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『リーディングシアター GOTT 神』いよいよ開幕! 岡本圭人 インタビュー

正面から「生」と「死」を突きつけてくる作品

刑事事件の弁護士でもある作家、フェルディナント・フォン・シーラッハ。彼の作品に多数出演してきた橋爪功をはじめ精鋭男優陣が、石丸さち子の演出でほかに類例のない戯曲『GOTT 神』に挑むリーディング公演が、10/11〜14にパルテノン多摩 大ホールにて上演される。

作品のモチーフとなるのは、倫理的に、また宗教的にも長きにわたってタブーとされてきた「自死の是非」。愛妻を亡くし今後は生きる意味はないと考える1人の老人が、医師に薬による自死の幇助を求める。その是非についてドイツの倫理委員会主催の討論会が開かれ、法学、医学、神学など各分野の参考人や、老人の主治医や弁護士が意見を述べ合い、議論が展開される。この注目作で倫理委員会の委員役を演じる岡本圭人に、テーマや役柄について語ってもらった「えんぶ10月号」のインタビューをご紹介する。

答えは自分で探さなくてはならない

──この作品に出演するにあたって、今の気持ちから聞かせてください。

まず主演の橋爪功さんは僕が以前から尊敬している方で、その方とご一緒させていただけることが何よりも嬉しいです。それに僕は普段から戯曲を読むのが好きで色々読んでいるのですが、こんなにも人の心にダイレクトに訴えかける戯曲は初めてでした。勉強になりましたし、自分の頭の中にある「生きること」や「死ぬこと」について考えさせられました。それにこの作品は答えがないんです。答えは自分たちで探さなくてはならない。そういうところもとてもいいなと。もともと僕が好きなのは、例えば小説なら読み終わったとき、舞台なら観終わったときに、じゃあこれから自分は人生をどういうふうに進んで行こうかと考える、そのきっかけになるような作品なんです。それに人が生きていると、いやでも目を逸らしたくなるような現実を突きつけられますが、そういう現実を逃げずにきちんと受け止めることが大事なのだと思わせてくれる。とにかく気づいたら読み終わっていて、それだけ受け取る人の心を掴んで離さない作品だと思いました。

──演じる役のケラーについては、どう捉えていますか?

 ケラーは医師で倫理委員会の委員で、この委員会で議論される「自死を望む人間を医師が幇助する」ことに反対しています。でもこの倫理委員会でさまざまな立場からの意見を聞いて、ちょっと揺れ動く部分もあったりする。難しいし重要な役なので緊張も責任も感じています。討論の中で法学や医学、ドイツなので神学も出てきますから、そういう分野をできるだけ勉強して、僕なりに理解して、ケラーの言葉が日本の観客の方々にちゃんと届くようにしたいと思っています。

──そのために具体的に考えていることはありますか?

 僕はわりと「生」とか「死」をテーマにした作品に出演することが多くて、今年4月から各地上演した舞台『Le Fils 息子』で演じたニコラも、「死」に向かって生きていく少年でした。そういう人間を演じるには、自分が心からそう思っていないと観ている人にウソだろうと思われてしまうので、精神科医の先生の話を聞いたりしました。この『GOTT 神』については、まだリサーチを始めたばかりですが、安楽死を望んだ方のドキュメンタリーを見たり、日本の場合の法的な問題などそれに関する論文を探して読んだりしています。

本当の倫理委員会の討論だと思って

──この公演では一幕と二幕の間の休憩時間に観客による投票が行われて、討論会の結論もそれで決まるそうですね。

 僕はこの作品を舞台だと思っていなくて、本当の倫理委員会の討論だと思っているんです。舞台が映像と一番大きく違うところは、その場で観客と一緒に作りあげていくもので、観客がいなかったら成立しない。この作品はまさにそのものです。ですから観にいらっしゃる方も討論会に参加するようなつもりで来ていただけたらと。そして普段は目を逸らしがちな「生」と「死」という問題について、正面から考えていただく。答えはないのですが、でもみんなで出したその日の答えを、「生」と「死」について考え続けていく1つのきっかけにしていただければと思っています。

──岡本さんはまだ31歳ですね。その年代の人たちには「死」はどこか遠い話なのでは?

 いや、みんな考えていると思います。話はちょっと逸れますが、この作品に出てくる「安楽死」についても、医師が死ぬための薬を処方する「積極的安楽死」を認めている国もあれば、「安楽死」そのものは法的に認めなくても、「消極的安楽死」である「尊厳死」は認めているという国もあります。それについては自分の体験したことで言うと、祖父の病気が重くなってもう長くないとなったとき、延命するかどうかを家族ですごく話し合ったんです。そこで初めて「尊厳死」とか「安楽死」の勉強をすることになって、自分がいかに知らないことが多いかを実感しました。自分と同世代の人たちでも、そういうことは生きていれば誰にでもあることだと思うので、この作品を観ていただくことで、多少なりとも役に立つことがあるのではないかと思っています。

今回の稽古場はある種の戦いに

──岡本さんは翻訳劇への出演が続いていますが、翻訳劇を日本の観客に届ける難しさは? 

 僕は英語の戯曲なら読めるので、最近は翻訳の段階から翻訳者の方とお話しさせていただいたり、自分の考えを伝えさせていただくので、今回も原本は取り寄せたのですが、ドイツ語なのでさすがに読めなかった(笑)。今回の翻訳は酒寄進一さんなのですが、素晴らしい翻訳で、酒寄さんはシーラッハの作品を日本で最も多く訳していらして、彼の言葉を誰よりも理解していらっしゃる方で。だから書かれている言葉のすべてを信じられるし、役者はそれを信じて演じればいいだけなんです。

──演出の石丸さち子さんとは何か話しましたか?

 まだお話しできていないのですが、作品は何本か拝見しています。大きな空間をうまく使ってダイナミックな演出をされる方だなと思います。僕は父(岡本健一)が蜷川幸雄さんの作品に出演したことで、蜷川さんの舞台への愛とか熱を身近に感じていたのですが、石丸さんは蜷川さんのそばにいらした方なので、その愛や熱をそのまま引き継いでいらっしゃると思いますし、役者を育てるのが上手で、役者の能力を引き上げてくださると聞いているので、稽古での自分の変化も期待しています。

──橋爪さんをはじめ共演の先輩方への期待はいかがですか。

 僕、一番年下なんですよね(笑)。この作品って全員が一丸となって作っていくというより、1人1人が自分の役のキャラクターを把握して、その役として意見をぶつけ合うことが大事だし、ある種の戦いだと思っています。稽古場で皆さんがどれだけの熱でそれぞれの言葉を紡いでいかれるのかすごく楽しみです。
──ケラーは委員なので討論会を牽引していく立場でもありますね。

 本当にたいへんな役割ですよね。これから稽古で、ケラーが伝えたいもの、そしてシーラッハが観客に届けたいものをしっかり自分の中に落とし込んで、素晴らしい先輩方が演じる登場人物たち1人1人に、ケラーとしてしっかり向き合いたいし、討論に影響を与えたいと思っています。

【プロフィール】
おかもとけいと○東京都出身。舞台・ドラマを中心に幅広く活躍。2018年~20年アメリカ最古の名門演劇学校であるアメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティックアーツへ留学。21年に『Le Fils 息子』でストレートプレイ初舞台・初主演。主な出演舞台は、22年『M.バタフライ』『盗まれた雷撃 パーシー・ジャクソン ミュージカル』『4000マイルズ~旅立ちの時~』、23年『ハムレット』『チョコレートドーナツ』、24年『ラヴ・レターズ』『Le Fils 息子』『La Mère 母』。

【公演情報】
『リーディングシアター GOTT 神』
作:フェルディナント・フォン・シーラッハ
翻訳:酒寄進一(2023年 東京創元社「神」)
演出:石丸さち子
出演:橋爪功/三浦涼介 岡本圭人 浅野雅博 石井一彰 玉置孝匡 瑞木健太郎/山路和弘
●10/11〜14◎パルテノン多摩 大ホール
〈ご予約・お問い合わせ〉パルテノン多摩 042-376-8181
https://www.parthenon.or.jp

【取材・文/宮田華子 撮影/中田智章 メイク/馮 啓孝 スタイリング/ゴウダアツコ】

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