花組ペルメルvol.1『長崎蝗駆經~岡本綺堂「平家蟹」による~』間もなく開幕! 加納幸和・間瀬英正・熊野善啓・長橋遼也 インタビュー
花組芝居初のプロデュース企画「花組ペルメル(pêle-mêle)」、仏語で「ごちゃまぜのもの」「雑多な集まり」という意味で、劇団外から出演者やスタッフを招く公演となる。その1作目『長崎蝗駆經』(ながさきむしおいきょう)~岡本綺堂「平家蟹」による~が、11月20日から26日まで、下北沢の小劇場B1で上演される。
脚本は花組芝居出身で、「あやめ十八番」を主宰、脚本家・演出家・俳優・講師としてマルチに活躍中の堀越涼が手掛けている。演出は加納幸和で、現代の日本を背景にファンタジーとも近未来SFともつかない不思議な世界を創り出す。
時代は2028 年夏。九州は、日本の歴史上、類を見ないほどの蝗害に見舞われる。長崎県佐世保市に突如飛来したそれは、長崎県の離島・瀬黒島にのみ生息する固有種、アメイロバッタの大群だった。トノサマバッタに似た性質を持つこのバッタは雑食性であり、飛来した総数は推定五億匹に及ぶ。この知らせに昆虫学者の車康介は、長崎のテレビ局のディレクター御門清とともに瀬黒島に向かう……。
この公演で車康介役の間瀬英正、御門清役の熊野善啓、島の企業に勤める雨海光平役の長橋遼也という3人の客演俳優に、演出の加納幸和とともに語り合ってもらった。
「花組ペルメル」は自由な形で作る場に
──この公演は「花組ペルメル」という新しい企画の第1回ですね。ペルメルとは「ごちゃまぜ」というような意味だそうですが。
加納 うちの劇団では、これまで何度かゲストの日替わり公演などはあったのですが、ほとんど劇団員だけで公演してきました。そのなかで様々な題材を取り上げたり、ダンスだけの公演をしたりと挑戦はしてきたのですが、もっと新しい経験をする機会はないかなと。それにそろそろ40周年も近いので、いつもと違うこともしてみたいので、ちゃんとゲストを呼ぶのはありだねということになりました。出演者が混成ということで、「ごちゃまぜ」という意味でフランス語の「ペルメル」と付けて、「なんでもあり」のプロデュース公演としてやっていく。例えば客演さんだけの公演とか、女優さんにも出てもらうとか、自由な形で作る場にする。それ以外は今まで通り劇団員だけの公演にしていこうと。その「花組ペルメル」1回目ということで、まずは複数のゲストで、題材もあまり劇団の公演と離れすぎないものにしたい。花組芝居にいた堀越涼なら、僕の作り方なども良くわかっているので、彼に書いてもらおうということになりました。
──堀越さんは、「あやめ十八番」を主宰する人気の作・演出家です。
加納 彼にどんなものを書いてもらおうかとなったとき、原作のあるものを翻案してもらうのがいいんじゃないかとなって、歌舞伎の一幕物で起承転結のはっきりしたものをいくつか候補に挙げたんです。その中から堀越が、岡本綺堂の『平家蟹』を「これがいい」と。
──『平家蟹』は、滅んだ平家の人々の魂が蟹に宿るという話ですが、それを蟹ならぬバッタの大群に書き直したのですね。
加納 そうなんです(笑)。とにかく人間じゃないものが沢山出てくるのが面白いなと思ったのと、しかも人間の恨みが背景にある復讐劇になっているので、うちでやる芝居としても違和感がないので。
──どこか歌舞伎の世界にも通じる荒唐無稽なファンタジー性があります。
加納 堀越が「あやめ十八番」で作るものも、その土地に伝わる何かが人間関係に絡んでくるものが多いので、この『平家蟹』の世界は彼の得手ではあったのかもしれませんね。台詞も堀越がうちの芝居を意識して、「原文を使いましょうか?」と言ってきたんですけど、「現代会話で書いて」と頼んだんです。
加納さんは同じような人はいない唯一無二の方
──そんな作品を一緒に作る客演として、間瀬さん、熊野さん、長橋さんが出演しますが、どんな経緯で?
加納 僕が知っている方で、いろいろな要求に応えられる方がいいなと思ったので、このお三方に来ていただきました。
──間瀬さんはこの公演の話を受けていかがでした?
間瀬 僕はすごく嬉しかったです。ちょうど親の介護もあってしばらく東京を離れていたのですが、地方ののんびりした環境でボーッとしてる自分に不安になっていたので、お話がきたとき、これは絶対にやらせていただこうと。内容も面白そうでしたが、それ以上に僕にとっては誰かと一緒に芝居を作るということが一番大事で、そういう場をいただけたことが何よりも嬉しかったです。
加納 間瀬くんとは青蛾館の野口和美さんの『毛皮のマリー』(2019年)で共演しているんです。絡みはなかったんですけど、面白いというかヘンな子がいるなと。
間瀬 ははは(笑)。
加納 初対面なのに「加納さんどうも!」みたいにすっとそばに来て、その日のうちに一緒に飲みに行って、みたいな(笑)。
間瀬 そうでした(笑)。
加納 それにデザインの専門学校卒なのでイラストが上手なんです。うちの『鹿鳴館』(2022年)のチラシの絵も彼が描いたんです。
──間瀬さんから見た加納さんはどんな方ですか?
間瀬 まず日本において希有な方で、同じような人はいない唯一無二の方ですよね。それで演出家であり俳優さんなので、言ってくださる言葉にいろいろヒントがあるんです。それはこの先も僕の中に残っていくと思いますし、今はとにかくいただけるものは全部いただきます!という気持ちです。
9人でバッタの大群までやります?!
──そして熊野さん、今回のオファーを受けていかがでした?
熊野 加納さんから直接、僕のXにDMがきてびっくりしました(笑)。僕は「あやめ十八番」には何度も出演させていただいているので、その場でお会いすることはあったんですけど、まさか直接ご連絡をいただくなんて!と。そして作品の内容や今回の企画意図などを聞いて、「本当に僕でいいんですか?」という気持ちでした。花組芝居さんのお芝居は、ハートもありながらすごいテクニックが必要なので、そう簡単にできるものではないと感じていたので。正直めちゃめちゃビビリながら稽古を迎えましたけど(笑)、すごくアットホームな雰囲気で、今はリラックスして稽古させてもらってます。
──台本の内容はどんなふうに捉えました?
熊野 上演台本というより小説を読んでいるような面白さで、読み手のイメージにまかせる部分もあって。「あやめ十八番」では涼くんが自分で演出していますが、今回は自分で演出しないぶん自由に書いているというか、加納さんならこれをどうにかしてくれるだろうというような、ちょっと未知の領域に入っていくような台本で、気合いが入っているなと思いました。
加納 前に他の方の脚本でも、あんたならどうにか演出してくれるだろうみたいなのがあったんですけど、今回もっとひどいです(笑)。
全員 (笑)。
──長橋さんは今回の客演についていかがですか?
長橋 僕は花組芝居の武市(佳久)くんと仲が良くて、花組芝居さんの新しいプロデュース公演があるという話も聞いていて、機会があれば出たいなと思っていたので、お話をいただいたときは「やったー!」という感じでした。
加納 長橋くんのことは以前からリリパ(リリパットアーミーⅡ)の舞台で観ていて、若い良い役者が入ったなと思っていたんです。リリパ以外の舞台にも出ていたけど、もっといろんな役で揺さぶれる人なんじゃないかと思ったので。
──長橋さんは台本を読んでどう思いましたか?
長橋 めちゃめちゃ面白かったです。ドラマみたいで、次どうなるんだろうと目が離せない感じで。そして、読み終えてから「これ小劇場B1でやるんだよね?!」と。大劇場でプロジェクションマッピングでやるぐらいのスケールが大きな作品なので。
──もちろんプロジェクションマッピングなしで人力ですよね?
加納 B1でこれをどう見せるかを考えるのが面白いんです。昔、花組芝居を立ち上げてしばらくした頃、大道具とかどんどん派手になっていったことがあって。そのとき劇団を立ち上げる前からずっと観ていてくださった郡司正勝先生(歌舞伎研究家・演劇評論家・国文学者。早稲田大学名誉教授)が、「君の劇団はお金があっていいねえ」と一言おっしゃったんです。それを聞いて「これはヤバイぞ」と。想像力が減ってるんじゃないかという意味ですから。だからその次の公演は道具とかほとんど飾らないで作ったんです。
──今回のバッタの大群などはどうなるのでしょう?
加納 アナログでやりますから、ショッカーみたいなバッタが出て来ると思います(笑)。
全員 うわー(笑)。
加納 全員で9人しか出ていないので、みんな忙しいと思いますよ。
熊野 涼くんの「あやめ十八番」もいろんな役をやりますからね。がんばります(笑)。
みんな、もっとヘンになってほしい!
──それぞれ演じる役についても話していただけますか?
間瀬 僕は昆虫学者の車康介(くるまこうすけ)なんですが、昆虫を愛してるからこそ殺せるみたいな、昆虫にのめり込んでいて、どこか突出した人なんです。僕自身にはそういうところは全然ないから。
全員 えーっ?(笑)。
加納 車の役は読めば読むほど間瀬くんにぴったりだと思ってます。
間瀬 やっぱりそうですかー?(笑) 加納さんに観ていただいた映画の役もヘンでしたからね。いや、現場を一緒にした人からは「ヘンな子だね」と言われたりするんですけど(笑)、僕ほどTPO をわきまえたしっかりした人間はいないと自分では思っていて(笑)。ですからこの車という学者も、僕自身とは違う人として、彼が愛する昆虫と出会った昂揚感をちゃんと出せるようにしたいですね。
──熊野さんの役は、その車康介を瀬黒島に案内してくるTV局のディレクター、御門清(みかどきよし)です。
熊野 車康介と2人で物語を進めるというか、このバッタの島を探検していく。いわゆるバディものみたいな関係ですね。一見普通の人なんですが、後半にはそれだけではない部分も見えてきます。
加納 熊野くんは「あやめ十八番」のときも普通というか明朗快活な感じで出ていたので、今回は陰を要求しているんです。亡くなった西田敏行さんもそうですが、あの時代の役者さんって1人として似たような人がいなかった。そういう意味ではみんなもっとヘンになってほしいので。
熊野 がんばります。
──長橋さんは島の企業に勤める雨海光平(あまみこうへい)です。
加納 第一稿で面白い役だと思ったので、堀越にもっと書き込んでほしいと言ったんです。
長橋 僕はその第一稿を知らないので、どう書き込んでいただいたかわからないんですが。後半で変化があるので、そこに至るまでの積み上げというか、過去に自分に起こったこととか、それを今どう思っているのか、そこをはっきり持っておかないとブレるだろうなということは考えています。
加納 長橋くんは劇団で鍛えられてますから。物語の時代が長くて世代もいろいろ代わるという大河ドラマみたいなリリパの作品の中で、老若男女をやってきた人だから。今回は1人の人間で、その過去も未来もやるという役なので、逆に面白いんじゃないかと。
長橋 劇団だったら僕がするような役じゃないですよね。いつもやっていた複数のキャラクターにそれぞれ色を付けていくみたいなことじゃなく、雨海光平という人間をどう深堀りするか、そこを今回は意識したいなと思っています。
あり得ない状況の中で人間関係や愛憎が露わに
──稽古をしていて、共演の花組芝居の方たちからの刺激はいかがですか?
熊野 皆さんすごく仲良いというか、長い時間を経た仲の良さというのが、休憩中とか自然に感じられて、「ああ、いいな」と。
長橋 僕の場合は、リリパに入った頃からすでに花組芝居さんとは劇団同士の繋がりがあったので、前に出会ってる方も結構いるんです。だからこそ逆に面白いのは、自分の劇団に関わってくださる花組芝居の方々という面しか見ていなかったけれど、花組芝居にいる皆さんは初めて見るわけでめちゃくちゃ新鮮です。加納さんのことも、うちの劇団の芝居を観てくださる親戚のおじ様みたいな感覚だったんですが(笑)、でも東京に住むようになって、花組芝居の舞台を観たらめちゃ面白くて。その加納さんに演出を付けてもらっていることがすごく嬉しいです。
間瀬 稽古していて花組芝居の方々は、当然どういうふうに加納さんがお芝居を作っていくのかが分かっているので、そういう方々から安心感をいただいています。あと、例えば『鹿鳴館』とかこの前の『レッド・コメディ-赤姫祀り-』とか、僕が到底できない世界で。皆さん白塗りをして出てきて、あれは本当に僕の知ってる秋葉陽司さんだったのかなとか(笑)。そういう様式美ができる方々が畏れ多くもあり、頼もしくもあり、それを集団でやってて格好いいなと思ったりしてます。
──そんな花組芝居と客演の方々による新企画の舞台がいよいよ幕を開けます。最後に観てくださる方へのアピールをぜひ。
長橋 台本を何度読んでもワクワクしている自分がいて、僕の中でワクワクすることは大事なポイントで、そういう意味でいったら、絶対観る側の方たちもワクワクしてくれるはずだと思いながらこの作品を作っています。ぜひワクワクしてください。
熊野 「花組ペルメル」第1回で、「ごちゃまぜ」ですからカオスです。整理されたものではなく混沌ですが、そこが面白いと思います。そしてお客様が「自分もバッタの一匹だ」(笑)と思ってくださったら、臨場感があって楽しいかなと思います(笑)。
間瀬 タイトルもチラシも虫が出て来ますが、虫を介してのドラマチックな人間関係は、観ている方々の生活にもリンクすると思いますので、そこを楽しみにご覧ください。
加納 内容としてはバッタの大発生という特殊な状況があり、あり得そうであり得ないその仕掛けの中で、複雑な人間関係や愛憎が露わになってくる、そういうお話のるつぼに浸ってください。そして今回の音楽は薩摩琵琶です。薩摩琵琶は武士の嗜みとして流行ったものなので、激しいし無骨です。だから合戦でも嵐でも、例えばバッタの大群なども表現できるんです。俳優で琵琶奏者の吉野悠我さんの生演奏ですから、ぜひそこもお楽しみください。
■PROFILE■
かのうゆきかず○兵庫県出身。87年に花組芝居を旗揚げ、ほとんどの作品の脚本・演出を手掛け、劇団外の演出も多数。俳優としても映像から舞台まで幅広く活躍中。劇団以外の近年の主な出演舞台は加藤健一事務所『ドレッサー』、ウォーキング・スタッフ『三億円事件』、音楽活劇『SHIRANAMI』、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸双騎出陣、『十二夜 Twelfth Night』、PARCO PRODUCE『桜文』、江戸糸あやつり人形結城座『荒御霊新田神徳』、『演劇調異譚「xxxHOLiC」-續-』、こまつ座『連鎖街のひとびと』、あやめ十八番『雑種 小夜の月』(日替りゲスト)など。最近の外部演出作品は『新生!熱血ブラバン少女。』(2024年、博多座、大阪・新歌舞伎座)。西瓜糖『ご馳走』(演出)花組芝居ヌーベル『毛皮のマリー』(脚本・演出)で2019年前期の読売演劇賞演出家賞にノミネートされた。
ませひでまさ○愛知県出身。俳優、イラストレーター。愛知県出身。青年座研究所を経て、『きらめく星座』(作:井上ひさし、演出:板垣恭一)にて初舞台を踏む。主な出演作品は、【舞台】『赤シャツ』(作:マキノノゾミ)、『甘い丘』(作・演出:桑原裕子)、チーズtheater『ある風景』(作・演出:戸田彬弘)、2023年度読売演劇大賞演出家賞ノミネート作品『アプロプリエイト』(演出:古城十忍)など。また映画『KONTORA』(監督:アンシュル・チョウハン)の演技で大阪アジアン映画祭最優秀俳優賞を受賞した。
くまのよしひろ○静岡県出身。2003年早稲田大学演劇研究会にあったチャリT企画に入団。2020年退団。以後フリーで活動。舞台だけでなく近年は映像作品にも出演の幅を広げる。最近の主な出演作は、【舞台】あやめ十八番『空蝉』(大酩亭※太郎役)、Office8 次元『春鶯囀』(鵙屋安左衛門役)、【映画】『わたしの見ている世界が全て』(佐近圭太郎監督)、【ドラマ】中京テレビ『おじさんだけどキレイになっても良いですか?』など。
ながはしりょうや○2015年、リリパットアーミーII 入団。以降、『サヨウナラバ』を除く全ての公演に出演。近年では外部出演も多く、椿組、iaku、南河内万歳一座、プロジェクトKUTO-10 など、ジャンルを問わず出演している。最近の出演舞台は、椿組2024年夏・花園神社野外劇『かなかぬち』、中島らも没後20年企画−中島らも作品集−『やっぱりらもさん、◯◯やなぁ。』、南河内万歳一座杮落し特別公演『まさか様のお告げ』、椿組2023年夏・ 花園神社野外劇『丹下左膳’23』など。
【公演情報】
花組ペルメルvol.1
『⾧崎蝗駆經(ながさきむしおいきょう)~岡本綺堂「平家蟹」による~』
脚本:堀越 涼(あやめ十八番)
演出:加納幸和
出演:間瀬英正 熊野善啓 ⾧橋遼也(リリパットアーミーII)/
原川浩明 桂 憲一 秋葉陽司 丸川敬之 永澤 洋 武市佳久(以上、花組芝居)
薩摩琵琶演奏:吉野悠我
●11/20〜26◎小劇場B1(東京・下北沢)
〈料金〉前売/一般5,500 円 U-25/2,000 円 当日/一般5,900 円 U-25/2,400 円(整理番号付・自由席・税込)
※U-25(25 歳以下、入場時要身分証)
〈チケット取扱〉
花組芝居 03-3709-9430 https://hanagumishibai.com/「チケット」ページ参照
カンフェティ050-3092-0051(営業時間/平日10:00~17:00)
https://www.confetti-web.com/
〈花組芝居公式サイト〉https://hanagumishibai.com/
【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】