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情報☆キック
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ミュージカル『カム フロム アウェイ』製作発表レポート

石川 禅、浦井健治、加藤和樹、田代万里生、橋本さとし、吉原光夫
安蘭けい、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、濱田めぐみ、森 公美子、柚希礼音

 
日生劇場で3月7日から日本初演される、ミュージカル『カム フロム アウェイ』の製作発表会見が1月30日、カナダ大使館(東京都港区)で行われた。(東京公演は3月29日まで、のち大阪、愛知、福岡、熊本、群馬にてツアー公演あり)

2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件。アメリカ国内に入る予定だった38機の飛行機と約7000人の乗客・乗員は、カナダ・ニューファンドランド・ラブラドール州にある「ガンダー国際空港」に降り立つ。突然の非常事態。わずか1万人というガンダー町の人口は一瞬にして2倍近くに膨れ上がった。町の人々は突然現れた“カム フロム アウェイ(遠くから来た人々)”のために動き始めてーーという実話に基づいた物語。約100人もの登場人物を12人のキャストで演じ分け、オープニングからエンディングまで100分間ノンストップで展開されていくミュージカルだ。

会見に出席した安蘭けい、石川 禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森 公美子、柚希礼音、吉原光夫のコメントを紹介する。

【コメント】

安蘭けい
私はこの『カム フロム アウェイ』をニューヨークで観て、とても感動して、日本で上演できる機会があったらぜひ出演したいと思っていたので、こうやって出演ができて本当に嬉しく思っております。
私はダイアンという役の他にも、いろいろな二ューファンドランドの人物を演じます。セリフは一言だったりするんですが、どうにかダイアンとの違いを出したくて、例えば声を変えたりいろいろ挑戦しているんですけども、やりすぎだと言われるぐらいやっています(笑)。やりすぎて、話の筋から逸れないように気をつけなくては(笑)。

石川禅
途轍もない作品に出演させていただけること、本当に感謝しております。
この作品、とてもシンプルな舞台で、大きく動くのが13脚の椅子と3卓のテーブルだけなんです。重い椅子をトウコちゃん(※安蘭の愛称)が動かしたり、車輪がついている椅子をめぐちゃん(※濱田の愛称)が動かしたり、とにかく椅子のデザインが全部違うんです。それはまるで国籍の違う人々が飛行機に乗り合わせたように、人種の違いを表しているようでもあり、ここに登壇している個性豊かなキャストを表しているようでもあります。
そのバラバラの椅子が斜めに2列になった瞬間、舞台上に飛行機のキャビンが立ち上がるんです。一機の旅客機が出現するんです。素晴らしいです。魔術です。想像力です。
私たちはまだこの椅子を動かすことに四苦八苦している最中ですが、この個性あふれるメンバーが一つになって、初日には無事テイクオフしていくことを祈っていてください。私たちはそれまで一生懸命頑張ります。

浦井健治
お稽古場はいろいろな意味でとても豊か。個性も豊かですし、差し入れも豊かで(笑)。
各国で上演され続けてきた作品なので、ステージングが全部出来上がっている。そこにレプリカ的な形で入っていくんですね。だけども、我々の感覚や個性も尊重しながらやっていくことが、なんて豊かなんだろうと思っていて。人生もそうですが、1つ1つの積み重ね、試行錯誤の過程が本当に豊かで、尊いなと感じています。
12人、そしてスタンバイキャストの4人あわせて16人で一緒にやっていることが幸せだなと思っております。

加藤和樹
多分2度とこのキャストで再演はできないだろうなと思うぐらい、第一線で活躍している方々ばかり。僕も稽古が追いついていないところがありますけど、一つひとつの力が一つになったとき、どれぐらいのエネルギーが出るんだろうと思っていますし、もともとこの作品が持っている力と、これだけ日本を代表するような方々が生み出すエネルギーとがかけ合わさると、とんでもない爆発力を生むのではないかなと感じております。

咲妃みゆ
2001年当時、私は小学生でした。あの事件をニュースで知って、抱いたショックを今でも鮮明に覚えています。悲しみ一色だと思っていた出来事のそばでこんなに温かみのあふれる物語が実際に起こっていたんだと知って。この作品に関わらせていただくことで、より一層感動が増しています。
大きな悲しみ、苦しみ、憎しみを生み出してしまったのは人であって、でもそのさまざまな苦しみを解きほぐしたのもまさしく人であったというのがこの物語の注目すべきポイントだなと思います。
実際にご覧いただけたらお分かりいただけると思うのですが、何一つオーバーに物語をお届けしていないんですね。起こった出来事はさまざまですけれど、本当にあった出来事をそのままシンプルにお伝えしている作品。たくさんの方が傷つき、ショックを受け、戸惑い、そんな中でたくさんの方が寝る間を惜しんでその人たちのために手を差し伸べています。
日生劇場そのほかの劇場で観てくださるのは、私たちキャストが助け合って作り上げていく姿だと思うので、遠い国で起こった出来事というのではなく、どの場所でも二ューファンドランド島になりうるということを思って、作品をご覧いただけたらなと思っています。

シルビア・グラブ
私もトウコさんと同じく、ブロードウェイで観ました。トニー賞を取る直前に観ていて、トニー賞にまで行って観ています。前知識なく観に行ったんですが、本当に素晴らしかったですね。オープニングから鼓動が高まって、いわゆるものすごい美しい方々が舞台に立っているわけではないんですけど、ものすごい人間臭い人たちが舞台上にいて、バンドの人たちも舞台上にいて、その鼓動を作っていた。
途中まで楽しい作品だなと思って、ようやくその内容が分かった瞬間に泣き出しちゃって、この題材をこれだけ愛のある舞台にしていることに感動して……。日本で上演することがあったら絶対参加したいと思い、お話が来たときに「やる、やる!」と。
すべてのキャストが椅子やセットを動かして、それが飛行機に見えたり、バーに見えたりする姿が格好よく見えたんですよね。客席から見ると、キャストがものすごく簡単にやっているものだから、簡単にできるのかと思ったら四苦八苦しています(笑)。
二ューファンドランドの人たちが力を合わせて、カムフロムアウェイズに手を差し伸べたように、私たちも舞台上でお互いに手を差し伸べて助け合って乗り切りたいと思います。これだけのメンバーがそれをやる作品もなかなかないし、観られることもなかなかないと思うので、確実に素晴らしいものになると思います。ぜひ100分、楽しんでください。

田代万里生
僕の役に限らず、ほとんどの役が実在している人物をモデルにしていて、しかも実名で演じている。それはとても光栄なことです。
ほかにもたくさん素敵な役があるなかで、なぜ田代万里生にこの役をオファーくださったのかプロデューサーに質問したところ、ケビンJももちろん演じてもらいたいけれど、もう一つのアリというイスラム教徒の役を演じて欲しいと言われました。
9.11は、イスラム関連の方々にとっては、いろいろな偏見を持たれたり、辛い思いをされた方もいらっしゃると思います。僕自身、プライベートでイスラム教徒の方と付き合いがあって、お話を聞くと、日本に住んでいる僕らとは全く違う文化や感性をもっていらっしゃって、僕らにとっての当たり前のことがそうでなかったりすることがたくさんあって。お話を聞くたびに世界は広いんだな、そして理解し合うためにはお互いをよく知らないといけないんだなと痛感していました。
日生劇場から開幕しますが、劇場で日本初演を見届けていただきたいなと思います。

橋本さとし
僕は稽古が大変だとかあまり言いたくないんですが……めっちゃ大変です(笑)。本番さながらのステージセットが組まれているのですが、満点の星空のように場ミリ(※立ち位置やセットを動かすための目印)があって、一瞬ちょっと引いてしまうほど。これは大変なことになるぞという予感がすでにありました(笑)。
それに、すごく信頼のおける、キャリアを積んできたミュージカル演劇界の超人たちと一緒にやることに期待していたんですけど、意外とみんなパニックになっていて、普通の人なんだと安心しました(笑)。
僕は町長の役ですが、僕自身はあまりリーダーシップを取れる人間ではないので、ひたすら稽古を止めてはいけないという一心でやっています。セリフが飛んでもミスをしてもみんなが笑い飛ばしてくれて。ミスしまくって精度をあげていくようなところがあります。稽古場で散々恥をかいて、本番でお客さんの前に立ったときには恥ずかしくないものを見せようと精進している最中です。
“コンポツ”な…..いや、ポンコツな、“店長”…..いや、町長ではありますけど、みんなと一緒に素敵なガンダーの街、二ューファンドランドというものを表現できたらなと思っています。

濱田めぐみ 
ビバリーという役は、アメリカンエアラインズの初の女性パイロット。物語の中の役割としては、ところどころ緊張感を持って切り込んでいくというポイントになる役でもあります。
どんなカンパニーでも、私の年代的に一番上になることがそろそろ多くなってきたんですが、このカンパニーには先輩がたくさんいらっしゃって、その先輩方がなかなか可愛らしい“ポンコツ”で(笑)。これまでのコメントをお聞きになっても分かるように、ものすごく個性豊かで心温まるカンパニーです。
一つ心に残るエピソードがあって、一番最初に演出家とお話しするときに「9.11という出来事は日本に住む皆さんにとってどれぐらいの印象ですか」と聞かれたんです。正直にいうと、我々は映像でしか見たことがなかったし、まるで映画を見ているような感覚に陥っていて、辛い気持ちとすごいことが起きてしまったなという気持ちだと思うんですね。でも東日本大震災や能登半島地震など、起こったことは違っても、抱える心の辛さやみんなが共有する苦しみは一緒とも思って。
この作品では、被災地の中での状況が描かれているんですね。飛行機に乗って、二ューファンドランドのガンダーに降り立った人たちがいろいろなところでいろいろな人たちの愛を受け取る。人が起こしてしまった出来事を、人がもう一度ならして、愛を持って復興していく。それを思ったときに、この作品は日本の方々が見ても誰もが共感できるものをちゃんと受け取って、持って帰れる作品だなと思いました。
初日まであと1ヶ月ちょっとありますが、ポンコツを乗り越えて(笑)、いろいろなことを必死に覚え、演出を体に取り込みながら、いい初日を迎えたいと思いますので、ぜひ応援よろしくお願いします。

森久美子
ハンナは、マンハッタンの消防士を息子に持つ母親。息子は絶対に元気なはずだと思っているんですが……どこに行ったらいいの?私は誰?という状況が続いています(笑)。
これだけ個性が強くて、主役ばかりやっている人たちが集まって、ギクシャクするのかなと思ったら、すごく楽しい稽古場で。昨日、私はおにぎりを差し入れましたが、前はトウコさんがハンバーガーを入れてくれたりして……痩せるつもりで来たのにどんどん太っているのが気になる今日この頃です(笑)。

柚希礼音
ビューラーというコミュニティセンターの会長を演じます。二ューファンドランドん地元のおばちゃんという感じで、私はこんなにすごいメンバーを仕切れるのだろうかと思って、今もドキドキしているんですけど、皆さんがいろいろなことで助けてくれて、「ちえちゃん(※柚希の愛称)はこういう面があるから大丈夫だよ」などと教えてくれたりしながら一歩一歩やっています。
9.11は人が起こしてしまった事件ですが、やはり人が人を癒していくんだなと。昨日、もう一度このドキュメンタリーを見直したら、町長さんが「人の優しさはどんな悲劇をも乗り越える」と仰っていて、すべてを癒すことはできないですけど、やはり人の優しさで癒されることがあるんだなと思うので、そこを大切に演じていきたいと思っております。

吉原光夫
まず、製作発表が大嫌いなんですけど(笑)、こんな素敵な星空が見えるホールでやれるとは思わず。ここに来れただけで、初めて製作発表をしてよかったなと思います。
くみさん(※森公美子)が言っていたように、自分の位置が分からなくなったり、自分が何をやっているのか分からないことが稽古場で起きているんですね。今は笑い話なんですけど、この作品の意図でもあると思っていて。「私はここにいる」ということが、テロや地震が起きると、分からなくなってしまう。例えば自分の居場所がなくなったり、帰れなくなったりして、自分が誰なのか分からなくなったり、自分が何のために生きているのか分からなくなってしまう。そんな中、ガンダーの人たちは簡単に「あなたは今ここにいて、誰かのために生き続ける」と寄り添うことができた。本当にすごいですよ。大きな優しさで包んで、当たり前のように「ご飯を食べな、そこで寝ていいよ」などと明るく人を受け入れる。
我々も今、居場所を失っているなと思うんです。日常でピリピリと“テロ”が起きているような気がするんです。SNSで誰かに攻撃されたり、学校でいじめられたりして、自分たちの居場所や表現がちょっとずつ失われている。そういうときに、手を差し伸べてそばにいるか、攻撃するか。この作品は「あなたはどちらをチョイスするの?居場所は必ずあるよ」と言ってくれているような気がして。いろいろおかしくなっている世の中で、無条件に愛とか寄り添うとか誰かを助けることをしてみるというチョイスをするシンプルなストーリーは今のミュージカルでなかなかないんじゃないかな。
最初は(共演経験がある人が少ないので)合わないかななんて思っていたんですけど、まじで最高のメンバーでやれているんですよね。この作品はお祭りでやるわけではなくて、このメンバーが必死に命削ってやっている。ぜひ楽しみにしてください。

【公演情報】
ミュージカル『カム フロム アウェイ』
脚本・音楽・歌詞:アイリーン・サンコフ, デイビット・ハイン
演出:クリストファー・アシュリー
ステージング:ケリー・ディヴァイン
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
出演:(五十音順)安蘭けい 石川 禅 浦井健治 加藤和樹 咲妃みゆ シルビア・グラブ 田代万里生 橋本さとし 濱田めぐみ 森 公美子 柚希礼音 吉原光夫
●3/7〜29◎東京公演 日生劇場 
※大阪、愛知、福岡、熊本、群馬にてツアー公演あり
〈公式サイト〉https://horipro-stage.jp/stage/comefromaway2024/

【取材・文・撮影:五月女菜穂】

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