祈りの歌を集めに旅に出る二人

「芝居」の可能性を追求してきたトム・プロジェクトが、言葉と歌、そしてピアノの旋律だけで構成される歌唱朗読劇、『空飛ぶドン・キホーテ』―祈りの歌を鞄に詰めて、風のリズムと旅する二人―を、7月22日に渋谷区文化総合センター大和田伝承ホールにて上演する。
古いプロペラ機を改造した「ロシナンテ号」に乗って、現実と空想の境界を彷徨う「教授」と、その忠実な助手「ハナ」。二人が世界中に散らばった〝祈りの歌〟を集める旅は、まさに名曲の旋律に乗せて贈る大人のためのファンタジー。その舞台で、教授役を演じる村井國夫とハナ役の山﨑薫に語り合ってもらった。
村井さんの歌につられて
ワッと歌い出して
──この作品は「歌唱朗読劇」とありますが、台本を読んだ感想からいただけますか。
村井 歌の多さに僕はただただびっくりしています(笑)。さすがに多すぎると思って、何度か書き直してもらったのですが、稽古が始まってみるとやっぱりたいへんです。ただ山﨑さんが出てくれるということで、よし! おんぶにだっこでいけるなと(笑)。
山﨑 そんな(笑)。こちらこそ大先輩とご一緒できるのが本当に嬉しいです。私にとって村井さんは、幼い頃にテレビの中で出会った「インディー・ジョーンズ」のハリソン・フォードの声の方で。放映されるたびに家族で夢中で観ていたので、今回共演させていただけることに両親が飛び上がって喜んでいます。
村井 本人は喜んでないの?(笑)
山﨑 もちろん一番喜んでいます!(笑)
──曲が多いというお話が出ましたが、名曲ばかりで村井さんにはおなじみの曲が多いのでは?
村井 歌ったことがないのは3、4曲かな。あとオリジナルの「ぼくらのゆくえ」という曲があります。山﨑さんはたいへんだよね。俺より数段難しい歌があるから。でもこの間のリハーサルでも完璧に歌ってて「すごいな」と。
山﨑 それは私のほうです。村井さんと初めてお会いした日、私はただの顔合わせだと思っていたのですが、村井さんがそのまま歌い出されたんです。ご自分で伴奏を録音してずっとお稽古されていたみたいで。それからセリフも喋られて。私はそれまですごく緊張していたんですけど、なんだか楽しくなってしまって、つられてワッと歌ってしまいました(笑)。
──村井さんはいつもそういう用意をされるのですか。
村井 僕は新劇出身で歌は40歳過ぎてから始めたものだから、全然自信がないし時間がかかるんです。だからせめて人の倍ぐらいはやらないとね。
──この作品は二人芝居ですが、二人芝居の経験は?
村井 『ラブ・レターズ』が始まった時にやって、あと『ジョルジュ』とか、今回の作・演出の小見山佳典さんとの『星の王子さま』、それから半年ぐらいロングランした『IDO!IDO!』とか、けっこうやってますね。
山﨑 私は今回が初めてです。ただ、人形と一緒に1時間歌ってお芝居する一人芝居を自分のライフワーク的に上演していて。
村井 人形と一緒なら、二人芝居みたいじゃないか。
山﨑 そうですね(笑)。浦島太郎の話なので、オリジナルの浦島太郎の人形を作って、それを操りながら太郎の心情を喋って、自分のセリフも喋って。
村井 よくできるね。
山﨑 大挑戦ですけど、すごく楽しいんです。
それが狂気なら
自分は喜んで狂人になろう
──今回のお二人の役柄は教授とその助手のハナです。二人が旅に出たのは、ある理由から世界各地の祈りの歌を集めることが目的で、劇中で祈りが入っている歌が次々に歌われます。しかもアカペラあり、詩の朗読もありとバラエティに富んでいますね。
村井 山﨑さんがアカペラで歌うスウェーデンのヨイクがすごく素敵なんです。でもものすごく難しいよね。
山﨑 そうなんです。もともとその土地の人たちが独自に歌い継いできたもので、私も初めて出会ったのですが、すごく感動しました。でも楽譜がないので全部耳で覚えて。
村井 すごいね。曲調がアイヌの伝統音楽にも似ているし、どこか懐かしさもある不思議な音楽で、小見山さんはよくこの曲を選んだなと感心しているんです。
──公演タイトルにある「ドン・キホーテ」を描いたミュージカル『ラ・マンチャの男』からは2曲あって、村井さんが歌います。
村井 大好きな作品で、松本白鵬さんが市川染五郎だった時代から観ていて、最後の横須賀公演なんて涙を流しながら観ていた。だからどうしても歌いたかったんです。
「見果てぬ夢」も好きだけど、「ラ・マンチャの男」がとくに好きで、あのイントロが始まるとぞくぞくする(笑)。
──最近、書籍や演劇で「ドン・キホーテ」に改めてスポットがあたっていますが、やはり理想と正義を求めて狂気のように生きる姿には、惹きつけるものがあるのかなと。
村井 今、たいへんな時代じゃないですか。だからこそ「ドン・キホーテ」のような人がいてほしいと思うんでしょうね。20世紀は戦いの世紀だったけど、21世紀はそうはならないと言われてきた。でもとんでもない時代になりそうで不安ではあるけれど、やっぱり理想や真実を求める心は持っていたい。「それが狂気なら自分は喜んで狂人になろう」と教授も言ってますから。
山﨑 単純に励まされますよね。芸術の世界も果てしなくて、落ち込むことや自信をなくすことがあるのですが、同時進行でそれが原動力にもなっているのかなと。もっとこんなことをやってみたい、こう歌ってみたい、こういうセリフを喋ってみたいとか、夢と欲は果てしなくある。この物語を読むと、そういうものを捨ててはいけないとすごく思うんです。綺麗事に聞こえますけど俳優とか歌手というのは、誰よりも希望というものを信じ抜ける職業だと思うんです。そしてそういう人が居続けることがすごく大切なのではないかと。こうして大先輩のそばにいると希望を感じますし、自分もそうなりたいと強く思います。
──居続けることの重みですね。
村井 もう60年だからね(笑)。
──そんなお二人からお客さまへのメッセージをお願いします。
山﨑 物語の中に時代とか世界の状況とリンクするものがたくさんある作品です。そして歌と詩、言葉によって、すごく浄化できたり、考えさせられたり、いろいろな世界に行くことができるので、その豊かさが伝わるように。とくに歌を生で聴いていただくことに丁寧に向き合っていきますので、ぜひ劇場にいらしてください。
村井 この物語の中にウクライナには地雷が埋まっているという話が出てくるけど、今はさらにホルムズ海峡に機雷を落としている。そういう世界の中で僕たちのこの作品がどこまで力になれるか、僕は別に力になろうとは思ってなくて自分が楽しめればいいと思っているのですが、それでも人の芝居を観たときに「そうだな」と思うことがあるので、少しでもそういうものがこの中にもあれば幸せだなと。そこをどう皆さんに伝えることができるか、そこはやっぱり楽しみです。
プロフィール
むらいくにお○佐賀県出身。俳優座養成所出身第15期生。第47回文化庁芸術祭賞、第32回菊田一夫演劇賞、第19回・29回読売演劇大賞優秀男優賞、第54回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。2024年3月声優アワードにて外国映画・ドラマ部門を受賞。『レ・ミゼラブル』、『マイ・フェア・レディ』などに出演。声優としても活躍、ハリソン・フォードの吹き替えは好評で40年近くつとめている。
やまざきかおる○埼玉県出身。文学座附属演劇研究所、新国立劇場演劇研修所修了。L.A音楽留学。主な出演舞台は、こまつ座『日本人のへそ』『貧乏物語』、新国立劇場『桜の園』、世田谷パブリックシアター『エレファント・マン』『愛するとき、死するとき』、ホリプロ『バンズ・ヴィジット』、明治座『大地の子』、劇団温泉ドラゴン『痕、婚、』など。日本劇団協議会『join』私が選ぶベストワン2023「主演俳優部門」に選出された。
(このインタビューは雑誌「えんぶ」2026年8月号より転載)
インタビュー◇宮田華子 撮影◇松山仁
公演情報

トム・プロジェクト プロデュース
『空飛ぶドン・キホーテ』
~祈りの歌を鞄に詰めて、風のリズムと旅する二人~
作・演出◇小見山佳典
出演◇村井國夫 山﨑薫 松永裕平(ピアニスト)
7/22◎渋谷区文化総合センター大和田6階伝承ホール
〈チケット取扱い〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日 10:00~18:00)





