戦後80年の夏に届ける『あゝ同期の桜』まもなく開幕! 中山優馬インタビュー

彼らの死生観を自分なりに理解して届けたい
戦後80年という今年の夏にこそ届けたい物語が、錦織一清・演出、中山優馬・主演で、大阪公演が7月26日に IMPホールにて幕を開ける。(27日まで。そののち8月13日〜19日、東京・三越劇場にて上演。)
榎本滋民による名作『あゝ同期の桜』をもとに、学徒動員の父と戦地に赴いた伯父を持つ錦織一清が、原本の遺稿集である海軍飛行予備学生14期会や、その後の15期生を自ら取材し、後世に伝えるべきとの強い信念から、青春群像劇『あゝ同期の桜』として立ち上げ、20215年と2016年、2024年に上演、今回が四度目の公演となる。
家族や故郷、国のため、尊い命を投げ出した若者たちは、どんな思いで貴重な日々を送り、残された者たちに何を伝えたかったのか──。
この舞台で、主人公の諸木を演じる中山優馬が、作品への思いや、10代からその背中を見てきた先輩・錦織一清について語る。(えんぶ8月号より転載)
坊主頭の中山優馬を見て「あ、諸木がいた!」
──中山さんは、今回の演出を手がける錦織さんの舞台には、以前から出演したいと思っていたそうですね。
同じ事務所の大先輩で、板の上に立つ姿に憧れを持って拝見していました。そして錦織さんが、俳優だけでなく演出も手がけられるようになったので、いつか自分も出演させていただく機会があればいいな、と思っていました。
──この作品は2015年に初演されていますが、その上演のすぐ後に、錦織さんが他の作品で坊主頭になっていた中山さんとばったり出会って、「出てもらいたかった!」とおっしゃったそうですが。
そうなんです。「諸木がいた!」と。それもあって今回この作品への出演が実現したのは本当に嬉しいです。もちろんこの舞台も拝見していましたし、錦織さんの演出ということに加えて、戦後80年という節目の年での公演ということもあり、ぜひ出演させていただきたいと思いました。
──作品の内容についてはどんなふうに感じていますか?
物語の中に出てくる「神風特攻隊」のことは僕も知ってはいましたが、特攻という形で散っていった人たちはどういう思いで出撃していったのだろうか、そして当時の日本はどういう国だったのか、そこはもっとちゃんと知っておいたほうがいいし、風化させてはいけないと思っています。それに映像でも沢山扱われてきた題材ですが、演劇で表現するということがとても意味があると思っていて、生の人間が目の前で出すエネルギーだからこそ伝わるものがあると思っています。この舞台には、ほとんど人間しか出てこないのですが、その会話や彼らが作り出す雰囲気から、あの時代や空気なども見えてくるし、沢山のイマジネーションを、観ている方たちに受け取ってもらえると思っています。
特攻最後の犠牲者とも言われている14期
──中山さんが演じる諸木という役は、官立大学を主席で卒業した優秀な人ですが、演じるうえで何を芯にしようと思っていますか?
「欲」です。諸木は秀才で知識欲に溢れていて、戦争のことを語る時間があるなら本を1冊でも読んでいたいという人間なんです。でもその知識をどこにどう生かしていくのか、そんな未来なんてあるのか、でもそれは口には出さずに、なんとかもっと知識を得て、その知識で見る世界を想像したりする。それは逆に言えば、そういう欲を持ち続けることで、自分をなんとか保っていた部分もあるのかもしれません。
──そういう人が若くして命を散らしていく姿は、年齢も近い中山さんとしても、いろいろ感じるところはあるでしょうね。
諸木たちは海軍飛行予備学生の14期生で、特攻最後の犠牲者とも言われています。敗戦が濃厚になってきた時期で、予備学生という立場なので訓練期間も短いまま特攻機に乗せられて突っ込んでいったんです。今の時代からみると愚かなことに思えますよね。でもその時代はそれしか国を守る方法がないと思っていたし、それが大義だった。ただそんな彼らにも喜びや悲しみもあったし、死ぬことへの恐怖もあったと思います。そして最終的にはそれを乗り越えて、覚悟を決めて使命をまっとうした。そんな彼らの死生観は自分なりにちゃんと理解して、観ている方たちに伝えたいなと思っています。
──作品の上演にあたって、このカンパニーの皆さんで靖国神社にも奉納に行かれたそうですね。
実はその前の晩、祖母が亡くなりまして。大往生でしたからそのことはそんなにショックではなかったのですが、祖母の死の翌日に、靖国でこのお芝居の一部を奉納することが決まっていた、そのことになにか運命的なものを感じました。祖母は95歳でしたから終戦時は15歳で、そう考えると少女時代の祖母を護ってくださった方たちが眠っている場所で、そこでこのお芝居を奉納することができた。葬儀には参列できなかったけれど、祖母にもしっかりやりなさいよと背中を押された気がします。

戦争は愚かなことと伝え続けるためにも
──俳優としての中山さんのお話も伺います。早い時期からキャリアを積んできましたが、芝居をすることのどこに惹かれますか?
やはり自分ではない人間になれることですね。それによって自分自身の可能性も広げられると思っているんです。体験して初めてわかることがあって、毎回どの役も初めて体験することや発見することばかりなんです。だからもっと色々な役に出会って、もっと知らない体験をしたいです。
──最近も古典悲劇の『血の婚礼』から、コメディ風の『大誘拐』や『いただきます! 〜歌舞伎町伝説〜』など、出演するジャンルもどんどん広がっています。
僕自身がジャンルを問わずお芝居を観ることが好きですし、お芝居に力をもらっているんです。虚構の世界なのに本当に心を動かされてしまう。自分もそういうお芝居をしたいし、そのことで誰かに力を与えることができたらといつも思います。
──今回いよいよ錦織さんの演出を受けることについてはいかがですか?
錦織さんはお芝居も歌もダンスもトップ・オブ・トップの方ですから、17歳で初めて共演させていただいたときはすごく緊張しました。でもとても温かくて、稽古場もいい雰囲気の中で作品作りを進めていく方という印象が残っています。演出家としては、その作品を客席から拝見するだけでしたが、今回は稽古場で俳優の皆さんを導いていく姿や、舞台というものへの思いなどもそばで知ることができるのではないかと思うと、とにかく楽しみです。
──最後にこの舞台を観てくださる方へメッセージをいただけますか。
演劇はお客様からパワーを注ぎ込んでもらえるところで、そこでしか味わえない空気があります。今回の作品は舞台芸術としては本当にシンプルですが、生々しい人間がそこにいます。実際に起きた日本の話であり、その中で登場人物たちが何に歓喜し、何に感動し、何に恐怖して、最後に何を思って散っていったのか。そこは時代は違ってもわかり合える気持ちが渦巻いていると思います。やはり戦争は愚かなことである、それを伝え続けるためにも、この作品を観ていただきたいです。暑い最中ですが劇場でお待ちしています。
【プロフィール】
なかやまゆうま○大阪府出身。歌手・俳優。2008年ドラマ「バッテリー」初主演で俳優デビュー。12年シングル「Missing Piece」でソロデビュー。15年舞台『ドリアン・グレイの肖像』で初単独主演。16年「ホーンテッド・キャンパス」で映画初主演。最近の舞台作品は、『Endless SHOCK』、『血の婚礼』、『大誘拐』〜四人で大スペクタクル〜、『いただきます!〜歌舞伎町伝説〜』、『YUMA NAKAYAMA ONE MAN’25 -ReTRY-』など。

【公演情報】
アンクル・シナモン『あゝ同期の桜』
原作:榎本滋民
脚本:上田浩寛
演出:錦織一清
出演:
中山優馬
・
岩永洋昭
渋谷天笑
・
石川大樹 坂口碧 片岡滉史朗 伊藤セナ 新井元輝 渡口和志 岡澤由樹 柳美稀 武藤里梨 中久喜文音 板垣桃子
・
錦織一清
●7/26・27◎大阪公演 IMPホール
●8/13〜19◎東京公演 三越劇場
〈お問い合わせ〉アンクル・シナモン unclecinnamonofficialinfo@gmail.com
〈公式サイト〉https://unclecinnamon.com/news/24868
【インタビュー/宮田華子 撮影/中田智章】