『新春浅草歌舞伎』取材会レポート
次代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」は、“若手歌舞伎俳優の登竜門”として40年以上の歴史があり、お正月の風物詩として広く愛され続けてきた。若手が大役に挑み、互いに切磋琢磨しながら経験を重ねていく成長・飛躍の場としてはもちろん、歌舞伎の伝承という意味合いにおいても重要な役割を担っている。
2015年に主要な出演者が一新され、最年長の尾上松也をリーダー的存在として公演を重ねてきたが、2024年で10年目を迎えるのを機に、尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人の浅草歌舞伎への出演はこれで一区切りとなる。
そんな節目となる本作の取材会が行われ、出演者の尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村橋之助、中村莟玉が出席した。
【挨拶と質疑応答】
尾上松也
私がリーダー格として出演するようになって10年目という節目。(2021年、2022年は浅草公会堂での開催が見送られたため)2023年はようやく浅草公会堂で上演することができてうれしかったが、昼の部と夜の部でチームを分けて上演する形を取った。2024年はようやく以前のように出演者全員で一緒に出演して公演を打てるので非常にうれしいです。
――今回で浅草歌舞伎への出演が一区切りになることについて。
浅草歌舞伎に出演することを夢見ながら修行していた時期もあったので、浅草でいろんな経験をさせていただいた恩返しも含めて、そろそろ後輩に託したいという思いもあり、今回を最後にしようという決断に至った。最初の年は、ちょうど自分の環境が大きく変わり出した転換期でもあり、浅草をやらせていただける嬉しさと同時に不安と恐怖といろんな思いが入り混じっていました。そんなときにここにいる後輩の皆さんが「一緒に盛り上げていきましょう」「やれることは何でもやります」と積極的に連絡をしてくれて心強かったことをよく覚えています。ワンチームとしてみんなで浅草歌舞伎をよくしていこう、という気持ちがそのときに固まりました。
──次の浅草歌舞伎を担う後輩へのメッセージ。
僕らの前の世代に盛り上げてくださった先輩方からの思いを感じながらやってきました。だからこそ繋がってきた浅草歌舞伎だと思います。僕たちが初年度に誓い合ったのは「僕たちの代で浅草歌舞伎を途絶えさせることのないように」ということ。なんとかこの10年続けてくることができたので、後輩の皆さんにも代々続いてきた先輩方の思いと、地元のみなさんの情熱を忘れずに、さらに盛り上げて発展させてほしいと思っています。
――演じる役と演目への意気込み。
最後に自分が浅草で何か演目を選ぶとすれば、七代目菊五郎のお兄さんのなさっていた演目から選ぶと決めていました。七代目のお兄さんがなさったお役の中であこがれているものはいろいろあり、その中でも「魚屋宗五郎」をさせていただけるのは嬉しい限り。非常に見やすく楽しいお芝居ですが、実は世話物というのは出演者のチームワークが必要となってくるお芝居。我々がこれまで積み上げて来た絆と経験を存分に出して皆さんにお届けできたらと思います。
中村歌昇
今回は久しぶりに昼夜に出演、4つのお役を初役でやらせていただきます。熊谷直実という大きなお役もあるが、それ以外の演目にも付き合うというのが本来の浅草のスタイルなので、それが久しぶりにできることを嬉しく思っています。
――これまでの浅草歌舞伎の思い出は。
私にとって浅草は吉右衛門のおじさまから教えていただいた播磨屋の演目ができるありがたい場。どの演目も思い出深いが、中でも2020年に『絵本太功記』十段目「尼ヶ崎の段」の光秀をやったときに、舞台稽古でおじさまが直接化粧を直してくださったことが印象深いです。化粧の基本を改めて教えてもらえたことで、それ以外のお役でもその基本を心がけるようにしています。
――演じる役と演目への意気込み。
僕が播磨屋のおじさまのなさった演目で一番好きなのが「熊谷陣屋」。播磨屋にとって大事な演目の一つ。それを一区切りとなる浅草の最後にやれることは本当にありがたいです。今回は播磨屋のおじさまのやり方を教わっている幸四郎のお兄さんに教えていただきます。とんでもなく難しいお役ですが、一歩でもおじさまの頂に近づけるような直実が演じられるよう一生懸命務めたいです。
坂東巳之助
久しぶりにフルメンバーで、昼夜フルに出演します。私も4役務めるので、体力的なことも含めて不安もありますが、精一杯浅草の街を盛り上げたいです。
――これまでの浅草歌舞伎の思い出は。
最初の年に膨大な宣伝活動をしたことは思い出深いです。あんな短期間に大量のバラエティ番組に出たのは後にも先にもあのときだけだったのではないかと思います。みんな不安と戦いながら、浅草歌舞伎を盛り上げようという気持ちで宣伝活動をしていました。
――演じる役と演目への意気込み。
「どんつく」は歌舞伎座で一度務めさせていただいているお役。通常は亀戸天神の境内の場ということで上演されることがほとんどですが、今回はせっかく浅草でやるので、浅草の街の大道具を作ってもらい、その前で我々が全員そろって踊り、第一部の打ち出しとなって、浅草の街へ出ていただくと、今舞台で見たのと同じ景色が広がっているという、浅草でしかできない体験をしていただけると思いますので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
坂東新悟
久しぶりにすべての出演者が第一部・第二部の両方に出演して、みんな3役から4役務めます。今年で浅草は最後ということで、精一杯務めていきたいです。
――これまでの浅草歌舞伎の思い出は。
毎公演、自分の器を超えたお役を与えていただいて、それに応えるのが必死でした。2019年にやった「乗合船惠方萬歳」が、このメンバーで浅草をやるようになって初めて全員が同時に出ている演目だったと思いますが、確か千穐楽に客席に降りたと記憶しています。みんなで知恵を出し合って、お客様に楽しんでいただこう、恩返しをしよう、という感じが浅草ならではの取り組みだった、と印象に残っています。
――演じる役と演目への意気込み。
「魚屋宗五郎」という作品は、松也のお兄さんが先ほどおっしゃったようにみんなで作り上げていくものですし、おはまという役は松也兄さんのお役に対する思いを受け止めて一番そばで支えないといけない役。これは他のお役、「熊谷陣屋」の相模も「本朝廿四孝」の濡衣もそうですが、世話女房の気持ちというものが根底にあると思います。「魚屋宗五郎」は全員が出ている演目でもあるので、いい掛け合いで盛り上げていけたらと思います。
中村種之助
――これまでの浅草歌舞伎の思い出は。
やはり最初の年が印象深いです。先輩方から受け取ったバトンをなんとかしようとがんばっていました。初日に「お客さん入ってるかな」と幕溜まりから客席を見に行って「入ってる!」とみんなで喜んだ。その年、僕は『猩々』という踊りで幕外の場面があって、パッと顔を上げると客席が全部見えて「たくさんお客さんが入ってくださってよかったな」と思ったことをよく覚えています。
――演じる役と演目への意気込み。
「流星」は出演者一人だけで4つのお役を演じ分ける演目。これまで浅草でいろいろなお役をいただいて、それが浅草以外の本興行でのお役にもつながっていると感じています。浅草歌舞伎は僕の可能性を見つけてくれたと思いますので、踊りとお芝居で多少異なる部分はあるかもしれませんが、「演じ分け」の集大成を出せたらと思っています。
中村米吉
浅草歌舞伎は4年ぶりの出演です。古典の大作が並んでいて、昼夜共最後の演目はメンバー総出演なので、一生懸命務めたいです。
――これまでの浅草歌舞伎の思い出は。
最初の年が思い出深いです。先輩方から受け継いだ公演で、どうやったらもっと盛り上がるかを考えて、お年玉挨拶を2人でやったのですが大失敗に終わってしまいました。緊張して掛け合いが全然うまくいかなくて、次の年から1人に戻りました。あの年のポスターでは全員が色分けされて、私はピンクを配色されました。今日もちゃんとピンクのネクタイを締めてきました(笑)。
――演じる役と演目への意気込み。
「本朝廿四孝」の八重垣姫は三姫の一人で、女方の最高峰のお役。重厚な義太夫狂言で「これぞ歌舞伎」というような作品なので、その魅力をお客様に存分に味わっていただけるように作っていきたいです。
中村隼人
――これまでの浅草歌舞伎の思い出は。
最初の年はゴレンジャーならぬナナレンジャーというようなビジュアルだったり、毎年みんなで相談しながら目を引くチラシを作っていました。浅草の地域密着型の公演ということで、初日・中日・楽日と、役を教わった先輩方にお礼に行くのはもちろんのこと、近くのお店のおかみさんたちや旦那衆にお礼を言いに行くのも初めての経験だったので、非常に印象に残っています。
――演じる役と演目への意気込み。
『与話情浮名横櫛』の与三郎を務めることがかなって嬉しい。仁左衛門のおじさまに教えていただきます。今回は「源氏店」だけということで 物語もわかりやすいし名台詞もあり、音楽性を持たせること、世話狂言を忘れないこと、あとは何といっても落ちぶれた若旦那であるという哀愁を出せればと思っております。大事に務めたいです。
中村橋之助
今年は古典の大物ぞろいで、このメンバーの中だと若い方なので、若い力で熱く頑張っていきたいです。
――演じる役と演目への意気込み。
『本朝廿四孝』の勝頼は、玉三郎のおじさまの八重垣姫で一度務めさせていただいたお役。見ているお客様も八重垣姫の米吉お兄さんも、口説きたくなるような色気のある勝頼になって、僕の2024年は口説かれるところから始めたい(笑)。他のお役も、お兄さんたちの背中を追いながら一生懸命務めたいです。
──先輩たちを送る立場からの思いは。
松也兄さんも巳之助兄さんも、一つ前の世代の浅草にも出ていらして、そこから橋渡しをしてこの世代のリーダーとして盛り上げてくださった。僕も同じように来年以降橋渡しをして、お兄さん方の思いも受け取りつつ、僕たちの代の思いと熱さを前面に出していきたい。お兄さん方から思いを託していただけるように、頼もしくあれるようにがんばりたいです。
中村莟玉
今回、隼人兄さんまでの先輩方が一旦一区切りとなります。初めての出演は16歳、そこから10年浅草で修業させていただいた。最初は梅丸という名前で部屋子でしたが、莟玉という名前で養子になってからも浅草歌舞伎に呼んでいただけて嬉しく思っています。再来年以降、橋之助兄さんと一緒に出られるのかどうかまだわかりませんが、一致団結して頑張っていきたい。
――演じる役と演目への意気込み。
「熊谷陣屋」の藤の方はおじの魁春に教わりますが、おじは吉右衛門のおじさまが陣屋をなさるときに相模や藤の方を務めてきたので、今回、歌昇兄さんが初役で陣屋をなさるにあたり、おじが務めてきた藤の方をやらせていただけることが本当に幸せだと思っています。相模役の新悟兄さんとよいコミュニケーションを取りながら、吉右衛門のおじさまが思い描いていたものを歌昇兄さんには求められると思いますので、そこに精一杯応えていきたいです。
【公演情報】
『新春浅草歌舞伎』
出演:尾上松也 中村歌昇 坂東巳之助 坂東新悟 中村種之助 中村米吉 中村隼人 中村橋之助 中村莟玉
●2024/1/2~26◎浅草公会堂
〈料金〉1等席9,500円 2等席6.000円 3等席3.000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 (10:00~17:00) 0570-000-489 または03-6745-0888
チケット Web 松竹 (24 時間受付)検索
〈公式サイト〉 https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/833
〈公式X〉@asakusa_kabuki
【取材・文/久田絢子 写真提供/松竹】