
2026年の一時期、SNSで演劇が流行っていないという話題が小さく盛り上がっていた。演劇がとても盛り上がっていた時代といえば1980〜90年代。「第三舞台」は演劇を流行らせた立役者のひとつで、小劇場ブームという社会現象を作り上げていた。
そんなレジェンド劇団、「第三舞台」のメンバーたちが「第三舞台2026」として15年ぶりに集まり、新作舞台『パレイドリア』を、8月9日〜30日に紀伊國屋ホールにて上演する。(大阪ほか地方公演あり)
主宰の鴻上尚史いわく「2026」とつけたのは、全員がそろっているわけではないから。ファンの気持ちを大事にして、いま集まれるメンバーでのユニットという位置づけにしたという。それでも大高洋夫、小須田康人、長野里美、山下裕子、筒井真理子(映像出演)とスターメンバーがこれだけ集まるのは壮観で、そこに鴻上が信頼する若手俳優が参加したユニットが「第三舞台 2026」となる。鴻上と主要メンバーの大高洋夫と長野里美に、「第三舞台」のはじまりを振り返りつつ「2026」を語ってもらった。
「第三舞台メソッド」は人間の生理に反する?
──まず鴻上さんから大高さんと長野さんの俳優としての魅力をお話ししていただけますか。
大高 本人たちの前で?(笑)
鴻上 本人の前で話したことはないよね。……昔ね、「第三舞台」の公演で、まだみんな素人っぽいところがあった時代、セリフを噛んだり言い間違ったりするたびに僕は怒っていたのですが、あるとき、大高がセリフを言い間違えて。そのとき芝居全体がぐらっと揺れたような気持ちになったんです。それで俺は、「第三舞台」は大高が支えているんだということに気づいたんですよ。大高もその信頼に応えてくれたし、劇団員も大高に頼るようになりました。逆に、大高の声が完全に枯れ切った公演が1回あって。観客が耳をそば立てないと何を言っているかわからないときには、大高さんが大変だからなんとかしなきゃと劇団員たちが強い結束を発揮した。つまり、俺にとって大高は「第三舞台」を支えてくれている人っていうことですよね。
里美は、女性の劇団員のリーダー的な存在。それこそ一時期『朝日のような夕日をつれて』ばかりやっていたら里美がまず怒った。(山下)裕子も(筒井)真理子も何も言わないけれど、何かあったら里美がまず突撃してくる。男しか出ない『朝日』ばかりやっていたら、女性の劇団員たちはいい気持ちがしないことを里美のおかげで深く理解しました。俳優としては、里美はとてもうまい。大高もそうで、俺が「第三舞台」に求めている、ストレートでナチュラルな感情をキープしながら瞬時に笑いやダンスに切り替えられる。その両方ができる俳優は稀少なんですよ。ナチュラルな感情を深追いできる俳優さんはいるし、技巧的にすごくうまい俳優さんはいるけれど、「第三舞台」では、技巧もすごいうえに、ナチュラルな感情も深い、それをずっと求めてきました。それはぶっちゃけて言うと人間の生理に反することです。深い感情を表現していたところ、急に冷静な言葉で突っ込んだら心がキュイッと歪むに決まっている。でも僕はそれを求めてきたし、大高と里美はそれがやれる二人です。
長野 鴻上さんはそれを分かってくれていたのか……(笑)。うまくやれていたかどうかは別として、「第三舞台」ではとても難しいことを求められてきました。心は泣いているのに顔は笑っている表現をしろとか、いままでやってきたことをすべてゼロに戻してダンスをはじめろとか、無茶な芝居作りを、劇作をしてきました。私がはじめて入った劇団が「第三舞台」で、そこで育ってきて、芝居とはそういうものだと思っていました。常に役の感情に深く入り過ぎないようにしていたんです。のちに外部の作品に出たときも、鴻上さんのような戯曲もあり、「第三舞台」もこうだったなと思うこともありますが、やっぱり「第三舞台」のやり方は特別。求めるものがかなりハイレベルでした。
大高 いわゆる感情のフットワークっていうことなんですよね。里ちゃんじゃないけれど、他の現場に行ったとき、えらく間を持ってしゃべる俳優に出くわすことがあります。「第三舞台」では、間は見ている側の時間だから、そこを裏切って行けということをずっと言われていて。それが当たり前だと思っているから、他の人の芝居を見ると、良い悪いではなく、間が長すぎないかと思うことが未だにずっとあります。映像の仕事ではそれが顕著で、間をたっぷりとった濃い芝居が好きな監督がいらっしゃいます。もちろん、それを求める現場であれば、やるのが俳優ですけれど、生理的には受け付けないものがあって(笑)。演劇の現場では、やっぱり「第三舞台メソッド」っていうほどのものかはわかりませんが、いまだにそれに則ってやっています。
──大高さんのスピード感は「第三舞台」で培われたものということですか。『パレイドリア』の合同取材会のときの大高さんの発言の言い出しのタイミングが素早くかつスマートだと感じました。
大高 それはメソッド仕込みじゃないです。それは大高洋夫の個性です(笑)。はじまりは早稲田大学の劇研(演劇研究会)ですね。鴻上とは、新人の頃、同じ身体訓練をやっていくなかで仲良くなって、好きな映画の話などをしていました。鴻上は出会ったときからずっと作、演出をやりたいと言っていたんです。それだったら、俺は俳優をやって、2人でうまいことできたらいいな、なんて俺は思っていました。
鴻上 ある日ふたりで麻雀の相手を探したら、相手がみつからなくて。喫茶店に入ってしばらく話をしていて、そのうち話すことがなくなって、なんとなく沈黙が訪れて。で、大高が気を遣って「そろそろ腰上げたら」と言うから、俺が飛びついて劇団が生まれたんです(笑)。

自分のことで精いっぱいで人のエチュードを見ていない
大高 「第三舞台」を作ったときは、そのまま劇研仕込みの方法論を正しい道だと思って踏襲していきました。
鴻上 劇研がそもそもスパルタだった。それで劇研を辞める人や、そもそも劇研を選択しないで他の演劇サークルを選ぶ人もいて。例えば、小手伸也さんはそうだったと聞きます。劇研に入ったら大変な目に遭うというような認識があったんですよね(笑)。
大高 劇研に入った途端、「明日からジャージ上下用意して。身体訓練から始まるから」と言われ、大隈講堂の前からスタートして文キャン(文学部キャンパス)の前を通って箱根山という山手線内最高峰の高所の頂上まで行って、腕立てと腹筋をやって、また大隈講堂に戻る。吐きながら走ってましたね。
鴻上 12時大隈講堂スタートで、11時半ぐらいに近くのおいしいうどん屋さん──いまはもうなくなっちゃいましたけど──そこでまず昼飯を食べるわけですよ。食べてゆっくり着替えてランニングが始まるわけですよ。そうすると箱根山の頂上が見えてくる頃には、戻す。
三人(爆笑)。
大高 大隈に戻ったら新たにブリッジとか腕立てとかやって。壁のところで逆立ちして歌を歌ったり。もうとんでもなかったんですよ。
長野 まる2時間訓練が続いて──。
大高 そう。でちょっと休憩して、今度はアトリエでエチュードが始まるんですよ。
長野 そうそう、そのエチュードがまた厳しくて。
鴻上 発声もやらなかった?
長野 発声もやった。あとジャンプ。ジャンプを100回ぐらいやった。凄まじい訓練だったなあ。
鴻上 その当時は男女別という発想はなかったんだよね。
長野 そうなんですよ。大隈講堂の前のコンクリートの地面で腹筋100回腕立て100回スクワット 100回とかやって。あれで女の子たちはかなりの数、抜けましたね。
大高 里ちゃんシックスパックできたでしょ。
長野 その当時鍛えた筋肉がなかなか取れなくて。
大高 「第三舞台」を辞めた女性が違う劇団に行って、稽古前に腹筋していたら演出家に「女優はそんなことしなくていいから」と言われたそうですよ(笑)。
長野 役者はアスリートと言う人もいますが、本当にそうだよね。劇研は体育会系だった。
大高 その当時の体力があるからこそいまがあるよね。12時に集まって夕方6時から7時ぐらいまで稽古していて。だから授業も行ってない(笑)。
長野 先輩たち大抵中退していましたよね。5、6年生がゴロゴロしていました。
鴻上 バイトする時間がほとんどなかったので、仕送りがもらえる人じゃないと残れなかったね。
──どうしてそんなに体育会系だったのでしょうか。
鴻上 演出するとき手に竹刀を持ちながら行うという一部の人がやっていたルールは、早稲田小劇場の鈴木忠志さんの影響という、一応、歴史があることはあるんです。鈴木さんは剣道をやっていたんですよ。そういう劇研のメソッドに僕が染まったのと、最初の頃は、大学の学生サークルだから、皆、セリフを覚えてこなかったり遅刻したり、緊張感がなくて。それに僕はとても怒っていました。それがコスちゃん(小須田康人)に深いトラウマを植え付けたみたいなんですが(笑)。
──鴻上さんの作品には俳優たちのエチュードから生まれたものはありますか。
鴻上 いや、ない。
長野 ないって(笑)。
鴻上 エチュードは千本ノックみたいなものだから、毎日毎日、なにか面白いことないかずっと探し続け、それが台本のある部分のプラスになるというくらいです。
大高 エチュードでは最近見た変な人を演じろとか、そういうことをやったよね。
長野 音楽かけてその場でなんかやるとか。それで面白くないと「面白くない。次。次。次」とどんどん俳優が変えられていく。
大高 エチュードの発表の順番を待って並んでいる間ずっと考えていた。次何やろう、次何やろうって。
長野 でもね、厳しい空気だから面白くなれるわけがないんですよ。
鴻上 あははは!
大高 そう。みんな自分のことでいっぱいいっぱいで人のエチュードを見てないから、笑いなんか一個も起きない。
長野 自分のことで精いっぱいだし、人のエチュードを見て笑いたくないし(笑)。
大高 そう。笑ってやるもんかと思って(笑)。
長野 そういう殺伐とした空気で(笑)。そのなかで「橋のエチュード」というものがあったでしょう。両端に人がいて、間に1本、橋がある設定で。
大高 その橋は1人しか通れない。でもお互いに向こう側に行きたいから、ふたりが出会った瞬間に渡りたい理由を言って。
長野 面白いほうが勝ち。
大高 それをまんま舞台にあげたよね。
長野 そうだよね。『リレイヤー』だったかな。
大高 バカウケだったね。
鴻上 あれは見ていてこれはエチュードで終わらせてはもったいないと思った。千本ノックじゃなくて、これは試合に出すことができると。

パブリックイメージも大切にしながらプラスアルファを
──今回の作品で、大高さんと長野さんの演じる役はどういうものですか。当て書きなのでしょうか。
鴻上 僕は「第三舞台」時代からいつも半分当て書きでした。例えば、いま、里美にこんなことをやってもらったら面白いんじゃないかというのをプラスアルファとして当て書きする。今回も、いままでの観客たちのパブリックイメージも大切にしながら、こんな風になったらどうだろうという、そのふたつを足した感じにしています。
長野 いま、こんな風になったらどうだろう、というのがどの部分なのかちょっとわからないのですが……。
鴻上 今回の役でいうと、区議選出馬にあたって、負けるもんかとがんばって前向きにやっているところかな。
長野 いや、でもいつも割と負けるもんかのタイプを振られていますよ。それとあと、知的な役を振られているように思います。
鴻上 それに対する答えは、1つ目は里美さんは知的だからというパターン。2つ目は女性3人の中で知的な役を演じるのは里美さんがふさわしいというパターン。お好きなほうをお選びください。
長野 そういう意味では半分当て書きというのは、座組のなかで、こういう人がいてほしいということなのかな。
大高 (ニヤニヤして聞いている)
鴻上 じゃなくて、例えば──いい例題を出さないといけないな。インテリなやつがいると思いねえ。たいていインテリの人に抱くイメージは批評的で冷たい人というものが大半だよね。ところがとてもインテリなのになんだか温かさがあるとか人の愚かさを許容できる懐の大きな人がいたら、インテリのイメージが変わる。そういう感じです。
長野 そういう感じ?
大高 納得してない(笑)。
鴻上 合同取材のとき、「20、30代だったとき60代以上の先輩をどう思っていたか、いま60代の立場に立ったときどうか?」という質問で、里美は「かつては年功序列があったが、いまは年齢を除外して生きていく時代。年下とも親身に近づいていけている気がします」と答えた。「いまのは白里美だね」と俺は言ったよね。黒里美と白里美がいて、黒里美は自分の発言がどういう波紋を巻き起こすか考えない自由な人物で、白里美は周囲のことを考えたうえで話す。そういう白里美を選択する知性を期待しているということかな。
長野 鴻上さんが今回の役にそうなってほしいということですね。演じる役が実人生にも影響したりしますよね。それを踏まえて、今回は、「第三舞台」らしさも守りながら、人間として、60代の役者としてのナチュラル感も出したい。どうしたって出ちゃうと思うんですよね。人間って長く生きれば生きるほどいろいろな経験もするし、情報も入ってくるし、それが意図せずして役に滲み出てしまうものだと思っていて。「第三舞台」らしさを守るなかからこぼれて出てしまうものがミックスされて味になったらいいなあと思います。
──大高さんの役はどうですか。
大高 今回、認知症と診断された人物の役で、ああ、いま、こういう役を俺に当ててくれたんだという思いはありましたよね。
鴻上 意図としては、昔ながらのお客さんたちの大高への認識を裏切りたい。大高が「第三舞台」の屋台骨だと思っている人達は舞台上で大高が語ることがテーマだと思っています。でも今回は、屋台骨だったはずの大高が認知症と診断されて記憶が曖昧だったりする役です。テーマを確実に語る役とはまた違う大高を見てほしいですね。
大高 とても難しい役だけれど、その難しさをかみ締めながら演じています。実人生としては、60代の僕たちの元気な姿をお見せしますので、紀伊國屋ホールでお待ちしています。
鴻上 「第三舞台」をこれまでずっと見てくれた人たちと、歴史のなかでしか知らないことのない人と、まったく聞いたことのない人たち、誰もが楽しめるものにします。

【プロフィール】
こうかみしょうじ○早稲田大学在学中の1981年に劇団「第三舞台」を結成(2011年『深呼吸する惑星』で解散)。これまで『朝日のような夕日をつれて』、『天使は瞳を閉じて』、『トランス』、『スナフキンの手紙』ほか数多くの作品を発表。海外でも『TRANCE』(07)、『Halcyon Days』(11)をイギリスで上演。近年の主な作・演出作品は、ミュージカル『スクールオブロック』(23、翻訳・演出)、『朝日のような夕日をつれて2024』(24)、『反乱のボヤージュ』・『サヨナラソング-帰ってきた鶴-』(25)、『トランス』(26)など。演劇だけでなく、小説家、ラジオパーソナリティ、映画監督など、多岐にわたる分野で活躍中。
おおたかひろお○早稲田大学在学中に鴻上尚史と共に 「第三舞台」 旗揚げ。以降、ほぼ全作品に中心俳優として出演。舞台のみならず、 映画『藍反射』(26)、ドラマ『対決』(NHK/26)、『コーチ』(TX/25)、ショートドラマ『課長島耕作のつぶやき』(24)ほかラジオ、バラエティなど幅広いジャンルで活躍中。近年の主な舞台出演作は、『サイボーグ009』(24、25)、劇団『ハイキュー!!』(25)、マーダーミステリーシアター『偽りの晩餐』(25)のほか、KOKAMI@networkの『地球防衛軍 苦情処理係』(18)、『リンダ・リンダ』(05、12)など多数出演。出演映画『名無し』が5月22日より全国公開
ながのさとみ○早稲田大学在学中に劇団「第三舞台」に参加。第2回公演『宇宙で眠るための方法について』(81)以降、『スナフキンの手紙』『トランス』『ファントム・ペイン』ほか25作品に出演。95年に文化庁派遣芸術家在外研修員としてロンドンに一年間留学。代表作はドラマ『ぽっかぽか』(TBS/94〜96)、 大河ドラマ『真田丸』(NHK/16)。パルコステージ『凍える』(23)にて第30回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。近年の主な出演作は、舞台『エクウス』(26)、『もしもこの世が舞台なら楽屋はどこにあるのだろう』(フジ/25、『Tシャツが乾くまで』(TBS/26)など多数。

【公演情報】
「第三舞台2026」『パレイドリア』
作・演出:鴻上尚史
出演:大高洋夫 小須田康人 長野里美 山下裕子 筒井真理子(映像出演)
中山優馬 飯窪春菜 小松準弥 安西慎太郎 渡辺芳博
内田智大 大城智哉
●8/9〜30◎東京公演 紀伊國屋ホール
●9/4〜6◎大阪公演 サンケイホールブリーゼ
ほか地方公演あり
〈公式サイト〉https://www.thirdstage.com/daisanbutai2026/
【取材・文/木俣冬 撮影/田中亜紀】



