unrato『月の岬』陳内将・梅田彩佳 インタビュー

演出家・大河内直子とプロデューサー・田窪桜子の演劇ユニット「unrato」による舞台『月の岬』が、 2 月23日〜3 月3日、東京芸術劇場 シアターウエストにて上演される。本作に出演する陳内将と梅田彩佳に話を聞いた。

日常のリアルを演じているようで、
この世のものとは思えない要素がある作品

──1997 年に初演された『月の岬』(松田正隆作)は、長崎弁を用い、繊細な人間の機微を丁寧に描き、この年の読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞した戯曲です。今回、陳内さんが戯曲を選ばれたそうですね。

陳内 プロデューサーと一緒に選びました。『月の岬』を選んだのは、自分の年齢や出身地……僕は生まれが熊本の天草なので(本作の舞台となる)長崎とは海を挟むと距離が近く言葉(方言)も近いこと、姉がいることなど、自分と信夫(演じる役)に共通項が多かったんですね。それがひとつの理由でした。

──演じてみたいと思われた理由は何でしたか?

陳内 これは松田正隆さんの戯曲なのですが、いろんな方がおっしゃる「松田イズム」と言いますか、戯曲にある余白だとか、日常のリアルを演じているようでこの世のものとは思えないような要素があることとか、知れば知るほどおしゃれなトリックがある。それで「おもしろいな、この中に入ってみたいな」と思いました。

──梅田さんは戯曲を読まれていかがでしたか?

梅田 難しそうだと思いました。でもこうやってお話をいただけるのはご縁で、難しいと思うということは今までやってきていないジャンルだということ。マネージャーも「やったほうがいいと思うよ」と背中を押してくださったので、やろうと思いました。

──難しそうというのは、どういうところがですか?

梅田 読むだけでも難しいし、読み解くのも難しいです。(自身の主なフィールドである)ミュージカル的なわかりやすさは少ないと言いますか、(梅田演じる)直子の本音もわかりにくいし、台本に「こうしたい」「好き」「嫌い」のようなことが具体的には書かれていない。だから、「うん」ひとつ取っても、同意の「うん」なのか、違うと思いながらの「うん」なのか考えなければいけない。そういうことがたくさん散りばめられている台本ですね。これは読み解き方で全く違う意味になるなと思うと、読んでいる段階からすごく難しかったです。

陳内 (稽古が始まっていない)今の時点でもう、読む度にたくさん発見がありますから。

──その中で、陳内さんが演じる信夫は、現時点でどんな印象ですか?

陳内 自分と重ねてみたい部分や、自分が見てきたもの、いろいろと考えていることなどはあるのですが、僕の頭の中だけの信夫をあまりつくり込んでいっちゃうとノッキングを起こす気がするので、まずは稽古場に、佐和子さん(姉)と直子(妻)に会いに行くような気持ちでいようと思っています。そこで感じた「信夫ってこう見られているのね」ってところもヒントにしていきたいです。周りのみんなが信夫というものを形成してくれそうな気がしていますし、僕もみなさんにとってそういう存在になれるように取り組みたいです。

──梅田さんが演じるのは、長崎市から信夫の暮らす島に嫁いでくる直子ですが、現時点でどんな印象ですか?

梅田 直子さんは自分から喋るということがあまりない人で、言いたいことがあってもなかなか言えない。そもそもこの時代(1980年代)は、女性が嫁いだ先で言いたいことを言うってけっこうなことだと思いますしね。そう考えると、その少ない言葉にはとても重みがありますよね。

──台詞に「……。」も多いですしね。

梅田 そこにどんな思いがあるのかを考えたいです。私自身は直子さんと逆で、身内には思ったことを1秒で言うタイプですし(笑)、結婚に関しても「相手の家に入る」というのは今はあまりない感覚だから、想像できていないところが多いです。だからこそやってみたいなと思いました。わからないから知りたいなって。稽古の中で、直子さんを見つけていきたいです。

──この作品は全編長崎弁です。おふたりとも九州出身ではありますが、方言で演じるという部分はどうですか?

梅田 なかなか難しい気がします。

陳内 そうだよね。今年、関西弁の役を演じたときは大変でした。音を意識しなきゃいけないから。

梅田 たしかに。(お芝居だけでなく、方言のことを)もうひとつ考えないといけないってことですよね。

陳内 だからなるべく早くから方言には取り組みたいなと思っています。稽古場では、みんな方言で喋りたいです。標準語使ったら50円。

梅田 50円、けっこう高くないですか!?(笑)

陳内 (笑)。

──今回、九州出身のキャストが多いので方言は馴染みやすそうですが、仕事で自分の出身地の言葉を話すときっていいことはありますか?

陳内 日常では方言を使っているときのほうが(気持ちが)フラットなんですけど、お仕事のときは標準語でフラットにいようとしているので、仕事で地元の言葉に近い方言を使うとなると……逆にもうひとつ“乗せる”感覚になりそうな気もしています。リラックスできるかな?

梅田 私が仕事で方言を使ったのは、(梅田さんの地元である)福岡のドラマに出演したときの一度だけです。でもそれは福岡で撮影したので、リラックスした状態でできた記憶があります。今回はどうでしょうね。ただ現場にこんなに九州出身の人がいることもないから、不思議な感覚になりそうです。

生であること、日々違うこと、
出来事がその場で起きていること

──今回の座組にはどんな楽しみがありますか。

梅田 初めましての方ばかりなんです。谷口あかりさんは以前ご一緒したことがあるのですが、同じシーンがなかったので、今回一緒にお芝居できるのを楽しみにしています。

陳内 僕は皆さん、初めましてです。

──演出の大河内直子さんとはなにかお話しされましたか?

陳内 僕は一度お会いする機会があって、そのときは島(陳内の出身地である天草)の生活の話をしました。大河内さんの作品は、舞台セットのつくりや椅子の数にまで「なにか意味があるはず……!」という目で観てしまうんですけど(笑)、そこも含め、お客様を作品の中に引き寄せる力が強い方だと感じています。この作品もそういうふうになれたら嬉しいです。

梅田 私はこれからなので、お話しさせていただくのがすごく楽しみです。……楽しみ2割、難しい8割ですけど。

陳内 (笑)。

──「楽しみ2割」はどんなことですか?

梅田 私は舞台が大好きで、中でもミュージカルに出演することが多いんです。でも少し前に大好きな先輩に「梅ちゃん、ストレートプレイはやったほうがいいよ。自分がもっとレベルアップするから」と言っていただくことがあって、ちょうどそのタイミングで今回のお話をいただいたんです。だからきっと今やるべき作品なんだと思っています。自分にプラスになるものが必ず見つかるとわかっているので、そこに飛び込んでいかなきゃという気持ちです。ミュージカルには歌やダンスもあるので、稽古場で「お芝居」にギュッとした時間をつくることがなかなかないんですけど、今回はそれができるので。私にとってすごく濃厚な時間になるだろうなと思っています。

──梅田さんはどうして舞台が大好きなのですか?

梅田 生であるということ、日々違うということ、出来事がその場で起きているということがとても好きです。でも舞台に立つと毎回思いますよ、「なんでこんなに怖いことやってるんだろうな」って(笑)。トチッたらそれがそのまま出ちゃうのが舞台ですし、初日とか緊張で気持ち悪くなりますし。だけど生でしか見せられないなにかがある。だから好きなんだなといつも思います。今回も、相手を信頼して、信じて、やっていきたいです。本番でしか生まれない時間を楽しめたらいいなと思います。

──陳内さんも舞台が好きですか?

陳内 僕はどちらかというと別の人になるのが好きなんです。自分という人間とずっと向き合っていると苦しくなることもたまにありますが、役を通して思うことや、気付かされることがある。「自分でいすぎない」ことのすがる先にしている感覚はありますね。中でも舞台で演じるときは、切り取ったかっこよさじゃなく、「目の前で生きている生身の人間の一瞬」を、お客様と同じ瞬間、同じ空間で観てもらえる。もちろん怖いこともあるけれど、その場に一緒に生きている感じがします。だから舞台に立つのも観るのも好きです。

【公演情報】
unrato#11『月の岬』
作:松田正隆
演出:大河内直子
音楽:三枝伸太郎
出演:
陳内将 梅田彩佳 谷口あかり
石田佳央 田野聖子 岡田正 奥田一平 松平春香 山中志歩
赤名竜乃介 天野旭陽 真弓 金子琉奈
●2/23〜3/3◎東京芸術劇場 シアターウエスト
〈公式サイト〉https://ae-on.co.jp/unrato/tsukinomisaki/

【写真:友澤綾乃】

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