【小野寺ずるの女の平和 WEB】11 写真家:小岩井ハナ
お役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。
写真家 小岩井ハナ
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宮城県出身の彼女と出会ったのは、私の地元・気仙沼がメインロケ地となった映画の現場でした。
気遣いが冴え渡り、人の心を開かせる天才のハナちゃんは
頑張り屋すぎてロケバスの中でエビフライを咥えたまま寝てしまう…
そんな狂気的一心不乱さも合わせ持つ奇特な人です。
同じ”被災地”と呼ばれる場所を地元にもち、東京で生きる私たち。
同じ火が灯るけど色も形も全然違う…そんな不思議をお互いの中に見ているようです。
「写真は哲学」と語る彼女の、写真家人生を切り取ります。
(※2024年11月取材/撮影)
“残したい”を強くして
ず(ずる) いつから写真を撮りたかったの?
ハ(ハナ) 物心ついた頃から。
ず きっかけは?
ハ なんかもう「写真やりたい」って。多分、見てる光景を”残したい”っていう動物的欲求。
ず 本能か…。それですぐに写真を撮り始めるの?
ハ ううん、小さかったしカメラを買ってもらえなくて。だから絵を描くしかなかった。
ず 絵?
ハ 新聞だといっぱい写真載ってるじゃん、広告とか。
ず はいはい。
ハ あれを全部なぞってた。
ず え? ?
ハ 住んでたのがすごい辺鄙な集落だったから本屋さんもネット環境もなくて、見れる写真って新聞だけで…。
ず なんと…。
ハ だからくる新聞毎日毎日なぞってた。そうすると段々撮影のライティングがわかってくるじゃない?
ず (笑)いやわかんないけど、わかるんだね?
ハ (笑)素人でも枚数見ていくと「光がこうだとこっちに影が落ちる」「こういう広告は顔を暗くしない」とかがね、わかってくるの。瞳の中の灯を観察すると使ってるライトの数もわかる。そんな独学をずっとやってた。
ず 写真を撮りたいという執念がすごい…。
ハ あと、「写真やりたい」って改めて思ったのが震災の時。みんなが家を流されて、地元の町の8、9割が無くなっちゃったのね。
ず うんうん。
ハ その時、瓦礫の町でみんなが何かを探していて、お金とかじゃなくて…自分たちの写真を探していたの。それを見て「あ、これが答えだな」と思って。何もなくなったとき人が探すのは写真で…私はそれを残す立場にいたいな〜ってすごく、思った。
ず 震災当時は高校一年生?
ハ そう。
ず 動物的な”残したい”の気持ちが…。
ハ 震災でもっと強くなった。
ず 最初にカメラを手に入れたのはいつ?
ハ 高校の卒業祝いでおじいちゃんが買ってくれた。
ず おお!よかったね!
ハ うん。でも「ようやくもらえた〜!」って撮り始めたんだけど、その時期には自分にとってのカメラの意味も変わってきてて。
ず というと?
ハ 震災の二年後だから失礼なマスコミが地元にいっぱい来てた時期で、いきなりインタビューされたり、その向けられるカメラが本当に嫌だったの。しかも女子高生だとさ、被写体としてはもってこいじゃん。
ず ま〜ね…。
ハ だからそういう時に自分のカメラで自分の顔を隠すように相手にカメラを向けて答えてた。「お前らが見てるってことはこっちも見てるってことだからな〜」って。そうするとあっちが怯んでインタビューされなくなる。
ず 当時のハナちゃんにとってカメラは防具の意味もあったんだね。ちなみに念願のカメラで最初に撮ったのは?
ハ 人。やっぱり、なんやかんや人が大好きだから、家族、友達、ずっと人を撮ってたよ。
世界と社会のはざまにいるプロ
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ず そんな経験をしたからか、ハナちゃんは撮影現場でのコミュニケーションを大切にしてるよね。
ハ 現場の空気を作ることも、被写体の表情を引き出せる関係性を作るのも、カメラマンのお仕事だから。
ず 人に対して本当に丁寧だよね。特にどんなことを現場で心がけてるの?
ハ 全方位のお仕事に対する敬意、かな。例えば、アシスタントさん、メイクさん、衣装さん。そのお仕事への敬意を伝える、その人達の作業を絶対邪魔しない、とか。テストで写真撮ったら皆さんにもチェックしてもらう。そういう色んな気遣い。
ず そんな風に全方位に気を遣ってるからロケバスでエビフライ咥えたまま寝ちゃうんだね(涙)。
ハ (笑)!全然苦ではなくやってるし、それが心地いいからそうしてるよ。
ず カメラマンは撮るだけが仕事じゃない、と。
ハ うん。カメラマンって「見る仕事」だと思ってる。役者さんやヘアメイク・衣装さんは「見せる仕事」。だから見せるプロが作ったものをカメラマンの自分がどう見るか。一番最初のお客さん。
ず そして自分が魅力的だな〜と思うものを、撮る。
ハ そう。だから自分が”見れる”状態を作るのが日頃からの仕事だね。感動できる状態を作っておかないと何も響かない写真になっちゃう。
ず その状態を作るためにはどうすれば。
ハ 人の嫌なとこ見てたら見るの嫌になるじゃん、だから良い人間関係を作るとか。あと体を作る。
ず ジム通ってますもんね、素晴らしいですね。
ハ えへへ。少しでも世界を良く見ておきたいから。
ず 卑屈な自分には耳が痛いよ。毎日くそ〜って思って世の中見てるかも。
ハ 私も思うよ(笑)。だから自分に見える世界を良くしておく。良くない環境にいると世界が全部腐って見えるし。
ず なるほどね。
ハ 最近思うのが、目の前にあるのが社会で、自分の中にあるのが世界だと思うの。
ず どういうこと?
ハ カメラマンはそのはざま、川と海が混じり合う汽水域みたいな所にいる。だから社会ばかり写そうと思ってもダメだし、自分の内側の世界だけ出そうとしても魅力的ではないと思って。つまり社会を見るための良い世界を持っておきたい。
ず 哲学的ね。自分の世界を出すってどう出すの?
ハ 滲み出るよね。
ず 出そうとしなくても出ると。
ハ だってずるちゃんにはずるちゃんの世界がある、見てればわかるじゃん。
ず 無自覚だ。
ハ 無自覚で出ちゃうものだから、嫌な見方してたら滲み出ちゃう。
ず 確かに。わ〜怖い。
ハ 内側の世界のバランスを保っておかないと、社会を歪んだ目で見ちゃう。
ず ああ〜歪んでるわ〜(笑)。
ハ 私も歪んでると思うんだけどね(笑)。
新たな覚悟
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ず そんな歪んだ(?)私達が出会い仲を深めたのが、気仙沼をメインロケ地にした映画『サンセット•サンライズ』と、石巻を舞台にしたドラマ『水平線のうた』でした。私は方言指導、ハナちゃんはスチルカメラマン(※作品の広報などに使用される現場写真を手掛ける)として宮城県で2ヶ月ほぼ毎日一緒にいましたね。映像のスタッフが初めてでパニックになってる私を沢山助けてくれて…。
ハ こちらこそ沢山笑わせてもらって…。
ず やめて(笑)!迷惑かけてばかりで恥ずかしかったよ!…話を戻すけど、残す側になりたいと強く思ったきっかけの震災、を題材にした作品で自分が残す仕事をして変化はあった?
ハ …加害してしまうかもしれない覚悟、みたいなのが生まれた、かな。
ず 覚悟…。
ハ 誠意を持ってたしても、どうしたって傷つけてしまうこと、ある。それでも「撮って良いですか」っていう覚悟。傷つけちゃうかもしれないけど、それで終わらせる縁じゃないっていう姿勢を持たないとなって思った。一回関わってしまった人生だから、それごと大事にしなきゃ、って。
ず 大事にするってどういうことですかね?
ハ まずは、撮った写真をちゃんと伝わる形にすること。あと近くに行ったら「あなたのことまだ覚えてるからね」って顔見せたり、撮って終わり、にしない。
ず …残す側になりたいと願った被災地で、いざ残す仕事をして、心の中はきっと大変でしたね。
ハ やっぱり現場にカメラを持っていくのは怖かった。
ず そうなんだ。
ハ 震災後にカメラを向けられて傷ついた自分がいて、それと変わらないことを自分がしちゃうんじゃないか、って。今までは「傷つけない」って思いでカメラを向けてたけど、傷つけること、ある、って。
ず そっか…。
ハ あと、ロケ地が友達や親戚が亡くなった場所で、そこでみんなが演技をしてそこでカメラを回してるけど、私の友達ここで死んだな〜みたいな気持ちもあって。だからクランクインの日、怖くて朝まで吐いてた。
ず それを感じさせないように現場では振る舞ってましたね。
ハ …でもね、岸組(この2作品の監督・岸善幸氏のチーム)を信頼してたから現場に入れたんだよ。岸組のすごさは、普段ドキュメンタリーを作ってる方達が多いから”記録”としての重要性があるとこで。『ラジオ』(2013年放送NHKドラマ、宮城県女川町が舞台)でも震災すぐの被災地をドキュメンタリータッチな映像でドラマ作品としてしっかり残してくれてて。
ず 素晴らしい作品でしたね。
ハ もう今はないあの瓦礫の重なった景色、そこから14年経った被災地を今回は残してくれる作品だったから…だから私も関わるからにはちゃんと関わりたかった。
ず …ハナちゃんがそんな複雑な思いを募らせていたのに、私は「地元が映画になる!全国の人が興味持ってくれる!イェイ!」って感じだったよ…。私は震災の時、大学生で神奈川にいたから、実家は流されてるけど、どこか実感が薄い…被災でも立場によって思いが全然違うって今回の現場で痛感させられた…今更でお恥ずかしいけど。
ハ でもそんなずるちゃんの明るさに現場で助けられてたよ。
ず 空回って35歳なのに人前でビービー泣いてる人間に助けられることなんてある?
ハ 全裸で特攻してく人みたいで面白かった(笑)。
ず (笑)救われます。…現場でもそうやってハナちゃんの言葉に救ってもらってたな。自分が大変な中、助けてくれてたんだね。改めてありがとう。
ハ こちらこそ。
ず …そんなね、ハナの深い愛とずるの涙鼻水が詰まった「地元の作品」、ぜひご覧ください!
ハ 番宣だ(笑)!
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映画『サンセット・サンライズ』
監督◇岸善幸
脚本◇宮藤官九郎
主演◇菅田将暉
全国映画館にて絶賛上映中!
https://wwws.warnerbros.co.jp/sunsetsunrise/
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NHK土曜ドラマ『水平線のうた』
出演◇阿部寛 白鳥玉季 他
脚本◇港岳彦
原案・音楽◇岩代太郎
演出◇岸善幸
放送:3/1(土)、8(土)[2週連続]
<総合>よる10時~
<BSプレミアム4K>午前9時25分~
https://www.nhk.jp/p/ts/9935XW69X7/
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小岩井ハナの平和
おびやかされないこと
プロフィール
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小岩井ハナ
こいわいはな○1994年、宮城県生まれ。『水曜どうでしょう』のイベントや書籍撮影を皮切りに、映画、ドラマ、演劇、ライブ、CMなど様々な現場で活動中。スチール担当演劇 EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』など。スチール担当映画・ドラマ 荻上直子監督『波紋』/ 岸善幸監督『正欲』『サンセット・サンライズ』『水平線のうた』など
【SNS】
X@hana_koiwai / Instagram@ohana_koiwa
著者プロフィール
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小野寺ずる
◯おのでらずる◯気仙沼生まれのお役者、ド腐れ漫画家、脚本演出。
個人表現研究所・ZURULABO所長。好きな三陸グルメはカツオの刺身。
【SNS】X@zuruart / Instagram@zuru_onodera
【漫画連載】日刊SPA!『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国』
【出演】映画『ぶぶ漬けどうどす』2025年6月6日公開
構成・文・撮影(小岩井ハナ)◇小野寺ずる
撮影(本文写真/小野寺ずるプロフィール)◇小岩井ハナ