松竹創業百三十周年「壽 初春大歌舞伎」歌舞伎座で上演中!
歌舞伎座で1月2日に1月公演、松竹創業百三十周年「壽 初春大歌舞伎(ことぶきはつはるおおかぶき)」が初日の幕を開けた。時代物の名作から新作まで多彩な演目が揃い、初春にふさわしい華やかな舞台を堪能できる。
松竹創業130周年を寿ぎ、初春にふさわしく華やかな演目が並ぶ歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」。昼の部の幕開きは、初春の吉例、歌舞伎の様式美溢れる『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』。
鎌倉時代に実際に起きた曽我兄弟の仇討ちの物語は、江戸歌舞伎で初春の吉例として上演された祝祭劇で『寿曽我対面』はその集大成とされ、時代を超えて親しまれている。
源頼朝の重臣・工藤祐経(中村芝翫)の館で催されている祝宴に、小林朝比奈(尾上右近)の手引きで曽我十郎(中村米吉)と曽我五郎(坂東巳之助)の兄弟が対面を許されてやって来る。父の仇を討とうと逸る五郎が、工藤に詰め寄ると…。
平成元(1989)年巳年生まれの年男・坂東巳之助が五郎、女方として進境著しい中村米吉が初役で十郎を勤める初春にふさわしい清新な配役。昨年まで「新春浅草歌舞伎」の主要メンバーとして活躍した巳之助と米吉の二人が同世代の坂東新悟、尾上右近らと共に初春の歌舞伎座で序幕をつとめる注目の舞台。花道から米吉の十郎に続き、巳之助の五郎が登場すると場内は大きな拍手に包まれ、仇の工藤を前に怒りに燃える五郎の力強い声が歌舞伎座に響き渡った。
続いては、平成25(2013)年の歌舞伎座新開場杮葺落で新作歌舞伎として上演した『陰陽師(おんみょうじ)』が、好評を博した配役を中心に装いも新たに登場。
夢枕獏の大人気シリーズより、荒武者・藤原秀郷(俵藤太)が大立廻りで魅せる『大百足退治(おおむかでたいじ)』と、陰陽師・安倍晴明とライバル・蘆屋道満の対決に、恋に破れて生成りの鬼と化す美しい姫の心に晴明の相棒・源博雅の笛の音が響く『鉄輪(かなわ)』を上演。
[大百足退治] 武勇の誉れ高い藤原秀郷(尾上松緑)が近江の国、琵琶湖にほど近い三上山に出現するという化け物退治の勅命が下り、化け物の正体である大蜈蚣の魂魄(坂東亀蔵)と対峙し…。
初演に引き続き、藤原秀郷を勤める松緑。花道から登場すると、その圧倒的な存在感に場内からは「音羽屋!」「紀尾井町!」の大向うが。大百足との大立廻りを魅せ、さらに今回の再演で新たに登場した坂東亀蔵演じる大蜈蚣の魂魄との対決では、荒々しくも美しい見得の数々が極まる。松緑の魅せる花道の引っ込みは、大きさと勢いのある六方で初春の歌舞伎座を沸かせた。
[鉄輪] 朧の月夜、源博雅(中村勘九郎)が吹く笛の音を慕う徳子姫(中村壱太郎)は、やがて愛する男に裏切られ、蘆屋道満(松本白鸚)の妖力により生成りの鬼と化していた。安倍晴明(松本幸四郎)が呪の解明に乗り出し、遂には道満との対決が迫り…。
松本幸四郎演じる安倍晴明と、中村勘九郎演じる源博雅の二人が12年ぶりに歌舞伎座の檜舞台に帰ってきた。前回は夢枕獏の長編小説「陰陽師 瀧夜叉姫」を原作とした新作歌舞伎だったが、今回は短編「鉄輪」と長編「陰陽師 生成り姫」を原作として夢枕獏が脚本を執筆した創作舞踊を基にした新たな上演。/
原作が異なるとはいえ、幸四郎の晴明と勘九郎の博雅が舞台に登場すると、客席からは「待ってました!」とばかりに晴れやかな拍手が。今回の上演では、笛の名手・博雅の笛の音が大きな役割を果たし、壱太郎の徳子姫の心に響きます。妖しさに満ちた晴明のライバル・蘆屋道満を勤める白鸚が遂に舞台に登場し、白鸚・幸四郎による親子対決に、客席は割れんばかりの拍手に包まれた。幸四郎の晴明、勘九郎の博雅のコンビがまたひとつ新たな『陰陽師』の舞台を創り出した。
そして、男女の悲恋の物語を描いた上方和事の代表作『封印切(ふういんきり)』。
大坂の飛脚問屋・亀屋の養子忠兵衛(中村鴈治郎/中村扇雀)は、傾城梅川(片岡孝太郎)と深い仲。梅川の身請けに必要な金が用意できずにいるところへ、丹波屋八右衛門(中村扇雀/中村鴈治郎)がやって来て忠兵衛の悪口を言い立てる。耐え兼ねた忠兵衛は、懐にある公金の封印を切ってしまい…。
明治から昭和にかけて活躍した名優・初代中村鴈治郎の当り役を集めた「玩辞楼十二曲」のひとつを、初代鴈治郎の曾孫にあたる鴈治郎(2~14日)と扇雀(15~26日)の兄弟が日替りで勤める話題の舞台。初日は鴈治郎の忠兵衛、扇雀の八右衛門で、孝太郎の梅川と共に、上方歌舞伎の匂いを初春の歌舞伎座に漂わせた。
夜の部は、戦乱の世の無常が胸を打つ、時代物の名作『熊谷陣屋(くまがいじんや)』から。
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「平家物語」の世界を大胆に脚色した義太夫狂言の名作で、熊谷直実の武将としての生き様、そして戦乱ゆえの悲劇が描かれる。
源平争乱の時代。自らの陣屋に戻った源氏の武将・熊谷直実(尾上松緑)は、妻の相模(中村萬壽)に息子小次郎の活躍と、平家の公達敦盛を討ったことを明かします。そこへ恩義ある敦盛の母藤の方(中村雀右衛門)が現れ、やがて源義経(中村芝翫)による敦盛の首実検が行われると…。
武将としての猛々しさから親としての悲しみと無念さをじっくりと魅せた初役の松緑。客席からはすすり泣く声も漏れ、人生の儚さが胸を打つ時代物のひと幕に温かな拍手が送られた。
続いては、美しくて儚い幻想的な舞踊『二人椀久(ににんわんきゅう)』。
傾城の松山太夫(中村壱太郎)に入れ揚げた、大坂の豪商・椀屋久兵衛(尾上右近)。座敷牢に繋がれた久兵衛は、松山に逢いたい一心から牢を抜け出し、彷徨います。美しい月の光に照らされて、忽然と現れた松山。久しぶりの再会を喜び合い、逢瀬を楽しむ二人だったが…。
月の光に照らし出される椀屋久兵衛(椀久)と松山太夫の二人。数々の名コンビが上演してきた歌舞伎舞踊の名作を、今回は尾上右近の椀屋久兵衛、中村壱太郎の松山太夫という清新な組み合わせで。
事前に行われた取材会で右近は「二人なりの『二人椀久』をお届けして、観に来てよかったと思ってもらえるよう心して取りかかりたい」と意気込み、壱太郎は「松と月のみのシンプルな舞台で、どれだけ美しい世界をつくれるか極めていきたい」と公演に向けた抱負を語っていた。
昨年1 月歌舞伎座では女方舞踊の大曲『京鹿子娘道成寺』を日替りで勤めた二人が、今年は舞台上に揃い艶やかな姿を魅せると、客席からは盛大な拍手が送られた。
新春にふさわしく多彩な演目が並ぶ「壽 初春大歌舞伎」。夜の部は、華やかな新作歌舞伎『大富豪同心(だいふごうどうしん)』で打ち出しとなる。
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原作の幡大介の時代小説は、累計100 万部を超える人気シリーズ。大富豪の若旦那が同心となって難事件を解決する爽快さが話題を呼び、令和元(2019)年よりNHK のBS 時代劇としてドラマ化され、主役の八巻卯之吉と幸千代の二役を中村隼人が演じている。このたび、新作歌舞伎として上演される『大富豪同心』では、ドラマと同じ二役を隼人が勤めることも話題。
江戸随一の豪商・三国屋徳右衛門(中村鴈治郎)の孫、八巻卯之吉(中村隼人)は放蕩三昧。見兼ねた徳右衛門が金に物を言わせて、卯之吉を同心として働かせるが、腕っぷしも弱く、刃物を見ると気絶するほど、見事に頼りない。一方、病に伏した将軍家政は弟・幸千代(中村隼人)を江戸へ呼び寄せる。いつものように幇間の銀八(尾上右近)を伴い遊び歩く卯之吉が、新年を迎えた八幡様にやってくるとそこには瓜二つの男がいて…。
隼人は事前に行われた取材会で「僕の役者人生に大きな影響を与えた作品ですので、とにかく妥協なく全身全霊でいいものをつくりたい」と意気込みを語っていた。隼人は卯之吉と幸千代、瓜二つの人物を早替るという歌舞伎では珍しい早替りをテンポよく見せ、映像とは異なる舞台化ならではの早替りの演出で客席を沸かせた。
卯之吉の恋人の美鈴を中村壱太郎が生き生きと演じ、殺気ある清少将を坂東巳之助が妖しく、幇間の銀八を尾上右近が賑々しく、将軍・徳川家政を坂東新悟、幸千代の許嫁・真琴姫を中村米吉が勤めるなど花形が活躍し舞台を盛り上げた。
歌舞伎座で初演出となる松本幸四郎は、卯之吉を慕う親分・荒海ノ三右衛門でも登場し、要所要所で笑いを誘い、中村鴈治郎が卯之吉を溺愛する三国屋徳右衛門を自在に演じる。市川中車、中村亀鶴、市川猿弥、市川笑也、市川笑三郎らがしっかりと持ち場をつとめると客席も大盛り上がり。現役最高齢94 歳の市川寿猿が舞台復帰を果たし、「無事に病が治って、お客様、ありがとうございます。お客様は神様!」とよく通る声でハッキリと喋ると場内からは大きな拍手が起きた。
演出と振付を担う尾上菊之丞が「楽しい気分でお帰りいただけるような踊りをお見せしたい」と取材会で述べていた通り、最後は出演者による総踊りで盛り上がりました。気軽に楽しめる娯楽時代劇の誕生、続編に期待が高まる。
松竹創業百三十周年「壽 初春大歌舞伎」は2日から26日まで、歌舞伎座で上演中。
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/921