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情報☆キック
株式会社えんぶ が隔月で発行している演劇専門誌「えんぶ」から飛び出した新鮮な情報をお届け。
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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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ヨーロッパ企画『切り裂かないけど攫いはするジャック』上演中! 上田誠・諏訪雅・永野宗典 インタビュー

王道でも邪道でも行ける。悩ましいです。

今年のヨーロッパ企画ツアー公演は「ミステリーコメディ」です!
一見すると相反するふたつのジャンルを、結成25周年を迎える劇団がどうマリアージュさせるか。
このページは「誌面上で作戦会議を開いて下さい」とオファーし、劇団旗揚げメンバーの上田誠・諏訪雅・永野宗典の3名にご参加頂きました。
新作『切り裂かないけど攫いはするジャック』は、どうなる? どうする!?
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早い段階で大きめの笑いが欲しい

諏訪 まず、あらすじから喋った方がいいかな?
上田 ざっくり言うと、19世紀ロンドンの街角で人さらい事件が起こり、スコットランドヤード(※警察)から警部がやって来る。街は「人さらいジャック」に翻弄され大騒動に発展する……という大推理劇になります。
永野 少しダークな雰囲気もあるから、早い段階で大きめの笑いが欲しいよね。
上田 そうなんですよ。
諏訪 そういえばオープニング(の内容)ってまだ聞いてないね。
上田 これまでの通例として、ハイブローなオープニングにすればするほど、うけが遅い。
諏訪 『九十九龍城』(21〜22年)しかり。あれは上田さんしか笑っていなかった。
上田 もうちょい分かり易いところから始めると、まあまあ笑いが(起こる)。
諏訪 『(あんなに優しかった)ゴーレム』(08年初演、22年再演)とか?
上田 『ギョエー!(旧校舎の77不思議)』(19年)とか。
永野 なるほど、はいはいはい。
諏訪 小ネタから入っていく感じね。
永野 イントロダクションから小ネタがある。
上田 『九十九龍城』みたいに「魔窟だから誰の顔も見えない」とか、ああいう状態で劇を始めてもうけない。
諏訪・永野 (笑)。
永野 まぁ反省もありますよね。

あらゆる経験をしているね、僕ら

上田 勿論「うけ」なんてコントロールできるものじゃないけれど、要は、笑いが少なくてもドキドキする世界観を作るべきか、笑いに包まれたコメディ大作を狙うべきか。どう思います?
諏訪 この前「章書き」の話をしたじゃない?
上田 はい、そうですね。
諏訪 僕は「この劇は章に分けた方が満足度が高い気がする」と言ったけど、爆笑に次ぐ爆笑の劇を追求するなら一幕ものも良いかな? と思ったり。
永野 『曲がれ!スプーン』(09年。改題以前は00年、02年、07年に上演)とか一幕ものだったしね。
諏訪 暗転を挟まず、永野さん演じる警部のモノローグで繋いでいく構成もできる。永野さんが出ずっぱりとか、主演として背負わされている感が出て面白いかも。
上田 まぁねぇ。
永野 モノローグで時間経過できるもんね。
諏訪 「春になった」と言えば春になる。
上田 それで言うと、久々に王道で行ける題材でもあるし、邪道でも行ける。これが悩ましいんですよ。
諏訪 分かるなぁ。一幕ものでも色々あるもんね。『ブルーバーズ(・ブリーダーズ)』(06年)とか。
上田 舞台上で喧騒状態が続く大コンセプト劇で、あれはあれで面白かったけれど、おそらく(劇団から)離れて行ったお客さんも。
永野 あらゆる経験をしているね、僕ら(笑)。ネタの数は確実に多いけど、一度取りこぼすと掴み損ねたまま一幕が終わってしまう。
諏訪 この劇いつ始まるの? と思われながら終わっていく……という。

音楽劇みたいなこともできるんじゃない?

諏訪 音楽が青木(慶則)さんだから、音楽劇みたいなこともできるんじゃない?
上田 あーなるほど。
諏訪 僕の役も「オルガン弾き」だし、音楽がどうなるのだろう? というのがちょっと気になる。上田さんはあまり意識してないかもしれないけど。
永野 その方向に作り込む余地があるっちゃありますよね。まだエチュードの段階だし。
上田 難しいところですけど、でも全編ミュージカルにすることも可能なんです。
諏訪 できるよ。それは本当にできる。
永野 その話を聞いたら、ミュージカルっぽいシーンもやってみたくなった。
上田 急にはできないですけど(笑)。分からないのは「何をやると喜ばれるか?」。そして「何が喜ばれないのか? うけないのか?」。
諏訪 音楽劇とまで言わなくても、いつもより音楽要素多め、とかでも今回の味になるんじゃない?
永野 『遊星ブンボーグの接近』(15年)の時、ちょっとダンスシーンを加えたりしたでしょ。あれ位でもいいと思う。
上田 我々の場合、「文房具コメディ」とか、首の皮一枚で興行的に成立する劇が多いんですよ。
永野 『ロベルト(の操縦)』(11年)とか一点突破だもん。
上田 そう。一筋の正解しかない。それ以外は崖から落ちるけど、この道だけはギリギリ成立するという曲芸を見せてきたのですが、ミステリーというものは本当によくできていて、このシステム自体どうやっても面白い。だからこそ難しくて、それこそミステリーミュージカルも成立するし、先に犯人が分かっている形でも成立する。
諏訪 そっか。ジャックの正体を冒頭に見せちゃってもいいのか。
上田 そうそう。いいっちゃいいでしょ?
諏訪 意外と面白かったりするのかも。
永野 ツッコミながら観るのね、お客さんは。

ミステリーとコメディを両立させる

上田 お客さんがミステリー慣れしているかもしれないから、ミステリーとして見られ過ぎちゃう可能性もあって。
永野 でも終盤は絶対(ミステリーの定石と)違うやん。だったら丁寧に始めるのもアリ。
諏訪 そうやね。王道を見せつつ、がいいだろうね。
永野 飛躍具合を見せられる気がする。
諏訪 序盤で「王道ミステリーもの」と思ってもらえたら、あとはなんぼでも遊べる。
永野 振れ幅でね。
上田 そうですね。僕ら25年間やってきたし、つかみでそんなに気張らんでもいいかもしれない。
諏訪 大丈夫。(永野さん演じる)警部の登場でうけるから。
永野 加藤茶さんが出てくる訳じゃないからね(笑)。
諏訪 俺ら町人が出てきて、わあわあ言うてる間に音楽がかかり、警部がゆっくり登場する。
上田 「おいっすー!」。
永野 いやいや(笑)、おいっすじゃないでしょ!
諏訪 とにかく、王道で始めたらいいんだよ。
上田 そうかも。最初からぐちゃぐちゃにしたら訳わからんかもしれないもんね。
永野 そうそう。
諏訪 変なことをしてもしょうがない。
──ミステリーらしい魅力というか、謎を解いていく展開はあるのでしょうか?
上田 あります。本質はちゃんと押さえないと。
──ミステリーの本質を押さえつつ、徐々にコメディへ転換していく。
上田 並行して行えるといいですね。これも新しい実験ですが、ミステリーとコメディを両立させる、どちらもしっかり際立たせる。それは重要かもしれない。
諏訪 お客さんにあまり推理されたくない気持ちもあります。推理ものって観ながらつい考え込むじゃないですか。あの状態だとうけが悪そうだから。

永野宗典 上田誠 諏訪雅

やっぱり、うけたいです

──三人のお話を聞きながら感じたのですが、やはり皆さん「うけたい」のですね。
諏訪 僕らが何の為にコメディやってると思ってるんですか?(笑)。それしか気にしてないですよ。
永野 そこはもう、むちゃくちゃ気にしています。
諏訪 ひとつひとつ、「あそこは何でうけなかったんやろう?」とか、そんなんばっかり。
上田 やっぱり、うけたいです。
諏訪 ちょっとでもうけたら嬉しい。
上田 でも、昔はあまり言えなかった。インタビューの時も、どうしても格好つけるというか、テーマやコンセプトについて喋ったりしていました。そもそもうけについてあまり聞かれないし。
永野 確かに。
上田 特に本番が始まると、メンバー間で話すことは「どうしたらうけるか?」のことばかり。
永野 うける為の役作り。ちゃんと物語に入ってもらった上で、というのも大事だから。
上田 それはありますね。
──25年間の経験値などを含め、うける為のスキルが以前より上がっている実感はありますか?
諏訪 上田くんの台本は、演技が下手でも台詞が聞こえればうけるんですよ。だから、いかにクリアに、上田くんの台詞を届けるか? みたいな。
永野 シューティングゲームのように、台詞をお客さんへ当てていく。
諏訪 そうそう。ノイジーな劇だと聞こえなくてうけなかったりするけど、クリアに聞こえさえすればうける。
永野 ありますね。
諏訪 最近はギャグっぽい台詞をあまり書かなくなってきて。
上田 はいはい。
諏訪 むしろ世界観っぽい台詞が多くなってきている。そこでうける・うけないは役者の力量も影響するから、だんだんそっちへシフトしてきて、役者の役割が大きくなっている。
上田 うける・うけないって客席の状態がめちゃくちゃ大きくて。お客さんがその集団やその劇にどれだけ期待を寄せているか? みたいなことが強く影響する。僕らも「ヨーロッパ企画って面白いらしいぞ」と注目され始めた頃はめちゃくちゃうけました。近年はコメディ劇の老舗を観に来る感覚もあり。今回もそうですけど、25年間やってきて「今ヨーロッパ企画が見時だぞ」という空気を作り、それを客席まで誘導できれば、うける量も変わってきます。舞台上の営みも大切ですが、同時に期待感みたいなものも大切だと思っていて。
──アニバーサリー公演ですし、正に見時では?
上田 そうなんです。だから(前のめりで観劇するような)客席の傾斜が強かったらいいなと。
永野 今年は『リバー(・流れないでよ)』もあるし。
諏訪 新しいお客さんも来てくれるんじゃないかなぁ。

集大成にならないと思います

──誌面会議ありがとうございました。最後に一言ずつコメントを頂戴できれば。
諏訪 ヨーロッパ企画25周年で、集大成のようなコメディ作品になると思いきや、実はかなり実験的な結末を……。
上田 いやいや(笑)、結末は言わなくていいです。
永野 あははは。
諏訪 観たことのない舞台になりそうだし、集大成にならないと思います。
上田 ……さっき話した展開は二人とも初耳やったと思うんですけど、あれ合格ですかね?
諏訪 合格というか、驚いた。
永野 だよね。
諏訪 いいと思います。
永野 ヘンでいいよね。
──上田さんから具体的な構想が明かされた?
諏訪 そう、インタビューの合間に。
永野 取材の間にボソッと。
諏訪 え? そうなの!? みたいな。
──(笑)。上演を楽しみにしています。
永野 僕は『九十九龍城』で5役もやったり、『ギョエー!〜』では人体模型の役だったり、下積みのような出演が何作か続きました。今回は主役を頂き、役にときめいているので、自分自身も楽しみたいと思っています。
上田 警部役がね、すぐ死ぬ劇なんです。
諏訪 (笑)。
永野 あれっ? そうでしたっけ!?
──それは、載せても平気ですか?
制作 ただの冗談です(笑)。
永野 こういう意地悪が本当になることあるんですよ! 怖いなぁ、もう。

■PROFILE■
うえだまこと◯79年生まれ、京都府出身。劇作家、演出家、構成作家、「ヨーロッパ企画」代表。98年にヨーロッパ企画を旗揚げ、以降多くの公演で脚本・演出を担う。外部公演や、映画・テレビドラマの脚本、番組の企画構成も多数手掛ける。原案・脚本を担当した『ドロステのはてで僕ら』(20年)、『リバー、流れないでよ』(23年)など、映画制作でも注目を集める。

すわまさし◯76年生まれ、奈良県出身。俳優、脚本家、演出家、映像監督、「ヨーロッパ企画」劇団員。98年にヨーロッパ企画を旗揚げ、以降全ての本公演に出演する。俳優活動のみならず、脚本、映像監督、舞台演出なども多く手掛けている。

ながのむねのり◯78年生まれ、宮崎県出身。俳優、映像監督、脚本家、演出家、ラジオパーソナリティ、「ヨーロッパ企画」劇団員。98年にヨーロッパ企画を旗揚げ、以降全ての本公演に出演する。ドラマ・映画などの出演作も多数。

【公演情報】
ヨーロッパ企画 第42回公演 ヨーロッパ企画25周年ツアー
『切り裂かないけど攫いはするジャック』
作・演出:上田誠 
音楽:青木慶則
出演:石田剛太 酒井善史 角田貴志 諏訪雅 土佐和成 中川晴樹 永野宗典 藤谷理子 / 金丸慎太郎 早織 藤松祥子 内田倭史 岡嶋秀昭
●9/9◎栗東芸術文化会館さきら 中ホール
●9/14〜17◎京都府立文化芸術会館
●9/20〜10/8◎本多劇場
●10/11◎高知県立県民文化ホール グリーンホール
●10/14・15◎キャナルシティ劇場
●10/17◎JMSアステールプラザ 中ホール
●10/20〜22◎梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
●10/28◎関内ホール
●11/3◎愛知県産業労働センター(ウインクあいち)大ホール
●11/11・12◎新川文化ホール 小ホール
〈お問い合わせ〉 株式会社オポス 075-822-6667(平日10:00〜18:00)
〈公式サイト〉https://www.europe-kikaku.com/e42/

【インタビュー/園田喬し 撮影/山崎伸康(人物)】

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