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情報☆キック
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泉鏡花×花組芝居『泉鏡花の夜叉ケ池』 加納幸和・桂 憲一・小林大介・武市佳久 インタビュー

花組芝居が年末の12月28日〜30日に二子玉川セーヌ・フルリにて、素ネオかぶきで『泉鏡花の夜叉ケ池』を上演する。
花組芝居と泉鏡花作品の縁は深く、とくに『夜叉ケ池』は初演となった1991年の青山円形劇場公演は、鏡花作品の画期的な上演として演劇界で大きな話題となった。今回は劇団公演としては5度目で、メイクなし、紋付袴の素ネオかぶきで演じることで、鏡花独自の美しい日本語をより際立たせる舞台となる。

《あらすじ》
三國ケ嶽の麓の里、龍神が住むという夜叉ケ池。
日に三度鐘をつく掟を破れば、村はたちまち全て水の底に沈むという。
諸国を旅する学者僧、山沢学円。
彼がこの里で出会った鐘守りの男は、行方不明の友人、萩原晃だった。
再会を喜び、共に夜叉ケ池へと出かけたその時、晃の妻百合は、かんばつに苦しむ村人から、雨乞いのいけにえにと迫られる──。

「幻想文学」の先駆者とも言われる鏡花ならではの、龍神やその眷属たちなどが登場するファンタスティックな展開の中で、切ないラブストーリーが繰り広げられる。
そんな公演で物語の中心となる鐘楼守の晃を演じる小林大介、ヒロイン百合を演じる武市佳久、ストリーテラーの役割を果たす学円の桂憲一、潤色と演出を手掛けるとともに夜叉ケ池の主・白雪姫を演じる加納幸和に、この作品や役柄について語り合ってもらった。

 武市佳久 桂憲一 加納幸和 小林大介

「百合やりたいです!」と手を挙げました

──今年は泉鏡花生誕 150 年ということで、花組芝居の代表作の1つである『泉鏡花の夜叉ケ池』が待望の上演となります。2017年のBoroBon忌(故・水下きよしさんの三回忌公演)以来ですから6年ぶりで、劇団公演としては5度目ですね。初演が1991年で青山円形劇場でした。

加納 僕は1978年に演劇集団円で芥川比呂志さんが演出した『夜叉ケ池』を観ていて、それが本当に斬新な舞台で、そこからずっと僕もこの作品を演出してみたいと思っていたんです。それと初演当時の花組芝居は、ただ歌舞伎の真似事をする劇団というようなイメージを持たれかけていたので、そうではなくて、演劇的なアプローチとして歌舞伎的な手法を考えているのだということを、きちんとアピールしなくてはいけないなと。そこに青山円形劇場からお話があったので、泉鏡花の『夜叉ケ池』をやろうと。まずあの円形劇場の真ん中に鐘を吊ってと思いついたら、そこからどんどんイメージができてきたんです。

──円形の空間を生かした演出が大評判となりました。桂さんはその初演から出演されていました。

 斎田初雄という村の小学校教師で敵役でした。そのあと2009年から山沢学円を演じて、今回で学円は三度目になります。

──小林さんはずっと萩原晃役ですね。

小林 2009年に初めて出演して、水下さんとのダブルキャストでした。その次に2017年のBoroBon忌でも演じて、今回が三度目です。

──武市さんは『夜叉ケ池』は今回が初めてです。

武市 入座したのが2017年3月で、1月のBoroBon忌には間に合わなかったんです。

加納 今回の武市の百合役は、自分から手を挙げたんです。事務所で片づけなどしたあと、『夜叉ケ池』の映像を予習のつもりで彼が観ていたんですが、観たあと「百合やりたいです!」と。だから「お前言ったな。言ったんだから、やらすぞ」って(笑)。

武市 (笑)。

加納 百合はたいへんな役なんですよ。歌舞伎では白雪姫との二役で、歌右衛門(六代目)さんも玉三郎さんも両方やってました。でも花組芝居では白雪姫を竜の化け物にしたいという前提があったので、早替わりがシンドイかなと思って、僕は白雪だけにして、百合役は別の役者にやらせる形にしたんです。でも百合役への僕の思い入れで、つい細かく言い過ぎてしまって、初演の松本文彦なんか役者やめると言い出したくらいで(笑)。

──その役に手を挙げてしまったわけですが、百合を演じてみたかった?

武市 そうですね。今回は本公演ではなく素ネオかぶきなので、挑戦できるかなという気持ちもあったので。

加納 相手役になる小林が心配して、「ちゃんと稽古してね」と(笑)。

小林 百合という役はすごくたいへんだと植本純米さんから聞いていて、でも植本さんの映像を観たらすごく良い百合で、それで「このようにやってください」と言ったんです(笑)。

──武市さんは素直で純な感じがあって百合は似合いそうですね。

小林 とっても可愛いと思います。

萩原晃は文武両道のヨーロッパの貴族のイメージ

──桂さんは三度目の学円ですが、今回はどう演じようと?

 僕は変わったことをしようとは思ってなくて、初演で演じた佐藤誓と演出の加納さんとで作ったものを大事に、そのうえで自分の学円を演じていけばいいと、いつも思っているんです。

──文学士で教授ですから知的で、でも友情に篤くて村人と闘おうとしたり、格好良い人ですね。

加納 円の『夜叉ケ池』では橋爪功さんが演じていた役ですから、インテリですけど大胆さもある。ただの学者ではないんです。

 わりとこのままでやってきたのですが、前回公演から6年経って、役の実年齢と20歳も離れてしまったので、ちゃんと化けないといけないなと(笑)。

──桂さんから見て武市さんの女形はいかがですか?

 女形の武市とは『地獄變』で父娘をやっていて、今回とはもちろん立場は違うのですが、ある意味では庇護する対象という意味では一緒ですし、やりやすいかなと。ただ、百合は普通の女性ではないというか、脚本上でも鱗の帯をしているので、ちょっと妖しいんですよね。

加納 普通の素性ではないと思います。鎮守の森でお爺さんと住んでいて、ちょっと村八分的な存在で、でも妙に綺麗だから何者なのかと思われていた。そこに萩原晃という男が現れて護ってくれるので頼って生きていく。そういう可哀想な女性でもあるんですよね。

──その人を命がけで護ろうとする萩原晃は本当に素敵ですね。

小林 そうなんです!(笑)
 
 名台詞があるよね。「茨の道は背負って…」だっけ?(※正しくは「おぶって」)

小林 何度も出演しているんですから、ちゃんと覚えてくださいよ(笑)。

加納 それまで他の劇団や映画の萩原晃は、インテリっぽい白塗りの二枚目系だったんです。でも僕はなんか違うなと思って、水下きよしは明治大学出身でインテリなんだけど体育会系の部分もあって、そういえばヨーロッパの貴族って文武両道だし、晃は伯爵の家柄なのでそのイメージでいいんじゃないかと思ったんです。

──小林さんも文武両道の感じですね。晃を演じるうえで大事にしたいところは?

小林 初演では理屈で考えてしまってちょっと役が小さくなったという感覚があったんです。二度目となったBoroBon忌公演では水下さんの代わりだという意識が強くて、どう演じたかほとんど覚えてなくて。だから今回は理屈じゃないところでやりたいなと。なによりも「らしさ」があればと。

──やはり初演から演じていた水下さんへのプレッシャーはありましたか。

小林 お客さんが水下さんの晃を求めているだろうなというプレッシャーですね。でも今回は気にしないで、自分の晃ができればいいなと思っています。

竜体の白雪姫は歌右衛門さんへのオマージュ

──武市さんは、改めて今、百合役をどう演じたいですか?

武市 まだゴールみたいなものは見えないんですが、稽古をしていくなかで苦しんで作っていきたいなと。2009年に演じた堀越(涼)さんにも「百合やります」と言ったら、「たいへんだぞ。全然楽しくないぞ」と(笑)。だったら思い切り苦しもうという気持ちです。

加納 女形ってどこか被虐的なところがあるというか、そこを面白いと思えないと女形はシンドイんです。どこか抑圧されているのを楽しむ気持ちでやるしかない。百合なんかそのものという役ですから。

小林 村の人たちに虐められて、ひどいですよね。

 裸にひん剥けとか言われるし(笑)。

加納 自分を殺して殺して殺して、最後に「私死にます」と、それまでの全部に対して爆発するんです。

──そこに芯の強さも感じますね。それに2人の愛は悲劇なのですが、すべてが水の底に沈むというところにカタルシスも感じます。 

小林 虐めていた村人も一緒に水の底ですからね。

加納 生まれ変わりかわかりませんが、魚になって愛が成就するというのもいいですよね。

──愛という意味では、加納さんの白雪姫も恋に身を灼きますね。

加納 僕は最初から隈取して竜体でやりたいと思ったんです。やはり歌右衛門さんへのオマージュなので。道成寺など後シテをおやりになると、あの細い方がすごい化け物になるんです。人生にいろいろあった方ですが、役者は勝たなきゃだめよとおっしゃって亡くなられたという、そのパワーが爆発するような狂い方で、そこに歌右衛門さんの本心が入っていたような気がします。白雪姫も恋人と会えないという抑圧があって、爆発しそうになるのですが、百合が我慢をしている姿を見て「あやかろうね」と自分も我慢するんです。

──百合の子守唄が聞こえてくるところですね。抒情溢れる場面で、武市さんの子守唄も楽しみです。

武市 がんばります(笑)。

『夜叉ケ池』は花組芝居が一番だと思っています!
  
──最後に改めて公演への意気込みをお願いします。

 何回も上演を重ねている作品なので、僕の成長を見ていただければと思っています。

武市 僕も成長と、百合役への挑戦を見届けてください。

小林 僕も成長を見てもらいたいです(笑)。僕はこの作品の花組芝居の演出がすごく好きで、美術館に鐘があって、生き残った学円がやってくると、自ずとそれが上に上がる、すると中から儚く散ってしまった2人が現れる。そしてそこからサーカスのように眷属たちが現れて、だーっと去っていくと、また鐘が下に降りて、静かに学円が去って行く。そこがたまらないんです。まずその始まり方を楽しんでいただきたいのと、それとロマンスですね。そこにキュンキュンしていただきたいです。

加納 先ほどもお話ししましたが、円の芥川比呂志さんの画期的な演出に衝撃を受けて、そこからまた自分ならどうするかといろいろ考えて作ったわけですが、やはり『夜叉ケ池』はうちが一番だと思っています(笑)。

──構成が素晴らしいだけでなく、鏡花の少し古い言葉も皆さん本当に見事です。

加納 鏡花の言葉はイメージがジェットコースターのように次々に動いていくんですが、その1つ1つが、例えば山と言ったら山が見えてないといけないんです。それに歌ったほうがいい台詞とリアルに喋ったほうがいい台詞があったり。そういうことを徹底して考えていくなかで、花組芝居の鏡花作品の雛形が出来あがったと思います。

──今回は素ネオかぶきですから、鏡花の言葉の素晴らしさがより楽しめそうですね。

加納 そう思います。みんなでがんばりますので、鏡花作品の素晴らしさを味わいにいらしてください。お待ちしております

桂憲一 武市佳久 小林大介 加納幸和

 
■PROFILE■
かのうゆきかず○兵庫県出身。87年に花組芝居を旗揚げ、ほとんどの作品の脚本・演出を手掛け、劇団外の演出も多数。俳優としても映像から舞台まで幅広く活躍中。劇団以外の近年の主な出演舞台は『ドレッサー』、『三億円事件』、音楽活劇『SHIRANAMI』、ミュージカル「刀剣乱舞」髭切膝丸双騎出陣、『十二夜 Twelfth Night』、PARCO PRODUCE『桜文』、江戸糸あやつり人形結城座『荒御霊新田神徳』、『演劇調異譚「xxxHOLiC」-續-』、こまつ座『連鎖街のひとびと』など。西瓜糖『ご馳走』(演出)花組芝居ヌーベル『毛皮のマリー』(脚本・演出)で2019年前期の読売演劇賞演出家賞にノミネートされた。

かつらけんいち○愛媛県出身。1989年、『かぶき座の怪人』より花組芝居に参加。入座当初から、主要な役柄を担い客演多数。最近の主な舞台は、四獣『入り口色の靴』、玉造小劇店『天獄界~哀しき金糸鳥~』『眠らぬ月の下僕』『お正月』、はんなりラヂオ『オトの初恋』、渡辺源四郎商店Presentsうさぎ庵『コーラないんですけど』『千里眼』。舞台だけでなく、ドラマ、映画、CMでも活躍。主な出演作に、故森田芳光監督作品『黒い家』『模倣犯』『間宮兄弟』、原田眞人監督作品『魍魎の匣』『日本のいちばん長い日』,
深川栄洋監督作品『42-50火光(かぎろい)』など。

こばやしだいすけ○神奈川県出身。2005年、花組芝居に研修生として参加。同年『鏡花まつり』を経て、06年『ザ・隅田川』より正式に入座。07年『KANADEHON 忠臣蔵』では、忠臣蔵の中心人物である塩冶判官と寺岡平右衛門の二役を演じ、25周年記念公演『菅原伝授手習鑑』では主役の松王丸を、30周年記念の『黒蜥蜴』では明智小五郎など大役を演じている。客演も多数。18年から演出家・劇作家G2とのユニット「モジリ兄とヘミング」の旗揚げメンバーとして参加。 最近の外部出演は、ウォーキング・スタッフプロデュース『三億円事件』、新国立劇場『斬られの仙太』、『ハロルドとモード』、『有頂天作家』、大森カンパニープロデュース『更地SELECT SAKURA Ⅵ』、THE☆JACABAL’S『伊達政宗』、『My Boy Jack』など。

たけいちよしひさ○徳島県出身。玉川大学芸術学部卒業後、小劇場に客演。17年に花組芝居30周年BOYとして『いろは四谷怪談』『黒蜥蜴』に出演。18年『婦系図』を経て正座員として入座。入座後初の『天守物語』では新人公演で主役の1人、姫川図書之助を演じた。劇団公演では『毛皮のマリー』『義経千本桜』などで主要な役柄を担い、『地獄變』では初の女形に挑戦した。最近の外部舞台は西瓜糖『ご馳走』、舞台『刀剣乱舞』山姥切国広 単独行 -日本刀史-など。 

【公演情報】
花組芝居『泉鏡花の夜叉ケ池』 素ネオかぶき
原作:泉鏡花
脚本・演出:加納幸和
出演:加納幸和 山下禎啓 桂 憲一 北沢 洋 横道 毅 秋葉陽司 磯村智彦 小林大介 丸川敬之 押田健史 永澤 洋 武市佳久
●12/28~30◎二子玉川セーヌ・フルリ
〈料金〉前売一般3,500円 U-25:2,000円[当日は各 400円増](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25/25 歳以下、入場時要身分証
〈チケット取扱〉電話予約 03-3709-9430
オンライン予約/https://hanagumi.ne.jp の「券」を参照
〈公式サイト〉https://hanagumi.ne.jp

 
【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

 

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