猿博打 インタビュー

演劇ってかっこいいを広めたい
東京と静岡でそれぞれ中学・高校と楽しい演劇部生活を送ってきた、河村凌と村上弦。大学で2人に出会ってこの道に足を踏み入れた板場充樹。3人の楽しい!ことを続けて6年。「猿芝居で勝負に打って出る!」とは後付けだが、猿芝居とはほど遠い、正統派な作りで、博打どころか正真正銘、誠実な3人組ができました!
(えんぶ 2025年6月号掲載記事)
What’s?猿芝居
さるばくち○2018年に大学の演劇研究部メンバー6人で劇団を設立。諸事情により旗揚げ公演時には4人になり、その後3ヶ月後には3人となり現在に至る。現メンバーは全員看板俳優たるべく、積極的に外部公演に参加。腕を磨く。演劇のほかコント公演、動画も多数。客演メンバーを集めて村上弦の脚本を上演する本公演と、外部作家の書き下ろし三人芝居を上演する特別公演を軸に活動中。https://sarubakuchi.jimdofree.com

猿博打『右往左往』
作◇池内風 演出・出演◇村上弦
出演◇河村凌 板場充樹
2025/3/20〜23◎OFF・OFFシアター
とある大学の演劇研究会『人間ドラマ工房』のアトリエでは、部員の三木(板場充樹)が一人、地味な作業をしている。そこに「自分の言葉を多くの人に伝える技術を教えて欲しい」と、学生社会運動メンバーの結城(村上弦)が訪ねてきた。三木は戸惑いながら知っていることを伝えるが、理論的に、もっと効率的に術を知りたい結城には物足りない。そこに演劇部OBの大河内(河村凌)がふらりと現れる。卒業後、劇団を旗揚げ、作・演出している大河内の指導でめきめきと上達する結城。彼女の言葉が届くにつれ、大河内の心がざわつき始め……。いつの間にか演劇部の常識が、社会問題にリンク、そして身近な問題に帰結していく。3人の立場の逆転に継ぐ逆転のエンターテインメント社会派?三人芝居。

外部作家書き下ろしの三人芝居
――プロフィールに大学で出会ったとありますが?
河村 同じ大学の演劇研究部です。自分、村上、板場と1学年ずつ下がっていきます。
――責任者は河村さんで、演出は村上さん、板場さんは庶務担当だそうですね?
河村 そうです。
――演出する方が責任者になる劇団が多い中、珍しいですね。
河村 単に先輩だったから…自分は責任を取るだけで、演出を担当として任せている感じです。
――頼もしいですね。
村上・板場 はい!
――今回の脚本は、「かわいいコンビニ店員飯田さん」という劇団の池内風さんでしたが、いろんな外部の方に脚本をお願いして作品を作られているんですよね。
村上 特別公演と言って、外部の作家さんに三人芝居を書いてもらって、私が演出しています。
――脚本を頼む時、何か要望みたいなものは伝えるんですか?
河村 今まではオープニングを入れたいとか、ハッピーエンドにしたいくらいで、今回はそれも言わずに…尺ぐらいかな。
村上 いつも大体70〜80分くらいの作品をお願いしています。
河村 企画制作を全部3人でやっているので、3人の負担感と見やすさを含めて、そのくらいの尺がいいかなと思っています。
――今作は登場人物の先輩後輩の関係が、河村さんと板場さんの関係と重なるようでしたが、それは偶然?
河村 特に自分たちのプロフィールみたいなことは伝えてないですね。
板場 今回、初めてあんまり深くは関わっていない方に頼んだんです。今後もその可能性は十分にあると思って。一回ここでチャレンジしてみました。
大きい声は面白い
――実はあらすじやチラシを拝見していて、学生運動の話みたいだから、ちょっと心配だったんです。でもとても楽しかった。
村上 そもそも面白い会話劇の脚本なので、そんなに演出をつけなくてもいいんですよね。そこにわざわざ音響をガッツリ入れて、照明をパッてつけて正面を向いて演技をするっていうのが私たちの味だから、ガッツリ演出つけてやりました。
板場 作家さんが来る回は緊張するんですよね、大丈夫かなって。
――メリハリがついていて見応えがありました。久しぶりに元気なお芝居を観たなという印象です。
村上 シンプルに大きい声は面白いという信条をずっと持ちながらやってます。
――困った時に大きな声を出すのは、演劇界の中ではけっこう…。
板場 怒られそう…。
村上 客演先でそれぞれがいろんな演劇を体験して、もっと繊細にやった方がいいんじゃないかとか、いろいろ意見や疑問も出てくるんですけど。「大きい声を出せば面白いぞ」っていう3人の共通認識があるので、それが猿博打らしさに繋がっていくんじゃないかなって思っています。
河村 初めて学外の劇場でやった時に「声大きいね」って言われたのが、衝撃だったんですよ。大きい声を出すのが演劇だと思っていたので。
――“静かな演劇”で育った世代ではないんですか?
河村 自分はキャラメルボックス、劇団☆新感線やTEAM NACSとか、大きな声のお芝居を観てきたから。その影響はあるかもしれませんね。

笑いの感覚が一緒
――演出はどんな感じで進めるんですか?
村上 最初はとりあえず3人で動いてやってみます。2人は私のやりたいことをなんとなく分かっているので、やりながら演出ができていくという感じです。
河村 コントグループに近いかもしれないですね。笑いの感覚が一緒だから。台本があったらすぐできるよねみたいな。初めて会った仲でもないし。
――でもコントではなく演劇だから、何か別のニュアンスがないといけないですよね?
板場 最初から面白さの共通認識を持っているので、初っ端から修正作業みたいな感覚ですかね。
ハチャメチャ感を
――板場さんと村上さんの樽枝※のシーン、面白かったですよね。
村上 いつも緩急はすごく大事にしています。勢いとか、わーって言ってたのが急に静かになるみたいな。そういう演出が好きなんです。
河村 大きい声も動きもできる限りやった方が面白い。
板場 確かに、そこを手を抜かないというのはありますね。そう見えればいいだけだったら、別に樽枝もあそこまでやらなくてもいい。
――いや、いやいや。
河村 あれは名シーンですからね。
――演劇ネタが芝居に入ったら面白いという定説がありますが、なかなかね。
板場 もともと共通認識としてお互いの好きな、
村上 間がある。
板場 稽古中も、回数やタイミングとか何度も相談して。みんなが手を抜かないっていうのがポイントなんですかね。加減が出来なくてあざだらけになったりするんですけど。
村上 私がアニメ、『こち亀』が大好きなんですよ。
――駅前でしたっけ?
河村 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。
村上 普通だったら電車に轢かれたら死んじゃうんだけど、主人公の両さんは死なないんです。そういうハチャメチャ感というか、日常の中で起こる突飛な感じを常に取り入れたくて。『クレヨンしんちゃん』もずっと見てたので、めちゃくちゃ演出に使っています。
❓※「樽」の声で樽を飛び越え、「枝」の声で枝をくぐる演劇部などで広く行われている身体訓練の一つ。「演劇ぶっく」1998年10月号に掲載の連載「演劇の正しい作り方」(安田雅弘)に詳しい解説があり、山の手事情社HPで全文読めます。
https://www.yamanote-j.org/column/15764.html
バランスが取れてきた
――今作の内容は、言葉を伝える方法がテーマでもあり、演劇と重なる部分があって興味深かったです。
板場 ワークショップ的な本でもある。
――先輩の指導を受けて変わって行く役を、演出の村上さんが演じているのが、テーマを体現しているようでした。
村上 反応をすごく意識して演じました。
板場 指導を受けて、その場で新しいことを発見し変化していくので、難しい役だったと思います。河村が指導しているのを見てると、「あれ、今、自分、お芝居してる?」って混乱することもありました。
村上 基本的に演出は3人でやりながら、ああだこうだ言いながら作ってます。プラス稽古を毎回撮影して、それを私が確認して演出をつけることもありますね。
――ちょっと重たいテーマが、派手な音響や照明、演出で見やすかったです。
河村 昔から大きい音や派手な照明が好きで、それに合わせた大きい動き、大きい声で…全部大袈裟だったかもしれないですね。でも最近、3人の技量も上がってきて、ただでかい音や演技だけじゃない、ちゃんとお芝居もできた上で、ふざけるっていうバランスが取れてきたのかもしれません。
――その通りですね。今回の作品は静かにやられると、ちょっと嫌かも。
村上 そうですね。
板場 けっこうきついかも…。
河村 ちょっとセンシティブな内容になりそうなところを、単純にポップな表現にするわけにも行かず…その塩梅は悩みました。でも真面目に一生懸命やれば成立すると思って、そこだけはぶれないようにしてたかもしれないです。
――むしろ面白い表現になっていたと思います。

かっこいい主題歌
――曲がいいタイミングで入っていましたね。あれはオリジナルですか?
村上 はい。演劇のイベントで知り合ったさくらさんの曲がすごく好きで。毎回お願いしています。
――とっても印象的でした。
村上 映画って主題歌があるじゃないですか。その曲を聴けばその物語を思い出すみたいなのに憧れていて。それを自分の舞台でもやりたいなと。
河村 やっぱり曲を聴くと観劇前のモチベーションも上がるし、どんな舞台なんだろうって想像が膨らみますよね。観終わった後も曲を聴けると思い出せるし。この曲は今後も継続していきたいです。
――舞台美術も自然な感じで、演技スペースが広くがとられていましたね。
板場 OFF・OFFシアター初めてでしたけど、3人でやるのに最高だなと思いました。
村上 めちゃめちゃいい劇場でした。
河村 僕ら動くので、上手く物を置けないか舞台監督さんやスタッフさんたちと相談しつつ。
村上 ちょっと予算の都合で、しっかりとしたパネルを立てられなかったので、いろんな物を置いて壁にしてるんです。
――廊下もあって、上手く作られていました。
他の劇も観て下さい!
――最後に、河村さんが終演後の挨拶で、「同じ下北沢でやっている他の劇も観て下さい」と言ってたじゃないですか。最初、ふざけてるのかなと思ったんですけど、本気でしたね?
河村 今回の脚本に「何のために演劇をやっているんですか?」みたいなセリフがあったので、改めて考えまして…。俺らコントもやったりするので、楽しければいいって思ってた部分もあったんですけど、やっぱり観劇という文化をもっと広めたい、ただただ楽しいだけでやっているんじゃないんだ、っていうのをちゃんと伝えたかったんです。中学高校って、なぜか演劇部の地位が低かったので、それが納得いかなくて。
――なるほど。
河村 観劇ってかっこいいし、演劇ってかっこいい、というのをもっと知ってほしいなと思っていて。ちゃんと伝えていきたくて、ああいう挨拶になりました。
【プロフィール】
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かわむらりょう○2月11日生まれ、東京都出身。中学・高校・大学と演劇部に所属。大学卒業後、就職し福岡での勤務中に大学時代の劇研仲間に誘われ退職。帰京して猿博打結成に加わる。代表・制作としてコスパやタイパを意識した劇団運営を行っている。
出演予定◇guizillen『七月の歯車』8/27~31◎APOCシアター ◇コメディアス『紙を共に刷りぬ』9/24〜28◎小劇場楽園
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むらかみつる○1月1日生まれ、静岡県出身。中学・高校と女子校で演劇部に所属。福田雄一の戯曲『大洗にも星はふるなり』上演の野望を胸に、大学進学時に上京。大学3年時に夢を果たし、初演出。この公演が猿博打結成のきっかけに。脚本・演出・宣伝美術も担当。
出演予定◇システム個人『廃グランド・ホテル別館』6/25~29◎小劇場楽園 ◇ジャパニーズ生活『目醒め』7/23~27◎小劇場B1 ◇かるがも団地『意味なしサチコ、三度目の朝』8/8~11◎吉祥寺シアター
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いたばみつき○6月10日生まれ、東京都出身。中学・高校とバトミントン部。大学でも続けようと思ったが、いい団体が見つからず、河村、村上が出演していた演劇研究部の新入生歓迎公演を観て入部。大学卒業時に猿博打結成に参加。庶務的なことを担当している。
出演予定◇吉祥寺GORILLA『人間のあくた』6/25〜29◎上野ストアハウス ◇かるがも団地『意味なしサチコ、三度目の朝』8/8〜11◎吉祥寺シアター
【インタビュー◇坂口真人 撮影◇水澤桃花(舞台) 武井勇紀(人物)】
★このインタビューは、えんぶ最新号に掲載されています▼!

