野球への愛を描く傑作が再演! 舞台『野球』 西田大輔・川原和久 インタビュー

舞台『野球』飛行機雲のホームラン~Homerun of Contrailが、6月22日(土)から東京・天王洲 銀河劇場で再演される。(30日(日)まで。そののち7月6日(土)・7日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼで上演)2018年に初演された本作は、第二次世界大戦中、日本で“野球”に憧れを抱き、白球を追いかけた少年たちの物語。

【あらすじ】

1944年、夏。グランドでは、野球の試合が繰り広げられていた。甲子園優勝候補と呼ばれた伏々丘商業学校と、実力未知数の有力校、会沢商業高校の試合である。戦況が深刻化するなか、敵国の競技である野球は弾圧され、少年たちの希望であった甲子園は中止が宣告された。兵力は不足し、学生たちには召集令状が届く。甲子園への夢を捨てきれず予科練に入隊した少年たちは、”最後の一日”に出身校同士で紅白戦を行う。

「たとえあと一球でもいいから投げていたい。時間があるなら何度でも。」

野球を心から楽しみ、仲間を思い、必死で白球を追う少年たち。それぞれの思いがグランドを駆け巡るなか、最後の試合が幕をあける──。

初演に引き続き、作・演出を務める西田大輔と、今回初出演となる川原和久に、作品の魅力や両氏の関係性を聞いた。

西田大輔・川原和久

思い切って声をかけさせていただきました!

──2018年に初演されて、待望の再演です。

西田 この物語は、いわゆる甲子園が1つのキーワードになっているので、高校生たちがやり直しがきかないのと同じように、初演で選手を演じてくれた俳優たちにも「1回きりだ」と伝えていたんですね。なので、もし再演があったとしても選手は全員違うメンバーで上演することを決めていました。そういう意味で、また新たな夏が始まる感じがします。

──その作品に今回、川原さんが出演されますね。

西田 はい。畏れ多いのですが、僕自身がお芝居を始めた頃、川原さんも所属していた劇団ショーマの児島功一さんに舞台に出演していただいたことがあったんです。そのご縁で、川原さんが舞台を観にきてくださって、飲みにも連れていっていただいて。今だから話せるんですけど、当時、近しい先輩方はたくさんいたんですが、みんな鬼ほどダメ出しをしてくるんですよ。当時は僕も若かったから「何クソ!」と思っていたところもあったんですが、そんな中で川原さんはダメ出しではなくて、「こうだったら面白いな」とか「ここが面白い」とかポジティブな話をしてくださって。格好いい先輩なんです。

川原 え、俺、べろべろに酔っぱらっていなかった?(笑)

西田 結果的には(笑)。そんなこともあったので、今回、憧れの先輩であり俳優さんである川原さんに思い切って声をかけさせていただきました。

川原 俺の舞台は観たことないよね? 

西田 いや、高校生のときから観ていますよ!演劇集団キャラメルボックスでのお芝居も、劇団☆新感線でのお芝居も……!

川原 そうなんだ。いや、その飲み屋の思い出だけでキャスティングして、いざ稽古場に来たら「この人、なんでこんな芝居ができないんだ?!」とかならないといいなと思ってね(笑)。

──オファーが来たとき、川原さんはどう思いました?

川原 もちろん西田くんのことは覚えているし、最近はフィールドを変えて活躍しているのも知っていました。まぁちょっとフィールドが違いすぎて、作品は観に行けていないんですけどね。一言言ってくれればいいのに、事務所経由でいきなりオファーがあって(笑)。まぁ僕のスケジュールも空いていたし、自分の刺激になるかなと思ってね。僕が観てきた西田くんの芝居は、若さゆえ荒削りな部分もあったけれど、どこかうちの劇団と似ているところもあったから。今回、ぜひやらせてもらおうと思いました。

俳優たちにはどちらが勝つかを教えずに

──川原さんは舞台出演が4年ぶりだそうですね。

川原 そう。4年前に出て、その前もまた4年前で、その前は覚えていないくらい。7ヶ月拘束のドラマを撮影しているから、どうしても舞台出演の声がなかなかかからなくて。そんな中で声をかけてくれたから、応えたいなと思いました。久しぶりだから緊張するということはないけども、改めて座組を見ると、知り合いが誰もいない(笑)。もう西田くんを頼るしかないですね。

──脚本をお読みになった感想を教えてください。

川原 正直、まだしっかり読み込めていないけれど、なかなかこの本を舞台上でやるのは大変だなと思いました。劇団ショーマもAND ENDLESSもそうでしたけど、まるで映像のカット割のように舞台を展開させていく手法をとるのかな? それから、登場人物がまた多くて! 脚本を読むときに、きちんとホームベースから一塁二塁……と人物名を入れて、読みましたもん(笑)。字で見るとなかなか人物関係を掴むのが難しかったですけど、きっと西田くんは舞台で見て1回で分かるように演出されるんでしょうね。

──西田さんは本を書かれている段階で演出も思い浮かべられていたと思うんですけど、前回の稽古はどう進めていったのですか?

西田 この話を作ったときの出発点は、甲子園が中止になった年があって、“最後の一日”にただ野球がしたいという思いを持っている少年たちがいたということだけだったんですね。

だから稽古も脚本は1回表と裏だけ渡して、稽古を進めていたんです。で、その1回の表と裏が終わったら、 2回の表と裏の脚本を渡して。

川原 なるほど。俳優たちは先を知らなかったんだ。

西田 はい。僕自身はどちらが勝つか決めてはいたんですけど、俳優たちのお芝居や彼らの予想も見て、裏の裏を考えたりしながら最後まで進めていったんですよ。

川原 うわ~よかった、初演に出てなくて(笑)。それだと、稽古が半年ぐらいかかるんじゃない?

西田 いや、1ヶ月でやりました。

川原 それは(前回出演していた)藤木(孝)さんにも渡さずに?

西田 藤木さんには概要をお話していました。当時、僕は初めて藤木さんとお仕事させていただいて、藤木さんは僕のことを「監督」と呼ばれるんですけど、「監督、これは楽しいね」と仰っていて。その姿を今でも覚えています。…まぁ結局のところ、どちらに転んでもな話なので、逆にだんだん最後の方はみんな本当に一喜一憂するんですよね。

川原 斬新だね。

西田 今回も大まかな流れは変えないのですが、でも人が変われば物語が変わるので、すごく楽しみにしています。

川原 確かに人が変わるとやっぱり芝居は変わるよね。初演の映像を資料として見せてくれると聞いているんだけれど、僕としては見なくてもいいのかなと思っている。同じ役でも僕と藤木さんとでは役の捉え方も、関わり方も、年齢も違うだろうし、他のみんなもそれぞれ個性を持った方でしょうから。

川原さんから「ここを伸ばしたら」という捉え方を

──お二人は日本大学藝術学部演劇学科の先輩と後輩でいらっしゃると聞きました。改めてお二人の関係性を教えてください。

西田 僕は俳優として、川原さんが所属していた劇団ショーマに出させていただいたことがあって。当時、川原さんがお忙しくて、僕が川原さんがやられていた役をやらせていただいたんですね。『逃亡者たちの家』という作品だったんですが、それが素晴らしい役で…!  それで川原さんが稽古を見にきてくださって、稽古終わりに飲みにいったんです。物語の中ですごく重要な役だったので、川原さんに怒られるのかなと思っていたんですが、あるシーンをとりあげて「あそこでコートをパッと翻してハケたら格好いいぞ」とだけ言ったんですよ。なんて格好いい人だろうと思いました。僕は演出家としていろいろなお芝居をやっていて、人を良く見せるのが僕の仕事。「ここが良くない」とダメ出すのではなくて、「ここを伸ばしたら」という捉え方は、川原さんの言葉から自然と教わった気がするんですよね。

川原 いや、それは多分できていらっしゃったんだと思いますよ。だから、僕もそれぐらいしか言えなかったんでしょう。…ただ僕はキャラクター的に「ぞ」とは言っていないと思う。「格好いいよ」だと思う(笑)。

──川原さんは西田さんのことをどう見ていらっしゃいますか?

川原 僕は、演出家としての彼は作品でしか見たことがないので、現場でどういうやり方をするんだろうというのは興味がありますね。いろいろな演出家さんとやらせてもらってきましたけど、それぞれみなさん素晴らしい方々ばかりで。中には「ちょっとここは…」という方もいましたけど(笑)、それはそれでその人の持ち味だと思うんです。僕と世界観が違うかもしれないけれど、作品の稽古中はその演出家の世界観の中で遊ばせてもらっているわけだから、いろいろな乗り物に乗らないと損じゃないですか。きっと西田くんという遊園地にもいろいろな乗り物があるでしょうから、たくさん乗って試してみたいと思います。俳優としての西田くんは、もう要らんことをするな~と思ったこともあるけれど(笑)、一番笑いをとって、一番いい芝居をしていたんですよね。周りの俳優さんに失礼かもしれないけれど、AND ENDLESSの中では抜きん出ていたなと思います。

──最後に観客のみなさんへメッセージをお願いします。

西田 ただ純粋に野球をやるというコンセプトの舞台なんですけど、たとえ野球のルールを知らなかったとしても、そのときを一生懸命生きた人たちがいて、何か胸に響くものがあると思っています。ぜひ劇場にいらしてください。

川原 今回の座組は、僕の知らない世界の若い俳優さんたちが多いんですが、みなさんちゃんとした考えも持っているから、もちろん稽古も手を抜かないだろうし、一生懸命楽しんでやるんだろうなと思うんです。僕もみなさんから遅れを取らないように努めていきたい。そこでまた面白い変化があったらいいですね。ぜひ観に来ていただければと思います。

西田大輔・川原和久

【プロフィール】

にしだだいすけ○東京都出身。1996年にAND ENDLESSを旗揚げ。以来同劇団の全ての作・演出を手掛ける。2003年、演出家としては26歳の史上最年少で新宿・紀伊國屋サザンシアターで公演。2005年には初の戯曲本「FANTASISITA」を出版した(論創社より)。2015年DisGOONie設立。自ら殺陣をつけるなどアクションやダンスを取り込んだ見応えのある演出に定評がある。近年の主な舞台はミュージカル『薄桜鬼』 舞台『憂国のモリアーティ』 舞台『ヴィンランド・サガ』 など。

かわはらかずひさ○福岡県北九州市出身。大学在学中の1982年に「劇団ショーマ」に参加。以降、同劇団の看板俳優として殆どの公演に出演。近年の主な出演作は、ドラマ『相棒』(テレビ朝日系列)、『ソロ活女子のススメ3』『ひねくれ女のボッチ飯』(テレビ東京)、『BARレモン・ハート』(BSフジ)、『半沢直樹』(TBS系列)、映画『相棒シリーズ X DAY』、舞台『めんたいぴりり~未来永劫編』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』ほか。

【公演情報】

舞台「野球」飛行機雲のホームラン ~ Homerun of Contrail

作・演出:西田大輔  

野球監修:桑田真澄 

音楽:笹川美和

出演:橋本祥平・中村浩大・財津優太郎・西銘駿

健人・大隅勇太・結城伽寿也・大崎捺希・大見拓土・相澤莉多・瀬戸啓太

猪野広樹・傳谷英里香・村田洋二郎

川原和久  

●6/22~30◎東京公演 天王洲 銀河劇場

●7/6・7◎大阪公演 サンケイホールブリーゼ

〈料金〉9,900円(全席指定・税込・未就学児童入場不可) 

〈お問い合わせ〉

東京公演お問い合わせ:

公演事務局:https://supportform.jp/event(平日10:00~17:00)

※お問い合わせは24時間承っておりますがご対応は営業時間内とさせていただきます。

 なお、内容によってはご回答までに少々お時間をいただく場合もございますので予めご了承いただけますようお願い申し上げます。

大阪公演お問い合わせ:

キョードーインフォメーション:0570-200-888(平日・土曜11:00~18:00 ※日祝休み)

〈公式サイト〉https://homerun-contrail.com 

〈公式X〉@Contrail_St

【取材・文/五月女菜穂 撮影/中田智章】

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