トム・プロジェクト『沼の中の淑女たち』開幕! 田村孝裕・羽田美智子 インタビュー


トム・プロジェクトの新作『沼の中の淑女たち』が、9月27日に赤坂レッドシアターで開幕した。(10月3日まで。そののち地方公演あり)

テーマは「推し活」と「沼」。心の穴を埋めたいがために「推し」に執着し、「沼」にハマってしまう人々。現代の日本社会を映し出すようなこの現象を、リアルかつコミカルに描き出す舞台だ。
作・演出は、会話の背景に潜む人間の業を巧みに描く田村孝裕。そして羽田美智子、柴田理恵、阿知波悟美、長尾純子、森川由樹という実力者揃いの豪華女優陣が、K-popアイドルにハマる異世代の女性5人を面白く可笑しく、ちょっと切なく演じる。(※岡本麗さんが降板のため阿知波悟美さんが新参加しています)

その作品で、豪邸を「推し活」の共同生活の場として提供するお嬢様、東城真央を演じる羽田美智子、そして作・演出の田村孝裕が、本作の世界について語り合ってくれた。

羽田美智子 田村孝裕


自分の世界のメインになるような出会い

──田村さんと羽田さんは2017年に『グレーのこと』で出会って、その再演が2020年にありましたから、3年ぶりの顔合わせとなります。まずは初めて会ったときの印象などを聞かせてください。

羽田 私はそれまで1回しか舞台に出ていなくて、あまり縁のない世界かなと思っていたのです。でも周りの方たちから田村さんの評判が聞こえてきたり、もし舞台をやるなら田村さんの作品がいいよというプッシュがあって、一度見学させていただきたいなと思って稽古場に伺ったんです。その稽古がすごく勢いがあってパッションも感じて、こういう中でやれたら素敵だなと思いました。そして『グレーのこと』への出演が決まって、不安もあったのですが、思い切って飛び込んでみたら、すごく楽しくて、みんなで作り上げるというのはこういうことなのかと。

──舞台の面白さに一気に目覚めたわけですね。

羽田 この世界がすごく好きになりました。劇団の方たちもいい方ばかりで、まるで子どもに返ったようにすべてを吸収する毎日で、本当に楽しくて、公演が終わるときは泣いてしまったぐらい別れが寂しかったです。

田村 僕にとっても羽田さんとの出会いはインパクトが強かったです。映像の印象で、なんとなく面白そうな方だなとは思っていたんですけど、こんなに面白い方だと思ってなくて(笑)、初対面なのに初対面な気がしなかった。

羽田  それは私にとっても同じで、深く刺さる出会いというのはそんなに数多くはないものですが、本当にまれにそういう自分の世界のメインになる出会いがあって、田村さんとはそういう「あっ!」という出会いでした。

田村 すごく覚えていることがあって、羽田さんが、「私、舞台は10年ぶりぐらいだから、絶対に緊張しちゃって心臓が口から飛び出ちゃうと思います」と言って、そのあと「その心臓を置いてこないと舞台に立てない」と言ったんです(笑)。それって死んじゃってるから舞台に出れないでしょ(笑)、みたいなやりとりがあってすごく面白かった。そういう羽田さんの振り幅の面白さみたいなものが僕の中で花開いていって、あの作品を作らせたと思います。

恋愛ものかと思っていたら「沼?」

──今回の作品ですが、どんな経緯で立ち上がったのですか?

田村 実は羽田さんがトム・プロジェクトに持ち込んでくれたんです。『グレーのこと』のキャストの1人で、今回も出演してくれている長尾純子さんと一緒に、トム・プロジェクトのプロデューサーに話してくれたんです。

羽田 長尾さんと一緒に、田村さんが作・演出した『たぬきと狸とタヌキ』(トム・プロジェクト作品、2021年3月)を観に行ったんです。すごく面白くて、私たちもこういうのやりたいねと話して、すぐに田村さんにもその話をしたら、「本当?書いちゃうよ?」と言ってくださったので、思い切ってプロデューサーにお願いしてみたら、本当にできることになったんです。

田村 羽田さんからその話をされてから何ヵ月か経って、プロデューサーから電話があって、「やろうと思う」と。そのときに「女性だけの芝居はどうだろう」と打診されたんです。

──そして出てきたテーマが「推し」と「沼」なのですね。まさに“今”そのものですね。

田村 考えているときはまだそんなに騒がれていなかったのですが、僕自身がそういうことについてはまったく気持ちがわからない。だから逆に興味が出て、理解できないからこそ触れてみたいなと思ったんです。

羽田 最初は恋愛ものを書いてもらいたいねと話していたんです。20代から60代ぐらいまでのその年代なりの恋愛のお話を。それが台本が出来てきたら「沼?」(笑)。

──独身女性が増えている原因の1つは、現実の恋愛は重いし面倒だからと言われています。「推し活」はそれに比べてバーチャルな感じがありますね。

羽田 そういうところ田村さん天才ですよね。時代の何かをキャッチする(笑)。

田村 いや(笑)、自分なりに咀嚼はしましたけど、今でも理解がおよばない世界という感覚ですね(笑)。推しと恋愛とは違うとか言うけど、たとえば推しが結婚とかしたらへこむでしょう? それに、推しのためにお金を使ったり、奉仕することが喜びになるというのもわからない

羽田 そこは私もわからないです。応援してくださる方たちが私にもいるんですけど、私のためにお金を使わせているというのが本当に申し訳ないんです。なぜそんなに私に?といつも思っているので、今回のお芝居で少しでも理解できたらと。

田村 もっとわからないのは、現実の自分の世界と推しの世界が絶対に交わることはないと思っていて、それがいいというか、逆に交わってほしくないと思っていたり、推していることすら知られたくないとか(笑)。その感性が一番わからない。

──夢や憧れはそのままで置いておきたいのかなと。

羽田 私もこの世界に入る前は憧れがありました。ただ、その方たちに実際にお会いするようになると、ああ同じ人間なんだとわかって。同時に憧れていたときの気持ちもなくなりました。でも、そのまま憧れていたいという方たちがいるのはよくわかります。

──そんな女性たちが集まって「推し活」をするわけですが、5人が一緒に暮らす家が、羽田さん扮するお金持ちの令嬢、東城真央さんの豪邸です。これも独身女性がけっこう夢みているシチュエーションですね

田村 そんな願望、本当にあるんですか? そこまでの狙いはなく書いてました(笑)。

羽田 わりと言ってますよね。年取ったらみんなで一緒に暮らして、助け合って生きていけたらいいねとか。でもいざ一緒に住んだら絶対に問題が出ると思うから、つかず離れず暮らしたいねとか。よく冗談ぽく話してます。

田村 そうやって集まって暮らしていたら、絶対もめないはずがないと思う(笑)。この物語も後半になって、いろいろ出てきますから。

羽田 そうなんですよね。表面的に流れるものは明るくて楽しいんですけど、田村さんの作品ですから絶対にそれだけじゃないんです。だから演じる側も、隠された情報を読み落とさないようにしないと。

みんなが心の拠りどころを必要とする時代

──登場する5人の女性像たちが、それぞれ面白く描き込まれていますが、なかでも羽田さんが演じる真央は中心にいるのに、とくにイニシアチブを取るわけでもなく、でもファーッとみんなを巻き込んでいく感じが、どこか羽田さん自身と重なる感じで、面白いなと。

羽田 そんな(笑)。

田村 他の現場ではどうなのかわかりませんが、ご一緒にした現場ではつねに真ん中にいますね。なんか自然に話題の中心になっちゃう(笑)。

羽田 たぶんガス抜きできるのではないかと。小学校の頃からみんなで騒いでいるときとか、先生に「うるさい!羽田」と言われて、「え?なんで私だけ?」(笑)みたいなことが多かったので。私なら言っても後くされのない感じなのかなと。「お前を怒っておけばみんなが静かになるんだよ」と言われたこともあるので、昔からそういう役回りなのかなと(笑)。

田村 これすごく褒め言葉で言うんだけど、すごく隙があるんだよね。

羽田 それ嬉しいです! 

田村 みんなが懐に入りやすいということで、器が大きいんだと思う。

──豪邸に推し活仲間を住まわせているというキャラが、全然不自然じゃないです。

羽田 このキャラ、本当に自分にもあるんです。例えばみんなで何か食べたりしたとき、「いいよいいよ、ここは私が払うから」みたいにその場をおさめたがるくせがあって。

田村 でも、偉そうなところは全然ないし。誰にでも同じ目線で話をする。人として尊敬してます。

──そんな羽田さんの真央を中心に、5人の女性たちの「推し」と「沼」がどうなるか、本当に楽しみな作品です。最後に観にいらっしゃる方へのメッセージをいただけますか?

田村 現実が厳しいので、みんな心の拠りどころが必要な時代なんだろうなと。その象徴がこの物語ではK-popのアイドルで、拠りどころが必要だった5人の女性が、アイドルの不祥事を経て、そのあとどうなるのかという話です。明るい結末にしたいと思っていますので、孤独だったり、拠りどころが必要な人たちに観ていただいて、この作品がちょっとしたエネルギーになればと思っています。

羽田 稽古での実感としては、小休止のように見える芝居でも、役者たちの中ではけっこう激しい心の動きがあったり、緩急のあるお芝居でも、緩も急も役者は全力でやらないといけないので、トライアスロンをやっているような感覚があります。そのぶん観ている方にも一瞬一瞬を楽しんでいただける、とても濃密な作品になると思っています。ぜひ劇場にいらしていただいて、「沼」にハマった私たちを観て、この作品の「沼」にハマっていただければ。田村さんの作品は後を引くので絶対にまた観たくなると思います。全国公演もありますので、この舞台の「推し活」をしていただければ嬉しいです(笑)。
 
■プロフィール

田村孝裕 羽田美智子

たむらたかひろ○東京都出身。舞台芸術学院卒業後、同期生9人で結成した劇団ONEOR8の、作・演出を務める。舞台だけではなくテレビ等の脚本家として早くから活躍。近年は様々な外部公演で脚本や演出を手掛けている。近年の主な作品に、【舞台】『太陽の棘』(演出)『おもろい女』(潤色・演出)『雪まろげ』(脚本・演出)『サザエさん』シリーズ(脚本・演出)『たぬきと狸とタヌキ』 (作・演出)『狸の里帰り』(作・演出)『ゲゲゲの鬼太郎』(脚本・演出)、【映画】『箱入り息子の恋』(脚本協力)、 【TV】ドラマ『傍聴マニア09』(脚本)『妻を看取る日~国立がんセンター名誉総長 喪失と再生の日々~』(脚本)など。

はだみちこ○茨城県出身。1988年デビュー。1994年公開の映画『RAMPO』でヒロイン役に抜擢され、「日本アカデミー賞」で新人俳優賞を受賞。以降、多数の映画やテレビドラマに出演。主な出演作として『特捜9』シリーズ、『おかしな刑事』シリーズ、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』、『花嫁のれん』シリーズ、『隕石家族』などがある。舞台出演は、『グレーのこと』(2017年、2021年)『不機嫌な女神たちプラス1』(2019年)など。女優業のほか、自身が「本当にイイ!」と思ったものだけを紹介・販売するネット上のセレクトショップ『羽田甚商店』の店主も務めている。

【公演情報】
トム・プロジェクトプロデュース
『沼の中の淑女たち』 
作・演出:田村孝裕
出演:羽田美智子 柴田理恵 阿知波悟美 長尾純子 森川由樹           ●9/27~10/3◎東京公演 赤坂レッドシアター
〈料金〉一般前売 6,000円 一般当日 6,500円 U-18(18歳以下)1,500円 U-25(25歳以下)3,500円 シニア(60歳以上)5,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※全席指定 ※U-18・U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売
※要身分証明書。前売当日とも同料金
〈チケット取り扱い〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10:00~18:00)
http://www.tomproject.com
※ほか各種プレイガイドにて取り扱い

《地方公演》
●10/5~11/2◎長野~岩手
トム・プロジェクト公式サイトにて確認のこと

〈公式サイト〉https://www.tomproject.com/peformance/numa.html
 

【取材・文/榊原和子 撮影/山崎伸康】

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