歌舞伎座「三月大歌舞伎」上演中!
歌舞伎座では3 月 3 日より26日まで「三月大歌舞伎」上演中だ。満開の桜が舞台を彩る『傾城道成寺』や『喜撰』に、夜桜が印象的な『御浜御殿綱豊卿』など、歌舞伎座は春爛漫となっている。
《昼の部》
昼の部は歌舞伎三大名作のひとつ『菅原伝授手習鑑』より『寺子屋(てらこや)』で幕を開ける。
岳父・中村吉右衛門が当り役とした松王丸を尾上菊之助が初役で勤め、松王丸の息子・小太郎を菊之助の長男・尾上丑之助が演じる親子共演も話題だ。
場面は武部源蔵(片岡愛之助)と戸浪(坂東新悟)夫婦が営む寺子屋。涎くり与太郎(中村鷹之資)をはじめ、寺子屋の子供たちは源蔵の不在の間おちゃらけながら仲睦まじく勉強に励んでいる。そんな中、源蔵は恩義ある菅丞相の実子である菅秀才を匿っていることが敵方に知れて、首を討つように命ぜられ苦悩のうちに帰宅。
寺入りしたばかりの品位ある小太郎(尾上丑之助)が凛とした立ち姿で現れると、源蔵は菅秀才の身代わりにすることに決める。菅秀才の顔を知る松王丸が首実検を勤めるため、気が気ではない源蔵夫婦。嘘をつけば命はないと春藤玄蕃(中村萬太郎)が脅し、緊迫感が高まる。
しかし、松王丸は討たれた首を見て「菅秀才に相違ない」と言い切り、立ち去る。続けて小太郎の母・千代(中村梅枝)が小太郎を引き取りにやってくるが、なんと「若君菅秀才のお身代り、お役に立てて下さったか?」と尋ねる。松王丸夫婦は我が子を身代わりにして、菅丞相への忠義を立てたのだった…。息子の死を知り咽び泣く千代に向かい、泣くなと諭す松王丸ですが、小太郎が喜んで身代わりになったと聞いて誇らしさや悲しみを含んだ大きな笑い声をあげ、必死に気持ちを堪えた。忠義心と親子愛の間に揺れる人々の姿に、胸を打たれる一幕となった。
続いては、『傾城道成寺(けいせいどうじょうじ)』。
本作は、名女方・四世中村雀右衛門の十三回忌追善狂言として上演、四世雀右衛門がライフワークとして数多手掛けた「道成寺物」のひとつ。傾城清川を四世雀右衛門の次男で、父の名跡を五代目として継いだ当代雀右衛門、僧妙碩を長男・友右衛門が演じ、友右衛門の長男・大谷廣太郎と次男・大谷廣松が出演し、尾上菊五郎をはじめとした所縁の出演者で故人を偲ぶ。
舞台は桜が満開の紀伊国の道成寺。鮮やかな衣裳の傾城が忽然と現れます。傾城の清川(中村雀右衛門)は源平の合戦で無常の世を儚み、那智の沖で入水したとされる平維盛と深い仲。ひと目なりとも会いたいと道成寺にやってきた。やがて今は安珍と名乗り出家に臨もうとする維盛(尾上松緑)が姿を現すと、清川の髪は次第に乱れ、情念を表す炎があしらわれた衣裳に早替り。
クライマックスでは導師尊秀(尾上菊五郎)と二人の童子(坂東亀三郎、尾上眞秀)が登場し、蛇身と化した清川を鎮める…。
雀右衛門はインタビューで「父は、安珍への思いを、傾城の姿を通じてより強く表現していたと思います。恨みを語りながらも、愛おしかった気持ちも大切に勤めたい」と語っており、切ない恋心と燃えたぎる執着が交差する、複雑な役柄を見事に勤め上げ、観客は釘付けとなった。
昼の部の切は、『御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)』 。
真山青果作による全十編からなる新歌舞伎の名作「元禄忠臣蔵」は史実に基づいた新たな視点で「忠臣蔵」が描かれ、なかでも特に人気が高い場面が『御浜御殿綱豊卿』。片岡仁左衛門が当り役の徳川綱豊卿、松本幸四郎が富森助右衛門を勤める。
幕が開くとそこは次期将軍と目される徳川綱豊の邸宅・御浜御殿。お浜遊びの最中で春うららの晴れやかな雰囲気が漂います。綱豊の寵愛を受けるお喜世(中村梅枝)は浦尾(市村萬次郎)の詰問を受けているところ、江島(片岡孝太郎)の助けを借りて兄・助右衛門(松本幸四郎)がお浜遊びを見る許可を得る。綱豊が政治に無関心であることを隠すためにほろ酔いを装う様から、師である新井勘解由(中村歌六)に対して仇討と浅野家再興の間で葛藤する旨を打ち明ける厳かな様へ自然と移り行く姿に、観客は徐々に物語へ惹き込まれていく。
お浜遊びに参加する仇の様子を見ようと御殿へやってきた赤穂浪士の助右衛門を呼び出し、真意を確かめようと綱豊が次々と挑発。始めは平静を保つ助右衛門ですが、浅野家再興の話が上がると堪えきれず、熱を帯びる。
夜が更け、仇の吉良上野介と見定めて能装束の人物に斬りかかる助右衛門だが、相手は先回りして復讐を阻んだ綱豊で…。能装束姿の綱豊と、熱情にかられた助右衛門の立廻りでの歌舞伎の様式美、そして本当の忠義とは何かを諭す綱豊の長台詞に大きな拍手が送られた。
一階大間(ロビー)には、四世雀右衛門の祭壇が設けられ、来場した観客が手を合わせる姿も見られる。また、二階ロビーには四世雀右衛門の思い出の写真パネル展示が行われている。
《夜の部》
夜の部は、『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』で幕を開ける。
寛政 8(1796)年、伊勢古市の遊郭にある油屋で医者が複数人を殺傷し自害した事件を題材にした作品で、この事件を題材にした数多の作品の中でも最も完成度が高いと評され、今日まで繰り返し上演されている人気作。この度は物語の発端から、歌舞伎座での上演は実に 62 年ぶりとなる「太々講」を加え、お馴染みの「湯屋」「奥庭」まで、貢が狂気に至るまでの物語の全貌を通し狂言で楽しめる。
舞台は伊勢の内宮と外宮を結ぶ参道にある相の山。遊女や仲居たちを連れた今田万次郎(尾上菊之助)は、お家横領の画策に巻き込まれた主君から名刀「青江下坂」の探索を命じられているが、今日も遊びほうけ、刀の折紙(鑑定書)を悪人に騙し取られてしまう。そこで家来筋に当たる御師の福岡貢(松本幸四郎)が刀と折紙の詮索を命ぜられ、万次郎を伴い二見ケ浦へ向かうことに…。
万次郎の奴の林平(中村歌昇)が密書を取り戻すため、お家乗っ取りを企む徳島岩次の手下らと追いつ追われつする場面では、客席に降りる演出で場内を盛り上げ、だんまりや、井戸や地蔵を使って林平の目を欺く演出など、観客の視線は釘付けに。
続く「太々講」は、貢の叔母・おみね(市川高麗蔵)によって刀にまつわる因縁話が明かされるだけでなく、正直正太夫(坂東彦三郎)が言い逃れをしようと死んだふりをするなど、おかしみ溢れる場面。
やがて折紙を取り戻すために油屋へやってきた貢が、油屋の料理人で家来筋の喜助(片岡愛之助)と立ち働く中、岩次に加担する仲居の万野(中村魁春)はわざと貢を邪険に扱い、お鹿(坂東彌十郎)の貢への恋心を利用して貢に大恥をかかせる。しかも貢の恋人・お紺(中村雀右衛門)までが不実をなじり、愛想づかしをするので…。
柔らかさの中にも芯の強さをもつ役柄“ぴんとこな”の典型とされる主人公の貢に松本幸四郎、貢に対して柔弱な色男の“つっころばし“の万次郎に尾上菊之助、貢を助ける料理人喜助に片岡愛之助という豪華共演で、細やかな人間描写や名刀を巡る人々の思惑を手に汗握る展開で魅せ、会場は興奮の渦に巻き込まれた。
最後を飾るのは、『六歌仙容彩』より、『喜撰(きせん)』。
『六歌仙容彩』は、六歌仙の紅一点、小野小町をめぐる優れた歌人たちの叶わぬ恋模様を描いた洒落た趣向の変化舞踊。この度は、祖父・二世尾上松緑、父・初世尾上辰之助も勤めた喜撰法師を、尾上松緑が初役で勤める。
桜の花が咲き乱れる京の東山へ、高僧と名高い喜撰法師(尾上松緑)が桜の枝を肩に担いで、ほろ酔い気分でやってくる。そこを通りかかった祇園の茶汲み女お梶(中村梅枝)の美しさに見惚れ、おどけた踊りで口説きにかかる喜撰に、艶やかな舞で応じるお梶。江戸の大道芸である「チョボクレ」、女性の振りを模して踊るユーモラスな舞い、そして大勢の所化が登場し、当時流行の住吉踊りを賑やかに披露する。坂東亀三郎、尾上眞秀、小川大晴らが勤める愛らしい所化姿に温かい拍手が送られ、一足早い春の風情が客席いっぱいに広がった。
『伊勢音頭恋寝刃』、『喜撰』の特別ビジュアルを公開中。また、こちらのビジュアルを用いたポストカードを販売中。(https://www.kabuki-bito.jp/news/8806)
歌舞伎座「三月大歌舞伎」公演情報
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/866