
中津留章仁の作・演出によるトム・プロジェクト プロデュース公演 トム・プロジェクト版『チョークで描く夢』が5月20日~26日、東京・両国 シアターXにて上演される。本作は、2023年に劇団TRASHMASTERSが上演し、そのテーマや表現から好評を博した作品で、今回は、トム・プロジェクトならではのアレンジ を加えて再演する。
《あらすじ》
坂道を上がると敷地内に落書きが施された小さな軽トラが見える。
傍らには小さなプレハブの販売所がある。
敷地内から見上げた空は淡いブルーがどこまでも広がる。
そんな場所にその会社はある。
50年以上も知的障害者雇用を続けてきたチョーク工場。
これは人に寄り添うような優しい物語である。
物語のモチーフとなったのは、日本理化学工業株式会社のチョーク工場。重度知的障がい者雇用のパイオニアであり、現在も社員の約7割が知的障がい者である。「平等」「多様性」「共生」という言葉が当たり前に使われている現代だからこそ、それらを実践し、「幸せ」について考え続けることの難しさをこの作品で表現する。
この舞台について、作・演出を手がける中津留章仁と出演者の宮原奨伍、星野卓誠、滝沢花野に語り合ってもらった。

星野卓誠 中津留章仁 宮原奨伍 滝沢花野
なぜ障がい者雇用に力を入れるようになったかを描く
──今回は3年ぶりの上演ですが、内容は大幅に書き換えたそうですね。
中津留 初演時は、昭和版と令和版という2幕構成で上演したのですが、今回はそれを1本化して1幕ものに書き直してあります。背景は昭和の時代で、この会社がなぜ障がい者雇用に大きく力を入れるようになったかを描いています。
──主人公はこの会社の専務でのちに社長になる宗方道郎で、初演版で道郎を演じていたのが星野さんで、今回は社員の佐野を演じます。初演時の印象などを話していただけますか。
星野 演じるにあたって日本理化学の工場に伺ったんです。すでに社長は道郎のモチーフになった方から、その息子さんの代になっていて、その方にいろいろ伺ったのですが、思ったより自分たちと近い感覚を持っているなという印象で、これなら自分にも演じられると思いました。
──物語の中に出てくる道郎さんも、最初は偏見もあるし、別に英雄的な人ではないですね。
星野 そうなんです。どちらかというと今の社長のイメージに近い感じなのかなと。
中津留 先代にはお会いしてないのですが、たぶんこの本の道郎のように簡単に喋る人じゃないと思います。昭和の人ですからね。
星野 その昭和な感じは初演でも意識しましたし、今回の役でも持っていたいと思っています。
──その社長、道郎役を今回は宮原奨伍さんが演じます。宮原さんは中津留さんの作品は?
宮原 20年ぐらい前に『世間話』(05年)という作品でご一緒して。
中津留 そのほかにも何回か出てもらっています。彼は「大人の麦茶」という劇団で研鑽を積んで、今回は十何年ぶりですが、今の彼の柔軟さというか、柔らかな持ち味が道郎という役に生かせればいいなと思っています。
──宮原さんはこの作品への出演を受けていかがでしたか?
宮原 トム・プロジェクトさんの公演に出られること、中津留さんと久しぶりにご一緒できることが、まず嬉しかったですね。読んでみて思ったのは、僕自身、一応健常者として扱われていますが、小学校の通信簿ではいつも落ち着きがないと書かれていた。今の子どもたちは一見普通に見えるような子でも特別支援学級にいたりするので、僕も今だったら特別支援学級にいるかもしれないなと。そう考えると、障がいもその人の個性として受け止めて、一緒に暮らしていくためにはどうしたらいいのか、そこを考えさせてくれる作品だなと思いました。
──道郎という役についてはどう取り組もうと思っていますか?
宮原 年齢的には今の僕より少し若い役ですし、社長になったこともないのですが(笑)、でもとても人間らしい人ですし、心に熱いものを持っている人だと思います。その表現については中津留さんといろいろご相談していこうと思っています。
──滝沢花野さんは、この本の印象はいかがでした?
滝沢 初演版の台本を先に読んでいて、そこから今回の台本の読んで思ったのは、とてもうまく凝縮してあるなと。そして、それによっていろいろな人たちがそれぞれの角度からこの問題に関わっているのがよくわかって、とても面白い作品になっていると感じました。
──役柄はこの会社に勤めている菅井芳子という社員ですが、彼女もトラウマがあって人間関係で苦しみますね。
滝沢 先輩の大久保という人が苦手なんですよね。今だったら絶対ダメでしょみたいな、いわゆる昭和の男というか、コミュニケーションが取りにくいタイプの男性で(笑)。
──さらに、会社が雇用した養護学校の生徒が暴れるという問題にも関わってしまいます。
中津留 初演では令和版に出てくる話で、政府が法律で障がい者雇用について何パーセントと推進している中で、そこで起きてしまう暴力というものをどう解決していったらいいかを問いかける作品にしてあったんです。でも今回は昭和の時代の話として入れたので、そこまで社会が成熟していない中で、人間関係の軋轢みたいなものをどうするのかという話にして、そこについての手ほどきというか、方針みたいなものを見せられたらいいなと思っています。
──そういう意味では星野さんが今回演じる佐野欣也という男性社員が、この問題の緩衝材になります。
星野 僕も昭和の生まれなのでわかるんですが、大久保はあの時代ではそんなに珍しくない人なんですよね(笑)。でも佐野は弟が障がい者なので、菅井という女性の感覚もある程度は理解できる。そういう役割で問題に関わっていきます。
──星野さんはTRASHMASTERSの看板俳優ですから、初演の社長も今回の佐野も、中津留さんとしては任せられる感じですね。
中津留 僕の作る作品で、うちの劇団員が主役をやることは大切なことだと思っているんです。彼は全体を捉えながら作れるので、安心して任せられます。

その人の思考回路や考え方に最適な伝え方でと
──宮原さんは久しぶりの中津留さんの演出ですね。
宮原 稽古しながら思い出していたんですが、中津留さんは演劇だけではなくDJなどもされていたこともあって、ノリが今風だったし、言葉も当時の今風だったんです。
星野 イメージがあまり演劇の人っぽくないんだよね(笑)。
宮原 でも演劇についてはグッとのめり込むし、演出が細かいんです。今回ご一緒して感じたのは、演者に伝えるための言葉を獲得したというか、とてもわかりやすい。
中津留 本当にわかりやすいのかな? 大丈夫?
宮原 わかりやすいです。
──滝沢さんも以前、『明日がある、かな』(17年)で演出を受けていますね。
滝沢 当時の私はトム・プロジェクトに入ったばかりで3作目で、ただただ必死で、「圧を感じる!」と思いながらやってました(笑)。今回、久しぶりにご一緒してみて、「この懐の深さに私は気づいてなかった」と。ちゃんと納得するまで話をしてくれて、いろんなことを投げかけてくれる、その有り難みみたいなものを感じているところです。
中津留 それは経験を積んで、話が理解できるようになっただけじゃないの(笑)。
星野 自分の成長とか余裕もあると思うよ。若くて場数が足りないと聞いてもわからなかったりするから。
──中津留さんのように自分で戯曲を書く作・演出家は、その世界を俳優に如何に伝えて体現してもらうかも重要でしょうね。
中津留 そうなんです。これだけ言葉にこだわりを持って書いているんだから、俳優に伝えるのが下手なはずがない、ちゃんとやれなきゃおかしいと自分に言い聞かせています(笑)。ただ、人それぞれ個性が違うし、育った環境も違うので、考察や理解のポイントも違うわけです。それをこちらが個別に観察しながら、その人の思考回路や考え方に最適な伝え方でと、毎日考える日々です。
──星野さんなどはもう何も言わなくても大丈夫そうですね。
星野 いや、意識せずに自分の手癖でやってしまいそうになると言われます。
中津留 あとやる気がないときね(笑)。台本の前のほうに自分の名前がないとやる気が出ないみたいで、星野先生の役には気を遣います(笑)。
星野 たしかにそんなことがありましたけど、1回だけですからね(笑)。

飄々とした人間が突然熱くなる面白さ
──宮原さんと滝沢さんについて、今の時点でいかがですか?
中津留 宮原さんは、昨日星野と2人で芝居するところで、こういうイメージでと言ったら、彼のリアクションが非常に明快だったので、やっぱり成長したなと。上手くなったというか、もちろん上手くなればいいというものではなくて、彼が持っている飄々とした、ボクシングでいえば、全部かわして、当たってるんだけど当たってないみたいな(笑)。そういうところがある。そしてそういう中にもある種アナーキーというか熱を帯びたものがあって、そこはずっと変わっていない。今回の道郎という役は最初はそういう熱がちょっと冷めているところからスタートして、ある状況で熱がどんと出てくる。そういう、飄々とした人間が突然熱くなる面白さみたいなものも上手く見せてくれるんじゃないかと思うし、彼の魅力が詰まった役になるんじゃないかと思っています。
宮原 がんばります。
中津留 滝沢さんは本人も言っていたように、前回はまだ場数を踏んでいなかったけれど、僕自身も伝え方がまだ上手くなくて、ちょっと苦戦している部分があったんです。今回も最初の読みでは「大丈夫かな、滝沢さん」と思ったんですけど(笑)、こちらからのサゼッションもすぐ理解できて、意図をくみ取れるようになっていたので、8年前とは違うなと。
滝沢 今思えば、あの時もっといろいろ聞いてもよかったんだなと。
中津留 一番若手だったし、稽古場にいるだけでも居心地わるそうだったからね。
滝沢 自分より年上の役で、初めて全編方言のお芝居だったので、かなりテンパってました(笑)。
──今はいろんな経験を詰んで堂々としていますね。
中津留 滝沢さんはもっと良くなると思います。俳優って自分がこうなりたいというものと、人から求められるものがあって、たぶん今はまだ自分がこうありたいという部分が強くて、それはそれでいいんですけど、第三者から見てこういう役をやらせたら面白いんじゃないかと想像力をかき立てるものを持っているからね。それを本人がどれくらいわかっているかだけど。
滝沢 わかってないかもしれません(笑)。
中津留 それはこれから10年ぐらいの宿題にしたらいいんじゃないかな。虚構の世界だからこそ自分がやりたいものと役を切り離して考えてみる。そうしたら俳優としてのスタンスも含めてもっと成熟すると思います。
滝沢 ありがとうございます。なんか人生相談みたいですね(笑)。

思想の転換をできるかどうかが大事
──TRASHMASTESは扱う題材が社会的な問題が多いので、俳優の方たちも勉強が必要なのかなと。
星野 そのへんは非常に個人差があります(笑)。
中津留 本人のやる気にもよりますから。
──星野さんはいつも余裕がある感じなのですが、あまり必死になるタイプではない?
星野 いや、そこは間違って伝わってますね(笑)。
中津留 彼は見かけによらず繊細で、細かく考えて作るので、うちの作品に向いているんです。僕は演劇は細部まで考えないとリアリティは生まれないと思っているので。それに彼も最初から余裕があったわけじゃなくて、やる気も人一倍あるタイプなので、稽古でイライラすることもあったと思うけど、とりあえず笑っておこうみたいな、そういう風を吹かせて稽古場をうまく回してくれるようになったと思っています。
──そういうお話を聞いていると、この作品の内容にも重なるというか、障がい者雇用の問題と同時に、人と人のコミュニケーションとか成長についても描かれていますね。
中津留 作品にはやはり自分の人生観が出てきますからね。いつも困った俳優たちと向き合いながら(笑)、騙し騙しながらでも少しずつ前に進んでいくと、それぞれがどこかで自分で気づいてくれる瞬間があるんです。
──そんなこの作品について、改めてメッセージをお願いします。
星野 障がい者雇用の会社について描いた作品で、障がい者と健常者の理解の問題が描かれていますが、それは健常者同士でも同じことで、価値観の違う人間同士がどう理解しあって一緒にやっていくかを考える作品です。この舞台を観て、周りにいるそういう人との関係についても、ちょっと考える機会にしてもらえればいいなと思っています。
滝沢 工場見学に伺ったときに案内してくださった方が、「知ってほしい」ということを何度もおっしゃっていたんです。未知のものとか、自分がよく知らないものについて、それは障がい者のことだけでなく外国人などもそうですけど、知らないものを知ろうとすることが大事で。そのきっかけにこの作品がなればいいなと思っています。
宮原 中津留さんの作・演出作品なので、人と対話をしたり、人に伝えるとか、人から何を感じるとか、そういう細かいやり取りが舞台上で沢山出てくると思います。そのやり取りを観る中で自分の生き方を振り返ったり、考えたり、そういうことをしてもらえたらいいなと思っています。ぜひ観にいらしてください。
中津留 いつも重い話や酷い話や挑戦的な話を書いている私ですが(笑)、何回かに1回ぐらいは普通の話を、もちろん社会的に意義のあるものですが、そういうものを書こうと思って書いた作品です。でもやはり重要なのは知的障がい者の雇用について考えるということで、国の方針で雇用が促進されても離職する人は少なくないわけです。そこで大切なのは、障がい者に健常者のシステムの中に入ってもらうのではなく、この物語にも出てくるように障がいのある人たちに合わせてシステムを変えていく。つまり思想の転換をできるかどうか、そこが多様性社会を築くうえでとても大事なことなんです。多数派だから変わらなくていいと日本人は思いがちだけど、多数派が変わることも必要なんだと、この作品を通してそこだけは伝えていかなくてはいけない。そう思っています。

【プロフィール】
なかつるあきひと○大分県出身。大分県立佐伯鶴城高等学校、明治大学理工学部卒業。現代社会が抱える問題等を取り入れた骨太な物語で、観る者の魂を揺さぶる重厚な人間ドラマを中心に描く。近年は、長い上演時間や、床面まで変えてしまう場面転換、笑いの要素を一切排除する手法など、現行の演劇制作からはタブーとされる条件を内包しながら「演劇の未来」「可能性」を模索することに挑戦し続けている。
みやはらしょうご○東京都出身。劇団大人の麦茶に所属。2016・17年、2年連続で佐藤佐吉賞 最優秀主演男優賞を受賞。舞台を主軸に、映画・CMなど映像作品にも出演。26年2月、自身初のプロデュース公演『つかこうへいを知る旅』を紀伊國屋ホールにて上演、新たな挑戦を行った。教育現場での演劇指導、ワークショップなどを通じて次世代育成にも力を注いでいる。
ほしのたかのぶ○東京都出身。劇団 TRASHMASTERS所属。劇団スーパーエキセントリックシアターの研究生を経て、2002年から劇団員として2年半活動。その後、04年秋から東京ピチピチBoysに活動の場を移し、08年からTRASHMASTERSの作品に参加。11年からTRASHMASTERSの劇団員となり、以降ほぼ全作品に出演。近年では、映像作品にも積極的に参加している。
たきざわはなの○東京都出身。舞台を中心に活動。2018年には演劇ユニット理性的な変人たちを旗揚げし、中心メンバーとして活動。主な出演舞台は、理性的な変人たち『寿歌二曲』『海戦2023』、名取事務所『メイジー・ダガンの遺骸』、新国立劇場『夜の道づれ』、劇団印象-indian elephant-『3℃の飯より君が好き』『ジョージ・オーウェル~沈黙の声~』など。

【公演情報】
トム・プロジェクト プロデュース
トム・プロジェクト版『チョークで描く夢』
作・演出:中津留章仁
出演:宮原奨伍 星野卓誠 中嶋ベン 荻野貴継 滝沢花野 美利
●5/20~26◎東京・両国 シアターX
〈問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日 10:00~18:00)
https://www.tomproject.com/
〈公演サイト〉https://www.tomproject.com/peformance/chalk.html
【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】



