「明治座 十一月花形歌舞伎」上演中! 中村勘九郎・中村七之助 インタビュー

中村勘九郎 中村七之助

明治座に中村屋が帰ってきた!

明治座の舞台に8年ぶりに中村勘九郎、中村七之助が登場する。本来なら2020年3月の「明治座 三月花形歌舞伎」でその姿が見られるはずだったが、コロナ禍によって公演中止となってしまった。そこから更に4年半を経て、やっと明治座 に〝中村屋〟が帰ってきた。その公演「明治座 十一月花形歌舞伎」が11月2日に幕を開け、26日まで上演中だ。

昼の部は、歌舞伎の様式美あふれる『車引』、長谷川伸の傑作『一本刀土俵入』、華やかな女方舞踊の『藤娘』、そして夜の部は、義太夫狂言の名作『鎌倉三代記』、息もつかせぬ早替りが圧巻の『お染の七役』と、バラエティに富んだ演目が並んでいる。

この公演の『一本刀土俵入』と『お染の七役』で、それぞれ当たり役を演じる中村勘九郎と中村七之助に、舞台の見どころや役との取り組みを聞いた「えんぶ12月号」のインタビューをご紹介する。

作品に漂う江戸の匂いや空気を届ける 

──まず昼の部で上演される『一本刀土俵入』について伺います。

勘九郎 中村屋にとって大切な作品です。僕が演じる駒形茂兵衛という役は、父(十八世中村勘三郎)から台詞回しなども細かく教わりました。相撲の世界から見放された茂兵衛が、酌婦のお蔦から受けた恩を10年越しで返すという、人と人とのぬくもりを感じていただける内容で、作品に漂う江戸の匂いや空気を、現代のお客様にも感じていただけるように演じたいと思っています。

──七之助さんは、無一文の茂兵衛にお金だけでなく櫛や簪まで与えるお蔦を演じます。

七之助 お蔦は仕事や生活をどうにもできない自分に、茂兵衛を重ねる部分もあるのではないかと思います。自分を卑下する気持ちもあるけれど、子供を守らなくてはならない、でもやくざものとの関わりも切れない。そういうお蔦の苦しみや複雑な思いがお客様に伝わればと思っています。

──おふたりがこの役を演じるうえで大切にしていることは?

勘九郎 役を勤めるときに大切なのは、何よりも〝心〟だと思っています。心といっても、嬉しさや喜び、悲しさ、哀愁などストレートに感情を表現する心も大切ですが、『一本刀土俵入』では、風景を見ている心、風情というものが大事になってきます。そしてそこで生活している人物になりきる、茂兵衛として生きる、それをしないと粗が見えてしまう作品だと思います。父も「その人としてそこに居れば何を言っても何をやっても大丈夫」と言っていましたので、そこは大切にしていきたいです。

七之助 お蔦は前半が大事ですね。茂兵衛に親身になって聞く部分もありつつ、あまり同情してしまうと10年後の再会でも茂兵衛のことを覚えているはずだとなってしまいます。かといって愛がないのもだめなんです。何か強い気持ちで動くのではなく、日常の中でふわっと行動してしまった。その空気感を出しておかないと説得力がなくなってしまうので。それにしても話がいきなり10年飛ぶのが長谷川伸さんのすごいところで(笑)。今の時代は全部説明しないと「わからない」と言われますが、この作品は10年の間をお客様それぞれが想像する、10年をお客様が心で埋めていく。これがとても素敵なところで、それが物語後半の風情になると思っています。

──七之助さんが夜の部で演じる『お染の七役』はもう五度目ですが、何度も演じるときの心構えなどは?

七之助 「初心を忘れないように」ですね。それから玉三郎のおじ様に言われたのは、「早替りショーになっちゃだめだよ」ということで、台詞で役柄を変えるだけではだめで、若い女の役だから高い声を出しておけばいいというわけでもないんです。例えば上手い落語家さんは、女性を演じるときに、声は男でも女でも一緒だけど、仕草だったり雰囲気でわかるようにやる。だからこれも、出てきたときこの人は若いお嬢様というのがパッとお客様にわかるようにやらないといけない。それは何度も言ってくださったことなので、そこは常に思いながら演じています。

──七役も早替りするのはかなりの重労働でしょうね?

七之助 そうですね。でも玉三郎のおじ様が、非常に細かく厳しく教えてくださったその最後に、「はい、全部忘れなさい。あなたが劇場を揺らすのよ」と言われたんです。稽古をしたのだからあとは自信を持って、「大変なことをしています」というのは忘れてやりなさいと。それはいつも心に思っています。

一公演一公演、気を抜かずにやっていく

──この公演では若手の俳優さんたちも活躍しますが、これからの歌舞伎界について、人気の中村屋さんだからこそ考えていらっしゃることもあるのでは?

勘九郎 最近は我々も、昔でしたらなかなかご一緒できなかったような方との舞台も増えてきて、みんなで力を合わせて歌舞伎を盛り立てようという方向に向いていて、それはとても良いことだと思っています。ただ、これだけ歌舞伎を上演する劇場が全国にあると、なかなか一堂に会するようなことは少なくて。でもできるだけ意見を交わす機会なども増やしていけたらと思っています。

七之助 今の時代、どこの劇場も集客がたいへんですよね。中村屋だからと言ってくださいましたが、そんなに甘い世界じゃないです。そうならないためにもお客様のために一公演一公演、気を抜かずにやっていくことが必要だと思います。そうしないと続いていかない。今年で言えば2月の歌舞伎座での父の追善興行「猿若祭二月大歌舞伎」のあの空気感ですね。兄と一緒にやった『籠釣瓶花街酔醒』や夜の『連獅子』とか『猿若江戸の初櫓』もそうですが、全員が一生懸命、全身全霊でやっていました。それは絶対お客様に届いたと思うんです。そういうことを毎月毎月やらなくてはいけないと強く思います。新作もやらないといけないと思いますが、やはり吟味が必要ですし、その公演で歌舞伎を初めて観たお客様が、こういうものが歌舞伎だと思われて、そうじゃない演目のときは来ない可能性もあります。そういう様々な要素を考えながら、毎月の演目を立てていくことが大事でしょうね。

──そういうことを兄弟で話し合えるメリットは大きいでしょうね。役者としてのお互いについてもリスペクトしていただけますか?

七之助 もちろんずっと一緒にやってきましたからリスペクトは当然ありますが、兄だけではなく、歌舞伎界が良い意味で新旧競い合うような気持ちでやっていかないといけないと思っています。そういう意味ではプロデューサーとしても役者としても頼りになる存在です。

勘九郎 今、若手の女方さんたちがいろいろ出てきていますが、その筆頭と言っても過言ではない存在になっていることは、すごく頼もしいです。それに一緒にやってて楽しいというのが一番ですし、向いている方向も一緒で、しかもみんなをその方向に向かせる力を持っています。そういう、チームワークをまとめる縁の下の力持ちみたいなことも率先してやってくれるし、安心して任せられます。

──そんなお二人の阿吽の呼吸がこの公演でも力を発揮しそうですね。最後に「明治座十一月花形歌舞伎」を観にいらっしゃるお客様へのメッセージをお願いします。

勘九郎 本当に念願の公演です。2020年に観ていただけなかった分まで、若手花形はじめ出演の皆さんと我々で力を合わせて、楽しい芝居をお届けできたらいいなと思っています。 

七之助 製作発表で明治座の三田社長が、明治座の周りは芝居街の雰囲気が残っているとおっしゃっていたように、劇場の周辺も楽しいんです。公園があったり、老舗もあれば新しいカフェもある。そして舞台を観ていただいて、1日を通して明治座を楽しんでいただければと思っています。

■PROFILE■
なかむらかんくろう○十八世中村勘三郎の長男。86年1月歌舞伎座『盛綱陣屋』の小三郎で波野雅行の名で初お目見得。87年1月歌舞伎座『門出二人桃太郎』の兄の桃太郎で二代目中村勘太郎を名のり初舞台。2012年2月新橋演舞場『土蜘』の僧智籌実は土蜘の精、『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精などで六代目中村勘九郎を襲名。歌舞伎を担う立役の花形として古典、新作を問わず活躍。

なかむらしちのすけ○十八世中村勘三郎の次男。中村勘九郎は兄。86年9月『檻(おり)』の祭りの子で波野隆行の名で初お目見得。87年1月歌舞伎座『門出二人桃太郎』で二代目中村七之助を名のり初舞台。 父勘三郎や母方の祖父七世中村芝翫の教えを受け、『金閣寺』の雪姫や、舞踊『京鹿子娘道成寺』の白拍子花子など女方の大役を次々と演じ、清新な魅力を発揮。その一方、二枚目の立役も勤める。

【公演情報】
『明治座 十一月花形歌舞伎』
出演:中村勘九郎 中村七之助 坂東彦三郎 坂東巳之助 中村米吉 中村橋之助 中村歌女之丞 中村梅花 中村鶴松 坂東亀三郎 喜多村緑郎 市川男女蔵 坂東楽善
●11/2~26◎明治座
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10:00~17:00)、
明治座オンラインチケット 検索 
チケットホン松竹(10:00~17:00)0570-000-489または03-6745-08888、
チケット Web 松竹 (24 時間受付) 検索
HP:https://www.meijiza.co.jp/info/2024/2024_11/

【インタビュー/宮田華子 撮影/中村嘉昭】

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