シス・カンパニー公演『シラの恋文』草彅剛インタビュー

草彅剛が主演するシス・カンパニー公演『シラの恋文』が、昨年12月からの京都公演、福岡公演を経て、いよいよ明日、1日7日に東京公演の初日を迎える。(28日まで)

『シラの恋文』は、現代演劇を代表する劇作家・北村想による書き下ろし新作で、演出は北村想の戯曲を何度も手掛けている寺十吾が担当している。
この作品で北村想が創作のインスピレーションとして挙げているのは、エドモン・ロスタンの有名な戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の主人公シラノで、実在の人物であり、剣の達人としても知られている。
そのシラノならぬ鐘谷志羅(カナタニ・シラ)を演じるのは草彅剛。北村想作品には初めての出演となるが、大原櫻子、工藤阿須加、鈴木浩介、段田安則をはじめとする多彩な共演者とともに、どこかノスタルジックで詩情と哲学的な美しさに満ちた北村想ワールドに生き生きと挑んでいる。

すでに京都公演と福岡公演を終え、最後の公演地となる東京公演を前に、草彅剛にこの作品や志羅役への思いを語ってもらった。

根源的なようでシンプルなこと

 ──まず、京都公演と福岡公演の手応えと感想はいかがですか?

改めて感じたのは、舞台はやはりお客様が入って完成するものなんだということで、良い舞台を毎日更新している感じで、日に日に良くなっているなと思わず自分でつぶやいてしまうほど幸せな舞台になっています。

──久々の会話劇となりますが、北村想さんの書かれたこの作品の面白さは?

なんとなくふわふわして掴みどころのない作品で、僕の演じる志羅もそういう役になっています。台詞もそのときそのときで受ける印象が違っていたりするのですが、それは僕の台詞だけではなく、他の人の台詞でもそうで、不思議な魅力があるなと。1つの台詞の意味が反対にとれたり、ちょっと浮いているような感じだったり、でも最後まで通してみると、輪廻転生ではないですけど、ぐるぐると輪になっているような気がします。僕自身も志羅という役を通してそれを楽しんでいるような感じです

──戯曲を最初に読んだ印象と、立ち稽古から本番を経ての変化や違いなどは?

稽古初日の本読みで想さんご自身がまず読んでくださったことで、わかりやすかったし、すごく浸透してきました。あまり頭で考えるものではなくて感じるもので、いわゆる演劇的な作品だと思いました。でも何が演劇的かと言われると僕もよくわかっていないのですが(笑)、でもどこか腑に落ちるものがある。輪廻転生というすごく宇宙的な話を、会話として具現化する想さんって天才ですよね。僕まで日に日に頭が良くなっているような気がしています(笑)。それに、やはりすごく根源的なことを言っているので、どこか難しく聞こえるようですが、実はシンプルなことを言っているのかなと思っています。

──寺十吾さんの演出はいかがですか?

ご本人が役者さんなので、自分で演じてみせてくださるので、すごくわかりやすいです。たぶんこの戯曲は寺十さんだからできるというか、寺十さんじゃないと難しい戯曲だと思います。稽古場で想さんと話していらっしゃるときなど、長い付き合いのおふたりならではの雰囲気で、寺十さんは想さんの書かれる台詞の行間までわかっているから、ここまで演出できるんだろうなと思います。

胸の中がザワザワしてしまうような凄い本
 
──先ほど輪廻転生の話も出てきましたが、この作品の死生観に触れて感じることは?

ちょっと近未来の話になっていますが、コロナ禍とか僕らみんなが体験してきたことをジワッと思い出したり、わりとリアルな感覚が湧くんです。もちろんフィクションではあるのですが、その中に事実に近いことが含まれていたりすると、なんか胸の中がザワザワしてしまうような、そこが凄い本だなと。それに、劇中でサナトリウムで結核になった人たちが、みんなで肩寄せ合いながら畑仕事をしていたりする。そういうことなども現実にありそうで、そういういろいろなことを考えると、志羅という役に僕は入れるというか、同化できる感覚になります。そして死というものは誰にも平等にあるもので、いつ訪れるかわからないもので、そう考えると日常の中のちょっとした幸せとか、そういう時間というものが本当にかけがえのないもので、この舞台は僕にそれを改めて教えてくれているなと思います。

──サナトリウムの人たちが、志羅にはいろいろなことを喋りたくなるそうですが、そういう志羅の魅力をどう捉えていますか?

台本には、志羅がかぶっているテンガロンハットの力でみんなが喋りたくなると書いてありますが、そのせいだけでなく、なにか人の話を引き出す力みたいなものがないといけないと、演出の寺十さんもおっしゃっていて。どこか儚げというか浮世離れしたところが志羅にはあるんじゃないか、そういうふうに演じたいなと思っています。志羅は自分の死についても客観視しているところがあるし、ちょっと不思議な人ですが、でもそういう人っているんじゃないかな。このひと話しやすいな、みたいな人。そういう感じのイメージで演じています。

──草彅さん自身のイメージにもわりと近い気がします。

そうですね、どちらかというとそうかもしれないですね。僕もやっていてやりにくくないので(笑)。

沢山の運命的な出会いがある

──稽古場でのコミュニケーションはいかがですか?

チームワークがよくて、皆さん優しくて、なんでこんなに嫌な人が1人もいないんだろうと思うぐらいで。なんか僕の周りはいつもそういう人ばかりで、恵まれているんです。この前も明星(真由美)さんがリンゴとか梨とかくれたり、工藤(阿須加)くんは農業をやってるからニンニクくれたり(笑)。差し入れとかみんなで分けあったり、食糧には困らないので、このままずっとこの舞台をやっていたいですね(笑)。

──志羅は剣術の場面があるそうですが、稽古はいかがでした?

殺陣の先生がいて細かく教えてもらいました。想さんが剣術が好きだそうで、想さんも指導してくださったのですが、おかげで体重の掛け方とか、腰の落とし方とかが違いました。劇中では国からの奨励でみんなが剣術をやることになっているんですが、そのへんも謎だなと(笑)。それに今回の舞台は剣術を通して輪廻転生を追っていくみたいなところがあって、だからただの剣術ではなくて、いろんな流派の話が出て来るんですが、それが人の生き様というか想さんの思いがそこに含まれているんです。段田(安則)さんの湯之助院長とか鈴木浩介さんの市ヶ谷牧師とか、それぞれの思いが剣術の中に含まれていると思うし、カッコいい男の闘いも見せられるので、剣術は見どころだと思います。

──志羅はこのサナトリウムで運命的な出会いをしますが、草彅さんにとって運命的な出会いは?

沢山あって、たとえばデパートのエレベーターに乗り合わせた人との1回きりの出会いとか、移動の新幹線で隣になる人とか、何かの理由でこうなっているのかなとか思いますよね。好きな古着のビンテージがすごくマッチングするとかもそうですし、そう考えると運命的な出会いって毎日起きている気がします。

──そういう沢山の出会いの中で長く続いているものは?

やっぱり(香取)慎吾ちゃんとか(稲垣)吾郎ちゃんとかは長いですよね。2人との出会いも運命的ですし、うちのフレンチブルドッグのクルミちゃんとか、クルミちゃんがお腹をいためて生んでくれたレオンくんとか、みんな運命的だなと思っています。

──2024年の目標とかチャレンジしたいことは?

2023年は本当にいろいろな映画やドラマ、そして舞台と、演じるということではすべてを網羅できた年でした。その中で得た沢山のものを、2024年はさらに開花させていければと思っています。

──最後に東京公演へのメッセージをいただけますか?

京都、福岡とやってきて、舞台が日々どんどん良くなって、1回1回進化しているんです。東京公演はさらに進化して、また別物になっていくと思いますので、ぜひ期待して観にいらしてください。

【公演情報】
シス・カンパニー公演『シラの恋文』
作:北村想 
演出:寺十吾 
出演:草彅剛 大原櫻子 工藤阿須加 鈴木浩介 段田安則
西尾まり 明星真由美 中井千聖 宮下雄也 田山涼成
●1/7〜28◎日本青年館ホール 
〈お問い合わせ〉 シス・カンパニー 03–5423-5906 (営業時間 平日 11:00~19:00)
〈シス・カンパニー「シラの恋文」特設ページ〉 https://www.siscompany.com/shira/
〈シス・カンパニー舞台制作公式X〉 @sis_japan
〈YouTube 公式チャンネル=SIS チャンネル〉 youtube.com/c/SISチャンネル
〈シス・カンパニー舞台制 Instagram〉 #siscompany_stage


【取材・文/榊原和子 写真提供/シス・カンパニー】

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