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本多劇場にて間もなく開幕!タカハ劇団 第20回公演『他者の国』稽古場レポート

2025年2月20日(木)から23日(日)まで、タカハ劇団 第20回公演『他者の国』が上演される。戦前の日本を舞台に、医者たちがとある死刑囚の解剖をめぐり、それぞれの思惑や信念が交錯する物語だ。2月初旬の某日、稽古場を取材した。

稽古は、タカハ劇団では恒例ともいえるウォーミングアップのコミュニケーションゲームから始まった。声や体を使い、感覚を研ぎ澄ませるゲームは大盛り上がり。『他者の国』の物語そのものはシリアスなテーマを扱っているが、キャスト間のコミュニケーションは温かい雰囲気で、チームワークはばっちりだ。

その後、柔軟体操や休憩を経ていよいよ立ち稽古に入る。先ほどまでの和気藹々とした稽古場の空気が引き締まり、役者たちの集中力を感じる。冒頭でキャストが一堂に会している立ち姿は、それだけで風格があり、本番で舞台セットや照明が入ることでさらに迫力を増すのだろうと期待が高まる。この日に稽古をしていたのは、冒頭から全体の1/3ほど進んだところまでのシーンだった。1シーン1シーン、細かい部分まで作っていく。

物語は、東北帝国大学医学部付属病院勤務医の岡本三郎(平埜生成)が遠路はるばる日東帝国大学医学部までやって来るところから始まる。既に集まっていた他の面々に次々に自己紹介をしていくシーンは、それぞれの登場人物の第一印象が決まる重要な場面だ。個性豊かな登場人物たちによるやり取りの中で、それぞれの性格や関係性がだんだん見えてくる。さらに、大学病院という特殊な環境ならではのヒエラルキーやパワーバランスも垣間見えて興味深い。


この物語で最も権力を持つ立場にあるのは、日東帝国大学医学部教授である橘典裕(野添義弘)と言って良いだろう。しかし、このシーンでの典裕は心ここにあらずといった様子で、さらには妻・寧々(柿丸美智恵)には頭が上がらない。トップという立場の割には少し頼りなくも見える。


脚本・演出の高羽彩はこう言う。
「典裕のキャラクター自体は威厳がある訳ではないから、周りによって権威づけされているんです。助教授である正憲(土屋佑壱)によって『大日本帝国総理大臣です』といった感じで紹介されることで、権威のある人ということが分かります。同様に、紹介を受けた三郎にも『東条英機が来た!』くらいのリアクションをしてみてほしいです」
確かに、実生活でもその集団での立ち位置というのは、自分が意図するしないに拘らず、他者との関わりの中で相対的に浮かび上がるということを再認識させられる1シーンだった。物語の本筋だけではない、随所にハッとさせられる要素が散りばめられているのがタカハ劇団の持ち味だ。


このほかにも、登場人物たちによって様々な人間模様が描き出される。そこで繰り広げられる応酬では、芸達者なキャスト陣の魅力を存分に味わえることだろう。
筆者が特に注目したのは、典裕の妻・寧々を演じる柿丸美智恵だ。男性中心社会である戦前の医師たちの間を縦横無尽に動き回る寧々。意外な行動で典裕をギョッとさせたり、失言をした医師には皮肉をぴしゃりと言い放ったりする姿がしたたかだ。そんな彼女がときに場を引っ掻き回すさまを、柿丸がファニーに、そして説得力をもって演じる。ちなみに柿丸はタカハ劇団常連でもあり、座組における信頼感は言うまでもない。

稽古が進むにつれて、台詞についてだけではなく、人物の移動や物理的な立ち位置についても演出が入る。場面の切り替わりで一斉に人物が動くシーンは、ともすると舞台上が混雑して見えそうなのだが、全体を見ながら指示を出していく高羽によって調整されていく。高低差のある舞台セットをしつらえているため、そのどこに立つかによってかなり印象が変わるのだ。パズルのピースがはまるように動きが洗練され、立ち位置がビシッと決まったときには思わず息を呑んだ。

緊迫する物語の本筋から細かく演出された動作まで、見どころ満載の今作。作品の全体像について高羽は「この作品が扱うテーマは不穏だけど(小ネタによって)楽しい雰囲気になる場面も多い。そこに恐怖を差し込むように作っていきたい」と言う。登場人物同士の関係性と思惑が絡み合い、真実が徐々に明らかになっていく展開をお楽しみに。

【公演情報】
第35回下北沢演劇祭参加作品 
タカハ劇団 第20回公演『他者の国』
脚本・演出:高羽彩
出演:平埜生成 小西成弥 野添義弘 土屋佑壱 西尾友樹 本折最強さとし 近藤強 田中真弓 柿丸美智恵 平井珠生 丸山港都 高羽彩
●2/20〜23◎本多劇場 
〈公式サイト〉http://takaha-gekidan.net/

【取材・文/伊藤優花  写真/塚田史香】

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