
このカンパニーでしか生まれない新しい『リア王』を!
歌舞伎俳優・中村芝翫が演出家・井上尊晶とのタッグで挑んできたシェイクスピア劇シリーズの第三弾『リア王』が、9月に新橋演舞場で上演される。四大悲劇の中でも最高峰とも言われる本作にて、弟の策略に翻弄されるエドガーを演じる三浦涼介と、兄を陥れるエドマンドを演じる大野拓朗が久々の共演を果たす。石井美樹子の翻訳による〝新たなシェイクスピア〟に、ふたりはどんな生命を吹き込んでくれるのか。新たな挑戦に向けて話を聞いた。
7年ぶりの共演で挑むのは〝悲劇の兄弟〟
──『リア王』。大作への挑戦です。
三浦 すごく嬉しいです! 僕はここ数年、肉体的にも精神的にもちょっとやられちゃう系の作品に携わる機会が多く、それを超えていく大変さや向き合い方を知っているので、やはり今の自分の感覚だと対応しきれず失礼をしてしまうこともあるのではと思い…最初はお断りするつもりでした。でもとても魅力的な座組にお声掛けいただいたのは本当にありがたくて、大事に向き合って、考えて、考えて、考えて、「やります」とお返事しました。状況が違ったらすぐ「はい!」と即答していたのですが(笑)。
大野 僕も嬉しいです。シェイクスピア劇は蜷川(幸雄)さんとオールメールの『ヴェニスの商人』、そのあとに小池(修一郎)先生のミュージカル『ロミオ&ジュリエット』をやって以来で、いよいよストレートプレイでの男性役に取り組めるので。シェイクスピアのセリフ回しを地の声でどのようにして発声していくのか、そこから始めて、またひとつ自分の中に新しい技術が身に付いていく感覚を楽しんでいきたいと考えています。エドマンドは悪役なのもいいですね。今までヴィランという立ち位置はあまり経験がなかったので、自分の中の新しい表現の引き出しが増えるだろうなと思うとワクワクしますね。
──共演は『ロミジュリ』以来で、ロミオとベンヴォーリオでした。
三浦 7年越しだね! お互い酸いも甘いもいろいろ経験し、また再会できるって、なんかいいよね。
大野 『ロミジュリ』ではダブルキャストで、りょん(三浦)くんはAチーム、僕はBチームで、それぞれに頑張っていた関係ではあったんですけど、りょんくんは当時から柔らかくて、優しくて、おしゃれで、そしてパフォーマンスになるとめちゃくちゃかっこよかったり、ガラッと雰囲気が変わる。変幻自在な俳優さんで、素敵だな、すごく魅力的だなとずっと思っていました。
三浦 嬉しい(笑)。当時は僕も必死でした。拓朗とは一緒に板の上に立ったときに初めて気づくことがいろいろあったし、拓朗とだからこそ生まれた思いもあって、それがすごい勉強になったし、新鮮で面白かった。拓朗は当時から思いやりがすごくある人で、周りのことをとてもよく見てくれる人だったなっていう印象です。
大野 ありがとうございます。今回はあの時に出来上がった信頼感を持って、また改めて全身全霊のお芝居でぶつかっていきたいです。りょんくんがエドガー役でよかった。
現代の僕たちの言葉で演じることの意義
──本作での役どころは三浦さんが兄のエドガーで、大野さんが弟のエドマンド。弟が兄を陥れていくという複雑な関係ですが…。
三浦 僕は巻き込まれているだけ。誠実に生きているだけなのに、可哀想過ぎるでしょ?
大野 ですよね(笑)。
三浦 ただやはり、僕の中にはシェイクスピア=蜷川幸雄という感覚がすごくあるから──。
大野 (頷く)
三浦 「あそこで作られているのがシェイクスピアだ」というのが、それこそ自分にとって子供の頃からの強烈なイメージで、今回はいかにそこを外していけるかというのを自分に期待していきたい。いかに戯曲にあるセリフを自分の日常として〝使えるもの〟にできるか。いかにちゃんと想像した上での自分の言葉に変えていけるか。そして今自分がここにいる意味は? それができたら感情ももっともっと波を打っていけるでしょうね。
大野 僕はエドマンドがどうしても性悪には見えなくて。不遇な生い立ちの状況だったり、そこにおける深い孤独と葛藤…家族に対しても世の中に対してもね。そういう部分をうまく滲ませて、物語をかき乱していけたらなと思っています。こういうことをしてしまう人物になってしまったのには理由があったんだ、と思える役作りをしていけたら。
三浦 シェイクスピアは難しく考えたらいくらでも難しくできるんだけど、やっぱりセリフの量に追われたり、とにかく精神的にも疲れちゃったりする。そうじゃない境地に行くには、もう本当に千本ノック(笑)。それを乗り越えられたらあとは楽になると経験でわかってますし、そこまで行けたら絶対に面白いですからね。
大野 僕、留学を経験して改めて感じたのが、母語でのお芝居をもっともっと追求していきたいという思いでした。海外で英語でお芝居をすることは、やっぱり感覚がちょっと別なのかもしれないと思ったんです。英語で書かれていた『リア王』を日本語翻訳で演じて、日本のお客さまにシェイクスピアの世界観を日本語で伝える、そのことにもとても意義を感じています。石井美樹子さんが翻訳された言葉をひとつひとつ大切にしながら、現代を生きる僕たちの言葉で演じる。それによって現代のお客さまにも伝わるものがあるんだろうな、と。
三浦 そうだね。
──稽古に向けての具体的な準備などはいかがでしょう?
大野 僕は〝エドマンドが持つカリスマ性をいかに出せるか〟の研究を。イメージはストイックな人物なので、ギリギリまでそういう意識を磨いていきたいです。セリフもできるかぎり早い段階で覚え、もう自動的に出るくらいにこなしてこなして、その状態で稽古に入り、本番へと向かえたらなにか新たな発見があるんじゃないかと。ストイックをテーマにアプローチしていこうと考えています。
三浦 生き方を大事にしていたい。「言うても人生の中の本当一瞬だから」ぐらいの気分でね(笑)。1日1日を本気で楽しみ、仕事も食事も私生活の中のごくごく当たり前のことも疎かにせず、大切にしていくことが、過酷な時間に向き合える力をくれると思うので。その上で、経験を重ねた今だからこそ、ゼロの感覚でスポンジのように周囲から全てを吸収し、新人のつもりで自分ができることを精一杯やれたらいいなと思っています。劇場では我々のこのカンパニーにしか出せない喜び、悲しみ、いろんな可能性を秘めた感情を、お客様にも大いに感じ取っていただきたいです。
大野 『リア王』は初めましてという方にも、今まで何度も『リア王』を観てきた方々にも、僕たちの生み出す新しい『リア王』をぜひお届けしたいですね。その観劇体験や経験がみなさまの人生を豊かにする一助となれたなら嬉しいです。
プロフィール
みうらりょうすけ○東京都出身。2002年に俳優デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台、ライヴなど幅広く活躍中。最近の主な舞台作品は、『リーディングシアター GOTT 神』、リーディングミュージアム〜東京国立博物館〜『東京方舟博覧記』、『オイディプス王』、舞台『Take Me Out』2025、Reading Musical『BEASTARS』episode1、『サド侯爵夫人』、朗読劇『#真相をお話しします』など。
おおのたくろう○東京都出身。NHK連続テレビ小説『わろてんか』、大河ドラマ『西郷どん』などをはじめ、『Let’s天才てれびくん』のMCなど、ドラマ、映画、舞台、バラエティに多数出演。2019年より約1年間ニューヨークに滞在。海外にも活動の幅を広げる。近年の主な舞台出演作は『Love and Information』、『すべての幸運を手にした男』、『海と日傘』、『進撃の巨人 -the musical-』、アイスショー『氷艶2024 -十字星のキセキ-』など。
(このインタビューは雑誌「えんぶ」2026年8月号より転載)
インタビュー◇横澤由香 撮影◇中田智章 ヘアメイク◇河村陽子 スタイリング◇ゴウダアツコ
公演情報

『リア王』
作◇W.シェイクスピア
訳◇石井美樹子(河出書房新社『真訳 シェイクスピア四大悲劇』収録)
演出◇井上尊晶
出演◇中村芝翫 松下由樹 三浦涼介 朝月希和 井上小百合 大野拓朗 大堀こういち 駒井健介 中村松江 二反田雅澄 小倉久寛 村田雄浩
9/6~22◎新橋演舞場
〈問い合わせ〉
チケットホン松竹 (10:00~17:00) 0570-000-489
または03-6745-0888
チケットWeb松竹




