブ 『主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本』いよいよ開幕!宮藤官九郎インタビュー

ウーマンリブ vol.16『主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本』が11月7日からザ・スズナリで幕を開ける。(12月15日まで。そののち大阪公演あり)

宮藤官九郎書き下ろしによる新作コント公演。前回のコント公演より9年の歳月が流れ、ファン待望の一作に期待が高まる。
多くの〝ヒント〟を含んだ意味深なタイトルに加え、6名のキャストやスズナリでの上演など、楽しみな要素満載の新作。
そこにあるのは、免疫力か、演劇の魔法か!?
「えんぶ10月号」にて掲載された宮藤官九郎インタビューをご紹介。

お客さんに笑ってもらった時にようやく報われる

──公演タイトルは「笑って免疫力を上げよう」という発想が着想とお聞きしました。

コロナ禍以降に定着した言葉だと思うのですが、最近よく「免疫力」と聞くけれど「免疫」って見たことないし、免疫力って実感はあるけど実態のない言葉だなと、心に引っかかっていて。笑うと免疫力が上がると言うけれど、昔から言う「病は気から」のように、笑うと機嫌が良くなるということ?なのか。でも世間では、免疫力がアップすることはすごく良いことのように捉えられているので、それに便乗して、面白いとか、つまらないとかの物差しではなく、免疫力が上がるコントをやったらどうかな?と考え、こんなタイトルにしました。なので、新しいとか古いとか、面白いとかつまらないとか、そういう感覚で観ないで欲しい(笑)。コントを観た人の体調が良くなったり、血圧や熱が下がったりすることの方が重要じゃないかと。定期的にコントをやりたい気持ちはあるんです。以前はテレビでコントを書く仕事が何かしらありました。コント番組がなくなり、ウーマンリブで時々コントをやろうと、今まで3回やったのかな?(※『七人の恋人』05年、『七人は僕の恋人』08年、『七年ぶりの恋人』15年)。
短距離走と長距離走みたいなもので、コントは頭の回転も速くないといけないし、長いお芝居では使わない筋肉も使う。ただ、コント公演は本番が楽しいんですよ。稽古中には一度「なんにも面白くない」と思う時が来て、それこそ一度完全に免疫力がゼロになり(笑)、お客さんの前でやって、お客さんに笑ってもらった時にようやく報われる。それで時々コントをやりたくなり、本当は去年企画しようとしたら出来なくて。じゃあ今年やろうと思ったら、今年はすごく忙しく……と言うより供給過多になっていて、これでお芝居をやると「しっかりしたもの」を期待されちゃうかも?と思って、タイトルに「コント」としっかり入れ、自分を縛る意味で最初から6本と決め、しかもスズナリだから(コントを)小さな空間に閉じ込めて上演する感覚です。

みんなに愛されている人をイメージしました

──タイトルにある「主婦 米田時江」の人物イメージは?

米田時江というネーミングは「よねちゃん」と呼ばれたり「ときちゃん」と呼ばれると良いかな、と思ったから。苗字も名前も一風変わっているけれど、普通の人にしたいし、みんなに愛されている人をイメージしました。今のところ全部のコントによねちゃんやときちゃんが出てくるようにしたいと考えています。それから、米田時江のSNSを始めたい。その期間だけ時江さんが呟いたりする。

──良いですね〜。「中の人」は宮藤さんが担当する?

いや、それは全然分からないです。実在しない米田さんが稽古場にいるようにSNSで呟いて欲しいなと。公演が終わったら消えるんですけど。観た人が「米田時江は私なのかな?」とか「あの人が米田時江かな?」と想像してくれたら。稽古初日からXをやろうと、それは少し考えています。公演を観た人が、米田時江の一生を観た気になるような、米田時江の日常が垣間見えるような、そういう作品にしたいと思っていて。今回は生活感を全面に出したかった。公演チラシも、本屋さんによく置いてある啓発本のような、免疫力がアップするような(笑)、そういうデザインをお願いして。そうやって、劇場を決めて、タイトルを決めて、チラシを作って、という過程の中から、徐々に米田時江が見えてくるように。

はいりさんは笑いと悲しみを同量に表現できる人

──キャスティングに関して「期待すること」を教えて下さい。

一昨年スズナリで『命、ギガ長スw』(22年)をやった時に、松尾(スズキ)さんの芝居に出たのも久しぶりだったし、いつもなら伝わらないようなこと、変な顔とか変な呼吸とか変なリアクションとか、そういうものまで伝わっている感覚がありました。昨日とちょっと変えると、変えた分だけお客さんに伝わって。それは客席の力でもあり、劇場の特性でもあり。「次のウーマンリブはスズナリでやりたいな」と。それでスズナリを押さえてもらい、まず(片桐)はいりさんと思ったんですよ。はいりさんって、可笑しいことと同じくらい悲しいことを、同じ表現で観る側に喚起させられる役者さんなので。笑いと悲しみを同量に表現できる人ってあまりいないですから。ただ笑えるだけでなく、見方によってはちょっと切ない、みたいな。そういうことがスズナリの空間ならお客さん全員に伝わるんじゃないかと。それではいりさんにお願いしたら、はいりさんは僕の作品に出るのが、パルコでやった『R2C2』(※大パルコ人 メカロックオペラ『R2C2 〜サイボーグなのでバンド辞めます!〜』09年)以来で、「あんな風にバカをやるならもう身体が動かない」と言われて。まだ何も言ってないのに「出来ない」と言われ(笑)、いやいやはいりさん、大丈夫です、スズナリですし、なるべくはいりさんが動かなくていいようにしますから、と。それを聞いたはいりさんも「じゃあ」と言って下さり、それがドラマ『季節のない街』の撮影中だったのかな?
そこに皆川(猿時)くんもいて、皆川くんも大きな声を出す役ばかりじゃなく、小さな劇場でも皆川くんの面白さを出せるんじゃないかと。それから「若い人も」と思い、北(香那)さんを。実は『中学生円山』(13年)に出てもらっていて、その頃から「あの子、面白いな」と思っていました。オファーしたらご快諾を頂けて、段々キャストが固まってきた頃に「……そうすると伊勢(志摩)さんがいた方がいいな」と。伊勢さんが決まった後にイケメンがいないことに気付いた頃、ちょうど新宿の稽古場にふらっと勝地(涼)くんが来たんです。「宮藤さん呼んで下さいよ」と言われて、これは勝地くんなんじゃないかと。それで決まりました。全く内容を考えていない段階でしたが、誰にどんな役をやってもらっても絶対面白くなる予感がしたので、これはいいんじゃないかと。(これまでのコント公演は「七」に関連させているが)今回七人にしたくなかったんですよ。スズナリの楽屋は狭いので、あの部屋には男女三人ずつが限界です。

僕にとって「演技が上手い」は「決めてかからない」

──大人計画のメンバーをキャスティングする際、どのようなことを意識しますか?

いつもなら話を考えてからオファーするんです。ただしコントの時は「今回は男だけで」とか「女優だけで」とか「伊勢さんと池津(祥子)さんをメインで」とか、組み合わせを意識します。今回の6人は、俺から見ても誰が大人計画か分からない。勝地くんもはいりさんもある意味、大人計画なんじゃない?みたいな(笑)。だから、全部フラットにしてキャスティングしたんじゃないでしょうか。

──プレスリリースには「演技が上手い人でないと成立しない」とあります。

それは主に勝地くんのことを言ってるのかなぁ。上手い……というか天才ですよね。みんな気付いてないけど、とか記事になったら怒られるかもしれないけど(笑)、でも天才だと思います。こないだ、ある映像作品に出てもらって、現場で芝居を見たんですが、同じシーンを何回もやるのに、毎回アプローチを変えて毎回面白い。僕にとって「演技が上手い」は「決めてかからない」ということです。こういう役だからこうしよう、私はこう考えるのでこうやります、と決めてかからない。提案された時にすぐ出来る。それが僕にとっての「演技の上手さ」。

──コント、映像、そして演劇においても、決めてかからない人が好き?
 
そうですね。その瞬間だけ真空にいる人、没入できる人が好きです。仲野太賀くんとかそうですけど、急に客観的になったり、その瞬間だけバカになったり、演出していて楽しいのはそういう人ですね。

やったことないような役をお願いしようと

──台本はいつ頃完成予定ですか?

言い訳じゃないけれど、コント台本って早く書けたら面白いということでもなく、だからと言ってギリギリに書くつもりもないけれど……、でも意外と早く書けちゃったりするんだよなぁ。タイトルに「6本」と書いているのに、今のところアイディア自体は6本を超えています。その中から絞らなきゃと思っていて。ちょっと映像も使いたいし、とか色々考えると、意外と6本は少なかったかも。

──当て書きの予定はありますか? もしあれば、そのイメージも聞かせて下さい。
 
当て書きするコントが一人一本ずつあるとして、あとはやったことないような役をお願いしようと思っています。この人がメインであれば、こういうことをやれば絶対面白い、という役はお客さんも観たいでしょうし。それ以外は「この配役じゃない方がいいのでは?」という役を敢えてやってもらおうかなと。お芝居だと俳優さんと時間をかけて少しずつ改良する醍醐味があるけれど、コントだとそれが少ないので、敢えて不向きな役をやってもらおうと考えています。

──宮藤さん自身はどういう役をやる予定ですか?

いつもそうですが、余った役をやろうと思っています。おそらく余る役が出てくるので、それを自分でやろうと。(場面転換で)着替えが間に合わないとか、そういう状況が出てくるはずなので。

自然と変わっていくことに逆らわないように

──多様性やコンプライアンスなどが求められる時代において、創作やそのプロセスに変化は生じるものですか?

自然と変わっていくことに逆らわないように、と思っています。自分で「いまこういうことをやっても面白くない」と感じたら、おそらく止めるはず。例えば(今年手掛けたテレビドラマの)『不適切にもほどがある!』や『新宿野戦病院』でも、そういう感覚がありました。数ページ書いてから「やっぱりこれ、今は面白くないな」と感じたり、あるいは誤解されて伝わることを気にしたり、それを気にしている時点で違和感があるということだから。気になるということは、迷いが生じているのだろうし、やめておこうと。でも、ことさらそういうテーマばかりやろうとも思わないし、『不適切〜』は、たまたまタイミングが合ったというか、みんなが何となくモヤモヤしていることを言葉にしたドラマだった。だけど、あれは一回しか使えない手だと思っていて、あれをもう一回やると、後々の自分自身が恥ずかしくなっちゃうかもしれません。

「こんなに頼んでも、僕たちはもう食べられないんだ」

──先ほど「片桐さんは笑いと哀愁を同量に表現できる稀有な俳優」とのコメントがありましたが、この6名の出演者には、皆さんそれが当てはまると思います。宮藤さんがこの公演で表現したい「笑い以外のもの」はありますか?

自分の仕事に関して、規模の大きな作品や長い作品、予算をかけた作品のオファーが続いたので、今回は生活感のある作品を創りたいと思っています。例えば、これは加齢の影響もあるけれど、ご飯屋さんに行っていっぱい食べるつもりで沢山注文したのに半分位しか食べられなかった、みたいな哀しさを表現したいんです。

──可笑しみと哀しみ、両方ありますね。

もっと楽しいはずだったのにな〜、とか。その感覚は、今までの自分の作品や自分のやり方ではあまりやってこなかった。これは、未来が見えないことが関係しているのかも。明るい未来があるかもしれないと信じて頑張ってきたし、だからこそ闇雲な怒りや焦りもあったのに、何となく「もう見えちゃった」というか。先が見渡せた瞬間に突きつけられる現実とか、その哀しさとか、可笑しいけれど哀しい、みたいなことがやりたい。この歳になると、周囲の人が亡くなることも珍しくないじゃないですか。そういうことを意識した時、すごくぼんやりと「死」があって、コントの登場人物は誰も死について喋ってないけれど、すごくぼんやりと死が漂うというか。「こんなに頼んでも、僕たちはもう食べられないんだ」という感覚を表現したいのかな、と思います。

──演劇では「その場にいない人の話をする」という構成もありますし、明確な問題提起ではなく、作品全体から浮かび上がる、醸し出す、そういう魅力にも期待しています。
 
最近だと、橋口(亮輔)監督の『お母さんが一緒』、江口のりこさんが主演の映画を観て、あれは元々舞台じゃないですか(※ブス会* 『お母さんが一緒』15年)。お母さん本人は出てこなくて、ずっとお母さんの悪口を言い続けると、その存在がどんどん大きくなる。仮にお母さんを出そうとすると、どんな女優さんがやっても(キャラクター性が)限定されちゃうけど、そういう描き方じゃない所がすごいなと。あの映画を観た時に「今回、俺がやろうとしていることは、これに近いかも」と感じました。

【プロフィール】
くどうかんくろう◯宮城県出身。脚本家、監督、俳優。91年より「大人計画」に参加。舞台のみならず、TVドラマや映画の脚本を数多く手掛ける。近年の主な作品に『不適切にもほどがある!』(脚本)、『季節のない街』(企画・脚本・監督)、『新宿野戦病院』(脚本)などがある。また、TBSラジオ『宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど』ではラジオパーソナリティも務めている。

【公演情報】
ウーマンリブ vol.16
『主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本』
作・演出:宮藤官九郎
出演:片桐はいり 勝地涼 皆川猿時 伊勢志摩 北香那 宮藤官九郎
●11/7〜12/15◎ザ・スズナリ(東京)
●12/18〜22◎松下IMPホール(大阪)
〈お問い合わせ〉大人計画 03-3327-4312(平日11:00~19:00)
https://otonakeikaku.net/2024_womenslib16

【構成・文/園田喬し 撮影/山崎伸康(人物) スタイリング/チヨ】

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