幅広い作品群を誇るケラリーノ・サンドロヴィッチの戯曲を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げる連続上演シリーズ「KERA CROSS(ケラクロス)」。第七弾となる今回は、KERA自身の半自伝的戯曲『シャープさんフラットさん』が登場する。演出を手がけるのは、初演にも出演していたマギー。作品を深く知る彼が、いまどんな景色を立ち上げるのか。KERA×マギー、当事者同士の対談から、その魅力と核心に迫る。
マギーが最適任だと思います

マギー えんぶで初めてKERAさんと対談したのが『ビフテキと暴走』(96年)だから、丁度30年前。
KERA まだマギーが言うことを聞かなかった頃(笑)。
マギー そんな時代はないよ(笑)。
KERA 俺ね、KERA CROSSで取材受けるの初めてなの。これまでは「自由に、好き勝手にやってね」という態度を徹底したくて介入してこなかった。でも今回はぜひとも協力したいと自ら申し出た。
マギー 嬉しいですねぇ。
KERA マギーと河原(雅彦)は、ちょっと特別というか。河原はKERA CROSS以外でも『室温』をやってもらったし(※22年『室温〜夜の音楽〜』。KERA CROSSとして、21年『カメレオンズ・リップ』、25年『消失』の各作品で演出を担当)、ふたりには何かプレゼントしなきゃという気持ちがあってさ。
マギー 演出させてもらうことが大きなプレゼントだと思いますよ、少なくとも僕にとっては。
KERA 今回はマギーが『シャープさんフラットさん』をチョイスしたと聞いて、本当に適任だと思った。この芝居に限っては、笑いにこだわってきた人間、笑いの楽しさ、怖さ、魔力を知っている人間に演出してもらわないと、どんなに上手くやっても初演に敵わないと思います。
マギー KERAさんが自分の想いを込めて、身を削って創った一作。
KERA 結構自分のことも書いてるね。
マギー KERAさん同様、僕も笑いと向き合って、ああじゃないこうじゃないとやってきた人間。だから、自分のことも投影できるし、僕だけじゃなくクリエイター全般に重なる部分があると思う。もっと突き詰めると、自分が大切にしているものを蔑ろにされ、世の中と折り合いがつかなくなってしまった人間は沢山いる。そういう普遍的な部分を(演出で)掘っていけたら。
──お話を聞いていると、本当に適任ですね。
KERA うん、最適任だと思います。
エンタメとしても成立させようと四苦八苦した
──せっかくですし、初演当時の思い出も少し。
KERA とにかく大変だったことばかり覚えていて、オールWキャストなんてやるもんじゃない(笑)。打ち上げも、まず客演の女優陣全員が連鎖するように泣き出して、結局一番号泣したのが三宅(弘城)という。
──それは、どういう涙?
KERA 乗り越えた安堵感と、達成感だったのかなぁ。
マギー 一丸となってやりきりましたから。女優さんがみんな泣き出して、最後は三宅さんと大倉(孝二)さんがハグをした。
KERA 後にも先にも、そんなことはないです。
──今作はKERAさんの半自伝でもあります。執筆当時に大事にされていたことは?
KERA 劇団で、笑いを客観的に描くことはそれまでも断続的にやってきてたけれど、難しいんですよ。その決定版ですね、この芝居は。なぜこんな入り組んだことをしたんだろう。
マギー メタとも違うからね。
KERA (劇中に登場する劇作家の)辻煙が追求したものが、世の中の公約数から大きくかけ離れてしまっていることが重要で、煙と世間との乖離をしっかりと伝えつつ、ある程度笑えたり楽しめなきゃいけない。そのバランスが至難の技。改めて台本を読むと、何とかエンタメとしても成立させようと四苦八苦した様子が伺えます。
両極が内包されたシーンが多い
──初演は「ホワイト」と「ブラック」、2パターンの上演台本が用意されました。今回はどのような形になりますか?
マギー 黒白の良き所を……って感じかな。戯曲として出版されているものに(『ケラリーノ・サンドロヴィッチ自選戯曲集1 ナイロン100℃篇』早川書房刊)、限りなく黒に近いグレー版、というのがあって。
KERA そうだね。
マギー それをベースにしてますが、KERAさんは稽古を見ながら書いていくので、初演の役者の個性に由来する台詞が散見されます。それを今回のキャスティングに当てはめた時に「ちょっと違うかも?」と感じた部分は、書き直させてもらってます。
KERA (稽古)現場でも直すでしょ?
マギー そうですね、役者さんのお芝居を見ながら直すところもあると思います。
──いま聞ける範囲で、演出プランやイメージについて教えて下さい。
マギー 笑いの部分とシリアスの部分があって、自分が役者として出演した時は「ここでしっかり笑いを取るぞ」「ここはシリアスに行くぞ」と、その両極の振り子でやっていた気がします。でも、改めて台本を読むと、その両極が内包されたシーンがとても多い。お客さんは笑っているけれどめっちゃヒリヒリする台詞を言っていたり、客席は静かだけど実は面白い状況だったり。だから、振り子の両極は勿論のこと、その真ん中にあるような、どちらも内包されたシーンをしっかり創っていきたい。僕はいま53歳で、台本執筆時のKERAさんより年上。大先輩のKERAさんが、当時こんなことを考えていたと俯瞰で見ることもでき、とても面白いタイミングで演出する機会を得たと感謝しています。
──初演の魅力と新しい魅力、そのバランスはいかがでしょう?
マギー キャストとスタッフには「初演を参考にせず、まっさらな気持ちでこの台本に取り組もう」と伝えています。特にキャストには「気になると思うけど映像は観なくていいよ。初演のことは俺が知っているから」と伝えていて。
KERA なのに(柄本)時生は観ちゃったらしいじゃない(笑)。
マギー そうそう。
KERA 観ずにいられなかったのかと思うと、それもまた嬉しいけどね。

楽しくて仕方ないんですよ
──お二人がこの公演に「期待すること」を教えて下さい。
KERA これに関しては誰が演出しても同様ですが、既に僕の手を離れているので、どう料理してくれても構いません。ただただ一観客として楽しむのみ。なので、マギーに一任します。
マギー 期待することか〜。うん、そうねぇ。
KERA 観客はどういう反応をするのだろう? 18年前とも違うだろうし。
マギー KERAさんのファンも沢山いらっしゃるでしょうけど、今回はKERAさんの作品に初参加のキャストも多いし、初めてKERAさんの作品を観るお客さんにも来てもらいたいと思っていて、どう受け入れてもらえるか? も含めてワクワクしています。あまり不安はありません。
──マギーさんがとても楽しみにしている様子が伝わってきます。
マギー KERAさんの台本を上演した演出家が、よく「難しい。プレッシャーだ」と言うけれど、僕はKERAさんの作品に何作も出させてもらって、難しいと感じたことが一度もない。台本が配られる度に「さあ、これをどう演じよう!?」と楽しくて仕方ないんですよ。
KERA 僕は作・演出家の人間に出てもらうのが好きで、今も赤堀(雅秋)と一緒にやってますけど(※ケムリ研究室『サボテンの微笑み』26年)、次のナイロンには根本(宗子)と土田(英生)くんが出てくれる(※ナイロン100℃ 50th SESSION『モラル以前(仮)』9/5〜27◎本多劇場、ほか各地公演あり)。
マギー 「作・演出がいると心強い」と言ってくれる作・演出家は相当珍しいですよ。皆無。
KERA どんな作・演出家でもいい訳じゃないよ。ある程度人柄や志向も踏まえた上で人選はしてる(笑)。
マギー (笑)。
KERA 「ちょっと意見を聞きたいな」と思ったら応えてくれるし。
──マギーさんは「楽しみ」と仰いましたが、KERAさんはいかがですか?
KERA 楽しみですよ、無責任に。昔の自作を新たに上演してもらえるのは非常に嬉しい。大変な作業だろうに。本当に有り難いし、更に今回は興味のある人が沢山出てくれて。(柄本)佑とは一緒にやったけど(柄本)時生は初めてだし、マキタスポーツくんとか安達祐実さんとか。堀部(圭亮)くんは『室温』(22年)にも出てくれた。白石(優愛)さんはショートムービーを見て、面白いなぁと思って気になってました。
マギー そう、彼女良いんですよ!
──マギーさんの仰る通り、初めてKERA作品をご覧になる観客も沢山足を運びそう。
マギー そこは楽しみだけど、チューニングをしっかりしないといけない部分も出てくる。KERA作品に慣れているとスッと入ってくるものが、そうでないお客さんには「ちょっと飲み込みにくい」みたいなことが起こり得るのかどうか。そのチューニングも楽しみのひとつです。
(このインタビューは雑誌「えんぶ」2026年6月号より転載)
インタビュー◇園田喬し 写真提供◇(株)キューブ
プロフィール
まぎー◯俳優、脚本家、演出家。93年にお笑い集団ジョビジョバを結成し、リーダーとして作・演出を務める。02年に活動停止したが、14年には再集結し、以降はコントライブを不定期開催している。この他、NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」の出演や、映画やドラマの脚本を数多く手掛けるなど、精力的に活動する。
けらりーの・さんどろう゛ぃっち◯劇作家、演出家、映画監督、音楽家。ナイロン100℃、KERA・MAP主宰。ケムリ研究室共同主宰。82年、ニューウェイヴバンド「有頂天」を結成。85年に「劇団健康」を旗揚げし、音楽活動と並行して演劇活動を開始する。劇団健康解散後の93年には「ナイロン100℃」を旗揚げ。近年は多くの演劇賞を受賞するなど国内演劇シーンを牽引する一方、ソロをはじめ、2015年に再結成した有頂天や「KERA&Broken Flowers」、鈴木慶一とのユニット「No Lie-Sense」などで、音楽活動も精力的に行っている。
公演情報

KERA CROSS 第七弾
『シャープさんフラットさん』
作◇ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出◇マギー
出演◇柄本時生 高梨臨 安達祐実 田中俊介 トリンドル玲奈 森準人 岩男海史 白石優愛 土屋翔 小野晴子 松永玲子 マキタスポーツ 堀部圭亮
6/19~7/5◎東京 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
7/11・12◎名古屋 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
7/18・19◎大阪 サンケイホールブリーゼ





