【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】『地霊・パンドラの箱』ベンジャミン・フランクリン・ヴェデキント作 岩淵達治翻案

植本 今回はベンジャミン・フランクリン・ヴェデキント作『地霊・パンドラの箱』(ルル二部作)。
坂口 岩淵達治翻訳です。二つの作品は連作になっていて、オペラ『ルル』の原作としても知られていますね。

(編注:今回の対談は『地霊』のみで、『パンドラの箱』については次回の掲載になります)

植本 ヴェデキントって人、自分で実際に演じる人なんですね。
坂口 口絵に写真が載ってました。
植本 しかも主要な役です。
坂口 『地霊』で共演したルル役の女優と結婚してます。

坂口 反骨精神の旺盛な、面倒くさいけど素晴らしい人かな?ブレヒトも影響を受けてますね。
植本 どっちの戯曲も上演するにはスキャンダラスな部分があるので、なかなか上演が叶わなかったんだけど、途中から認められてね。
坂口 猥褻文書として告訴されて、裁判とかになってますね。
植本 時代的には夏目漱石と同じ世代で1900年代初頭ですね。もっと昔の人だと思ってました。でも読んでみると瑞々しくて、演劇的な仕掛けがいっぱいあります。
坂口 ドラマチックですよね。
植本 ミステリーの要素もあったり、次どうなるのかなっていう観客を引きつける力がすごいなと思いました。
坂口 血なまぐさいっていうか、人がショッキングな死に方をしたりとかね。
植本 そうそう。
坂口 エロチックな場面もあるし、というかルルが出ている場面はどこもエロチックですね。
植本 主人公のルルは魔性の女なのでね。それによって周りの男達が死んでいくんですけど、フェイントみたいなのもあって、次この人だろうって思った人が死ななかったりね。おもしろいです。

【登場人物】
ルル
ゴル博士(衛生顧問官)
シェーン(編集長)
アルヴァ・シェーン(その息子)
シュヴァルツ(画家)
エスツェルニー公爵(アフリカ探検家)
シゴルヒ
ロドリーゴ・クヴァスト(力業師)
アルフレート・フーゲンベルク(高校生)
エシュリッヒ(新聞記者)
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢(女流画家)
フェルディナント(馭者)
ヘンリエッテ(女中)
侍 僕

【プロローグ】
(ト書き)
幕があがり、見世物小屋のテントの入口が見えてしばらくしてから、 猛獣使いが、 朱色のフロック、白いネクタイ、長く黒いカールした髪、白のズボンと折返しのある長靴のいでたち、左手に調教鞭、右手に弾丸をこめたピストルを持ち、シンバルとドラムの音にはやされてテントから登場。
(本文)
さあさ、おはいんなさい、動物大サーカスだよ。
つんと気どった紳士方やきれいなご婦人方だって、
魂のないけだものを見れば、
熱い快感と冷たい恐怖を覚えますよ。
このけだものを調教したのは天才的な人間だ。
さあさおはいんなさい、興行が始まるよ!ーー
料金は二人分払えば子供は無料だ。
(後略)
(『地霊・パンドラの箱』岩波文庫刊より引用)

坂口 最初からいくとプロローグがありますね。
植本 サーカス、見世物小屋風な作りでね。
坂口 彼は自然主義的なものよりも、エンターテインメントというか作られたものに興味があるんだね。
植本 大げさな表現とかね。
坂口 それでプロローグはサーカスの猛獣使いっぽい人が客席にむかって語りかけてますね。役者の資質を動物を合わせてなのか、こんなやつがいる、みたいなことを言って・・・結構長いです。
植本 前説っていうんですかね。

(本文)
(前略)
(彼は入口になっているカーテンをもちあげて、テントのなかに叫ぶ)

おい、アウエスト!うちの蛇を連れてきな!

(太鼓腹をした裏方が、ピエロの衣裳をつけたルル役の女優をテントからかついで出てきて、彼女を猛獣使いの前におろす)

この女が創造されたのは、災いの種を蒔き、人間を惑わし、誘惑し、毒を盛り――
それと気づかれずに相手の男を殺すためです。
(ルルのあごを愛撫して)
かわいいけだものめ、そう気どるんじゃない!
批評家の先生たちに賞めてもらえなくとも、
愚かな気をおこして不自然なしなをつくったり、
変な恰好をするんじゃないぞ。
(後略)
(『地霊・パンドラの箱』岩波文庫刊より引用)

坂口 うーん、これ蛇がいるって見せに来ると、ルルなんですよね。蛇は、ルルなわけですよ。というように煙にまくっていうかなんというか。最初にこれやられてきょとんとしちゃうかなって。
植本 お客さんがね(笑)。

【第一幕】
(ト書き)
広いアトリエーー下手〔右手だから普通ならば上手だが、作者はこの芝居に限って、左右は 役者から見てとことわっているので、上下(かみしも)が逆である〕奥に入口のドア。下手前方の寝室に通じるドア。 中央にモデル台、モデル台の後ろにスペイン風衝立。 その前にスミルナ製絨緞〔ペルシャじゅうたん〕、上手前方に画架(イーゼル)二脚。後ろの方の画架には、若い娘の半身像。 前方のには裏返ししたキャンバスが置いてある。 画架の前の、やや中央寄りの前方に、トルコ風寝椅子(オットマン)。その上に虎の皮。下手壁ぎわに肘掛椅子二脚。後方に一台の脚立。
(『地霊・パンドラの箱』岩波文庫刊より引用)

坂口 で、第一幕。主人公はルルなんですけども、ずーっとルルに関係してるのが新聞社の編集長の、
植本 シェーンっていうおじさんです。
坂口 彼がパトロンというか、
植本 まあ、元々花売り娘みたいなことをやっていたルルを拾ってきたんですよね。だからこの辺を読んでて、『マイ・フェア・レディ』を思い出した。
坂口 『マイ・フェア・レディ』のエロ・グロ版?
植本 (笑)そうですかね。
坂口 一応ルルを愛人にはしてるんだけれども、ルルは大変な女だから他の男にくっつけちゃおうって、ちょっと複雑です。
植本 お金持ちのおじいちゃんところにルルを嫁がせる。
坂口 そして自分は良いところのお嬢さんと婚約しているというね。
植本 貴族階級の娘と・・・。

坂口 まずそこの関係があって、最初の場面はその・・・これよくわかんない、衛生顧問官?
植本 ゴル博士。まあ、お医者さん系の人だよね。
坂口 ちびで太鼓腹のじいちゃんです。異形といってもいいのかな。
植本 そう、おじいさんの所に嫁がせて。
坂口 そのじいちゃんが、画家のアトリエにルルをモデルに連れてきて、絵を描かせてる。その場面とかも躍動的でエロチックですね。
植本 ピエロの格好をさせてね。そうすると絵を描いていた画家のシュヴァルツとルルが案の定できてしまいます。
坂口 それを見てじいちゃんは怒り狂って死んじゃいます。
植本 心臓発作みたいですね。
坂口 この死んじゃってからのドタバタが面白いですね。この芝居は人が死ぬと面白い。
植本 画家とルルができてしまい、それをみてしまったゴルおじいちゃんがショックで死んでしまいました。
坂口 そこまでは、絵空事みたいな話かなって思ったんだけど、読んでいくと随所に面白いやりとりがあってね。この作家がなかなか面白い奴だなって思ってきます。まあ、それで第二幕。

【第二幕】
(ト書き)
ひじょうにエレガントなサロン。下手後方に入口ドア、下手前方と上手にカーテン・ドア、下手にむかって二、三の段が上っている。
背景の壁の媛炉の上に、豪華な金欄の額に入ったピエロ姿のルルの肖像。上手に高い鏡、その前にソファ(シェーズロング)。下手に黒檀の書斎机。中央にシナ製の小卓をかこみ、肘掛椅子二、三脚。

【第一場】
(本文)
ルル (緑の絹のナイトガウン姿で鏡の前に身動きもせずに立って、額に小皺をよせ、手でそれをこすり、自分の頬をさわってみる。不機嫌そうで、すこし怒ったようなまなざしをしながら鏡から離れて下手に行き、何度も振りかえりながら、書斎机の上の箱をあけて、煙草に火をつけ、机の上にのっている本のあいだを探して一冊を手にとり、ソファに横になり、鏡と向き合いになり、しばらく本を読んでから本をおろし、まじめな表情でうなずいて、また読書を続ける)
シュヴァルツ (絵筆とパレットを手にもち、下手から入ってきて、ルルの上に屈みこみ、額にキスし、上手の階段に近づき、カーテン・ドアのところで振り向く) イヴ!
ルル (ほほえむ)ご用?
シュヴァルツ 今日はとくに魅力的だと思うな。
ルル (鏡をちらりと見て)つける人の評価しだいね。
シュヴァルツ 君の髪は朝の新鮮さを吸いこんでいる……
ルル わたしは水の精なのよ。
(後略)
(『地霊・パンドラの箱』岩波文庫刊より引用)

坂口 ルルの仕草の指示が細かいです。
植本 で、ルルの亭主だったゴル博士が死んだら、この画家と結婚するんです。二人目の旦那さんは画家のシュヴァルツです。
坂口 結婚したらシェーン編集長の口利きで彼の絵が高く売れるようになっていて、
植本 よくよく考えてみると、この画家はそんなに才能があるわけでもなく。
坂口 だからシェーンっていう人は相当力がある人ですよね。
植本 新聞に記事を載せられるような人だから印象操作がすごい(笑)。
坂口 どっかにもいそうな・・・。
植本 そういう力、編集長にもあるでしょ?
坂口 (笑)まるでねえよ。
植本 いやいや、あそこの劇団おもしろいよ〜って(笑)。
坂口 だれも聞いちゃいねえよ。
植本 (笑)いやいや〜?
坂口 (笑)。それはあんた、○○新聞とかさ、××大賞とかそういうところにあるんじゃないですか?

植本 で、画家のシュヴァルツはお金も得て。
坂口 ルルとは仲良し。画家、ちょっと抜けてるっていうか、
植本 無垢といえば無垢。
坂口 なんか自分だけ愛されてる、みたいな。本人にとってはよい時間だったのかもしれませんね。
植本 そう、だから、ルルが「私処女なの」っていえばそれをすっかり信じちゃう。んなわけないだろっていう。
坂口 で、一緒に暮らしてると過去に関係のあった奴とか、シェーンとの関係とかもある程度わかっちゃって、で、今度は彼が自殺しちゃう。
植本 そうなんですよね。シェーンがルルの過去を画家に話すと自殺する。

坂口 むしろそんな簡単なことで自殺するかっていう。
植本 よっぽどね、ルルのことを神格化、聖女としてあがめていて。
坂口 ね。そこが彼女のすごいところ、なんていうのカリスマっていうか。
植本 ファム・ファタールというんですか、妖女っていうのか。
坂口 読んでるとどうだろうな、そこまではちょっとわからないかもしれないなあ。
植本 ファムファタール的なことって、男どもが勝手にそう思ってるだけで、そんなこと本人はどこにも言ってないですからね。
坂口 仕草とか存在がそうなわけでしょ、だから男が参っちゃう訳でしょ?そういう人なんだね、ルルは。そんな人に出会ってみたいですね(笑)。
植本 これ、男が馬鹿な感じが読んでてすごくして。かなり誇張してる部分があるから。
坂口 だから良いんじゃないですか?面白い芝居ってたいがい男が馬鹿だから。
植本 なんか、自分が紗幕越しに見ているルルのことが「あれ自分が思っているものと違う」っていう時に、死んでいくんだと思うんですよね(笑)。
坂口 そうだね。シェーンだけは少し違うんだよな。
植本 あ、でもシェーンも死ぬじゃないですか。
坂口 めちゃめちゃ翻弄はされるけど、彼は殺されるんだよね。

【第三幕】
(ト書き)
劇場の楽屋、赤い布を張った壁。上手後方にドア。 下手後方にスペイン風衝立。中央には、長いテーブルが客席にむかってたてに置いてある。その上に舞踊の衣裳がのっている。テーブルの左右に椅子一脚ずつ。上手前に小卓と椅子。下手前方に背の高い鏡。その横に、高く、幅広の古風な肘掛椅子。鏡の前にはパフやドーランいれなど。

【第一場】
(本文)
アルヴァ (下手前方で、二つのグラスにシャンペンと赤ぶどう酒を注ぐ) 舞台の仕事に足をつっこんでから、観客がこんなに滅茶苦茶に昂奮したのを見るのははじめてだ。
ルル (衝立のうらにいて姿は見えない)赤ぶどう酒はあんまり注がないでねーー今日は見に来てるかしら?
アルヴァ 親父(おやじ)のこと?
ルル そう。
アルヴァ 知らないですね、来てるかどうか。
ルル 全然あたしの舞台を見る気がないようだわ。
アルヴァ なかなか暇がないんでしょう。
ルル 許嫁(いいなずけ)の方が放さないんでしょう。
(後略)
(『地霊・パンドラの箱』岩波文庫刊より引用)

植本 三幕っていうのは何が起きてるんだ?
坂口 ルルがダンサーとして出演している劇場の楽屋ですね。シェーンの息子アルバが劇場の演出家をしてますね。
植本 ここは地霊とパンドラの箱を一挙上演する場合はカットするところなのかな、たしか。
坂口 そうなの?全体の流れとしては芝居の雰囲気が変わって、ぼくはココ好きです。だって、いかにもなショーをやってる劇場の舞台裏って、何があってもおもしろいですよ。ここでも彼女にちょっかいを出す人たちがいて。息子もそこで半端に口説いたりしてますね。
植本 アルバですね。かれは元々、父親のシェーンがルルを拾ってきたときは同い年くらいだったんですね。
坂口 同じ家で暮らしていたんですよね。 
植本 うん、兄妹のように暮らしていたんですけど、まあ、シェーンの奥さんもルルは毒を盛って殺したのよ、っていってたりして複雑です。
坂口 演出家と主演女優という関係もあって、あそこらへんの描写は面白かったですね。
植本 結局アルバも画家と同様にそんなに才能があるわけではなく、お父さんのシェーンが色々画策して、一人前に仕立てて、評判を広めて、みたいなことらしいですね。

坂口 三幕の終わりの方ではシェーンとルルがもうけっこうやり合ってますね。
植本 うん。アフリカ探検家のエスツェルニー侯爵が言い寄ってきてルルをアフリカに連れて行きたい、って口説いているので「あ、この人も死ぬな」って思ったんですけど、彼は死にませんでしたね(笑)。
坂口 シェーンがね、「いや、アフリカに行くなんてとんでもない」って言いだして、
植本 そのときに彼は自分はルルが好きなんだって気づくみたいなね(笑)。ルルに「私のことをちゃんと好きだって言いなさいよ」って言われてます。
坂口 シェーンは3幕でルルが出演してる舞台に婚約者連れてきたりしているくせにね。
植本 ルルは、あなたの許嫁みたいな人に、なんで舞台上での恥ずかしい姿を見せなきゃいけないのって言ってます。
坂口 けっこうなやりとりがあるんですよ。で、四幕。

【第四幕】
(ト書き)
檞材で彫刻の施されたどっしりした天井板をもつ、ドイツ・ルネッサンス様式の豪華な広間。壁は半分ほどの高さまで、黒い木の彫刻を施した板で飾られている。その上部は左右とも色あせたゴブラン織の幕がさがっている。
(後略)
(『地霊・パンドラの箱』岩波文庫刊より引用)

植本 許嫁に断りの手紙を書かせられてます。
坂口 口実筆記みたいな形でね。
植本 ルルが、許嫁と縁を切るみたいなことを書きなさいって言ってます。まあ、シェーンがルルの支配下におかれますね(笑)。
坂口 ところでここはだれの家なの?
植本 シェーンの家ですね。
坂口 そうか。4場では結婚してるんだね、シェーンとルルは、あのやりとりがあってからね。
植本 そうですね。

【第二場】
(本文)
シェーン (ひとりあたりを見まわして)まったく散らかし放題だ。これがおれの晩年か。きれいなところなどどこを探してもありゃしない。家じゅうが病毒の巣だ。最底辺の日傭人夫の家だってもうすこしきれいだろう。三十年間あくせく働いたあげく、これがおれの家庭のまどいというやつだ。おれの妻のお取巻きのまどいさ……(見まわして)今だって、おれを盗みぎきしてるやつがいないとも限らない!(胸のポケットからピストルを取りだす) 自分の生命の保証さえないんだからな!(彼は右手に撃鉄を起こしたピストルをかまえて下手に行き、閉っている窓のカーテンにむかってしゃべる)これがおれの家庭のまどいだ! あの画家にはまだ勇気があった! ――おれも自分の頭に一発ぶちこむか?――不倶戴天の敵となら戦いもしよう、しかし相手が……(彼はカーテンをぱっともちあげる。誰も隠れていないので)不潔ではな――全くきたない……(彼は頭を振り、上手のほうに行く)狂気がもうおれの正気を失わせてしまったのか、それとも――異常があるからこそ正常が分るのか!(ルルが戻ってくるのが聞こえるのでピストルをかくしに入れる)
(後略)
(『地霊・パンドラの箱』岩波文庫刊より引用)

坂口 そうすると、その家に雇われてる奴が、
植本 ほぼ全員ルルと関係をもっていて、そんなはずじゃなかったシェーンが嫉妬に狂い自殺しろとルルに迫りますね。
坂口 そのときルルに渡したピストルで自分が撃ち殺される。
植本 ピストルをルルに渡して自殺しろっていうんだけど、ルルはそのピストルでシェーンを5発くらい撃ってシェーンを殺しちゃいます。
坂口 ここまで頑張ったわりには案外簡単に殺されちゃいますね。
植本 うん。
坂口 ピストルを撃つまでのやりとりが激しくて。ちょっと面倒くさいからいいや、みたいに思っちゃったんですけど。
植本 (笑)。
坂口 でも彼も都合がいいよね。ルルとの関係続けていながら他のお嬢さんとも結婚したいっていう。
植本 貴族の令嬢とね。
坂口 世の中そう都合よくはいかない。
植本 で、ピストルでうたれて死んじゃうんです。

坂口 この芝居濃いやつしかでてこないよね。一幕でじいちゃん脳溢血かなんかで狂い死ぬでしょ。大体さ、死に方がすごいよねこの芝居。
植本 なにが?
坂口 ただパタンって倒れんじゃなくて、目を剥いて倒れた、みたいなやつをみんなが怖がってるもん。
植本 そうね(笑)。
坂口 この作家がやっぱりそういう表現が好きなんだね。
植本 ああ〜そうね。
坂口 猟奇的って言うか。しかもあれでしょ?二幕目も画家は自殺しちゃうけど、その自殺する場面自体は見えないけど、奥の部屋にとじこもっておかしなことになって、大変じゃないですか、物音聞いて、扉開かないから、斧もってきて、その場面がすごくこってるんですよ。
植本 ああ。
坂口 まずシェーンが扉をこじ開けて、見に行って、そしたら、惨状、頸動脈ぶち切って血が撒かれてるみたいな。
植本 直接は見せないけどね。
坂口 うん。シェーンが手に血を付けて戻ってくるんだよね。そのあと新聞記者がきて、その記者に状況を語らせるんですよね。
植本 上手にね(笑)。
坂口 この作家は人が死ぬ場面を楽しんで書いているところがあって面白いですね。そして全体的に話に勢いがありましたね。

植本 『地霊』はここまでですね。
坂口 『地霊』は陰惨な話が陽気に語られますが、『パンドラの箱』では陰惨な話が陰気に語られます。ドイツ、フランス、イギリスと場面が変わり、切り裂きジャックが登場しますのでお楽しみに!

プロフィール

植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。2023年の退座まで、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。09年、同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている。

坂口真人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

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