【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.130「お役立ち2024」

公園で男の子が泣いていた。小学3年くらいだろうか。
近くにいた他の子のお母さんが、大丈夫?などと声をかけていた。
男の子はどうも鼻血を出しているようで、そのママさんはあたりを見回す。
誰かにヘルプを求めている。
私は道路を挟んでこっち側にいる。
そうこうするうちに、ママさんは遊んでいた他の子供達に鼻血の子を見てもらって、ダッシュでその場を離れる。
私がようやく道を渡って子供達に合流した頃、ママさんがティッシュと絆創膏類を手に、猛ダッシュで戻ってくる。
結局私がやれたことと言えば、道路向こうから傍観することと、ティッシュすら持っていないことを悔やむこと。
もっと早く道を渡れたんじゃないということも含めて、なんの役にも立てなかったことに無力さを実感させられたものだ。
 
戦争や災害や事故などに心を痛める日々が続く。
感情も想像も、自分は何をすべきかの思考も、追いつかなくなる。
そんな折の、鼻血事件。に際して。
こうした目の前の日常での出来事。
それらへの都度の、ちゃんとした対処の大切さを改めて思う。
自分が一番体重を乗せられる身近な事柄に、ちゃんと体重を乗せていくこと。
世界平和を訴えるものが、不倫で家族を泣かせてはいけない。被災地に何ができるかを訴えるものが、迷子の観光客を見て見ぬふりをしてちゃいけない。毎日のように失敗を繰り返す我々が、他人の失敗には不寛容って意味がわからない。
 
マクベスの稽古が始まった。
さいたま芸術劇場もようやくリニューアルオープンが近づいてきた。
与野本町に通うと様々なことを思い出す。
どうしたって一万人のゴールドシアターやゴールドアーツクラブのことを思う。
みなさんどうしているかな。
1000人以上の高齢者。全員を思い出すことはできないが、様々なお一人お一人をふと思い出す。
ちゃんと対処できてなかった局面を思い出して申し訳なくなったりする。
 
ともかくまずは、自分の目の前のことをちゃんとしよう。
誓ったそばから、この原稿を半日遅れで提出している。
さあこの一年、失敗と更新どっちが上回るか。
今年も何卒よろしくお願いいたします。


著者プロフィール

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。

【次回予定】
・はえぎわ×彩の国さいたま芸術劇場
「マクベス」
上演台本・演出:ノゾエ征爾
2023年2月17日より、シアターイースト、他
https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/98208/
 
・新国立劇場「デカローグ」
デカローグ1への出演。
2024年4月13日より、新国立劇場・小劇場にて
https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog/

▼▼前回の連載はこちら▼▼
https://enbutown.com/joho/2023/12/20/nozoe129/

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