【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第161回「劇場による演出の変更」

 劇団☆新感線「バサラオ」の全97ステージを無事に終えることができました。7月の博多座から明治座を超えて10月のフェスティバルホールまで三ヶ月以上に渡るツアーでしたが、なんとか無事に終えてほっとしております。

 その「バサラオ」の福岡公演は博多座、東京公演は明治座と、どちらもほぼ演劇専門の劇場でして、いわば昔の芝居小屋の空気を纏っています。どちらもキャパシティは1400席前後、常設の盆も花道も迫りも用意されているので、歌舞伎もミュージカルもできるオールマイティな劇場です。
 そして大阪公演のフェスティバルホールもまた伝統ある劇場ですが、どちらかというとコンサートホールです。無類の音響性能の良さを誇り、キャパシティは2700席と博多座・明治座の倍近く。クラシックを中心とした音楽会での用途が多いのです。
 そんなタイプの違う劇場を巡るツアーですから、やはり様々な変更点が出てきてしまうというのが今回の論点です。

 まず大前提として、劇場が変わると多少なりとも芝居は変化するモノなのです。そりゃそうでしょう。だってモノが違うのですから。この世に全く同じ劇場なんて一つとしてありません。確かに使い勝手が割と似ている劇場というのはありますが、それでも確実に違いがあって、それが故に演出も合わせていく必要があるのです。
 劇場の構造からくる機構の違いや舞台とソデの形、楽屋からの導線、また客席の見切れ方など、様々な制約が変わってしまいますので、それにつれて演出や立ち位置なども変わります。例え間口(舞台の横の広さ)が同じでも、客席が横に広いか縦に広いかによって見ることのできる場所が変わります。要するに横に広い客席の場合、端のお客様は舞台の奥の端が見えにくくなってしまいます。いわゆる見切れですね。そんなところで重要な芝居をするワケにはいきません。舞台稽古をしながらその都度、見切れを確認していくのです。もちろん二階席や三階席からの見切れも確認します。
 花道だって劇場によって違います。新橋演舞場にあるような立派な花道だって劇場によって微妙に位置が違いますから、舞台面との関係性も変わってきます。また、劇場の壁沿いに延びた部分を花道として使う場合も多いのですが、その位置や幅、長さがまた劇場によって全然違うのですよ。これが毎回大変なんです。もちろん二、三階客席からの見切れも大きいので注意が必要です。客席通路を使う場合も同様です。

 そういった客席から見える場所だけじゃなくて、舞台裏にはもっと違いがあります。お客様には判らないことですが、舞台の上には照明やセットを吊り下げているバトンという鉄の棒がありまして、その配置がちょっとずつ違うのです。ですので、吊り下げられるタイプのセットの位置が劇場ごとに変わってしまうので、それにつれて動きも変わってしまうのです。
 舞台ソデの幕も同様です。ある劇場では二番目のソデから出ていたのに、この劇場では三番目のソデから出なくてはいけないとか、場合によってはどこかのソデが機材によって使えないという場合だってあるのです。
 それとね、とても重要なのが上下(かみしも)の舞台ソデの広さです。舞台ソデの広さというのは上下同じではなくて、ある劇場では上手ソデは広いのに下手ソデは異様に狭いとかいうのがザラにあるのです。その場合は大きなセットは上手側からしか出せません。だって収納できないから。それが次の劇場では上下逆だったりしますと、セット移動の段取りが総替えになりますから大変なんです。そうしますと俳優の登場も、このタイミングでは上手から出られないから下手登場に変更しよう、なんてことはよくあることです。ほらね、大変でしょ。

 また、そもそも舞台の機構が違う場合は大きな変更となります。例えば「バサラオ」の場合ですと、全てのシーンチェンジを盆(回り舞台)を使って行いました。でもね、フェスティバルホールにはそもそも盆がないのですよ。だって演劇専門の劇場じゃないから。そうなると、仮設の盆を舞台の上にドンッと置いて対応しなければなりません。だから実は舞台面が30cmほど高くなっていたんですよ。しかも仮設の盆は博多座・明治座よりも小さいから様々な段取りも変わります。もちろんそれを見越して全て(セットも芝居も)に於いて小さい方の盆を想定して作ってはおりますが、やっぱり実際に使うとなると色々と大変なのよ。
 同様に、フェスティバルホールには迫り(舞台下からのリフター)もありません。無いものはしょうがないので演出が変更されます。一幕中盤のゴノミカド登場シーンでは怪しげな照明と音楽の中、盆が回りながら下からセットが迫り上がってくるのが美しくも迫力があったのですが、それが普通に盆で回ってくるように変更されました。だって迫りが無いんだから。また、二幕頭のヒュウガの登場も迫り上がりの演出だったのですが、それができないということでミラーボールを縦に回転させて幻想的な照明になっていました。まあ、これはこれで実にインパクトがあったからいいんですけど。

 今回は劇場による演出の変更を「バサラオ」を例にとってお話ししました。まあホントに色んなコトが劇場によって変わっちゃうんですよ。変更には危険も伴いますから各劇場ごとにみっちりと舞台稽古をする必要があります。そしてその変更を憶える必要もあります。舞台ソデでのセットの移動なども変更されて危険ですから、毎回慣れるまでは左右確認をしてからソデを移動しなければなりません。表は表で大変だけど、裏も裏で大変だというお話でした。まあ慣れちゃえば大丈夫なんですけどね。

本文とは関係ありませんが、人形町辺りにある元水路。真ん中に見える建物の間の狭い道がかつては堀だったのです。

プロフィール

粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

【出演予定】
大阪国際文化芸術プロジェクト「FOLKER」
2025年2月14日(金)〜23日(日祝) 堂島リバーフォーラム
https://osaka-ca-fes.jp/project/event/folker/

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