『マーク・トウェインと不思議な少年』 公開ゲネプロ&囲み取材レポート

『マーク・トウェインと不思議な少年』が、9月9日(土)、新国立劇場小劇場にて幕を開けた。(24日まで、9月30日(土)~10月1日(日)大阪公演あり)

上演に先立ち、公開ゲネプロと舞台挨拶が行われた。

《ゲネプロレポート》

舞台はサム・クレメンズが秘書を相手に自叙伝の口述筆記を行っているシーンから始まる。マーク・トウェインというペンネームで数々の著作を世に送り出してきたクレメンズだが、この自叙伝は自分のものではなく、マーク・トウェインのものだと言う。「マーク・トウェインの自叙伝=サム・クレメンズの自叙伝ではないのか」と問う秘書を相手に、クレメンズは「これは自叙伝には書かないでほしい」と前置きをして、自分の身の上に起きた奇妙な体験を語り出す……。

マーク・トウェインの死後、遺稿を元に出版された「不思議な少年」の物語と、トウェイン自身の人生とが交錯した、G2によるオリジナルストーリーが展開する。
「不思議な少年」は、自らをサタンと名乗る不思議な少年が、人間の少年たちを魅了しながらも人間がいかに愚かであるかを説くという、晩年に人間不信とペシミズム(厭世観)に陥ったトウェインが、皮肉やユーモアを交えながら人間という生き物をつぶさに描いた作品で、代表作の「トム・ソーヤの冒険」「ハックルベリー・フィンの冒険」「王子と乞食」などとは異なる作風となっている。

サム・クレメンズ(別所哲也)が、作家としての自分であるマーク・トウェイン(白石隼也)と、自分が書いた小説の登場人物である少年(平埜生成)という、いわば自分の分身に翻弄される姿は、ユーモラスでありながらもペーソスを感じさせる。人間は誰しも、自分の立場や相手によって異なる顔を持っているものではないだろうか。マーク・トウェインとしての自分と、少年に投影させた自分と、本来のサム・クレメンズとしての自分との間で心が揺れ動く様は胸に迫るものがあるが、G2はそれをファンタジー的な雰囲気を絡めて軽やかに描いていく。あたかも一人の人間の人生の走馬灯を見ているようで、彼の人生を一緒に冒険している気持ちにさせられる。

サム・クレメンズ役の別所と、マーク・トウェイン役の白石は、同一人物でありながら違う人間、という複雑な役どころを息の合った演技で見せている。2人の動きがシンクロしたかと思うと、次の瞬間には反発し合う、といった切り替えの鮮やかさも物語を引き締める。
妻のオリヴィアを演じる筧美和子は華やかさと芯の強さを感じさせる演技で、マーク・トウェインという作家の大きな支えであり、そしてサム・クレメンズの人生における希望の光であったことが伝わってくる。
少年役の平埜は、まさに「不思議な少年」といったつかみどころのない存在感を放ちながら、彼の登場で舞台上の雰囲気がガラリと変わる重要な役割を果たしている。少年は「サタン」と名乗るが、文字通り悪魔的な存在とも言い切れない、どこか無垢な天使のような顔ものぞかせ、それがマーク・トウェインの心の揺れ動きとも繋がっていくところが脚本の構造の面白さだ。

この作品が走馬灯のように感じられるのは、アンサンブルの俳優たちが次から次へと何役もテンポよくこなし、スピード感のある場面転換において様々な役割を果たしていることも大きい。ピアノの生演奏の臨場感も物語を盛り立てる。人間とは何なのかを問いかける、ユーモラスで物悲しくも美しい、愛と人生を描いた舞台の世界への冒険をぜひ味わって欲しい。

《囲み取材》

白石隼也 筧美和子 別所哲也 平埜生成

出演者の別所哲也、平埜生成、筧美和子、白石隼也が登壇した。

──これまでの稽古での手応えは。

別所 稽古を重ねに重ねて、つい先ほどまでも舞台稽古をやっていました。早くお客様に見ていただきたいです。

平埜 舞台稽古でG2さんをはじめスタッフの皆様が最後の最後まで粘って、より完成度の高いものを作ろうという熱量がビシビシ伝わってきました。あとは俳優次第というプレッシャーもありますが、楽しんで真剣に臨めたらきっといい作品になると思います。

 本格的な舞台は初めてなので、少しでも気を抜くと緊張感に襲われそうになります。でも皆さんとたくさん練習を重ねてきたし思いも重ねてきたので、自信を持って楽しめたらと思います。

白石 場面転換が多い芝居なので、シーン数が多くて頭の切り替えが重要。それに追いつくのに時間がかかりましたが、1ヶ月の稽古を重ねて、自信を持って初日を迎えられると思います。

──稽古中の思い出深いエピソードは。

別所 稽古場で誕生日をお祝いしていただいた。稽古中に、ピアノの生演奏がいつのまにかバースデーソングになって、みんながお祝いしてくれて非常に嬉しかったです。

平埜 休憩中に筧さんが干し芋を食べていたのがすごく印象的でした。毎日のように、しかも毎回違う種類を食べていたので、僕の中で「筧美和子=干し芋」という方程式ができた。それは長く稽古場に一緒にいるからこそ見えたものだと思います。

 いろいろとわからないことがある中で、リズム感がないのか、カーテンコールの挨拶が何回やってもうまくできなくて、できたときに皆さんから拍手が起こったんです。本当に温かい方たちに囲まれていてありがたく思います。

白石 稽古初日に演出のG2さんから「あだ名で呼び合いましょう」という提案があって。G2さんは「Gちゃん」、別所さんは「哲にい」だったが、いきなり初日からは呼べなくて、1週間ぐらい経ってようやく「哲にい」と言ってみましたが、未だに「Gちゃん」は1回も言っていません (笑)。

──本作の見どころは。

別所 僕が演じるサム・クレメンズと、隼(白石)が演じるマーク・トウェインが、ミーコ(筧)が演じる最愛の妻・オリヴィアを挟んで三角関係のようになるところは、美しいトライアングルを奏でられたらと思っています。

 キャストの方が「飛び出す絵本のような作品」と言っていてすごくしっくりきました。絵本のページをめくるように展開が変わっていくので、童心にかえったような感覚で楽しめると思います。

白石 今回、僕と別所さんで“マーク・トウェイン”と“サム・クレメンズ”という同一人物を2人で演じているが、一つの役を若いときと歳をとったときの2つの年齢でそれぞれ演じるというのはよくあるけれど、今回はそういう要素もありつつ、それとは別にペンネームとしての“マーク・トウェイン”と、本名で人間としての“サム・クレメンズ”の対決があったりする構図が今作の一つの魅力だと思うし、他にはなかなかない構図だと思います。

平埜 大ベテランで百戦錬磨の別所さんと、初舞台の筧さんの掛け合いに、切れ味抜群の白石さんが入ってくるという、この3人のバランス感がすごく好きで、見ていて面白いです。さっき別所さんが「三角関係」とおっしゃったが、この3人のやり取りにぜひ注目してほしいです。

──公演を楽しみにしているお客様へメッセージを。

別所 この作品を通じて大切な人のことを思ってほしいし、何か悩みがある方は、あの文豪マーク・トウェインもいろんな悩みを抱えていたということを感じて元気になってほしいし、最後にシャボン玉が舞う素敵なシーンを皆さんと分かち合いたいです。

平埜 今作は、時間や空間を超えたり、物語の中に入ったり、物語の登場人物が飛び出てきたり、ファンタジックな要素も詰まったポップな作品に仕上がったと思っています。大人から子供まで、そして舞台を見たことがない方にも楽しめる作品だと思うので、ぜひ劇場に足を運んでほしいです。

 先輩方が皆さん口を揃えて「舞台はお客様と一緒に作り上げるものだ」と言われるので、それを体感できることをとても楽しみにしています。見に来てくださる方の想像力や思いをお借りして、皆さんと一緒に感じながら愛情込めて作り上げたいです。

白石 マーク・トウェインというアメリカで尊敬されている偉大な作家が、とても人間らしくユーモラスに生き抜いた生涯が描かれた作品です。とても面白いものになったので、劇場でお待ちしています。

【公演情報】
『マーク・トウェインと不思議な少年』
脚本・演出:G2
出演:別所哲也 平埜生成 筧美和子 白石隼也 他
●9/9~24◎東京 新国立劇場 小劇場 
●9/30・10/1◎大阪 COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
〈料金〉S席9,800円 A席8,000円(全席指定・税込)
〈公式サイト〉https://www.fushigina-shonen.jp

《アフタートークが決定》
9月17日(日)13時、18日(月・祝)13時、21日(木)13時開演の3公演において、
上演後に出演者によるアフタートークが決定。詳細は公式サイトにて。

【取材・文/久田絢子 舞台撮影:taro】

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