情報☆キックコンテンツ一覧
お得なチケット販売中!
情報☆キック
株式会社えんぶ が隔月で発行している演劇専門誌「えんぶ」から飛び出した新鮮な情報をお届け。
公演情報、宝塚レビュー、人気作優のコラム・エッセイ、インタビューなど、楽しくコアな情報記事が満載!
ミュージカルなどの大きな公演から小劇場の旬の公演までジャンルにとらわれない内容で、随時更新中です。

(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
広告掲載のお問い合わせ

加藤健一事務所 vol.120『黄昏の湖~On Golden Pond~』加藤健一・一柳みる・加藤忍・西沢栄治 座談会

加藤健一事務所では、『黄昏の湖~On Golden Pond~』を4月4日~13日に、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演する。邦題『黄昏』として有名な戯曲『On Golden Pond』は、作者のアーネスト・トンプソンが28歳で執筆。1978年に初演され、翌年にブロードウェイで再演された。1981年には映画で名優ヘンリー・フォンダと実娘ジェーン・フォンダが父娘役で共演して話題になり、老夫婦を演じたヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘプバーンが、それぞれアカデミー賞で主演男優賞と主演女優賞を受賞している。

《物語》
アメリカ・メイン州、ゴールデンポンドの湖畔に佇む、古いけれど居心地の良い別荘。ノーマン(加藤健一)とエセル(一柳みる)夫婦は、毎年、避暑のために訪れている。二人で迎える48回目の夏、ノーマン80歳の誕生日に、疎遠だった娘のチェルシー(加藤忍)が、ボーイフレンドとその息子を連れてやってきた。老夫婦と少年の交流で、わだかまりを抱えた父娘の心がふれあう──。

人生の黄昏時を美しい湖のきらめきに例え、家族の心のふれあいを描いた名作で、加藤健一事務所では今回が初上演となるこの作品について、ノーマン・セイヤー役を演じる加藤健一、妻エセル役の一柳みる、娘チェルシー役の加藤忍、そして演出を手掛ける西沢栄治に語り合ってもらった。

加藤健一・加藤忍・一柳みる・西沢栄治

湖は変わらないものの象徴

──映画『黄昏』として有名な作品ですが、加藤健一事務所では『黄昏の湖』という題名になっていますね。 

健一 原題は『On Golden Pond』とあるように、湖はこの物語のもう一方の主役なので題名にも入れたいなと思ったんです。それに『黄昏』だと、どうしても人生の黄昏と夕暮れの黄昏だけを指す感じになってしまいますから。この作品では、湖は変わらないものの象徴なんです。周りの風景などは少しずつ変わっていくし、人間はもっと早く変わっていってしまう。その対比の意味もあるので、どうしても「湖」と入れたかった。舞台美術ですごく綺麗な湖ができる予定ですし、背景にずっと見えていて、朝、昼、夜とその見え方も変わる予定です。

──演出の西沢さんは、今回加藤健一事務所には初参加です。

健一 西沢さんはいつも巧みな演出をされる方なので、ぜひお願いしたいと思っていたんです。

西沢 お話をいただいたときはちょっとびっくりしました。いろいろなところで演出させてもらっていますが、最近はこういうウェルメイドな作品には縁がなかったので。この作品については映画では知っていましたが、舞台で上演されていることもちゃんと知らなかったぐらいで。作家のアーネスト・トンプソンは28歳で執筆しているんですね。20代の終わりでこういう死を見据えたものを書いたことに驚きました。彼の祖父のことを書いたようですが、幾つもの世代の目線がそれぞれ入っていて素晴らしいなと思います。

──エセル役の一柳さんは加藤健一事務所には最多出演だそうですね。

一柳 最多出演というより共演数が多いんです。地方公演とか再演とかそういうステージ数まで足しますと、加藤健一さんと一緒に舞台に出ている数が一番多いということなんです。自分の劇団の俳優よりも多い(笑)。

──すでに名コンビですが、この作品の話を受けていかがでした?

一柳 実はお話をいただいたとき、ちょっとスケジュール的に難しそうだったんです。でも絶対に出演したかったので、マネージャーに無理を言って調整してもらったんです。この作品を逃したら一生後悔すると思いましたから。

──加藤さんとしても信頼する一柳さんにエセルをという思いがあったのでしょうね。

健一 そうですね。なんといっても日本のキャサリン・ヘプバーンと呼ばれている女優さんですから。

一柳 キャサリンと呼んで!(笑)

全員 (笑)。

夫と娘の両方を理解して繋ぐエセル

──加藤忍さんはチェルシー役です。この作品はどんな形で知りましたか?

忍 20歳ぐらいのとき、養成所でこの本を読みなさいという授業があって、そこで読みました。そのときフォーカスして読んでいたのはビリーで、でも男の子の役なので私はできないなと思ったのを覚えています。そして今回出演させていただくことになって改めて読んでみたら、フォーカスするところが違っていて。やはり自分の年齢もあって、最初のノーマンとエセルの何気ない会話のやり取りを読んでいたらすごく感動しましたし、それに今回私が演じる娘のチェルシーも、とてもやり甲斐のある素敵な役をいただいたなと思っています。

──チェルシーは父親には複雑な思いを抱いていますね。

忍 父への気持ちには愛もあるのですが、ちょっと屈折した感情があるんですよね。 

──チェルシーの問題はおふたりから見てどう感じていますか?

健一 ノーマンとしては、なぜチェルシーに嫌われているのか自分ではわからないんですよね(笑)。 

一柳 ノーマンは素直にものを言わない人で、エセルは長年の付き合いですからそこは十分にわかっているんです。おいしい料理を作っても絶対に「おいしい」と言わないで、「昨日よりはいいね」とか「まずくはないね」ぐらいしか言わない(笑)。でもそれはすごく褒めていることで、エセルはわかっているからいいのですが、それを娘にもやる人なんですよね。子どもが100点取ったら「えらいね!」と素直に褒めればいいのに、「俺は毎日100点取っていた」なんてことを言う人ですから(笑)。そういう人だから、エセルもチェルシーと2人だけで話しているときに、「私だってしんどいときもある」と言ってますよね。それにノーマンは孫が欲しい。でもチェルシーが結果として自分の子どもは持たない選択をしたことにどこか納得していない。そういう夫と娘の両方を理解していて、なんとか繋いでいこうと思っているのがエセルで、本当に賢い人だなと思います。

──賢いし愛情深い女性ですね。

一柳 この物語の背景になっている1980年頃に69歳という設定は、1910年代の生まれで戦争も知っている世代ですよね。その頃の良きハウスキーパーで良いお母さんとして、ノーマンのそばで生きてきた女性で、日本で言えば昭和の時代を生きた私の母親世代の女性をイメージしています。

──西沢さんは、加藤さんと一柳さんがこの夫妻を演じることについていかがですか?

西沢 おふたりが会話されているだけで説得力があるし、それに、ちょっと夫婦漫才的な面白さがあるんですよね(笑)。共演数が多いということで改めて関係を作る必要がないし、長年連れ添ったという感じがそのまま出ていますので、演出する側としてはありがたいですね。

1日1日を生き抜いていく

──この別荘にチェルシーがボーイフレンドの息子、13歳のビリーを連れてきます。彼の登場によって、ノーマンは満たされる部分があるのかなと。 

健一 相当変わりますからね。子分ができるって嬉しいんですよ(笑)。ノーマンは少年の部分が残ってる人で、そういう男性はけっこう多いですよね(笑)。だからこそ面白いという部分でもあると思うのですが。

忍 ノーマンは息子が欲しかったんでしょうね。チェルシーもそこに気づいていたから、父親の望む釣りとか水泳の飛び込みとか一生懸命がんばったけど、うまくできなかったことが心にずっとあるんです。それにやっぱり子どもを持たなかったことについての負い目というか、それを言われるのが嫌で8年間も会いに来なかったのかなと。そのへんの心理は私にもわかりますし、そういう意味では、チェルシーは等身大でやれる部分もあると思っています。

──親子ならではのそういう確執を鋭く描いているのが、この作品のすごさでもあるのでしょうね。

西沢 僕の中にも映画のイメージから、家族の愛の物語と受け取っていった部分があったのですが、そんなに簡単ではない作品で、家族っていいものなんだよ、愛って素晴らしいんだよというふうには書かれていないんですよね。人はわかり合えないことが前提であり、個人と個人とがどういう関係を作るのかという話ですから。しかも本当の和解はもっと先で、ここではもう一度出会い直したというところまでしか書かれてない。父と娘が本当にやり直すのはこの物語の先にあるのかなと。ですから演出もウェットにならずに、フェアな形で見せていきたいなと思っています。 

健一 親子関係も大きなテーマですけど、同じくらい命というものもやはり大きなテーマで。ノーマンが倒れたとき、エセルが「旅立つ先もそう悪くない」という良い言葉で締めくくるんです。

一柳 その言葉の前にエセルが、「親しい友人や身のまわりの人たちが死んでいくことで、私もこの列に並んでいるんだ」と言うのですが、私もこの年齢になったからこそ実感するんです。そしてこの物語では、チェルシーが結婚して、その相手には子どもがいるということで、エセルは未来に仄かな希望を持ててはいるんですけど、でも自分たちは朽ちていく存在だと。それを甘んじて受け止めるところにエセルは行けたのかなと思いますし、2人でまだしばらく今までのように生きられると思っているけど、それは錯覚であり、いつ死ぬか明日死ぬかはわからないという1日1日を生き抜くしかないとわかったのかなと。

──そう考えるとこの作品は最初からずっと死の話は出ているんですね。西沢さんはまだ実感がない年代かなと思いますが、このテーマをどう受け止めていますか。

西沢 演劇は全部そうだと思うんですが、人生の予習復習というか、人生のレッスンだと思うんです。あるいは前に言えなかったこと、やれなかったことを、ここで追体験させてもらっているようなものなので。それは俳優たちもそうですし、お客さんもそれを一緒にしてもらったらいいなと思っているんです。

キャンプファイアーの歌をみんなで歌います!

──いろいろ考えさせてくれる作品ですね。最後に観てくださるお客様へのメッセージを。 

健一 内容について話しているとテーマが重いのでどうしても暗い話のように思えるのですが、それを井上ひさしさんではありませんが、明るく軽く、笑いで楽しい見世物として観せ切ってしまう28歳の作家の筆力に僕は感動しています。後から考えると重いものが残るというだけで、きっと観ているときは笑いながら観てくださると思います。それと劇中でキャンプファイアーの歌が出て来ますが、その曲は今回新しく、SMAPの「Fly」を作曲した野戸久嗣さんに作曲してもらいました。みんなで歌いますので、こちらも楽しみにしてください。

一柳 私は歌は苦手なのでドキドキしますが(笑)、そこも含めてこの作品は全編可笑しい場面が沢山あるんです。そういう場面は加藤健一さんはお上手なので、おまかせしています(笑)。最後は単純なハッピーエンドというわけではないですけれど、何か心がさっぱりするような、そういう終わり方になると思いますし、そう受け止めていただければいいなと思っています。

忍 私は今回、ビリー少年役の澁谷凜音くん以外は共演したことのある方ばかりなんです。それで久しぶりに昔の「ザ・カトケン稽古場」みたいな雰囲気を感じていて、登場人物は仲が悪い芝居ですけど(笑)、稽古場は和気藹々としているので楽しいし、きっと良い芝居が出来上がると思っています。楽しみにしていてください。

西沢 あらゆる世代の目線が入っている芝居なので、あらゆる世代の方たちに楽しめると思います。できれば若い方たちにこそ観てほしい芝居だと思っています。 

加藤忍・加藤健一・一柳みる・西沢栄治


【プロフィール】
かとうけんいち○静岡県出身。1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を創立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞個人賞(82、94年)、文化庁芸術祭賞(88、90、94、01年)、第9回読売演劇大賞優秀演出家賞(02年)、第11回読売演劇大賞優秀男優賞(04年)、第38回菊田一夫演劇賞、第64回毎日芸術賞(22年)、他演劇賞多数受賞。2007年、紫綬褒章受章。第70回毎日映画コンクール男優助演賞受賞(16年)。2024年、春の叙勲 旭日小綬章受章。

ひとつやなぎみる○和歌山県出身。1979年に劇団昴に入団、翌年『一族再会』で初舞台。以来、シェイクスピア劇を中心に劇団の看板女優として活躍。またTVドラマ「相棒」「緊急取調室」「グレイトギフト」など数多く出演。声優としてもアニメ、洋画の吹き替えなどで活動中。加藤健一事務所作品は、『パパ、I LOVE YOU!』、『煙が目にしみる』、『すべて世は事も無し』、『バッファローの月』、『特急二十世紀』、『レンドミー・ア・テナー』、『川を越えて、森を抜けて』『ドレッサー』に出演。

かとうしのぶ○神奈川県出身。加藤健一事務所俳優教室出身。舞台や映像で活躍、多くの海外ドラマの吹き替えも担当する。近年の主な舞台出演は、『灯に佇む』、『グッドラック、ハリウッド』、『夏の盛りの蟬のように』、『THE SHOW MUST GO ON~ショーマストゴーオン~』(以上、加藤健一事務所公演)、『葵上 弱法師-近代能楽集より』(演出・宮田慶子)、俳優座劇場プロデュース『罠』(演出・松本祐子)、『新雪之丞変化』(演出・金守珍)など。昨年7月には一人芝居『シャーリー・ヴァレンタイン』(演出 加藤健一)を企画・上演し好評を得た。第39回紀伊國屋演劇賞個人賞、第62回文化庁芸術祭演劇部門新人賞、2007年度岡山市民劇場賞受賞。

にしざわえいじ○東京都出身。演出家。ギリシャ劇や歌舞伎などの古典から現代劇まで幅広く手掛ける。04 年、日本演出家協会主催の「若手演出家コンクール 2003」にて最優秀賞を受賞。主な演出作品に、『ハイライフ』『フランドン農学校の豚』『楽屋』『雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた』、『喜劇昭和の世界』三部作シリーズ、『天保十二年のシェイクスピア』『わが町』『四谷怪談』『夏の夜の夢』『ヴェニスの商人』『牡丹燈籠』『女の平和』などがある。新国立劇場の「こつこつプロジェクト」に参加、第1期『あーぶくたった、にいたった』(2021年12月)で演出を担当した。


【公演情報】
加藤健一事務所vol.120
『黄昏の湖~On Golden Pond~』
作:アーネスト・トンプソン
訳:小田島恒志 小田島則子 
演出:西沢栄治
出演:加藤健一 一柳みる(昴) 加藤忍 伊原農(ハイリンド) 尾崎右宗 澁谷凜音(青年座) 
●4/4~13◎紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
●4/19◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
〈東京公演料金〉前売6,600円 当日7,150円 高校生以下3,300円(全席指定・税込)
※高校生以下(学生証提示・当日のみ)
〈チケット取扱〉各プレイガイド
 加藤健一事務所 03-3557-0789(10:00~18:00)
〈公式サイト〉http://katoken.la.coocan.jp/120-index.html

【構成・文/榊原和子  撮影/田中亜紀】

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!