『片づけたい女たち』間もなく開幕! 保坂萌・松永玲子・佐藤真弓・有森也実インタビュー
良くも悪くも「自分ごとだ」と思わせる物語
永井愛の代表作『片づけたい女たち』が、10月に新宿シアタートップスで上演される。演劇プロデュースユニット「ムシラセ」主宰の保坂萌の演出で、松永玲子、佐藤真弓、有森也実のキャスト3人が、人生の課題に直面した50過ぎの女たちを描いた本作に挑む。役の実年齢と同じ50代の3人と、40歳の保坂が、2004年に初演され20年もの長きにわたり愛され続けている本作をどのように立ち上げていくのか、話を聞いた「えんぶ10月号」のインタビューをご紹介する。
出演者の顔ぶれを見て「ヒエッ!」となった
───保坂さんは今40歳ですが、50代の女性を描いた本作の演出としてお話が来たときにどう思いましたか。
保坂 生意気な言い方ですが、自分がやりたい世界観みたいなものに合っていて、すごく自分に向いている本だな、と思いました。戯曲を読んでまず、こんなに面白い本があったんだ!とびっくりしましたし、出演者3人でこれをやっていたなんてすごいな、という思いと、それを自分たちがやるのか、という高揚感もあります。
──今回、素敵な出演者がそろいましたね。
保坂 顔ぶれを見て「ヒエッ!」となりました(笑)。ご本人たちを前にして言うのもあれですが、この人たちとやるんだ、と思うと、皆さんのことは学生のときから拝見していたので、あの頃の自分に言ってあげたいですね。「永井愛さんの本をこの人たちと一緒にできるんだよ」って。きっと信じないでしょうけど。
──出演者の皆さんは、今回初めて保坂さんとご一緒するにあたってのお気持ちはいかがでしょうか。
松永 私は昨年、有薗芳記という“おじさん俳優”に「ムシラセが面白いから観た方がいい」と勧められて公演を観たんです。そうしたらあまりに面白すぎたので、私からいろんな“おばさん俳優”たちに「面白いよ」と伝えて(笑)、そうやって小劇場のおじさん・おばさんたちにムシラセが広がっていきました。
保坂 ありがたいことです。
松永 なので、今回一緒にやれることになってすごく楽しみにしています。でも、こちらとしては楽しみですけど、何か拷問みたいじゃない?
保坂 そんなことはないですよ(笑)!
松永 本当に大丈夫? 自分が逆の立場だったら、何か拷問を受けるみたいな感じじゃないかしらと思って。だって15歳ぐらい上の人たち、しかも同性の、となると……ちょっと面倒くさいかも、と思って(笑)。
一同 (爆笑)。
佐藤 でも「面倒くさいかも」というところからスタートした方が、意外と面倒くさくないな、と思ってもらえるかも(笑)。私は本作のお話をいただいて、7月に上演されたムシラセの公演『ナイトーシンジュク・トラップホール』を観に行きました。すごく面白かったですし、さっき話に出た有薗さんがご出演されていたんですが、本当に楽しそうだったのが印象的でした。
有森 私も7月のムシラセの公演で初めて保坂さんの舞台を拝見しました。エンターテイメントでありながら、作り手の苦悩が表れていて、爆笑したし、ちょっとホロっと来たし、世代を超えたツボみたいなものがあるなと感じました。本作を保坂さんが演出されるということで、意外に正直になれるんじゃないかな、という感じがしています。「今はわからないかもしれないけど、あなたにもこういうときが来るからね」みたいな含みもありながら(笑)。
片づけたいんだけど、片づけられない
──この台本に描かれている内容は保坂さんより少し上の年代の話になると思いますが、読んでいて共感できる部分はありましたか。
保坂 人間関係が片づかない、みたいなところは、それまでの蓄積があって50代半ばでドーン!と来たのだと思うので、私はその前段階の蓄積しているところに今まさにいるんだな、と思うんです。このまま人間関係とかが片づかないまま、もっと積み上がっていってしまうんだろうな、という予感はすごくあります。
──この戯曲の魅力はどんなところだと感じていますか。
保坂 ここに書かれていることって、もっと暗いトーンで社会的に見せようと思ったらできると思うんですよね。でもそういうふうにはしていなくて、めちゃくちゃ面白くて。1回笑わせて窓を開いてからこの内容を見せるという構成で、それは初演から20年間ずっと誰かがやりたいと言う本だな、と思います。
松永 年代関係なく、この3人のキャラクターのどこかに、良くも悪くも「自分ごとだ」と思うところがあるんだと思います。戯曲執筆当時の1994年現在の物語で、2024年の話ではありません。それでもしょっちゅうどこかで誰かが上演してきたというのは、その時代性の再現はできなくても、自分ごとだと思わせる力のある戯曲なんだと思います。
佐藤 タイトルが「片づけられない」じゃなくて「片づけたい」となっているのが、いろいろ含んでいてすごくいいタイトルだな、と思います。片づけたいんだけど、片づけられないんですよ、という思いが感じられますよね。この作品はどうしてもグループる・ばるのお三方のイメージが強いので、今日こうして松永さんと有森さんとお会いした後で、この3人のイメージで戯曲を読むのが楽しみです。
有森 初めて読んだときに、今まで出会った人たちがたくさん思い浮かんだんです。親だったり、親戚だったり、同級生だったり。なんだかそういう人たちに応援されているような気持ちになりましたし、片づけたいものがたくさんあるって豊かなんじゃないかな、片づかなくてもいいんじゃないかな、とすごく思いました。散らかることのドラマティックさというのを楽しんでもいいんじゃないかな、という気がしました。
──ちなみに皆さんは「片づけられる女たち」ですか?
保坂 私は家の中が全く片づいてないです(笑)。公演前とか公演中は特に大変なことになりますね。
松永 私も全然片づけられないです。地方公演の楽屋から送ったダンボールがそのままになっていたりして。
佐藤 それ、わかります(笑)。私も片づかない女です。もう絶対いらない物なのに、なぜか愛着がわいてしまって捨てられないものが年齢分どんどんたまっていっています。
有森 私は割と片づけは好きなタイプで、部屋の中は綺麗な方だと思います。でも、片づけたものがどこに行ったのかわからなくなることありますよね。不思議なことに、片づいていない物の方がすぐ見つかったりして。
佐藤 そうなんですよ! そもそも片づいていた方がいいのか、という問題が。
保坂 そのあたりも考えながらお客様にご覧いただけたらいいのかもしれませんね(笑)。
【プロフィール】
ほさかめぐみ○兵庫県出身。演劇プロデュースユニット、ムシラセの主宰・作・演出・写真。舞台衣装を学び、2008年にムシラセを立ち上げ、並行してスポーツカメラマンを経て舞台写真家として活動。自身の演出にも写真の審美眼を活かしている。本年7月にはムシラセ公演『ナイトーシンジュク・トラップホール』で劇団として新宿シアタートップス初進出した。
まつながれいこ○大阪府出身。1994年より劇団の「ナイロン100℃」に所属。舞台を中心に映像やナレーション、コラムニストなど幅広く活躍中。近年の出演舞台は、ナイロン100℃『江戸時代の思い出』『Don’t freak out』上野ストアハウス『エレジー』ケムリ研究室『眠くなっちゃった』音楽劇『ブンとフン』KUNIO15『グリークス』など。Eテレ『100分de名著』に出演。9/2より毎週月曜22:25~4回にわたり放送中。毎週金曜15:05~は再放送。
さとうまゆみ○東京都出身。1991年より劇団猫のホテルに参加、ヒロインから子役までこなす幅広い確かな演技力には定評がある。近年は映像でも活躍中。主な出演舞台は、猫のホテル『ピンク』『秘境温泉名優ストリップ』ほか多数。外部出演は、ほろびて『センの夢見る』劇団かもめんたる『S.ストーリーズ』ミュージカル『衛生』など。
ありもりなりみ○神奈川県出身。1986年、主役に抜擢された映画『キネマの天地』でブルーリボン賞と日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。91年のドラマ『東京ラブストーリー』で注目を浴びる。その後もテレビ、映画、舞台、CMで活躍中。近年の主な出演舞台は『放浪記』『頭痛肩こり樋口一葉』『ある八重子物語』『化粧二題』『フラガール-dance for smile-』など。
【公演情報】
『片づけたい女たち』
作:永井愛
演出:保坂萌
出演:松永玲子 佐藤真弓 有森也実
●10/18〜24◎新宿シアタートップス
〈料金〉一般6,800円 U22:3,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉http://katajo-stage.com
〈公式X〉@mixzone_jp
【文◇久田絢子 撮影◇中村嘉昭】