
多彩なメロディーに彩られた、向かうところ敵なしの作品
イギリスを代表する推理小説家で〝ミステリーの女王〟と呼ばれ、
いまも多くの作品が読み継がれ愛され続けているアガサ・クリスティ。
彼女が生涯沈黙を守ったと言われる、実際に起きた11日間の失踪事件を、
実在の人物と架空の人物を織り交ぜて再構成したミュージカル『AGATHA(アガサ)』が、
クリスティ没後50年の2026年、日本初演の幕を開ける。
脚本・作詞ハン・ジアン、作曲ホ・スヒョンの韓国実力派クリエイターが集結して制作されたこの作品は、
2013年の韓国初演以来大反響を呼び、上演を重ねてきた。
そんな作品の日本初演で、花總まり演じるアガサに憧れ推理小説家となったものの、
盗作疑惑に苦しめられるレイモンド役の渡邉蒼が、この作品の魅力や、役柄に臨む想いを語ってくれた。
可愛いだけではなく、小賢しさもある13歳
──まず作品に感じていることを教えてください。
これまで日本のミュージカルでは観たことがないなという感覚を覚えました。とても緻密でどちらかと言うと会話劇でやるようなテーマですし、楽曲もすごく多彩で、リフレインを多用することで、このメロディーが出てきたら不安な感じになる、などしっかりと物語を引っ張っていくダイナミックさもありつつ、それが入り組んだ会話のなかにスーッと流れ込んでくるんです。世の中に名作と言われるミュージカルはたくさんありますが、これが世に出たら本当に向かうところ敵なしだと思います。
──製作発表会見の歌唱披露でも楽曲の良さが伝わってきましたし、原田優一さん、東山光明さんと歌われた「捜査協力」が、まだお稽古前とは信じられないほどのパフォーマンスでした。
僕はスーパーお兄さん方にのせていただけただけなんです(笑)。一度歌合せしただけ、という状態だったのですが、優一さんが「何をやっても対応するから大丈夫だよ!」と言ってくださって、楽しく披露できたのが良かったなと。1曲目で歌った「悪夢」というタイトルのナンバーが、僕が演じるレイモンドが毎日毎日悪夢を見て、心を病んでいるシーンでしたから、皆様にもこの作品の多彩な楽曲の一面を見ていただけたのではと思っています。
──そのレイモンド役は、作中でふたつの年代を行き来するそうですね。
わかりやすく例えるなら『エリザベート』のルキーニのような、狂言回し的な役割りも持っていて、はじめに登場するのは40歳で、レイモンドが花總まりさん演じる現代のアガサに会いに行くところから始まって、そこから時間が巻き戻り13歳になるんですけど、13歳ってすごく多感な時期だと思うんですね。日本でいうと中学に入った頃で、自分はすごく大人を知っている気でいるけれど、実はまだまだ子供で。作中でアガサと黒羽麻璃央さん演じるロイから「その子は賢いけど完璧ではない」「でもすごくいい子だよ」と言われるんですけど、その通りな気がします。可愛くもあるけどすごく頭が回るからこそ、大人達からしたら自分たちの悪事を見抜かれるかもしれないという心配もつきまとう。ただ単に頭のいい子、優しい子なだけではない、小賢しいところもあるので、そこは大切に演じていきたいです。
──『ブラッド・ブラザーズ』でも7歳の子供から大人までを演じられて、思春期の時期が一番難しいというお話でしたが、今回はその年代が中心になるわけですね?
そうですね。あらすじに「アガサに憧れて推理作家になるが、盗作疑惑をかけられて苦しめられている」と書かれているのですが、その疑惑が真実なのかそうではないのか?が13歳の頃に大きく関わってくるので。
──いまは特に、たったひとことの発言や、数行の文章で、周り中から突然批判にさらされる、ということが日常的に起こっていますから、共感できる方も多いでしょうね。
そうなんです。はじめに歌う「悪夢」について、アガサも「その悪夢を私も見たことがある」と言うんです。いまは言葉を職業として発信する人ではなくても、ひと言の責任を問われるようなどこか息苦しい世の中なので、誰しもが持っている不安感や恐怖に通じるものがあるなと感じます。
魅力的な回り道をしていけたらいい
──渡邉さんはこれまで出演されている作品を拝見していて、比較的に重い内容のものが多い印象があるのですが、ご自身ではいかがですか?
スピッツの「空も飛べるはず」という曲に、隠したナイフが似合わない僕、という歌詞があるのですが、もしかしたら僕もそんな感じなのかな?と思っていて。鋭利なナイフや武器って、似合わない人が持てば持つほど危険に見えるものですよね。料理人がナイフを持っていても何も怖くないけど、持ち慣れていない人が持つからこそ怖いと言うか。そういう感覚で僕を作品に呼んでいただけているのかな?と思うと、本当にありがたいですし、俳優として色々な表現を学べていることに感謝しています。僕はミュージカル作品がメインなのでもちろん歌うのですが、第一印象が「歌」にならない俳優になりたいという思いがあって。音楽って協和音なら楽しい雰囲気になるし、不協和音なら一気に不穏な空気が漂う、言葉よりももっと前にある表現手段な気がするんです。ですから歌うからカッコいいのではなくて、もっと深いところに触れられるのがミュージカルのいいところだと思っています。この作品もそうですが、韓国ではものすごく盛んにオリジナルミュージカルが創作されていますし、日本でもそんな未来が広がるような、ミュージカルってこんなに面白いんだよということを知っていただけるように、僕もいま21歳でまだまだ若手なので、魅力的な回り道をしていけたらいいなと思っています。
──これからのご活躍も楽しみにしています。最後にこのミュージカル『AGATHA(アガサ)』に期待されている方々にメッセージを是非!
誰もが知るミステリーの女王アガサ・クリスティの遺した膨大な小説ではなく、アガサ自身が11日間失踪していた時の、彼女自身の話なので、ミステリーはあまりご覧にならないという方にも、絶対に楽しめる作品だと思います。なんの予備知識もなく楽しんでいただけますが、9人の登場人物の中で、実在の人物はアガサとその夫アーチボルトと、アーチボルドの秘書のナンシーだけなので、この三人が実際どういう人だったのかをちょっと知っておいていただくと、また更に面白いかなと思います。きっと良い意味で驚いていただける舞台ですから、是非劇場にいらして下さい!
プロフィール
わたなべあお〇東京都出身。小学生時代から子役として活躍し、現在は映像作品から舞台、ミュージカルなど活躍の幅を広げている。2023年からは本格的に音楽制作も開始。作詞、作曲、編曲までマルチにこなすシンガーソングライターとても活動中。主な出演舞台作品に『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』、『ダーウィン・ヤング 悪の起源』、『ハリーポッターと呪いの子』、『デスノート THE MUSICAL』、『ブラッド・ブラザーズ』など。
(このインタビューは雑誌「えんぶ」2026年8月号より転載)
インタビュー◇橘涼香 撮影◇松山仁
公演情報

ミュージカル『AGATHA(アガサ)』
Lyrics and Book by HAN JIAHN
Music by HUH SOOHYUN
演出・上演台本・訳詞◇末永陽一 翻訳◇宋元燮 音楽監督◇甲斐正人
出演◇花總まり 黒羽麻璃央 渡邉蒼 上原理生 原田優一 東山光明 内田未来 丸山泰右/保坂知寿
7/18~8/2◎東京・よみうり大手町ホール
8/15~16◎愛知・名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール
8/27~31◎大阪・森ノ宮ピロティホール
9/4~6◎福岡・キャナルシティ劇場




