MENU
情報☆キック
株式会社えんぶ が隔月で発行している演劇専門誌「えんぶ」から飛び出した新鮮な情報をお届け。
公演情報、宝塚レビュー、人気作優のコラム・エッセイ、インタビューなど、楽しくコアな情報記事が満載!
ミュージカルなどの大きな公演から小劇場の旬の公演までジャンルにとらわれない内容で、随時更新中です。

(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
広告掲載のお問い合わせ

雪組100周年のセレブレーションが遺した永遠の記憶 『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』『FROZEN HOLIDAY』公演レビュー

彩風咲奈と夢白あやトップコンビ率いる、宝塚歌劇雪組公演、Happy“NEW”Musical『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』-Boiled Doyle on the Toil Trail- Winter Spectacular『FROZEN HOLIDAY(フローズン・ホリデイ)』-Snow Troupe 100th Anniversary-が、東京宝塚劇場で1月3日~2月11日の公演期間を完走して、微笑みと涙の千穐楽を迎えた。

Happy“NEW”Musical『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』-Boiled Doyle on the Toil Trail-は、世界で最も有名な名探偵と讃えられる「シャーロック・ホームズ」をこの世に生み出し、世界的な名声を手にした英国の作家サー・アーサー・コナン・ドイルの前に、実際にホームズが姿を現したら?という、作・演出の生田大和のユニークな着想で描かれたミュージカル。自分の想像力から生まれたはずの存在が巨大になり、人生を凌駕されかける作家の焦燥と、そこから新たな一歩を踏み出していく姿が、決して重すぎないタッチで綴られていた。

【STORY】
19世紀末のロンドン。医師であり作家でもあるアーサー・コナン・ドイル(彩風咲奈)が営む診療所には今日も一人の患者すらやってくる気配がない。だがドイルはその時間を使って英国が誇る英雄たちの物語を書き綴っている。彼には歴史小説家として一本立ちしたいという夢があり、妻のルイーズ(夢白あや)もそんな夫の夢を応援し続けていた。
だが、ドイルの野望をよそに原稿はどの出版社からも、開封さえされない状態のまま送り返されてくる。大衆受けの三文小説ばかりがもてはやされることに憤るドイルは、自分ならもっと面白い小説が書けると息巻く。そのひと言を聞いたルイーズは「書けばいいのよ、あなたならできる、私にはわかるわ」と夫の背中を押し、ドイルも誰よりも面白い小説を書こうと決意する。
だが、もっと面白い小説の題材に悩んだドイルは、インスピレーションを求めて夜の街を歩き周るうちに、暴漢に襲われかけていた保守党議員バルフォア卿(華世京)とその友人たちに行き会わせ、腕に覚えのあるボクシングで暴漢を撃退。そのお礼にと、彼らが属する「心霊現象研究協会」の会合に誘われる。そこで催眠術師であるミロ・デ・メイヤー教授(縣千)による催眠術や降霊術を目にしたドイルは、好奇心から自分にも催眠をかけてくれと志願するが何も感じることができない。霊感がまるでないと断罪され落ち込むドイルにバルフォア卿は、元はメイヤー教授のものだったという、呪文を唱えるとペンが勝手に文字を書いてくれる「魔法のペン」を友情の証に贈る。
「作家にとってはまさに夢のベンだ!」と喜んだドイルは、帰宅後早速そのペンを手に呪文を唱えるが、奇跡は起きない。やはり自分には霊感がないのだとうなだれるドイルだったが、突然ペンが光り輝き空中に舞ったかと思うと、全く見覚えのない人物が目の前に現れた!彼こそが、ドイルが何年も前にひどく買い叩かれたものの出版にこぎ着けた長編小説『緋色の研究』の主人公、名探偵シャーロック・ホームズ(朝美絢)その人だった。
起きていることが信じられないまま、「僕を書きたまえ、僕らの冒険を」とのホームズの助言に従い一晩で『ボヘミアの醜聞』を書き上げたドイル。翌朝、半睡半覚の夫からこれもホームズの助言である「一番売れていない雑誌社に持ち込みを」との伝言を託されたルイーズは、世界一の雑誌を作りたいという編集長のハーバート・グリーンハウ・スミス(和希そら)の高すぎる理想故に、連載小説が決まらず低迷を続けていた「ストランド・マガジン」の門を叩く。どんな持ち込み小説にもボツを繰り返してきたハーバートが、首を縦に振るはずがないと編集部員たちはルイーズを追い返そうとするが、果たして当のハーバートは「見つけた、本物を見つけた!」と叫び、目を覚まして妻を追ってきたドイルに、シャーロック・ホームズシリーズの連載を依頼する。
遂に作家としての扉が開いたと喜ぶドイルとルイーズ。だがこの時、ここから巻き起こる熱狂の渦が、人生を一変させることを二人は知る由もなく……

世界で最も著名な名探偵「シャーロック・ホームズ」は、名探偵の代名詞ともなっている存在で、彼が活躍したアーサー・コナン・ドイルによる探偵小説シリーズは、推理小説ジャンルの金字塔としていまなお世界中で読み継がれている。これらの作品群は、映像、舞台、アニメーションなど様々なメディアに進出しているし、ホームズと彼の活躍を記録する「伝記作家」でもある親友のワトスン博士など、登場するキャラクターを用いて新たな物語を紡ぐ、所謂「パスティーシュもの」も枚挙に暇がない。それ故、ドイルの手になるシリーズは、ホームズの熱狂的なファンの総称である「シャーロキアン」から「正典」と呼ばれているほどで、間違いなくそのシャーロキアンの一人であろう、この作品の作・演出家生田大和が、既に宝塚歌劇で発表済の2021年宙組公演『シャーロック・ホームズ─The Game Afoot!─』も非常に凝った仕上がりの、パスティーシュものに属する舞台だった。

そんな生田が、実は「ホームズ作家」と呼ばれることに抵抗を覚え、英国の歴史小説家として名を残したいと願ったドイルの葛藤を、ドイルにだけ見える実体として登場するホームズと直接対峙することで表現していく、今作『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』には、生田のこだわりがこれでもかと詰まっていた。何しろ「3回言ってごらん」と言いたくなる、まるで早口言葉のように覚えにくいタイトル自体が「かつて海外で上演されたものの、いまは忘れられていた作品なのかな?と誤解してもらえたら面白い」という趣旨の遊び心からつけられているというのだから、もう全ては押して知るべし。だから作品は、「シャーロック・ホームズ」に比べると、確かに認知度が落ちてしまうかもしれない「アーサー・コナン・ドイル」その人の、好奇心旺盛で、やりたいことだらけで、多分に破天荒な人生の局面を巧みにコラージュしていく。それ故、書きたい歴史小説を書くためには、ホームズを葬り去るしかないと決意したドイルとホームズの対決に巻き込まれたルイーズが、突然病に侵されまた生還する展開には、さすがにやや凝り過ぎの感なきにしもあらずながら、「想像力こそが魔法」と信じ「世界を生み出す最初の一文字」を白い紙に書き下ろす不安と高揚、そして「困難多い世界にこそ物語が必要だ」との決意に至るドラマ展開に、ドイルと、劇作家生田大和の信念がシンクロする様が美しい。何より作者であるドイル本人にも制御できないほどの存在になり、独り歩きをはじめていくホームズ人気の渦中にあって、「僕が僕の人生の主だから」と高らかに宣言するドイルの「人生の主」のナンバーは、情報に取り巻かれ過ぎて、他者と自分をつい引き比べ、顔の見えないネットの海のなかで言葉の剣を突き刺してしまうこの時代に、誰もが等しく、自分の人生の主人公なのだという、非常にシンプルで、だからこそ見えなくなってしまいがちの真実をストレートに届けてくれるものだった。

その自分が望まない形で世に出てしまったアーサー・コナン・ドイルの、晴れがましさと同居する焦燥と困惑を、彩風咲奈が真摯に丁寧に演じている。作家として時代を越えて読み継がれる代表作に出会っていつつ、それが本来目指したジャンルではなかった、というドイルの忸怩たる思いは切実にわかる一方で、贅沢な悩みだなぁ…と感じさせもするものだが、それをあくまでも温かく、おおらかな持ち味に魅力が噴出する彩風が演じることで「ドイル頑張れ!」の気持ちに収斂させてくれるのが貴重だ。トップスターとしてますます油が乗っているこの時期に、いくらタカラジェンヌに年齢はないとは言いつつも、まさか成長期なはずはないのに、毎公演ごとに足が伸びている?と錯覚させる彩風が、最早異次元のプロポーションで着こなすスーツ姿や、バイキングの勇者などのコスチュームの数々にも惚れ惚れさせられた。

その妻ルイーズの夢白あやは、常にポジティブで明るく、ドイルを鼓舞し続ける女性を生き生きと演じている。開業医である夫の医院に患者が一人も来ないことを「良いことじゃない!お医者様にかかる人がいないなんて」と言い、「お陰で商売あがったりだ」と嘆く夫に「お陰で原稿が捗った、でしょ?」と返す。ここまで楽天的に夫をフォローできる妻は、他に日本の昔話『傘地蔵』に登場するおばあさんくらいしか思いつかないほどの理想の妻を、あざとさを全く感じさせずに表出したのはたいしたもの。どちらかと言うと大人びて、現実感を持つ女性像が得意な娘役だと思っていたが、こうした元気溌剌な役柄も魅力的に見せてくれるのは嬉しい発見だった。

ドイルの前にあらわれるシャーロック・ホームズの朝美絢は、ドイルの想像力のなかにいるドイルにだけ見える存在、というどこかミステリアスな役柄が朝美の個性にあい、役柄と本人をよく生かしている。物語の展開上出番はかなり遅いが、出てきてからの存在感は絶大で、ドイルをも凌駕していくホームズの悪魔的な香りを醸し出す様は朝美の真骨頂。一方で、ドイルがもうホームズものは書かないと宣言した時の、一人取り残される寂しさの拗れた表現もよく出ていた。惜しむらくは、朝美の問題では全くなく生田の作劇として、変装術に長けたホームズが変装した姿として登場する10人の「ホームズズ」たち、001(老人)天月翼、002(老婆)愛すみれ、003(牧師)叶ゆうり、004(水夫)紀城ゆりや、005(阿片窟の男)蒼波黎也、006(馬丁)絢斗しおん、007(物乞い)夢翔みわ、008(司祭)霧乃あさと、009(配管工)風立にき、010(船長)苑利香輝それぞれに、ドラマへの有機的な絡みがもう少しあれば尚アイディアが生きただろうという点だが、彼らを率いる朝美ホームズのショーアップした場面の楽しさは宝塚作品ならではのものだった。

「ストランド・マガジン」の編集長ハーバート・グリーンハウ・スミスの和希そらは、世界を虜にする雑誌を作りたい、「溺れそうになるくらい、俺にはデカい夢がある」ハーバートの、こちらもまた一種の天才の奇矯を持った人物を、にべもない傍若無人な態度で演じている。それでいて、その夢の請負人になるドイルに、ドル箱作家として以上の思いで伴走していく誠実さもきちんとにじませるのが、演技巧者の和希ここにあり。単に歌が上手いだけではない、男役としてこれ以上ないと思うほどの美声でストーリーを聞かせる歌声も相変わらず心地よい。それだけに「今日限りで退職させてもらいます、探しに行くんだ第二の夢を」は、この公演を最後に卒業した和希の為の餞の台詞とわかりながらも、鼻の奥がツンとくるシーンで、オーナーのジョージ・ニューンズの真那春人、副編集長のウィリアム・ブートの諏訪さき、挿絵画家の兄弟シドニー・パジェットの眞ノ宮るいとウォルター・パジェットの咲城けい、編集部で一番若いアーネスト・グレイスの聖海由侑、そしてどうやらハーバートと良い関係らしいビアトリス・エリザベス・B・ハリスンの音彩唯と、雪組が誇る演技派と若手が勢ぞろいしている編集部員たちが、チーム芝居のなかでそれぞれの個性を発揮しつつ、必死でハーバートを止める姿に共感しきりだった。

間接的にドイルとホームズを引き合わせるミロ・デ・メイヤー教授の縣千は、ドイルが晩年傾倒を深めた心霊現象への関心を、ここに持ってきた生田の作劇の面白さが光り、縣も色濃い演技でうさん臭さを秘めた人物をよく演じている。ただ、雪組にとって非常に大切な男役スターであることと、後述するショーでも色変わり的な役柄が来ていることもあって、メイヤー教授が生き方を変える件では、ヘアメイクもスッキリさせても良かったように思う。これは宝塚歌劇の二枚目男役のキャスティングとしてかなり重要な部分なので、各スタッフに是非研究をお願いしたい。そういう宝塚としてという意味あいにおいても、メイヤー教授が活躍する場面で、霊媒師エステル・ロバーツに沙羅アンナ、その霊媒師に騙されかけるリリィ・クルックス嬢に琴羽りりと、この公演で卒業したメンバーに目を引く役柄を用意した配慮は嬉しい。二人に絡むアンナ・クルックス夫人の杏野このみもいつながら美しい娘役だ。

その「心霊現象研究協会」にドイルを招じ入れることになる保守党議員アーサー・バルフォア卿の華世京は、劇中大蔵大臣にまで出世する役柄を、若い華世が演じているのに驚かされるが、代々の世襲議員として誉高い家系なのかな?とこちらが補完したくなる存在感が作品に爽やかな風を吹かせている。こうした役柄を堂々と見せてしまうことに華世の高いスター性を感じるし、新人公演で主演したドイル役でも「人生の主」を歌うシーンが最も本人の資質を生かしていて、王道の次世代ホープとして眩しい。協会会長ヘンリー・シジヴィックの透真かずき、古典文学教授フレデリック・マイヤースの久城あす、物理学者オリヴァー・ロッジ卿の麻斗海伶、哲学者ウイリアム・ジェイムズの稀羽りんと、冒険家アルフレッド・ウォラース紗蘭令愛と、多くのメンバーが書き分けられているのもいい。

また、ドイルが名声を得たいもうひとつの理由として、バラバラになった家族とまた共に暮らしたいという夢を描いているのも彩風のドイルに相応しく、その求めに応じる二人の妹ロティ・ドイルの野々花ひまりが兄の想いを真っ直ぐに受け止める姿を、コニー・ドイルの華純沙那が自分で築いてきた暮らしを捨てることに僅かにこだわりを示す惑いを、双方愛らしさを込めて演じていて目を引く。更に、既に別の生き方を見つけている母メアリ・ドイルの妃華ゆきの、彼女を支えてきたブライアン・チャールズ・ウォーラーの桜路薫、そして少ない出番で名声を得たドイルの人生を妨げないようにと、敢えて悪態をつく父親チャールズ・ドイルの奏乃はるとが、それぞれの人生をよく表現して、作品に陰影を与えていた。

何よりも、本を基調にしたファンタジー味のある國包洋子の、近年の絶好調ぶりを感じさせる装置が美しく、斉藤恒芳の音楽、加藤真美の衣装と共に「物語」にフォーカスした作品を支えたスタッフワークと、キャストたちに拍手を贈りたい舞台だった。

そこに続くWinter Spectacular『FROZEN HOLIDAY(フローズン・ホリデイ)』-Snow Troupe 100th Anniversary-は、雪組誕生100周年の祝賀を込めた野口幸作作・演出によるスペクタキュラー・シリーズ第6弾となるショー作品。世界中から宿泊客が集まってくる秘境のホテル“FROZEN HOTEL(フローズン・ホテル)”を舞台に、ここに伝わる100年に一度花を咲かせる“雪の花”と、その開花を見た恋人たちは永遠に結ばれるという伝説が生み出す恋人たちの姿を、クリスマス・イヴから、ニュー・イヤーにかけて描いていく。

この作品の大劇場上演時がクリスマスシーズン、東京宝塚劇場公演が新年で、特に2月上旬まで続く東京公演で、クリスマスとニュー・イヤーに多くが特化されているショーというのはどう映るだろう、とわずかに案じてもいたのだが「FROZEN HOTEL」が迎えるクリスマスから新年という、いわば劇中劇的なしつらえが施されていたことで、懸念したような違和感がなく、劇中の賑やかなクリスマスと新年を長く味わえる、どこかここでだけ美しい時間が止まっているような、宝塚歌劇そのものに通じる感覚があったのが嬉しい。彩風がホテルの支配人、夢白がTAKARAZUKA REVIEW COMPANYのスター、朝美がサンタクロースJr.、和希が神父等々、それぞれがチームに分かれているストーリー性があるのも物語のようにショーを観られる利点がある。
ただ一方で、ここでもWINTER JAZZ DJとのことで縣がサングラスにレゲエ風のいで立ちなのはやはり疑問で、二本立ての興行が基本の宝塚としては、双方の作家に同一のキャストの役柄のカラーがかぶらないよう是非打ち合わせをして欲しいし、諏訪と野々花の連獅子と曽我十郎五郎の眞ノ宮、咲城。クックボーイの紀城、華世、クックガールの音彩、華純らも含め、キャラクターに入った面々が固定されていることで、七変化を楽しめる醍醐味のショー作品としては、やや面白味を欠いてしまう側面もあり、もう少しキャラクターがわかる範囲で衣装を変えても良かったかもしれない。同様に鏡を使って舞台上に大人数がマスゲームのように雪の結晶を描き出す場面もアイディアとしては大変面白いが、宝塚は人を見る芸能でもあって、特にこのシーンの前三分の一には朝美、後ろ三分の一にはトップコンビの彩風と夢白が共に出ていることを考えると、もう少し早く彼女たちだけの場面である鏡のシーンで、客席に顔が見える演出と振りをつける配慮が欲しかった。

とは言え、いよいよ100周年の幕開けニュー・イヤーの和のテイストを取り入れた場面は実に颯爽としてかつゴージャスだし、どんなに辛く切ない時代のなかでも、舞台の幕を開け100年の歴史を紡いできた先人たちの偉業を語り継ごうという思いが、ミュージカル界のヒットメイカー、フランク・ワイルドホーンが書き下ろしたオリジナル曲「SNOW FLOUR WILL BLOOM」に集約される、美しいレビューシーンはまさに全体の白眉。震災も入れて欲しいという気持ちこそ残るものの、野口のストレートな心を綴った歌詞が、ワイルドホーンの常の迫力と強さいうよりも、柔らかさを前に出した温かいメロディーに乗って歌われる様は、雪組100周年の何よりのセレブレーションとなった。

また、ショー全体のフェアウェルパーティと位置付けられたフィナーレの大階段を用いたダンスも三井聡の振付に新味があり、彩風&夢白の息のあったコンビぶり、サンタクロースやDJ.からこれぞ二枚目に変化した朝美、縣など雪組の面々の顔もよく見える名シーンで、フォーメーションの面白さも際立った。

そんななかで、大晦日から新年が明ける場面で、神父姿から引き抜きの純白の衣装で惜別のダンスと歌を披露した和希の場面がやはり忘れ難い。歌、ダンス、芝居と全てに秀でた実力派で、雪組に組替え後には組の中核を担う存在となっていた和希のここでの退団はある意味青天の霹靂で、どうしていまなのか、これから更に男役としての働き場が増えていくところではないか、との思いが残っていないと言ったら嘘になる。だが、千穐楽で見せてくれた晴れ晴れとした表情には、それこそ第二の夢を追いかけに行くんだなという前向きな清々しさがあり、この活躍を見る為に私たちは「男役・和希そら」に別れを告げたのだと、納得できる発表を心待ちにしながら、第二の夢に幸多かれと祈りたい。

また、その和希とかなり異例に思える、ラストダンスも踊ったトップスターの彩風咲奈も、トップスターとしての期限を定めたことを発表していて、演目の関係でおそらくはこの大羽根が思い出になるだろうだけに、その姿をいつまでも目で追っていたが、大羽根に勝るとも劣らないキラキラした姿と、やはりどこまでも温かい彩風の発するオーラが、東京宝塚劇場の空間を覆いつくす様は、ただただ美しいものだった。今年こんなにも大きな人事が続くのは予想も気持ちのキャパシティも超える事態で、心の整理が追いつかないファンがどれほどいることかが案じられてならないが、それでもいま雪組が無事に100周年のセレブレーションを千穐楽まで駆け抜けられたこと。あの2月11日までの時間にしかなかった雪組の舞台が、様々なかたちで共にあった人たちの記憶に残り続けることを心から願っている。

【公演データ】
宝塚歌劇 雪組公演
Happy“NEW”Musical『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』-Boiled Doyle on the Toil Trail-
作・演出◇生田大和
Winter Spectacular『FROZEN HOLIDAY(フローズン・ホリデイ)』-Snow Troupe 100th Anniversary-
作・演出◇野口幸作
出演◇彩風咲奈 夢白あや ほか雪組
●1/3~2/11◎東京宝塚劇場

【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!