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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第165回「劇場ではない会場」

 大阪公演だけだった「FOLKER」も無事に終わってホッとしながらも、次の舞台である劇団☆新感線「紅鬼物語」への準備をしている私です。いやあ、「FOLKER」は楽しい舞台だったねえ。いや、内容としては中々にヘヴィーな作品ではありましたが、みんなが楽しく演じられる素敵な舞台でした。

 でね、その「FOLKER」の会場となった堂島リバーフォーラムでは、これまで演劇が上演されたことがなかったそうです。このホールは主にライブやショー、企業発表会などが行われているそうでして、演劇では使われたことがなかったのです。柱のない広い会場ではありますが、フルフラットで天井が高く、確かに演劇には向かないホールです。私も一度だけ行ったことがあるのですが、それもゲームの試遊会でして、広い会場に所狭しと数多くのゲーム機とモニターが置かれておりました。
 そんな会場でなぜ「FOLKER」は開催されたのか。それは作品の性質上、三方囲みの客席にする必要があったからです。そしてそれが今作が大阪公演だけだった理由の一つでもあります。だって三方囲みができる会場って数少ないですからね。

 三方囲みというのは、舞台を取り囲むように客席が組まれている会場のことでして、それについては以前にもこの連載で取り上げましたよね(UFB:55)http://blog.livedoor.jp/nikkann-awane/archives/46478454.html。古代ローマの円形劇場とかコロッセオのように、舞台の周りを客席が取り囲んでいるような形状です。
 三方囲みや四方囲みではその性質から舞台が低くて客席が高く、スリバチ状になります。客席の幅が広いので一番奥の席でも舞台と近くて一体感が感じられるのですが、俳優にとってはどちらを向いて芝居をすればいいのか悩ましい構造でもあります。でも楽しいんだよね。
 2014年に再オープンした大阪の近鉄アート館や、今は稼働していない東京の青山円形劇場では何度も三方囲みや四方囲みの作品をやってきましたが、三方囲みができる手頃な大きさの劇場というのは数が少ないのです。ですので、柱がなく広くて天井の高い堂島リバーフォーラムに三方囲みの客席を設営して上演されたのです。
 セットと言えそうなのは三ヶ所の出入り口を開口した大きなパネルだけ。あとは床に正方形のリノリウムを貼り、劇場中に三角旗を張り巡らしただけです。むしろ、この仮設客席自体が今作のメイン舞台美術といえるほど素晴らしい造りでした。(美術:中根聡子さん)
 もちろん照明や音響を吊るためのトラスなども今回のために仮設されています。ただ、フレキシブルに使われるコトを想定した多目的ホールだからこそこのようなアクロバティックな仕様にも対応できました。ありがとうございます。こういった演劇専門ではない会場で演劇をやるというのも楽しいもんですよ。スタッフさんは大変なんですけれども。

 さて、無駄に芸歴の長い私ですから、このような演劇専門劇場ではない会場での公演というのはこれまでに何度も経験してきました。多目的ホールや野外はもちろん、ライブハウスや喫茶店、宴会場などでも公演したことがあります。大阪のフェスティバルホールだって本来はコンサートホールですから演劇はあまり上演されませんしね。しかし、大抵の演劇人でも経験したことがないだろうと思うほど珍しい体験は「走っている東北新幹線の中」での公演ではないでしょうか。
 JR東日本さんの企画で、演劇集団キャラメルボックスさんを中心としたスタッフキャストで行った「やまびこ67号、応答せよ!」というミステリーホテルタイプの体験型演劇では、企画のオープニングが「走る東北新幹線の中での演劇」から始まったのです。私は犯人グループのリーダー役で、車内放送を使って添乗員役の俳優たちや乗客役のお客様に様々な指示を出し、最後には叫びながら全車両を走り抜けるという大変な思いもしました。
 まあなにしろ走っている東北新幹線の中ですから何が起こるか判りません。カーブでどのくらい揺れるのかを事前に検証したり、車両間のドアをガムテープで固定したりと、様々な実験と入念な準備が必要だったので大変だったんです。
 また、駅で停車するたびに窓のカーテンを閉めるように指示したり、刑事役の福本伸一さんとやり取りするのも車内放送でした。福本さんは座席の上に飛び乗ったり、網棚スペースに挟まったりとやりたい放題だったそうですよ。
 あ、そうだ。犯人からの車内放送がタイムキープの役割を担うようにしていたのは私のアイデアです。もう試行錯誤の連続だったのですよ。

 ことほど左様に、演劇専門劇場ではない会場で演劇を行うというのは大変なんですって話ですよ。スタッフさんによる綿密な事前準備、当日の通常ではない設営、そしてなによりも会場さんのご理解とご協力が必要なのです。そして、その通常ではない会場の魅力こそが特別な臨場感を与えて格別の楽しさを体験して頂けるというワケです。
 また変な会場で演劇がしてみたいなあ。まあ、それ相応の苦労があることを覚悟しなくてはなりませんけどね。

こちらが川向こうから見た堂島リバーフォーラム。柱をなくすために低層ですが、横の高層マンションと一体の建築です。

プロフィール

粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

【出演予定】
劇団☆新感線「紅鬼物語」
【大阪公演】
2025年5月13日(火)~6月1日(日) SkyシアターMBS
【東京公演】
2025年6月24日(火)~7月17日(木) シアターH

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