
日本初上演となる、甘いチョコレートが心を解きほぐし、ほっこり温まるロマンティック・コメディ、ミュージカル『ロマンティックス・アノニマス』が、3月1日東京池袋の東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で開幕する(24日まで。のち4月1日~5日、大阪・東京建物 Brillia HALL 箕面〈箕面市立文化芸能劇場〉で上演)。
ミュージカル『ロマンティックス・アノニマス』はジャン=ピエール・アメリスとフィリップ・ブラスバンド脚本による2010年のベルギー・フランス合作映画「Les Émotifs Anonymes」を原作とした、繊細でシャイな男女の恋を描いたロマンティック・コメディを原作として2017年、翻案・脚本エマ・ライス、歌詞クリストファー・ダイモンド、音楽マイケル・クーマンという布陣でミュージカル化された作品。
今回、日本でも多くの演出作品を手掛けるスコット・シュワルツを演出に迎え、主人公の人とのコミュニケーションが苦手で内向的な青年ジャン=ルネ役に、STARTO ENTERTAINMENT 所属ジュニアグループKEY TO LITで活動し、2024年に主演を務めた『ニュージーズ』での好演が記憶に新しい岩﨑大昇。ヒロインで内気な天才チョコレート職人・アンジェリーク役には、2017年に『ピーター・パン』に抜擢されて以降、俳優業のほか、声優、歌手としても挑戦を続けている吉柳咲良、という新鮮なコンビを中心に、実力派の俳優たち9人で紡がれるチョコレート同様に甘く、ちょっぴりほろ苦い物語が展開されていく。
そんな作品で躍動する1人が花乃まりあ。宝塚花組でトップ娘役として活躍し、退団後も舞台を中心に精力的な活動を続ける花乃が、新たな作品や、演じることへの想いを語ってくれた。
チョコレート同様に甘さのなかにある苦みも感じる作品
──お稽古たけなわのいまの様子から教えていただけますか?
9人のキャストで創るミュージカルなので、一人一人がやることがすごく多いんです。それぞれの役を演じるだけではなくて、ここでコーラスをして、ここでセットを動かして、などたくさんの役割りを担っているので、宝塚歌劇団にいたころの、下級生時代を思い出して、懐かしいなと思いながら稽古に励んでいます。
──それは宝塚時代の花乃さんをご存じのファンの方々にとっても懐かしいものでしょうが、作品全体についてはどんな印象を?
たった9人で創っているとは思えないほど、ミュージカルナンバーの数も多いですし、東京建物 Brillia HALLでの上演ということで、劇場の規模もイギリスで上演されていた時よりもかなり大きくなるので、9人で空間を埋めるためには、すごく技術がいるなと思っています。キャストの皆様それぞれが、普段は作品のスパイスになるような重要なお役柄を演じていらっしゃる方ばかりで、そうしたお一人お一人が、コーラスのパートを懸命に練習されている姿に、音楽監督の塩田明弘先生も「すごく感動する」とおっしゃってくださっていて、舞台を創るってやっぱり一人ひとりのやる気とパワーなんだなということを改めて感じていますし、それがきっとこの作品の魅力なんだと思います。
──物語自体の印象としてはどうですか?
「ザ・ラブコメ」という感じで、とても面白いです。本当に30秒に1回ぐらい笑いが起こるほど楽しい作品ですし、チョコレートファクトリーが舞台の作品らしく、まさにチョコレートと同じように、とても楽しくて甘いんですけど、その中にほんの少しある苦味のエッセンスがものすごく効いてくる作品ですね。甘さと楽しさのなかにある、人生の苦みとか、人と接する時の苦味みたいなところが逆にとても印象に残る作品なんじゃないかなと思っています。
──その中で花乃さんが演じるお役柄は、スザンヌとミミという二つのお名前がクレジットされていますが。
実は、スザンヌとミミ以外にもたくさんの役を演じるのですが、大きくはその二役ということで、スザンヌは岩﨑大昇くんが演じるジャン=ルネが社長のチョコレートファクトリーで働いている女性で、ミミは吉柳咲良ちゃんが演じるアンジェリークが参加している、みんなが何かの問題を抱えていて、それを解決する為に集まっているセラピーグループにいる女性です。ミミの方がどちらかというとキャラクターとしてはっきりと描かれていて、彼女はNOが言えないんです。何に対してもNOが言えずに、YESと言ってしまうことが悩みだと歌います。セラピーグループには色々な悩みを持った人が集まっていますから、それぞれのキャラがすごく立っていて、場面としてもとてもエッジが効いています。スザンヌに関しては朴璐美さんと勝矢さんとお芝居することが多くて、そのお二人とのバランスでどういうキャラクターにしようかな、と考えていったのですが、ちょっと皮肉めいたところが多い女性で、笑いに関しても、ちょっとシュール感のあるものを担っている役どころじゃないかな、と思っています。二つの役柄が全然違っているので「えっ?同じ人がやっていたの?」と言ってもらえたらいいなという気持ちもあるのですが、逆に同じ人がやっているんだということがベースにあった上で観ていただくのも面白いのではと思います。この人数でこれだけのことをやっている、皆が何役もやっているということは、お客様はすぐにキャッチしてくださると思うので、例えばビジュアル的にはそれほど変わらないのに、役柄がどんどん変わっていく、という様を観ていただくことも、面白さに繋がるのかなと思っているところです。
──目の前で俳優さんたちが演じている空間を共有できる、生の演劇の醍醐味が詰まっていそうですね。最近、セットも俳優さんたちが動かす、ある意味演劇の原点に還った作品が増えているようにも感じるので、演劇好きにはたまらない喜びがあります。
俳優としてもやはりすごくやりがいがあります。自由度の高い役というか、例えば出番が多くなればなるほど、台本に書かれている役柄の情報って多くなるじゃないですか。本のなかにヒントがたくさんある。でも私も宝塚時代に村人1とか、令嬢Aとか台本のなかには役柄についてほぼ何も書かれていないお役柄を演じる時に、それがお客様に伝わっていたかどうかはわかりませんが、自分としては役柄のバックボーンを考えて、この人にはこういう生活があって、こんな性格でと考えていくことが、最初に感じたお芝居の楽しさだったんです。ですから今回、そういうことがすごくできる作品に巡り合ってとても楽しいです。
キャストに強い団結力が生まれている
──そうした作品で、スコット・シュワルツさんの演出についてはいかがですか?
すごく楽しんで創っていらっしゃるなという感じがします。まず役者に対して「1回感情のままにやってみて」と言ってくださって、そこからここでセットを動かすから、じゃあ感情の流れと作業をどう結び付けるか、というところを考えながら俯瞰してくださる姿がとても印象的です。事前にここでセッティングするから、ここまで動いていてくださいなどでは全くなくて、本当にこの場で起きることや、役者が動いてそこで生まれるものを大切に、むしろそこから発想を得ていらっしゃるのかな?というスタイルが素敵なんです。日本での仕事もたくさんやっていらっしゃる方なので、日本の制作現場にも慣れておられるし、私たち日本人の役者がどういうタイミングで、どういうことに不安を感じやすいか、なども、言葉が通じなくてもキャッチしてくださる方で、演者に寄り添った演出をしてくださる方だなと思っています。
──そこから日本版ならではの舞台が生まれるだろうなと期待が膨らみますが、先ほどとても数が多いとおっしゃったミュージカルナンバー、楽曲の印象はどうですか?
最近のミュージカルのナンバーは、とても壮大でパワフルで、歌うのにも大変な技術がいるし、お客様もすごいものを聞いた!という感じの大ナンバーが多くて、大きな感動を生みますが、帰りに口ずさめるという感覚とは少し違うものが多いように思うんです。でもこの『ロマンティックス・アノニマス』の楽曲は、1回聞いたら耳に残りやすい、耳馴染みがいい曲ばかりなので、お客様が帰り道に皆さん口ずさんでくださるのではないかな、と想像しています。
──それはまた素敵なことですが、そんな楽曲に彩られた舞台を創っている共演者の方々については?
皆さんプリンシパルキャストとして活躍されている方達が、セットの転換も含めて覚えることがあり過ぎて、脳が爆発しそうになりながらも必死で頑張り支え合っているので、すごい団結力が生まれています。やはり転換も自分たちでというのはとても緊張するのですが、ベテランの方々が一生懸命やられている姿を見ると、自分ももっと頑張りたいと思います。主演のお二人については、岩﨑大昇君は彼がまだ19歳くらいでしたでしょうか、『エルフ』という作品で共演していて、その時に彼の持っている魅力、ハートのピュアさみたいものが、ここまでダイレクトに歌や芝居の表現に乗っている人がいるんだとすごく感動したんです。そこから久々にお会いしたら身長も伸びていて、声もちょっと低くなっていて、大人になったなぁと思ったのですが、やっぱり彼がソロナンバーを稽古しているのを聞いていたら泣いちゃうんです。彼の持っているピュアという言葉が本当にぴったりの、心が澄んでいる人だという部分が一切変わっていない、そう感じられたことがすごく嬉しいし尊敬しました。これだけ経験を積んでもその部分が変わらないって素敵なことですよね。咲良ちゃんとは今回「はじめまして」なんですけど、本当に可愛くてパワフルで!これだけたくさんやることがある作品なのに、ずっと跳ね回っているから「まだ動き足りないの?」とからかったりしているんですけど(笑)、彼女が作るヒロイン像というのが私にはとても新鮮に映っています。アンジェリークってなかなか自分の気持ちを人に伝えられなかったり、人と目を合わせるのが苦手という、そんなに簡単に言えることではないんですが、でもひと言で言うとしたら内気なキャラクターだと思うんですけど、その内気さの中にある譲れないもの、ジャン=ルネとの対話の中でもこれだけは譲れない、これは私のテリトリーだという、自分の主張がハッキリ出ていることによって、現代の女性像みたいなものがちゃんと投影されているんですよね。それがすごくいいなぁと思いますし、二人のバランスもとても素敵で、咲良ちゃんの声を大昇くんの声が包んでいるような印象があるので、二人のデュエットもとても聞き応えがありますから、是非楽しみにしていただきたいです。
演じることをずっと続けていきたい
──物語のテーマとチョコレートがリンクしている作品とのことなので、花乃さんご自身がチョコレートと言って思い出すエピソードがあれば教えてください。
私は1年の行事のなかで1番好きなのがバレンタインなんです。自分がお菓子を作るのも食べるのも大好きだし、バレンタインって街中がピンクや赤のハートだらけになってすごく可愛いですし、みんなで甘いものを食べようとか、好きな人や大切な人に贈り物をするという文化自体もすごく好きで。ですからバレンタインはいつも楽しみなんですけど、特に宝塚時代には娘役から男役さんたちにバレンタインのプレゼントを差し上げる、というのが一大イベントだったんです。私も色々なものを作ってプレゼントさせていただいたことがたくさんあるのですが、まだ下級生でトップ娘役になる前に、ちょうどバレンタインの時期に名古屋で公演中だったことがあったんです。ホテル住まいでしたから、お菓子を手作りしようと思ってもオーブンも電子レンジもない。それでもどうしてもその公演のお芝居でご一緒させていただいている男役さんに手作りのお菓子を差し上げたくて、オーブンを買っちゃったんです。
──名古屋公演中にですか!?
そうです(笑)。自分がどうしても手作りしたかった、というだけなんですけど、差し上げた男役さんにはとても喜んでいただけましたし、こうしたちょっとよくわからない情熱を(笑)思い出話として話せる日がきたのは良かったです。そのくらいバレンタインは結構張り切ってやるタイプなので、チョコレートが題材になっている作品に出られるのは本当に嬉しいです。
──その舞台が幕を開ける時には、早くも3月になっていますが、2025年1年を振り返ってどんな年でしたか?
去年は子供を産んですぐに舞台に復帰させていただいたので、自分でも本当にどうなるのかが全く分からないままスタートした1年だったんです。やはり子供がいながら舞台に立つということが現実的に可能なのかとか、自分の気持ちや身体的にどういう変化があるのかも、見定められていないままはじまった1年でしたが、本当にありがたいことに色々なお仕事をさせていただけて。自分はこれからもずっとお芝居をやっていきたい、という思いがすごく固まった1年だったなと思っています。もちろんその為には家族をはじめ周りの方々の支えが必要ですから、多くの方のお力をお借りしてできていることがありがたいですし、母としての自分がいるのと同時に、自分自身の生きる道も大切にしていこうという気持ちがすごく芽生えたので、学びの1年だったなと感じています。
──そういうご自身の環境の変化は、演じる上でも投影されるものはありますか?
いい意味で自分自身には変化がなかったんです。もちろん復帰した時にはやはり自分のなかで、身体的な変化やブランクを感じることもあったのですが、演じる時や仕事をする上でのマインドは、良くも悪くも全然変わらないなと。ですから30代で子供を産んでも『ハムレット』でオフィーリアのような10代の役柄に挑戦させていただけたように、それが演じることの醍醐味だと感じましたし、演じることをずっと続けていきたいと感じています。
──また、宝塚時代にコンビを組まれていた明日海りおさんとの共演もありましたね。
本当に不思議な気持ちでしたが、明日海さんとお芝居をする時に漲ってくるやる気とか、自分がすごく安心している状態も変わらなかったんです。自分でももっと緊張するかなと思っていましたし、もちろん緊張感もあったんですけど、明日海さんと対面する時が1番安心して自分をさらけ出せるので、それは本当にありがたいことだなと思いました。やはり私の1番駄目なところをずっと見てきてくださっている方だからこそ、安心して色々なチャレンジをさせていただけたのでとても嬉しかったです。
──拝見している方も嬉しかったですし、下級生時代にご一緒されていた七海ひろきさんもいらして、そっくりそのままプレゼントのような舞台で。
ファンの方も皆さんそう言ってくださって、とても喜んでいただけたので、嬉しい経験になりました。
──そんな舞台をずっと続けたいと言ってくださるので、今後のご活躍もとても楽しみですが、まずこの舞台『ロマンティックス・アノニマス』の開幕を待たれている方たちにメッセージをお願いします。
春に向けて暖かくなっていくこの季節のように、本当に心がほっこり温まる甘い気持ちになれる作品だと思いますし、明日も頑張って生きようという気持ちになれる作品です。みんなが一生懸命で、どこかに少し欠けているもの、ほろ苦さを持っていつつも、人生って楽しいよね、人と出会う、愛し合うって素敵なことだよねという、明日に希望が持てるような素敵な作品なので、皆さん帰り道にはチョコレートを食べながら、ミュージカルナンバーを口ずさみながら帰っていただきたいです。そんな作品にできたらいいなと思っていますので、是非楽しみに劇場にお越しください。
(プロフィール)
かのまりあ〇2010年宝塚歌劇団入団。可憐な容姿と現代性も併せ持つ高い演技力で新進娘役ホープとして活躍し、2014年花組トップ娘役就任。『ベルサイユのばら』のマリー・アントワネット、『新源氏物語』の藤壺の女御、『ME AND MY GIRL』のサリー・スミスなど、宝塚の財産演目の多くでヒロインを務めて活躍した。2017年宝塚歌劇団を退団後は女優、またレポーターとして幅広く活躍を続けている。近年の主な舞台作品に『ザ・ミュージック・マン』『SHINE SHOW!』『フランケンシュタイン』『コレット』『ハムレット』などがあり、5月『レッドブック〜私は私を語るひと〜』11月『巨匠とマルガリータ』への出演が控えている。

【公演情報】
ミュージカル『ロマンティックス・アノニマス』
原作◇映画「Les Émotifs Anonymes」(ジャン=ピエール・アメリスおよびフィリップ・ブラスバンド脚本)
脚本◇エマ・ライス
歌詞◇クリストファー・ダイモンド
演出◇スコット・シュワルツ
音楽◇マイケル・クーマン
振付◇アディ・チャン
出演◇岩﨑大昇 吉柳咲良 朴璐美 勝矢 花乃まりあ 上野哲也 ダンドイ舞莉花 こがけん 大谷亮介
●3/1〜24◎東京・東京建物 Bri
llia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
●4/1〜5◎大阪・東京建物 Brillia HALL 箕面(箕面市立文化芸能劇場)
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/romantics/index.html
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 0570-00-7777(ナビダイヤル)
【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝演劇部】



