KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『スプーンフェイス・スタインバーグ』いよいよ開幕! 片桐はいり・安藤玉恵 インタビュー

KAAT神奈川芸術劇場では、2023年度メインシーズンのシーズンタイトル「貌(かたち)」の最後を飾る作品として、一人芝居『スプーンフェイス・スタインバーグ』を、小山ゆうな演出、片桐はいりと安藤玉恵の2バージョンで2月16日から3月3日まで大スタジオにて上演する。

《あらすじ》
顔がスプーンみたいに丸いため“スプーンフェイス”と名付けられた自閉症の少女は、7歳にして癌に侵される。死を間近に、両親やお手伝いのおばさん、病院の先生、大好きなオペラに思いをめぐらせながら、生きることや死ぬこと、そしてこの世界の意味をも問い語り続ける…

癌に侵され死と向き合う7歳の少女が、その日々の中で見つめたもの、愛したものを語るこの一人芝居について、演じる片桐はいりと安藤玉恵に話し合ってもらった。

 安藤玉恵 片桐はいり


子ども独特の距離感の面白さ

──まず、おふたりがこの一人芝居を引き受けようと思った理由から聞かせてください。

安藤 私は一人芝居は今まで2回ほど演じているのですが、内容を読んだら「やってみたいな」と思ったんです。この本のオファーを自分にいただけるというのは、きっと何か意味があるのだろうなと。そして演じることでその意味を知りたいと思いました。

片桐 私は発表のときのコメントでも言ったのですが、最もやりたくないかたちの芝居だったんです。セリフを覚えるのが大嫌いなのにセリフが沢山あるし、病気の役もやりたくなかったから。でも60歳になりまして、人生でやりたくないものが1つ減るっていいなと。

安藤 なるほど(笑)。

片桐 その結果もっと嫌になるかもわからないけど(笑)。それに膝が悪いので、沢山の人と動き回るようなお芝居はちょっと無理かな、と思っていたところにこの話がきたので、そういう意味ではやってみようかなというタイミングでもあったんです。そして台本を読んでみたら面白かった、というかやってみたいなという気持ちになったんです。

安藤 私も、本を読んでみたらすごく感情が動いて、「やらなきゃいけないもの」だなと思いました。

──そんな気持ちにさせたこの本の面白さとは?

片桐 笑える部分というか面白がれる部分が沢山あるんです。主人公のスプーンフェイスは障害があったり、癌に侵されたり、とんでもなく酷い目にあっているんですけど、それに対する子ども独特の距離感みたいなものが面白いんです。その目線を楽しく演じられればいいなと。ただ60歳の私が、「7歳の英国の少女です。しかもユダヤ人で丸顔で」と言って出ていっても、そうは見えないことはわかっているので(笑)。でも、そう見えないのが逆に面白いのかなと。お客様、この冗談わかってくださいますか(笑)みたいな感じで楽しいかなと。

安藤 それで言えば、私もそうは見えないですから(笑)。

──でも片桐さんも安藤さんも子ども役は似合いますね。

片桐 そうですか(笑)。たしかに私は昔、子どもの役を多くやっていたし、テレビの子ども番組に小学生に紛れて出演していたりしたので。

安藤 ええ、そうなんですか!

片桐 だからあまり年齢がどうとか思わないんですけど、でもどうやったら7歳らしさを感じてもらえるか、それをちゃんと考えないといけないなと。子どもっぽく喋るとか声を変えるとかでは解決できないと思っているので。

安藤 そうですよね、難しいですよね。でも私は歳を重ねたせいか、セリフを言うときにちょっと説得力がでてきたのかな?と思うときがあるんです。「ちゃんと伝わっている」と思うことが昔より少しだけ増えてきたかなと。だからこの本をきちんとやれたら、より一層何かを伝えられるようになるんじゃないか、と思っています。

スプーンフェイスが言葉と出会っていく物語

──スプーンフェイスが語るのは自分のことや周りの人に聞いた話なのですが、そこに人間の生と死をはじめ戦争の話など、この世の中で起きるあらゆる出来事が網羅されています。

片桐 それをわかりやすい形で伝えてくれてますよね。でも、たとえばユダヤの人たちのことなど、どこまで私たちがわかって体現できるかと言ったら、それはできないわけで。彼女がどう受け止めたかということからしか伝えられないんですよね。

安藤 逆に子どもだからこそ、彼女自身も初めて出会ったことを、彼女の知っている言葉で説明していくわけですよね。そしてそのことで彼女自身が発見したことも沢山あって。例えば「苦しい」ということは、こういう言葉で言えばいいんだ!とか発見する。そういう彼女が感じた「言葉に対する新鮮さ」が、大人になってしまった人間の心を打つのかなと。私、まだ、読んでいると泣いてしまうんですけど、それはまだ彼女が生まれてそんなに経ってないからこその、子どもだからこその鋭い目線があるからなんです。これは、彼女が言葉と出会っていく物語でもあるのかなと。

──たしかに私たちが既に知っている出来事や知識が、この少女が自分の言葉で語ると、新鮮な衝撃で伝わってきますね。

片桐 そういう意味では、この本の言葉と新鮮に出会うためには朗読劇が一番いいんじゃないかと思ったりするんですが、でも読むのではなく演じるわけですから、その理由をちゃんと探したいと思うんです。

──また、劇中にマリア・カラスの歌うオペラが次々に出て来ます。スプーンフェイスはオペラの美しいヒロインが好きなんですね。

安藤 そのオペラについての講義も、講師の先生を呼んで、稽古の前にしていただいたんです。

片桐 オペラ史とかマリア・カラスのことを詳しく教えていただいて、たぶんオペラに詳しい方なら、ここでこの曲がかかるという意味を感じていただけると思います。

安藤 演じる側としてもそこはわかっている状態で演じたほうが、観ている人にも伝わるものがあるのではないかと思っていて。

片桐 それはたしかにそう。

安藤 演じるとき知識がゼロか100かで言ったら、もうゼロには戻れないわけだから。できるだけ勉強して、知識を詰め込んでおいたほうがいいなという気がしています。とくにこの作品に関してはそうなんじゃないかと。

A面とB面、両方楽しんでいただければ

──今回、2バージョンで競演することになったわけですが、お互いに「この人だからこそ」というのはあったのですか?

片桐 安藤さんが先に決まっていて、だったら私もやりますと言ったんです。つまり安藤さんが演じるということは、面白くしていいということなので。

安藤 (笑)。私は「ちゃんとした演劇を作ろう」と思っているんですよ。

──どちらもそれぞれの面白さがあると思いますので、観客としては両方観たくなると思います。

片桐 だからA面とB面みたいな?正解がどっちにもなさそうでいいですよね(笑)。これが正解みたいな人となら私はやる必要ないから。

安藤 それはそうです(笑)。

──稽古も2人のほうが心強いのでは?

片桐 相談したいことだらけですから、やっぱり安藤さんでよかった。

安藤 私こそ! 大学一年の時、片桐さんが出演されていた『マシーン日記』を観たんです。そこから27年ぐらい片桐さんの作品をいろいろ観てきましたから、自然に私の中に取りこんでいる俳優さんの1人なんです。

片桐 私は自分がそんなに面白いことをやっている自覚はないし、自分のことをそんなに面白いとは思ってないんですけど、安藤さんを観るといつも笑っちゃうんですよね。それは凄いことで。手練手管じゃないところで何かを届けてくれるからだろうなと。それはドラマでも舞台でも感じていることなんです。今回も、たぶん私はいろんなことやりたがるだろうし、安藤さんが何もやらなくて成立していたら、私もそういうふうにやりたいなとか思うんでしょうけど(笑)。でも実際はどうなるか、すごく楽しみです。

──最後に観てくださる方へのメッセージをいただければ。

安藤 始まって10行目ぐらいで早速、最初の面白さのピークが来ますから、楽しみにしていてください。

片桐 病気とか強制収容所とか暗い話も出てきますけど、観終わったときどう思うか。あなたが試されるときですよ!

安藤 (笑)。

片桐 観ている間、いろんな思いをされると思いますが、思い出したくもないというようにはならないと思います。逆にカタルシスがある作品だと私は思っています。

■PROFILE■
かたぎりはいり○東京都出身。1982年大学在学中から93年まで劇団で活動。94年『片桐はいり一人芝居 ベンチャーズの夜』(作・演出:岩松了)にて全国を公演。近年の主な出演作に、【舞台】『嵐が丘』(演出:小野寺修二)、『未練の幽霊と怪物―「挫波」「敦賀」―』(作・演出:岡田利規)【ドラマ】「季節のない街」、「大奥」、「東京放置食堂」【映画】「アイスクリームフィーバー」、「ウエディング・ハイ」、「キネマの神様」などのほか、キネカ大森先付ショートムービー「もぎりさん」を制作。著書に「わたしのマトカ」「グアテマラの弟」「もぎりよ今夜も有難う」。

あんどうたまえ○東京都出身。大学在学中に俳優として活動を開始。近年の主な出演作に、【舞台】『桜の園』(演出:ショーン・ホームズ)、『阿修羅のごとく』(演出:木野花)、『命、ギガ長スW』(演出:松尾スズキ)、『イェルマ』(演出:瀬戸山美咲)、『虹む街』(演出:タニノクロウ)、『グリークス』(演出:杉原邦生)、【映像】連続テレビ小説「らんまん」「あまちゃん」、ドラマ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」、映画「波紋」「PERFECT DAYS」、CM「東京ガス」など。
 
【公演情報】
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『スプーンフェイス・スタインバーグ』
作:リー・ホール
翻訳:常田景子
演出:小山ゆうな
Wキャスト:片桐はいり 安藤玉恵
●2/16〜3/3◎KAAT 神奈川芸術劇場<大スタジオ>
〈料金〉一般5,500円(入場整理番号付自由席・税込)
※U24、高校生以下、シルバー、神奈川県民割引など各種割引あり。詳細は公式サイトにて。
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415(10:00〜18:00) 
 https://www.kaat.jp
〈公式サイト〉 https://www.kaat.jp/d/spoonface_steinberg

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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