
2025年紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞した劇団扉座、その最新公演となる舞台は『愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸』。1991年にザ・スズナリで初演、作・演出の横内謙介が第36回岸田國士戯曲賞を受賞した劇団代表作の1つで、2000年の上演から数えると26年ぶりの上演となる。
物語の主人公は、道化一人を従えて、夜毎に荒野をさすらう重ね着の王様。彼は「王様は裸だ!」という子どもの声によって、国中の笑い者になり、今は城を追われて隠遁者となった──。
アンデルセンの童話「裸の王様」とスペインの名作「ドン・キホーテ」の世界観を下敷きにしながら、「理想」と「現実」、「正気」と「狂気」の境界を問いかける寓話的な作品。今回は、初演時キャストに加えて後に入団した次世代を交えて、Aチーム、Bチーム、さらにCチーム(スイングチーム)と3チームの回替わり上演で、多彩なキャストによる舞台が楽しめる。
この作品に初演から出演している二人、王様役の岡森諦と道化を演じる有馬自由が、作・演出の横内謙介とともに語り合ってくれた。
初演時の空気は今と似ている
──初演は1991年で、92年に横内さんが岸田戯曲賞を受賞、そして93年に善人会議から扉座へと改名という、劇団にとっては記念碑的な作品ですが、今回26年ぶりに上演しようと思ったのは?
横内 この作品は劇団の財産の1つと言えるのですが、しばらく上演してなかったので、このへんで若い世代のためにもちゃんと上演しておきたかったんです。それに今なら、初演から王様と道化を演じている岡森と有馬もまだ出来るだろうと思って(笑)。
岡森・有馬 (笑)。
横内 二人はとにかく出ずっぱりですからね。ずーっと動いてるし喋ってる。二人がもう無理ですとなる前にやりたかった。それともう1つ、今の日本の空気は昭和初期のいわゆる戦前にどこか似ていると言われているけど、この作品を作った1991年もちょうど湾岸戦争が始まったときで、自衛隊が初めて海外に派遣されたり、世界大戦への危機感みたいなものがあった。時代の雰囲気が今とちょっと似ているんです。もちろん上演を決めたのはもっと前でしたが、そういうこともあって、今上演する意味はあるかなと思ってるんです。
──出演していたお二人にも、初演時のことを伺いたいのですが。
岡森 僕は当時の社会的な状況のことなどは、あまり意識してなくて。ちょうど小劇場ブームで盛り上がっている時代でしたから、うちの劇団の公演もお客さんがいっぱい入って、とにかくどの作品も無我夢中で取り組んでました。ただこの作品は体力的にすごくきつくて、毎公演ヘトヘトになってどんどん痩せていったのを覚えています。王様という役は、周りの人間に対して狂気なのか正気なのかわからない人なので、そこの見せ方が難しかったですね。それに今回は年齢を経たことで「ドン・キホーテ」という寓話の捉え方も変わってきて、改めてこの作品の面白さを感じていますし、また演じられるのが楽しみになっています。
──有馬さんは道化役ですが、初演時はまだ入団間もない時期で抜擢という感じでした。
有馬 出演者は10人で、出ていない先輩方もいる中で、僕は入団してまだ3年でしたから、とにかく必死だった記憶しかないです。横内さんが湾岸戦争を意識して書いたという話は後になって聞いて、そういえば当時そんなニュースを目にしたり耳にしていたなとそこで関連づけた感じでした。
為政者は孤独だから道化を側に置く
──役柄の話になりますが、岡森さんには真ん中を任せられる風格と子どものような素直な持ち味があって、この物語の王様にぴったりだなと。
岡森 たぶんこの「王様」に一番大事なのは陽気であることだと思うんです。この人が陽気でないと何も引っ張っていけないので。とにかく陽気に悩み、陽気に苦しみ、陽気に喜ぼうと。
横内 岡森とずっとコンビを組んでいたのは六角精児だったんです。高校演劇の時代からのコンビで。それがこの公演のときは六角が他の舞台に出ていたので、有馬と組むことになった。その持ち味の違いがうまくいった。道化に例えるなら六角が間抜けな道化だとしたら、有馬はちょっと小賢しい感じの、王様に毒を吐くような道化が似合うんです。そこが新鮮だった。
──有馬さんはこの役が来たとき、どう取り組もうと?
有馬 まず「道化って何?」と思いました。一応シェイクスピアに出てくる道化の話とかは知っていましたが、初演では台本を覚えるだけで精一杯で。再演で改めてちゃんと調べようと思って、歴史上の人で道化にあたる人物とか、宮廷の中で道化が果たす役割とか、いろんな文献や資料から知った覚えがあります。
──シェイクスピアの作品にはよく出てきますね。
有馬 実際に王様に直言できたり、例えば大臣などの重要な役割を任せられた道化もいたみたいですね。
横内 日本だと豊臣秀吉に仕えていた曽呂利新左衛門とかね。お笑い芸人みたいな笑わせる役割で側にいた。為政者ってやっぱり孤独なんだと思う。シェイクスピアではないけれど、「影法師」のような存在が側にいて二人でちょうどバランスが取れるみたいなことかなと。それに偉くなってもツッコまれたいんでしょうね(笑)。誰もツッコんでくれないとすごく寂しいんだと思う。

学校は理想が語られる場であってほしい
──この物語の王様は「裸だ」と言われたことで病んでしまうわけですが、現代のSNSによる弊害をまさに先取りしていたなと。
横内 「王様は裸だ」という言葉は、本当に無垢な子どもだけが言うならそれは成立するんだけど、大人はもっとそこに別の視点を持っていいんじゃないかと思ったんです。たとえば某大統領みたいな存在は「裸の王様」として断罪されてもいいけど、「ドン・キホーテ」もいってみれば裸の王様だけど、彼が変えていく価値観もあるわけです。そういう部分で「裸の王様」を大人として読み解くと、ちょっと違う世界が見えてくる。だけど世の中はどんどん「言ったもん勝ち」みたいなところへ行って、なんか殺伐としている。「見えない服」を着ているからこそ何かを出来る人もいるのに、それを「見えないぞ」と言ってしまうことで、その個性をついばんでいるのがもったいないなと。理想を語ることって、「見えない服を着る」みたいなことですから。そして、かつてはそういうことをみんなもう少し求めていたような気がする。でもだんだんお金や着飾ることが正義みたいになってしまって、「理想」みたいな見えない服は着たがらなくなってしまった。
──その話とつながるテーマが後半の学校の場面で、初演時は学校が荒れていた時代でした。
横内 今回26年ぶりの上演にあたって、この作品は時代を超えて通用すると思うけど、校内暴力はなくなってしまったので、そこだけわからないお客さんもいるかなと。ただ、この部分は「裸の王様」や「ドン・キホーテ」というちょっと遠い話に思えるファンタジーが身近なものになる瞬間を作りたかったので、現実的な話を入れたかった。そのうえで、この場面もまた限りなく現実に近い悪夢なので、いわばメタファーとして観客に理解してもらえればいいなと思っています。
──「裸の王様」や「ドン・キホーテ」という寓話への切り口として学校を入れたのは横内さんらしい気がします。学校を舞台にした作品が何本かありますね。
横内 学校は理想がちゃんと語られる場であってほしい、善き場所であってくれ、という願いは今も変わらないので。それと「王様」について言うと、もちろん権力者のことを指すわけですけど、一番身近な王様は閉鎖された学校空間における先生だし、我々も時々そうなる。芸術に携わる人間って王様ですからね。ただ、今はコンプライアンスというものがあるから王様もやりたい放題はできなくなった。でも見えないものを教えるって本当に難しいんです。そこにちゃんとした繋がりがないと伝わらないし、ちょっとした行き違いで悲劇が起きたりする。そういう意味では学校という切り口はこの時代もまだ有効かなとは思っています。

A、B、Cの3チーム全部観てください!
──今回の上演方法ですが、3チームだそうですが、いかがですか。
有馬 初演からのメンバーは、僕と岡森さんと伴(美奈子)の3人だけなんです。それで何回も再演しているので、今回も芝居全体のリズムとか、ここはこういう感じだったなとか、甦る感覚は多々あるんです。ただ今回初めて参加する人たちもいて、A、B、Cと3チームで稽古していると、自分のセリフもそうですが他の役のセリフも、これまでと違って聞こえたり、そのセリフで目の前にパッと広がる風景も違うので、新鮮ですね。
──AチームとBチームは、岡森さんの王様と有馬さんの道化以外はダブルキャストですね。周りの演者が変わるという感じはどうですか。
岡森 まったく違う声で違う顔の相手なので、最初は混乱しそうになりました(笑)。
有馬 まだ衣装を着てないので難しいんです(笑)。でもせっかく違うチームでやるのだから、似てくるよりもどんどん違う色が鮮明になっていったらいいなと思っているんです。
──演出している横内さんにとっても新鮮でしょうね。
横内 それはあります。すでに形が出来上がっていた作品ですが、それを一から作るチームもあるわけですから、セリフの意味を説明し直しているときに、自分でも気づくものがあったりするので。でもCチームで岡森と有馬の役をやる執行巧真と野田翔太はたいへんだろうなと(笑)。何が足りないとか指摘する以前の状態なのは、自分たちでも感じているだろうから、今は静かに見守っているところです。
岡森 いや本当にCチームは見ものですよ。楽しみです。でも稽古場で執行と目が合うとスーッとそらすんですよ。別に何でも聞いてくれていいのに、目をそらされたりするとこっちが傷つくから(笑)。
──すごいプレッシャーなのでしょうね。
岡森 こちらは何度もやっているんだから差があって当たり前なのに。とにかく沢山苦しめとしか言いようがない(笑)。
──道化役の野田さんは有馬さんから見てどうですか?
有馬 野田のキャラクターなのか、愛される道化になってますね。
横内 稽古初日にセリフが入ってたのにはちょっとびっくりした。
有馬 それは劇団に入って10年以上になりますから。
横内 いや覚えてこないのもいるからね(笑)。
有馬 ひょうひょうとして僕とは持ち味が全然違うので。王様役の執行と二人で僕らとはまったく違う王様と道化になるだろうなと楽しみです。
──いろいろ楽しみな公演ですね。最後に改めてアピールをいただけますか。
有馬 35年前の作品の26年ぶりの再演となるわけですが、取り組む側としては、今回も新しいものを、今のみんなの持っている力が嘘なくリアルに発揮できて、かつ良い芝居になるように稽古を重ねているところです。自分にとって一番新鮮な芝居を作りたいという思いですので、どうぞ期待して劇場に遊びにいらしてください。
岡森 いつも扉座は極上のエンターテイメントを届けられるようにがんばっているわけですが、今回はちょっとダークサイドなエンターテイメントかもしれません。ぜひ期待してきてください。
横内 「○○力」とか流行っている言い方でいうなら僕らには「劇団力」があるので。「劇団力」という言葉が流行語とかパワーワードになるといいなと(笑)。でも現実は劇団というものの消滅が危惧される時代なので、がんばらないといけないと思っています。
岡森 そこでCチームですよ。扉座の若手たちががんばってますので、ぜひ観ていただきたいです。
横内 余裕のあることを言ってるけど、自分たちのAチーム・Bチームもちゃんと売り込まないと(笑)。たぶんこの作品は1回だけではわからないところもあると思うので、できればA・B両方観てほしいですね。
岡森 A、B、C全部観ると特典があります。
横内 豪華プレゼントもありますから。ぜひ3チーム全部観てください。

■PROFILE■
よこうちけんすけ○東京都出身。1982年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。以来オリジナル作品を発表し続け、スーパー歌舞伎や21世紀歌舞伎組の脚本をはじめ外部でも作・演出家として活躍。92年に岸田國士戯曲賞受賞。扉座以外は、スーパー歌舞伎II『ワンピース』(脚本・演出)スーパー歌舞伎II『オグリ』(脚本)パルコ・プロデュース『モダンボーイズ』(脚本)坊っちゃん劇場『ジョンマイラブージョン万次郎と鉄の7年ー』(脚本・演出)歌舞伎『日蓮』(脚本・演出)歌舞伎『新・三国志』(脚本・演出)『スマホを落としただけなのに』(脚本・演出)明治座『隠し砦の三悪人』(脚本)新橋演舞場『トンカツロック』(脚本・演出)新橋演舞場『劇走江戸鴉~チャリンコ傾奇組~』(脚本・演出)歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」『きらら浮世伝』(脚本・演出)。
おかもりあきら○神奈川県出身。俳優・声優。「善人会議」(現・扉座)の創立メンバーとしてほとんどの劇団公演に出演、外部公演やドラマにも多数出演。最近の劇団出演作は、『つか版・忠臣蔵2025』『北斎ばあさん-珍道中・神奈川沖浪裏-』『歓喜の歌』『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』『扉座版・二代目はクリスチャン』『Kappa~中島敦の「わが西遊記」より~』『最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-』『神遊―馬琴と崋山―』。最近の外部出演作品は『五瓣の椿』『劇走江戸鴉~チャリンコ傾奇組~』など。
ありまじゆう○京都府出身。1988年京都府立大学文学部社会福祉学科卒業。同年、劇団善人会議(現・扉座)入団。外部公演やドラマにも多数出演。最近の劇団出演作は、『つか版・忠臣蔵2025』『北斎ばあさん-珍道中・神奈川沖浪裏-』『扉座版・二代目はクリスチャン』『Kappa~中島敦の「わが西遊記」より~』『最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-』『神遊―馬琴と崋山―』。最近の外部出演作品は、ロック音楽劇『ガウディ×ガウディ』ムシラセ『なんかの味』『トンカツロック』『ヒトラーを画家にする話』ミュージカル『刀剣乱舞』東京心覚−、など。

【公演情報】
劇団扉座第81回公演『愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸』
作・演出:横内謙介
出演:岡森諦 有馬自由 犬飼淳治 累央 新原武 野田翔太 小川蓮 翁長志樹 執行巧真 土岐倫太郎
伴美奈子 藤田直美 砂田桃子 小笠原彩 北村由海 大川亜耶
●5/16・17◎厚木市文化会館 小ホール
●5/20~31◎座・高円寺1
〈チケット問い合わせ〉扉座 03-3221-0530
〈扉座公式サイト〉https://tobiraza.co.jp/la-mancha
〈公式X〉@tobiraza(https://x.com/tobiraza)
【取材・文/榊原和子 撮影/松山仁】



