【みょんふぁの気になるわぁ〜】第5回『韓国国立劇団 俳優訓練 もとい軍隊』
前回少し触れましたが、今日は、韓国の国立劇団の俳優訓練の様子を紹介しまぁす。
韓国には国立や市立劇団所属の俳優や舞踊家が存在します。
いわゆる国家公務員ですね。
日本も最近は地方都市などで少しずつ増えてきましたが、韓国はヨーロッパやアメリカのシステムをいち早く導入していて、芸術界では当然の光景でした。
ただ、面白いのは、政治を見てもわかるように、韓国はトップが変わると一掃するんですよね。
私が文化庁の在外研修で、韓国国立劇団に留学した2014年は、ちょうど芸術監督が変わって2年目でした。
所属俳優のシステムだと固定化された俳優が安住してしまい、俳優としてのスキルや作品クオリティの向上につながり難いとの理由から、これまでの所属俳優システムが廃止され、公演ごとに俳優を公募するオーディション形式になっていました。
また育成プログラムとして、『次世代演劇スタジオ』と言う、俳優訓練の場が設けられました。
日本の新国立劇団の俳優養成所は新人俳優の育成ですが、韓国は、ある程度キャリアのある若手俳優たちの更なる強化のための訓練システム。
約400人の中から4次審査を勝ち抜いた20代から30代の22人の精鋭たち。
韓国の将来を担う俳優として国が育てるので、レッスン費用はもちろん無料。
食事手当などの些少の給料をもらいながら、訓練を受けるのです。
そして私は日本からの特別枠参加。
もちろん最年長でございます(笑)
さて、ソウル駅前に位置する韓国国立劇団。
もともとは、軍隊の倉庫だった所を改造。
この燃えるような真っ赤な建物に足を踏み入れただけで、
エネルギーがみなぎります。
2014年2月、訓練初日。
これまでまともな俳優訓練など受けたことのなかった私は、
ワクワクで胸ふくらませ、鼻息荒く乗り込みました。
1限目は、現代舞踊。
やった!ダンスは大好きよ、まっかせなさ〜い!!
まず、俳優の身体作りの大切さを滔々と語った先生が、満面の笑みを浮かべて言いました。
「では!まずは走りましょう。グランドに出ましょう」
…え?え?ダンスだよね?
「まず10周走ってから逆回りも10周ね」
え?え?え?え?え?え?え?え?え?え〜〜〜〜っ?に、にじゅっしゅう?!
グズグズしている暇はない、みんなの後について走り出しました。
太陽が燦々と注ぐ。冷たい空気が頬に心地いい。解放感は最高だ。
でもね、、、、でもね、、、
そりゃあなた、3周目ぐらいで突然重くなる足取りに、自分の年齢を思い出し、
さすがに半笑いになってきた。
マジか?
20周ランニングした後は、円形になってジャンプ。
ジャンプ!ジャンプ!ジャンプ!どこまでもジャンプ!天まで届け!
稽古場に戻り、今度は筋トレ。
腹筋を、軽く?200回した後(ウソじゃないんです、これが…)、背筋、腕立て、体幹訓練、
腿上げ、スクワット、空気椅子、エトセトラエトセトラ…。
あの……、えっと……っていうか、ダンスの授業ですよね?
わかります、わかりますよ。踊るには筋力が必要です。その通りです。
でも、でもね……
結局音楽もかけず、3時間みっちり、筋トレで終わったダンス訓練初日。
ボイトレ、歌、ルコックメソッド、パンソリ(韓国伝統芸能)、エトセトラ。
朝9時から23時まで。
1クラス3時間、休憩5分。
全ての授業が筋トレから始まる。
俳優に必要な5ヶ条。
メカニック、テクニック、ドラマティック、ダイナミック、ポエティック。
メカニック、つまり身体ができていなければテクニックを身につけることもできない。
常にドラマティックでダイナミックに、そしてやはりポエティックであらねばならない。
全ての訓練は連帯責任。
一人でも脱落したらまた1からカウントし直し。
一日中汗だくで、身体中から塩が吹き出す毎日。
更に、この長い一日に学んだ事を全て文字に起こし、自ら体感した感想を記入して翌日提出。
クタクタの身体にむち打って、眠い目をこすりながら取り組むこと、約3時間。
もともと朝が苦手な私は、急いで布団にもぐりこむが、緊張からか眠りは浅い。
日増しにハードになる訓練、日増しに増える課題の山、日増しに続出する負傷者、
そして日増しに増える体重(笑)に、?マークを感じる間もなく、
ただ動物のように動き、動物のようにむさぼり食っていました。
炭水化物、タンパク質、炭水化物、タンパク質……。
そして何より、日増しに感じるのは、身体の順応よりも頭の順応の方が時間がかかると言う事。
カッチカチの身体は、ストレッチにより、想像以上のスピードで柔らかくなり、
ブヨブヨの筋肉はあっという間にカッチカチになり、
しかしカッチカチの頑固な頭は、想像以上になかなか柔らかくはなってくれない。
素直だと思っていた自分が、こんなにも素直じゃなかったとは。
さて。
衝撃の写真をお届けします。
当初から宣告されていた、恐怖の開脚、股割りシーン。
男子は180度。女子は200度。
…ん?200度?…ん?…ん?
処刑日はある日突然宣告されました。
「明日、滑りやすい、ルームソックスを持ってくるように」
この日に向けて、ストレッチに励んできたものの、
朝から緊張が走る当日。
一人ずつ鬼軍曹に名前を呼ばれ、前に出る。
壁に背中をつけて立ち、ゆっくりと足を滑らせて開いていく。
いくらルームソックスとは言え、そんなに楽に滑ってくれるわけがない。
途中で体が停止する。
だって痛いんだもの。
でもそんなの関係ない。
体が床に密着するまで、鬼軍曹は許さない。
何時間でも待つ勢いだ。
あまりの痛みに、男も女も悲鳴を上げ、泣き叫び、
ついには鬼軍曹に対して罵詈雑言を浴びせかける。
まさに拷問。
出席番号が最後の私は、この拷問のようなシーンに恐怖がつのり逃げ出したいがそうはいかない。
ご覧ください。
1ヶ月半のストレッチを経ても、ここまでしか開脚できなかった31歳の俳優。
普段はもの静かで、優しい口調の彼が、「やめてくれ!」「クビになってもいいから!」と抗いながら、大声で泣き叫んでいる。
5分後。
「静かに呼吸するんだ」と、上から抑え続ける鬼軍曹。
すると、突然、さんざんわめき散らしていた彼が静かになった。
気絶かと思った。
…抵抗を諦め、服従し始めたのだ。
ただ黙って自分の呼吸音だけに耳を傾けている。
次第に身体が、その重みでゆっくり床に近づいていく。
そして約10分後。
奇跡です。足も手も胴体も、全身が床に密着。
…たった10分です。
ああ、人間ってこんなふうになるのか…。
一部始終を凝視しながら、私は頭の中でずっと呟いていた。
人間って…人間って…人間って…。
柔軟になっていく彼の体よりも、
その精神状態にびっくりした…。
抵抗、あきらめ、服従…。
ナチスや北朝鮮がグルグルグルグル頭をめぐる。
人間改造って、きっとワケないことなのだろう。
3時間かけて、見事、23名の身体は、無事、床に密着しました。
衝撃でした。
しかし、股割りの後、下半身の感覚はなく、自分一人では立ち上がれないし、歩けない。
支えられながらゆっくり30分程、後ろ歩きをしているうちにだんだん感覚が戻って来て、
えっちらおっちらピョコンピョコン。
洗礼が終わった後も、女子はずっと泣いていました。
もちろんこんなこと、一度できたからと言って、いつでも開脚できると言う訳ではありません。
この一瞬だけのことです。
毎日コツコツと続けなければ、苦労してほぐれた筋もあっという間に固くなる。頭も一緒。
しかし、やればできるんだ。
自分で限界を決めているだけなのだということを
身を持って体感させる洗礼でした。
ちなみにこちらは私。
座布団を敷いて、開脚200度。
私は、あまりの痛さに、だんだん面白くなってきて、
泣きわめくどころか、狂ったように笑っていました(笑)
え?今?
もちろん、全く開きません。カッチカチです(笑)
なんだかんだ、もう9年前のお話です。
国立劇団の芸術監督も変わり、この「次世代演劇スタジオ」という訓練プログラムは廃止。
現在は、俳優は1年間のシーズン契約として、毎年オーディションで選抜されるシステムになっています。
みょんふぁ出演情報
映画『レンタル×ファミリー』全国順次ロードショー
舞台公演 8月16日(水)〜20日(日) @下北沢ザ・スズナリ
スズナリお化け屋敷『タイトル未定』
著者プロフィール
みょんふぁ
女優やナレーション・司会業を中心に、日韓の通訳翻訳や戯曲の紹介など公演のプロデュースも行う。
在外研修で韓国国立劇団に留学、韓国デビューし、小田島雄志翻訳戯曲賞受賞。
現在、日韓演劇交流センター副会長。
映画・舞台・ドラマなど多数出演。昨今は日韓合同制作作品にも多数出演。
日韓交流の拡大化のために母体となるSORIFAを設立し、代表を務める。
●Youtubeチャンネル みょんふぁ(SORIFA)チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCI2ITpnZzwAlruYJ6eVCNwA
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