俳優・青柳美希 インタビュー

私も好きなことを続けてもいいのかな
仕事帰りの看護師と理学療法士2人のデートともいえない短い時間。川が流れ、死にかけの魚が浮かぶ帰り道。いろんな気になることはあるけれど、今は仲良く早く帰ろう。寒い夜、2人が囲む温かな鍋の湯気が浮かんだ素敵なシーン。一方、入院中の父親に、2人の子どもと一緒に実家にいさせてくれと頼む娘の面会。勉強して、資格を取って働くからと何度も父に繰り返す。言葉少なく短い面会を重ねるうち、父の心を少しずつ動かす意思の力。青柳美希が演じた2人の女性が、劇団普通の『病室』の外の世界を垣間見せ、作品のイメージが大きく広がった。今回、初めてこの作品に出演し、物語のアクセントになる2役を見事に演じ、演出助手でもあるという、私の心を奪った青柳美希とは何者?
(えんぶ 2025年4月号掲載記事)

高校で初めて演じた役がすごく楽しかった
――演劇に興味を持ったのはいつ頃ですか?
始まりは高校演劇です。
――もともと興味があった?
いえ、演劇部に入りたい友達に誘われて入ったんです。そうしたら、部員が少なくていきなり舞台みたいな感じでした。人前で話すのがすごい苦手で内気だったんですけど、初めての役が犬の役ですごく楽しかったんです。
――それはいいですね。
それから活動にのめり込んでいきました。
――大学でも続けたんですか?
本当は看護師になろうと思って学校見学にも行ってたんですけど、父の反対があり。
――お父さんは何と?
看護師は大変な仕事だから、いったん大学に行ったらどうだ?と。
――お父さんは心配だったんですね。
それが高校3年生のかなり遅い時期だったので、慌てて行ける大学を探しました。今思うと、演劇をやってから性格が明るくなったので、もうちょっとそっちの方を続けたら?ということだったのかもしれないです。
――いいところは見つかったのですか?
映像を作ることにも興味があったので、和光大学に行きました。
――おもしろい人が多い大学ですね。
はい! 演劇サークルに入って、1年後輩だった東京にこにこちゃんの萩田頌豊与さんと一緒に、公演を打ったりしてました。
――それは学内でですか?
そうです。好きなことをいっぱいして楽しかったです。あっという間でした。
――卒業してからも演劇を?
それまで私は普通に就職して、結婚して、子どもを産んでという人生が当たり前で、両親も望んでいるだろうと思っていたんですけど、周りのみんなが変わってるから誰も就職活動をしないんですよ。
――ほう。
それを見て、私も好きなことを続けてもいいのかなと思って、フリーターをしながら続けることにしました。
演劇がすごく好きなのかもしれない
――プロフィールを見るといろんなお仕事をされていますね。
いろいろやりました(笑)。卒業後、2年間舞台に出てない時期がありまして。
――それはどうして?
このまま続けていくことの不安というか、自分に才能があるのかも分かんないし、なんとなく活動がフェードアウトしていっちゃって。
――ほとんどの人がそうですよね。大概戻ってこないと思うんですけど。
その2年間の間、沖縄でリゾートバイトしたり、フィリピンに行ったりして、いろんな人に出会って、すごく刺激的なことが起きてる毎日なのに、心の隙間が埋まらないというか…沖縄の絶景を見ても感動しないんですよ。
――そうなんですね。
そこで私、演劇がすごく好きなのかもって気づいて。それまで自分からというよりは、周りの人に誘われて出ることの方が多かったので。
――どうやって再開を?
ちゃんと演技を学んでないなと思って、映画美学校の俳優コースに入りました。半年間、朝から晩まで授業があって、すごく濃密な日々でした。
――役に立ちましたか?
「自分で作れる俳優」というのを掲げていて、授業で本を書いたり、演出もして、一つの作品を作ったりしました。自分で作れるって、自信を持てるようになりました。
――ご自分でも公演を主催されていますね?
最近はあまり活動してないんですけど、演出家もスタッフも俳優もみんな本当にフラットな関係で作品を作る、というのにこだわった公演を2回やりました。

純粋に湧いた石黒さんへの尊敬の念
――そうこうしているうちに、劇団普通に出会ったんですか?
映画美学校で知り合った小林未歩さんが、『病室』の初演に看護婦役で出ていて、それを観に行ったのが最初です。
――あれは、すごかったですね!
はい、池袋の小さな場所でやってました。
――出演はどうやって?
石黒(麻衣)さんが俳優を探してるときに、小林さんが紹介してくれました。
――それから出演を?
『秘密』という王子小劇場で上演した作品が最初で、次が三鷹で上演した『風景』。あと、去年の6月にすみだパークギャラリーで『水彩画』に出ました。
――『水彩画』は、大変な作品でしたよね? 会場が劇場じゃないし、ずーっと舞台に出っぱなしで、関わりのない別のグループの会話を聞きながら、演技をするという。
はい、みんなも苦労してました。参加しない会話を聞きながら、別の場所で演技して、しかも客席に挟まれていたので、両面を意識して…。石黒さんは今までのお芝居もすごく意欲的だったのに、まだそれに満足せずに更に挑戦的なお芝居を書き上げてきてくれたのが、すごく嬉しかったし純粋に尊敬の念が湧きました。
――そうですけど、演じるのは大変ですよね?
そうですね(笑)。相手役の伊島(空)さんは共演するのも初めてで、舞台出演も2回目だったので、稽古のほかに二人で池袋の公園でセリフ合わせをしたり、恋人同士の役なので、距離を縮めるためにいろいろな話をしたりしました。
――青春ですね(笑)。

一人でやってる人を、ほっておけない
――『風景』から演出助手もされていますね? 演出や作ることに興味がおありですか?
自分でやってみて、劇団を運営するのってすごく大変なんだって、身にしみて。だから演出して、脚本書いて、劇団を一人でやってる人を見ると、ほっとけないというか。俳優としても出演するだけじゃなくて、他の場面でも劇に関わっていた方が、パフォーマンスもちょっとは上がるんじゃないかなと。
――確かに。ある程度、客観的に演じることにもなりますよね。でも石黒さんの演出助手は大変かもしれない。ただ段取りつければいいというわけじゃないような気がします。
そうですね。お芝居自体が水のようというか。石黒さんがいないとほんとに成り立たない世界観なので…。
――演出家とか作家のイメージが強いと、一方的な指示を出しがちになりそうですけど、石黒さんは俳優やスタッフの自発的なエネルギーを求めて、お互いの接点を見つけていくという作り方かなと思うんです。だから、その間をつなぐ演出助手は、とても普通の仕事じゃない大変さがあるのかなと思うんですけど、どうですか?
確かに、誰かから何かが起こるのを待つ時間は結構あります。でもその時間も面白いです。石黒さんは自分の中にあるイメージを全部伝えちゃうと、俳優さんに影響を与えるので、多分控えてるのかなと思うんです。演出助手としてはこの日までに衣装を決めたり、小道具を用意したり、色々しなきゃって焦りがあるので、そこの兼ね合いは難しいです。

もっともっと役に立ちたい
――で、今回、3度目の『病室』で、看護師役を演じられました。看護師さん、元気よくやられてましたね。
石黒さんから明るくという演出もあって。高校生の時に思い描いていた、明るくて優しい看護師さんっていう理想像が反映されていたかもしれないです。
――仕事の後、恋人と待ちあわせのシーンで、「あ、不審者だ」っていい感じで登場しましたね。
あそこが一番、苦労しました。石黒さんが実際にお友達のああいうやり取りを見て、すごくかわいらしい印象が残っているという思い入れのあるシーンだったので、なかなか「不審者だ」の正解にたどり着けず…。
――恋人は理学療法士で、職場も同じ二人のやり取りもすごく可愛かったし、特に最後の「鍋を食べよう」と青柳さんが誘うセリフが、とても素敵でした。
あのシーンは相手役の重岡(漠)さんが靴と靴下を脱いで川に入って、出て来て拭いてまた履いたりと、動作が多かったので、動作とセリフが一致するのに結構時間がかかりました。実際、川にも行きました。
――やり甲斐がありますよね。あと、もう一役、患者さんの娘役で、離婚しそうな女性の役も。
小さい子ども2人を連れて、実家に戻っているので、悲しくてつらい状況なんです。
――困ってはいるけど、前向きな力強さを感じて、応援したくなりました。
大変だけど明日は来るし、どんどん生きていかなきゃというエネルギーの方、子どもと暮らしていきたい原動力に重きを置いたかもしれないです。
――今回も演出助手をされてるんですよね。
はい。稽古場で自分の出番じゃないシーンは、ずっと石黒さんの隣に座って見てました。石黒さんと他の方とのやりとりは、すごく自分のためになります。
――どういうところがですか?
自分はまだ言われたことに応えるので精一杯だけど、用松さんや長く一緒にやられている方は、よく自発的に提案をされていて。それでシーンがググッと良くなる瞬間に何度も立ち会って。見ているだけで本当に楽しいし、自分ももっと作品をよくするために役に立ちたいと思っています。

【プロフィール】
あおやぎみき○1992年生まれ、福島県出身。フリーの俳優として桃尻犬、東京にこにこちゃん、中野坂上デーモンズの憂鬱など多くの舞台に出演。劇団普通には2022年『秘密』より出演、2023年『風景』より演出助手も兼ねる。2023年より大石恵美が主宰するダダルズに演出助手・制作として参加している。
活動予定◇劇団普通『秘密』5/30〜6/8◎三鷹市芸術文化センター星のホール
http://gekidan-futsu.com/works/himitsu_2025/
【インタビュー◇坂口真人 撮影◇福島健太(舞台)】

