ゆかりの演目、当り役づくしで名優を偲ぶ十八世中村勘三郎十三回忌追善興行 合同取材会レポート
多くの歌舞伎ファンに愛された十八代目中村勘三郎が、2012年12月5日に亡くなってから来年で十三回忌を迎える。その「十八世中村勘三郎追善公演」が、2024年2月に歌舞伎座で行われる「猿若祭二月大歌舞伎」(2月2日~26日、13日・20日休演)を皮切りに、3月には名古屋平成中村座(3月6日~18日、12日休演)、3月から10月にかけて「陽春歌舞伎特別公演2024」「春暁歌舞伎特別公演2024」「錦秋歌舞伎特別公演2024」と全国巡業を行い、最終地となる10月の三島村歌舞伎(鹿児島県三島村の硫黄島)(日程調整中)まで、約1年間かけて行われることになった。
演目は、それぞれ以下になる。
2月の「猿若祭二月大歌舞伎」の昼の部が『野崎村』『釣女』『籠釣瓶花街酔醒』、夜の部が『猿若江戸の初櫓』『義経千本桜 すし屋』『連獅子』。
3月の「名古屋平成中村座」は、昼の部が『弁天娘女男白浪(通称:白浪五人男)』『身替座禅』、夜の部が『義経千本桜 川連法眼館(通称:四の切)』『二人藤娘』。
全国巡演の「陽春歌舞伎特別公演2024」では『鶴亀』『舞鶴雪月花』、「春暁歌舞伎特別公演2024」と「錦秋歌舞伎特別公演2024」では、『若鶴彩競廓景色』『舞鶴五條橋』をそれぞれトークコーナーとともに上演する。
また三島村歌舞伎では『俊寛』を上演。すべて十八代目と中村屋にゆかりのあるラインナップだ。
出演者は、中村勘九郎、中村七之助、勘九郎の息子の中村勘太郎と中村長三郎、十八代目の部屋子で“3人目の息子”の中村鶴松をはじめ、中村芝翫や中村歌六などの親戚、十八代目と公私ともに盟友であった片岡仁左衛門など、豪華な顔ぶれが揃った。
11月下旬、都内でその取材会が行われた。取材会には、松竹株式会社取締役副社長演劇本部長の山根茂之、勘九郎、七之助が出席。それぞれから挨拶の後、質疑応答に移った。
【挨拶】
勘九郎 十三回忌…早いですね。祖父が父に「追善興行ができる役者に」と遺言した通り、父は祖父の追善をして、私たちも2月の歌舞伎座で追善興行ができるのは本当に嬉しい。少しは親孝行ができるのかなと思います。
2月は、私は祖父も父も大好きだった(『籠釣瓶』の)次郎左衛門を初役でさせていただきます。勘太郎の猿若は、父も私も20歳を過ぎてからやったので、年齢のわりにとても難しい狂言ですが、一生懸命に稽古努力をして、皆様に楽しんでいただけるようになるんじゃないかと思います。長三郎とは『連獅子』を踊らせていただきます。私たちにとっても、父と『連獅子』を手掛けたのが、今までやってきた役のなかで一番多く、思い出もひとしおです。また、序幕に鶴松が『野崎村』をさせていただくのも本当にありがたい。こういうことはもうまずないと思いますが、父が本当に喜んでいると思います。
3月の同朋高校(名古屋平成中村座)は、私はケガで父の襲名の巡業に参加できず、とても楽しかったという話を後からいっぱい聞いていたので、今回やることができてとても嬉しいです。その巡業で父がつとめた『身替座禅』をさせていただきます。夜は『千本桜』の忠信ですが、私の御園座での襲名公演以来で、これも父に習った思い出のある役で、楽しみです。
秋と春の巡業では、祖父のために書き下ろされた『舞鶴雪月花』と『舞鶴五條橋』をやります。最後に、三島村で『俊寛』を初役でつとめさせていただきます。これは本当なら、父がやる予定でした。父の遺志を継いでつとめられるのが本当に楽しみ。初役、久しぶりの役、大好きなものをいっぱい演じられるので、本当に楽しみな1年になると思います。
七之助 2月の歌舞伎座を始め、3月は同朋高校の体育館をお借りして、そして巡業、最後は三島村歌舞伎と、1年を通して父の十三回忌の追善興行を行えるのは、息子として本当に嬉しく、身の引き締まる思いです。1つ1つの公演を精一杯つとめたいと思います。
【質疑応答】
――今回、十三回忌追善を同朋高校でやるのは?
勘九郎 初代中村勘三郎の生誕地ですし、父がゆかりの意味を込めて同朋高校の体育館をお借りして、襲名の巡業の一環でやらせていただきました。今回決まった時は本当に嬉しかった。みんなが歌舞伎を知ってくれて、父を思い出してくれる機会になるのでは。
――ゆかりの演目が並びますが、どんな思いで選びましたか?
勘九郎 『籠釣瓶』はいつかやりたいと話していましたが、十三回忌に歌舞伎座で、しかも2人でできて、父が本当に喜んでいると思います。『猿若~』は、「猿若祭」としてさせていただくので、この踊りにしました。『連獅子』も絶対やろうと思っていました。コロナ期に、勘太郎とともに長三郎も『連獅子』の稽古をしていて、当時はできなかった振りができたり、音を聞く力が養われてきた。火の玉のような仔獅子をやってくれると思います。でも、できれば(自分の初役と)同じ時にやってほしくなかった(笑)。
――八ツ橋への意気込みは?
七之助 憧れでしたし、歌舞伎役者の女方で八ツ橋をやりたくない役者はいないだろうという役ですので、父の追善に合わせてやらせていただけるのはありがたいです。
――勘太郎さんと長三郎さんには、巡業や追善のことをどう説明し、どういう反応をされましたか?
勘九郎 追善に関しては、子どもの頃からわかっていたことなので、改めて話はしていません。猿若がもしかしたらできるかもと言ったら、マスクから笑みがこぼれるくらいニヤニヤしていました(笑)。プレッシャーを感じていると思いますが、プレッシャーや不安は稽古を重ねることでなくなるというのが父の教えなので、毎日のように一生懸命稽古しています。長三郎はそんなに言葉や態度に表さない男ですが、本当はすごく緊張しいなので、とてもドキドキしています(笑)。
――抜擢された鶴松さんや、勘太郎さんへの期待などは?
七之助 まず『野崎村』のお光は、私は確実に鶴松でいきたいと主張しました。父は、もしかしたら(鶴松の抜擢を)一番喜んでいるんじゃないかな。お光は、父が自分でも大好きな役で、鶴松にぴったりだし、一生懸命つとめると思います。僕は久松が初役なので、ここでなのかとちょっと自分でもびっくりしています(笑)。『猿若~』は、兄はドキドキで同じ月じゃないほうがと言いますが、僕は“おじばか”なので、勘太郎は多分素晴らしいものが出るだろうなと安心しています。2人でがっつり対するのは初めてなので、とても楽しみです。
――次郎左衛門のやりがいは?
勘九郎 『籠釣瓶』は本当に良い芝居です。歌舞伎らしさも入っているし、美しさ、悲しさ、切なさ、悔しさ、怒り…本当に色々な人間の感情が渦巻いています。私は、最初に七越(花魁の役)で父の次郎左衛門を背中で見て、その後に、治六で次郎左衛門と同じような感情になり、怒りをぶつけた時に、いつかはやりたいと思いました。次郎左衛門は本当に可哀想な人ですが、可哀想な人だと思って観てほしくないし、そう思ってやりもしません。この良い芝居をずっと続けていた、父、祖父、先人たちが築き上げた『籠釣瓶』の1ページに入れることが幸せです。汚さぬように努めたい。
――八ツ橋の魅力は?
七之助 「縁切り」もそうですが、全体を通して八ツ橋という女性のカッコよさや綺麗さ、女性の儚さ、勤めの身という心の揺れ、色々なことが渦巻いています。八ツ橋をやられた先人が素晴らしい皆様なので、女方としてずっと見ていてやりたかったです。
――13年間で、ここは褒めてもらえるようになったのではと思うところは?
勘九郎 (少し考えて)なんだろうね…?
七之助 やっぱり追善を…。
勘九郎 それはもちろんですし、歌舞伎座で色々な役をというのは、これから目指すところ。それよりも、本当にありがたいことに父が平成中村座を残してくれたので、色々なものもできたし、平成中村座ではやらなかった新作もできました。父がやっていなかったことをできた時は、嬉しがっているんじゃないかと思いました。この間の『天守物語』もしかり。(坂東)玉三郎のおじ様が演出をしてくださり、3日目までカーテンコールで中村座の舞台に立ってくださいました。これは父が生きていた時は叶わなかったことで、舞台からお客様が入った中村座を玉三郎のおじ様がみてくださった姿は、喜んでいると思うし、富姫ができる役者になって、七之助は本当に親孝行をしました。
七之助 同朋高校内での歌舞伎も、昔ながらの小屋を回るのも、襲名の時に父が考えてやったこと。父が考えた「これは面白いだろう、お客様が面白がってくれるだろう」という思いを、こうして私たちが継続していることは、褒めてくれると思います。
【公演情報】
十八世中村勘三郎十三回忌追善「二月大歌舞伎」
●2024年2月2日(金)~26日(月)◎歌舞伎座(東京都中央区銀座4-12-15)
休演13日(火)・20日(火)
■上演演目
昼の部
一、 新版歌祭文 野崎村
二、 河竹黙阿弥作 釣女
三、 三世河竹新七作 籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)
序幕 吉原仲之町見染の場より
大詰 立花屋二階の場まで
夜の部
一、 田中青磁作 猿若江戸の初櫓
二、 義経千本桜 すし屋
三、 河竹黙阿弥作 連獅子
■出演者
中村勘九郎、中村七之助、中村勘太郎、中村長三郎、中村鶴松、中村橋之助、中村児太郎、中村芝翫、中村福助、中村歌六、片岡仁左衛門ほか
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/856
十八世中村勘三郎追善「名古屋平成中村座 同朋高校公演」
●2024年3月6日(水)~18日(月)◎平成中村座(会場:学校法同朋学園 同朋高等学校体育館)
休演12日(火)
■上演演目
昼の部
一、 河竹黙阿弥作 弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
浜松屋見世先の場
稲瀬川勢揃いの場
二、 岡村柿紅作 新古演劇十種の内 身替座禅
夜の部
一、 義経千本桜
川連法眼館
二、 二人藤娘
■出演者
中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松、喜多村緑郎、中村虎之介、片岡亀蔵、中村扇雀
十八世中村勘三郎十三回忌追善
中村勘九郎 中村七之助 中村勘太郎 中村長三郎 陽春歌舞伎特別公演2024
●2024年3月26日(火)~4月1日(月)◎浦安市文化会館、府中の森芸術劇場、水戸市民会館、高崎芸術劇場、東京エレクトロンホール宮城、アクトシティ浜松
■上演演目
一、トークコーナー
二、鶴亀
三、萩原雪夫作 舞鶴雪月花
■出演者
中村勘九郎、中村七之助、中村勘太郎、中村長三郎、中村鶴松ほか
十八世中村勘三郎十三回忌追善
中村勘九郎 中村七之助 春暁歌舞伎特別公演2024
●2024年4月4日(木)~4月24日(水)◎八千代座、内子座、五毛座、東座、かしも明治座、相生座、小坂町康楽館ほか
■上演演目
一、トークコーナー
二、若鶴彩競廓景色
三、舞鶴五條橋
■出演者
中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松ほか
十八世中村勘三郎十三回忌追善
中村勘九郎 中村七之助 錦秋歌舞伎特別公演2024
●2024年10月◎ながめ余興場、旧金毘羅大芝居(金丸座)、翁座ほか
■上演演目
一、トークコーナー
二、若鶴彩競廓景色
三、舞鶴五條橋
■出演者
中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松ほか
三島村歌舞伎
●2024年10月◎三島村
■上演演目
一、俊寛
■出演者
中村勘九郎、中村勘太郎ほか
【取材・文/内河文 写真提供/松竹】