
不謹慎かもしれないけど、
キラキラしているところを観てほしい
錦織一清の演出で届ける『あゝ同期の桜』が、今年の夏も上演される。学徒動員の父と戦地に赴いた伯父を持つ錦織一清が、榎本滋民による『あゝ同期の桜』を原作に、原本の遺稿集である海軍飛行予備学生14期会や、その後の15期生を自ら取材し、青春群像劇『あゝ同期の桜』として立ち上げた。2015年の初演から数えると今回で5度目の上演となる。主人公となる第14期海軍飛行予備学生の諸木文晴役には、本作が初舞台、初主演となる中山脩悟。その中山と錦織一清が作品について語り合う。
人間って平和になり方が下手なんじゃないかと
──錦織さんはこの作品を2015年に初演、今回で5度目の上演となります。
錦織 去年が戦後80年でしたから、そこで一度区切るという形もあるかなと思っていたんです。でも観に来てくれた僕の友人にそんな話をしたら、「いや、こういう作品は毎年、本当なら毎日どこかで上演してもらったほうがいい。あまりそういう区切りとか気にしなくていいんじゃないか」と言ってくれたので、やっぱりできるかぎり上演しようと思ったんです。
──そういう意味では今の世界情勢や日本の状況の中で、ますますリアルで切実な話になっています。
錦織 僕は、基本的に人間って平和になり方が下手なんじゃないかと思っているんです。戦後も80年過ぎると、あの時代のことを知っている人が少なくなってきた。僕なんかは親父が戦争を知っている人間だから語り継いでくれたけど、あまり身近なものじゃなくなっている。そして平和ボケという言葉があるように麻痺してくる。だからもしこういう作品を観て、若い人たちが何かを感じてくれるならいいなと思っています。
──物語の主人公の諸木文晴役は中山脩悟さんです。台本を読んでいかがでした?
中山 台本を読んでまず思ったことは、明日何をしようかなとか、そう思えること自体がすごく幸せなことなんだなと。諸木のセリフに「僕は本が読みたいよ」という言葉があるのですが、したいことができない時代があったということは歴史としては知っていたのですが、台本を読んで実感しました。今、僕はお芝居ができている。それはすごく大切な時間なんだと改めて感じたので、そういう思いを背負って演じられたらと思っています。
──中山さんはずっと野球部だったそうですが、礼儀正しくてしっかりしている感じですね。
錦織 僕なんか22歳の時はこんなにちゃんとしてなかった(笑)。脩悟くんの良さは、今の若者ともちょっと違うというか、やっぱりご両親のしつけで、ヒデちゃん(中山秀征)も優しく厳しく育ててきたのかなと。同世代だから、その息子さんという意味ではちょっと感慨深いものがありますね。
──中山さんにとっては今回は初舞台でもあります。
中山 やっぱり緊張しますし、不安も大きいので、とにかくいろんなことを知ろうと特攻隊についての本を読んだり、ゆかりのある場所に行ったり、学んだり知識を得ようとしています。それが「本をもっと読みたい」と思った諸木にうまく重なっていけばいいなと。お芝居については僕よりずっと上手な方が沢山いらっしゃるので、僕はせめてそういう部分で諸木に近づけたら、諸木も中山脩悟という人間も魅力的に見えてくるのではないかと思っています。
錦織 この『あゝ同期の桜』というお芝居に関しては、それで正解なんだよね。お芝居が上手ければいいというものではないので。舞台の上でセリフをまっすぐに喋るだけでいい。そういう意味では、諸木役には重いセリフがいくつかあって、「僕らのことは、決して正当化したり、美化したりしないでほしい」とか「後世にそういう伝え方をしないでくれ」という言葉があったり、なんかそういうことを整然と言うんです。そして「僕たちはたまたまこの時に生まれただけなのさ」と。
──錦織さんもこの作品について、「戦争を美化するのではなく、戦争の中でいやおうもなくその役目を背負ってしまった人たちが、いかにそれと向き合ったかを描きたい」といつもおっしゃっています。
錦織 僕、すごい話を聞いたことがあって。特攻の隊員たちは飛行機に乗る前に笑顔で写真に写っていたりするじゃないですか。あれは彼らの中で、新聞とか雑誌とかが写真を撮りに来たら、悲しげな顔じゃなく絶対笑ってやろうぜと話し合っていたそうなんです。だからみんな笑ってる。
中山 ……すごい。
若い人たちの熱に置いて行かれないように
──ちょっとお話は変わりますが、中山さんは錦織さんの印象はいかがですか?
中山 初めてお会いしたときにものすごく明るい方だなと。それに本当に不思議なんですが、うちの父親と喋り方がすごく似ていて、雰囲気も似ているんです。なんか場を沈ませないというか、みんなの気持ちを上げてくれる。去年の公演の稽古動画を拝見したのですが、錦織さんがみんなを盛り上げていて、いい座組だなと思ったんです。僕もこれからそういう錦織さんの演出を受けられるんだとすごく楽しみでした。
錦織 僕はすぐふざけちゃうんですよ(笑)。僕がふざけるからみんな「ああはなりたくない」と思って、ちゃんと良い芝居をするんです(笑)。
──チームワークが大事な作品だと思いますが、中山さんは野球での経験が生かせそうですね。
中山 この作品を一緒に作ってこられた方が多いので、すでにチームワークが出来上がっている感じなのですが、初めての僕もすぐ入れてくれて、ギュッと一つのチームにまとまっています。その中での何でもない会話とか、本当にしょうもないことを話しているのが、なんか面白いし、楽しい。野球をやっていたときの懐かしさも感じますし、そういうものが特攻仲間の友情みたいなものになって舞台で表現できたら、きっといいものが出来上がるんじゃないかと思います。
──ベテランの岩永洋昭さんや渋谷天笑さんの存在もお芝居を引き締めていますね。
錦織 基本的に心配ない方たちなんですが、この作品ではそれ以上に7人の特攻隊員たちの熱とか芝居がものすごいので、僕を含めてベテラン俳優陣の方が若干置いて行かれがちになるんです(笑)。なんか逆なんですよ。若いキャストたちが一番大変なのに、大人たちのほうが自分の場面に緊張してる。僕も少ししか出ていないのですが、「ここでしくじったらやばいな」みたいな(笑)。若い人たちの熱で大人たちがそのぐらい真剣になってくるんです。
──そんな熱の入った舞台を楽しみにしています。最後に観てくださる方へのメッセージを。
中山 上の世代の方たちにももちろん観ていただきたいのですが、やはり自分と同世代とか下の世代にしっかり伝えていきたいなと。僕自身も歴史では知っていても、歴史としてしか捉えていなかったので。実際に自分たちがこの立場だったらどうするだろうと、自分のこととして感じ取ってもらえればいいなと思っています。
錦織 僕の中でこの『あゝ同期の桜』は、ある意味不謹慎かもわかりませんが、特攻隊員たちがキラキラしているところを観てほしいんです。あの当時の若者たちの生きるバイタリティとかエネルギーというのは、今の若者たちと少しも変わらない、本当にキラキラしていたんだということをわかってほしいですね。
(このインタビューは雑誌「えんぶ」2026年8月号より転載)
インタビュー◇宮田華子 撮影◇中田智章
公演情報

アンクル・シナモン
『あゝ同期の桜』
原作◇榎本滋民
脚本◇上田浩寛
演出◇錦織一清
出演◇中山脩悟/石川大樹 片岡滉史朗 伊藤セナ 新井元輝
渡口和志 髙野皓平 岡澤由樹/岩永洋昭/渋谷天笑 惣田紗莉渚
中久喜文音 板垣桃子/錦織一清
8/13〜17◎東京公演 三越劇場
8/22◎木更津公演 かずさアカデミアホール
〈お問い合わせ〉info.douki@gmail.com




